伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

荒神山自然の家

ひとつのきっかけにすぎないけれど

 新しい年が始まりました。今年も、これまでの「スタタリング・ナウ」を紹介していきます。できるだけ早く最新号に近づきたいと思っているのですが、なかなか追いつきません。今、編集中の最新号は、NO.365で、今日、紹介するのがNO.170です。
 今日は、第19回吃音親子サマーキャンプの報告特集です。どもる子どもの保護者から「親として、何ができますか」とよく質問を受けます。僕は「サマーキャンプに連れてきてくれさえすれば…」と答えます。吃音親子サマーキャンプというあの空間は、きっと何らかのきっかけを与えてくれると信じているからです。
 2025年の吃音親子サマーキャンプは、34回目、日程は8月22・23・24日、場所はいつもの滋賀県彦根市の荒神山自然の家です。
 では、「スタタリング・ナウ」2008.10.21 NO.170 の巻頭言を紹介します。

ひとつのきっかけにすぎないけれど
                日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二


 「新学期に学校へ行く準備もあるし、行っても何も変わらないだろうから」
 吃音親子サマーキャンプを直前にキャンセルした中学1年生の男子と両親と、キャンプの一ヶ月後に会った。彼はかたくなにキャンプへの参加を拒んだ。説得し切れなかった父親は、直前に子どもの言う理由を書いて、キャンセルのファックスをしてきたのだ。4人で話し合う中で、思春期のどもる子どもへの支援の難しさを改めて思った。
 彼は中学校に入学してまもなく、発表や音読などでどもりたくなくて、学校を休んでいる。本人も学校へは行きたいし、吃音についてもなんとかしなければ、とは思っている。それなのに、吃音親子サマーキャンプには絶対に行きたくないと言う。
 この強い拒絶は、私の経験から想像すると、自分と、吃音と向き合うことへの不安や怖さがあったのだろうと思う。これまで向き合ってこなかった問題に向き合うことは誰もが恐いことだろう。ただ嵐が通り去るのを待つ、吃音に閉じこもっていた方が楽なのだ。私がそうだった。
 21歳の夏、「どもりを必ず治します」と宣伝していた民間吃音矯正所の門を前にしても、私のからだはこわばり動けなかった。言いようのない不安と、恐ろしさと、どもる自分への嫌悪感が広がった。「ボクは自分がどもることを認めたくない」と、だだっ子のように、駅と公園とその矯正所を行ったり来たりしていた。この門をくぐると、自分のどもりを認めることになる。この不思議な感覚を私は今でも鮮明に覚えている。
 彼の言うように、キャンプで「何も変わらない」かもしれない。しかし、「何かが変わる」かもしれないのに、参加する意欲がわかない。同様の経験をした私は、彼に昔の私をだぶらせていた。
 私の開設する電話相談「吃音ホットライン」は親からの相談が大半だ。吃音親子サマーキャンプを紹介することは多いが、タイミングによっては強く薦める。小学校高学年になって、中学に入学して、高校に入学して、学校へ行けなくなったり、吃音が大きな問題になる子どもは少なくない。良い友だちや先生に恵まれたこれまでの生活環境が一変し、自分ひとりで吃音と向き合うことはとても難しいことになってくるのだ。
 今年も親からの電話相談の後、子どもや親の体験文などを添えて、キャンプの案内を送った。その数は多いが、特にこの人には参加して欲しいと思った6名には、電話や手紙などで強く薦めた。
 子どもの強い抵抗にたじろぎ、子どもの意志を尊重しすぎるあまり、参加を断念した親は少なくないだろう。一方で、子どもの気持ちは理解できても、キャンプに行けば子どもは変わると、変わる力を信じて、信念をもってキャンプへの参加を促して、子どもを強引に連れてきた親も少なくない。
 今年も、子ども自身は行きたくないと意思表示をしていた、小学6年生と、高等専門学校生が親の粘り強い誘いによって参加した。事前の電話の感触で、私は恐らくこの二人も参加しないのではないかと予想していた。だから、この親子が参加してくれたことは、私にとって今回のキャンプの大きな喜びのひとつだった。
 行きたくないと言う子どもをキャンプに連れてくるのはとても難しい。「連れてきてくれるだけでいい」という私のことばを信じて、場に連れてきた親に、私は心からの敬意の念をもつ。事実、二人とも当初は浮かぬ顔をしていた。「今、90パーセント帰りたい」と言っていた子も、時間がたつにつれてどんどん変わっていった。
 大きな抵抗を示し、不本意な気持ちで参加した子どもに、特別なプログラムがあるわけではない。
 安心して語れる、聞いてもらえる場に身を置き、他人が語る姿をモデルにして、おずおずと自分を語り始める。苦手な表現活動にみんなで取り組む中で、何かが変わり始める。キャンプはひとつのきっかけにすぎないのだけれど、それは、子どもの変わる力を耕し、育むきっかけとなっている。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/01/02

「これはどもっている人の特権だと私は思う」〜第33回吃音親子サマーキャンプに参加して〜

 第33回吃音親子サマーキャンプの3日間を、ダイジェスト版で報告してきました。
 今日は、大学院生時代からこのキャンプに参加し、竹内敏晴さんが亡くなってからは、演劇の担当として、スタッフ向けの事前レッスンからかかわっていてくれる渡辺貴裕・東京学芸大学教職大学院准教授のnoteから、渡辺さんの許可を得て、紹介します。


「これはどもっている人の特権だと私は思う」 〜第33回吃音親子サマーキャンプに参加して
note 丘 aa

渡辺 貴裕|教育方法学者
2024年8月19日 15:40


 8月16日(金)から18日(日)の3日間、彦根市の荒神山自然の家で開かれた吃音親子サマーキャンプに参加してきた。
「吃音と上手につきあう」ことを掲げる日本吃音臨床研究会(代表:伊藤伸二)による、今年で第33回となる催しだ。

渡辺 伸二挨拶
キャンプを主催する、日本吃音臨床研究会の伊藤伸二さん





 参加者は、どもる子どもと親を中心に、さらに、どもる大人、ことばの教室の教師、言語聴覚士、どもる子どものきょうだいなども加わる。計90名近く。
 誰かが何かを「してあげる」場ではなく、一緒に、どもることについて話し合い、作文を書き、劇の練習をして上演し…の3日間だ。

 私は、まだ自分が大学院生だった頃から連続で、もう20数回参加している。ネットがつながらず生活上の制約も多い自然の家での3日間は、(普段快適環境ぐらしに甘えている私には)疲れるもの。けれどもそれでも私がここに来続けるのは、ここに来ると、子どもってすごいな、子を思う親の気持ちもすごいな、てんでばらばらな人たちが吃音というその一点でつながって普段とは違う関係性をもてるこの場ってすごいなと、毎回鮮烈に感じられるからだ。

 どもる子どもたちが、いくらどもろうが気にせずおしゃべりや人前での表現ができる。からかわれたり真似されたりの苦労や将来への不安を共有して一緒に考えることができる。この場の貴重さ。
(なお、どもる程度は人さまざまで、言い換えでかなり回避してしまう子から、随伴運動や難発の程度が強くいったんつまるとなかなか声が出てこなくなる子までいろいろ。そして、どもる程度と悩みの度合いが必ずしも一致するわけではないのも、吃音というものに関して大事なところ。)

 中学生のどもる子をもつ、あるお母さんが話していた。

 今回、ちょうど学区のお祭りが重なっちゃって。学校の友達がみんな行くということで、あの子も楽しみにしてたはずなんですけど、迷わず「こっち(=キャンプ)」って言って。

 この場が子どもたちからいかに大事に思われているかを感じる。

 去年、さんざん途中で「帰る」「帰る」と言っていた(実際リュックサック背負って抜け出そうとしていた)小学生の男の子。
 今回、兄も一緒に参加していた(「どもる子のきょうだい」として)。弟から話を聞いて、「自分も参加して劇やりたい!」と思ったらしい。

 あの弟から何を聞けば「自分も参加したい!」になるねんと私は心の中でツッコんだが、弟、なんだかんだで去年楽しかったらしく、今年は自ら進んで参加したらしい。去年の劇「森は生きている」の「おばさん」役のセリフ「役立たず! 死んじまえ」をいたく気に入ったそうだ。今回は、「帰る」の一言もなく、初日から目一杯楽しんでいた(兄も)。

 人は変わる。

 コロナ禍での2020&21年の休止により、リピート参加の断絶がかなり出てしまったが、再開後からのリピーター組が新たなつながりを生み出している。

 小学校高学年の子たち、初回の話し合いにてスタッフが「吃音について話し合いたいんだけれど、どんなことを話したい?」と尋ねたときに、
「もう部屋でも話し合いしました」
と言ってきて驚いた。初日の夕食後の話し合いで、それまで自由になる時間なんてそれほどないのに!

 吃音とじっくり向き合うということが文化として定着している。


荒神山山頂

プログラムの一つ、荒神山ウォークラリーにて、山頂から琵琶湖を望む




 私にとっては、キャンプは、普段とは違う角度から、学校のこと、教師のことを考える機会でもある。

 ある小学生の男の子が憤っていた。

 自分の吃音のこと、担任の先生に言ってあったのに、音読テストのときに、「もっと練習してきてください」と言われた。先生は、真剣に取ってないから忘れてるんじゃないか。

それに対して別の男の子はこう話す(なお、さっきの子もこっちの子も、どもる程度という点では、かなりはっきりと「どもるな」と分かる子だ)。

 自分は吃音のことで先生(学級担任)から何も言われたことない。けれども多分それは、その先生は自分(この男の子)が考えすぎないようにと考えて、何も言ってこないんじゃないか。自分としても、先生にはそこまで深く考えてもらわないでいい。

 普段私自身なかなか知る機会のない、子どもたちのこうした思いとたくましさ。
なお、この後者の子、先生はだいたい1年で変わっていくからよいけれど、家族(きょうだい)には自分の吃音のことを理解しておいてほしい、とも話していた。


荒神山自然の家
自然の家



 私は、何年か前から、作文の時間に、子どもたちが書いてきたのをその場で読んでやりとりする(時にはもう少し書き足してもらう)役割を務めているが、彼らが自分の吃音と向き合いながら生きている様子、それを綴る言葉に、何度も何度も圧倒される。

 一つだけ紹介しておく。
 「言えない時はメモをとって相手に見せることで自分が伝えたいことを伝えるようにしている」という、高校生の女の子。

 その子がこう書く。

 ただ、自分の言葉で相手に伝えたいと思ったことはどもってでも、自分自身の言葉で伝えるようにしている。
 伝えることができ、相手に理解されたときの喜びは、どもりながら言わないとわからないものだなと思った。
 これはどもっている人の特権だと私は思う。

 どもってでも伝えたときの喜び。それを「どもっている人の特権」と言える感覚。

 彼らには本当にかなわない。
 それを思い知るために、私は毎年参加している。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/08/27

第33回吃音親子サマーキャンプ 最終日

シーツシスターズ いよいよ、最終日となりました。昨日と同じように、朝の放送で起きて、つどいをしました。ここで登場するのが、恒例のシーツシスターズ。いつ頃からそう呼ぶようになったのか、定かではないのですが、シーツ返却係の女性スタッフが、アイドルさながら登場し、シーツの返却のお知らせをします。初日のオリエンテーションで、所員の方から説明がありましたが、最終日、もう一度、返却の仕方をみんなの前で再現してくれるのです。単に連絡の形にしないのが、僕たちの仲間です。シーツシスターズという名前のサマキャンアイドル、1年に一度結成され、今年も大活躍でした。
 朝食の後は、子どもたちは、劇のリハーサルです。その間、親は、子どもたちの劇の前座をつとめるため、集会室で「荒神山ののはらうた」の表現に取り組みます。話し合いのグループごとに詩を用意して、ふりつけを考え、からだ全体で表現します。緊張している子どもたちも、初めて見る親の姿にびっくりです。劇上演前の子どもたちのドキドキを同じように体験してみよう、親も自分の声や表現を磨こうと始まった親の表現活動、「荒神山ののはらうた」も、今年で18回目となりました。話し合いのグループは4つあるのに、用意した詩は3つというドジをしましたが、グーチョキパーで3つに分かれてもらい、短時間で仕上げました。この練習中の親たちの楽しそうなこと。参加回数が多くないのに、この伝統はちゃんと受け継がれています。見事に息のあったパフォーマンスを見せてくれました。
親のパフォーマンス 逆立ち親の表現 練習 そして、いよいよ荒神山劇場のはじまりです。前座は、親のパフォーマンス。すてきなオープニングとなりました。そして、子どもたちの劇「王様を見たネコ」が始まりました。どもりながら、でも、楽しそうに参加しています。アドリブも効いています。衣装や小道具は、これまで作ってくれたものと、足りないものはスタッフの西山さんが手作りしてくれました。僕の家には、西山さんや今回参加できないけれど鈴木さんが作ってくれた衣装・小道具が、段ボールに5箱分くらいあります。
 荒神山劇場の後、卒業式をしました。今年は、小学4年生から連続7回参加し、今年高校3年生になった男の子が卒業でした。卒業証書を渡し、本人の挨拶、連れてきた親にも挨拶をしてもらいました。卒業証書を渡すのは、サマーキャンプに3回以上参加することが条件です。サマーキャンプと出会うのが遅く、3回に満たない高校3年生が今回もこれまでもいましたが、この原則は崩していません。
 最後にサマーキャンプ初参加の人を中心に、感想を聞きました。いくつか紹介します。

・誰も知っている人がいないので、参加する前は不安や心配があったけれど、我が子がどこにいるのか分からないくらい、すぐに仲良くなっていて、安心した。
・話し合いの時間が長くとってあるので、そんなに話すことがあるのだろうかと思っていたが、それぞれ深い話ができて、勇気づけられた。
・サマーキャンプがこんなに長く続いている訳が分かった。来年も、ここに帰ってきたい。
・始まる前は不安だったけれど、子どもの声にハリがあり、普段と違っていきいきとしていた。
・同じようにどもる子どもに会いたい、それもどもる女の子に会いたいと思って参加した。いい先輩に出会えてよかった。
・子どもより親の方が不安だった。どもる子どもの親と出会えて、縁を感じた。
・去年と比べると、劇の中に入り込んで、せりふをちゃんと言っていたのがうれしかった。
・願いは一つ。伊藤さん、長生きしてください。そして、サマーキャンプを続けてください。 

子どもの劇2子どもの劇3子どもの劇 観客
















 おまけのショータイムがありました。西山さんが、新聞紙を使った手品を披露してくれたのです。破ったはずの新聞紙が、見事つながって、すてきな笑顔の僕たちや仲間が現れました。西山さんは、元ことばの教室担当者で、退職して何年も経つのに、サマーキャンプを大切に思ってくれているスタッフのひとりです。

 最後の食事をして、バスが待つこどもセンターへ移動です。迎えには行けなかったけれど、見送りはしようと思いました。参加者もスタッフも、これから、遠い自宅に帰っていきます。そして、いつもの生活が始まります。楽しいことばかりではないかもしれませんが、なんとかサバイバルしてほしいと思います。今年、初参加のサマキャン卒業生が言っていました。「嫌なことがあっても、みんながそれぞれがんばっているんだと思うと、僕もがんばろうと思った」と。そんな力を育んでくれるサマーキャンプという場。また、来年、荒神山自然の家で、「おかえりなさい」と言って、みんなを迎えたいと思います。
帰りのバス お疲れ様でした。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/08/26

第33回吃音親子サマーキャンプ 1日目

 8月16日、第33回吃音親子サマーキャンプの初日です。
 台風で新幹線が全面運休しているとは思えない滋賀県彦根市の天気でした。僕たちは、先発隊として、みんなより少し早く荒神山自然の家に到着しました。ここ数年、スタッフのうち何人かが先発隊として、早く来て、参加者に配るしおりや劇の台本や、スタッフの進行表などの製本、シーツの配布など、事前の準備をしてくれるようになりました。今年は、前泊組もいたので、先発隊の人数がいつもより多く、早く終わって参加者を待ちました。
オリエンテーション 河瀬駅に、自然の家行きのチャーターバスを用意しました。いつもの黄色い旗が参加者を出迎えます。初参加組はドキドキしながら、リピーターは1年ぶりの再会を喜び合いながら、バスに乗り込みます。バスが到着する所は、自然の家とは少し離れています。例年、そこまで迎えに行っているのですが、今回は暑さと腰痛のため、勘弁してもらいました。
 集会室に集合し、自然の家の所員さんからのオリエンテーションを受けました。途中、車組やバスに間に合わなかった人たちが集会室に到着し、人数が増えていきます。
スタッフ会議 その後、参加者には部屋に入ってもらって、スタッフ会議です。今年のスタッフは、キャンセルがあって、39名。初めて顔を合わせる者もいます。学習室に集まり、簡単に自己紹介。そして、1日目の流れを確認しました。細かい説明をする時間がないので、初めて参加するスタッフは、訳が分からないままスタートするのですが、不思議なことに、それぞれに様子を見ながら、適切に動いてくれています。見事というほかない、僕たちのスタッフの力です。
 開会のつどいでは、まず主催者として僕があいさつをしました。2年前の吃音親子サマーキャンプに参加し、そこでどもる子どもを取材した映画監督・奥山大史さんの「ぼくのお日さま」の話をしました。カンヌ国際映画祭に出品した映画です。2年前の奥山監督のこと、映画の試写会に行ってきたこと、全国公開されたらぜひ見てほしいことなどを話しました。
 そして、サマーキャンプに参加した2人の女の子の話もしました。結婚することになり、その結婚届けの証人になってほしいと頼んできたあおいちゃんのこと、2011年の東日本大震災で亡くなったりなちゃんのこと、僕は、この子たちのことを伝えていくのが大切なことだと思っています。
出会いの広場1出会いの広場2 参加者を紹介し、3日間生活をするグループに分かれて名札やしおりを渡し、いよいよ活動1の出会いの広場です。これは、千葉のことばの教室の教員の渡邉美穂さんが担当してくれています。初めての参加者の不安が少しでも減り、リラックスして参加できるようにと、エクササイズを工夫して進行していました。1時間ほどの間に、みんなの顔が柔らかくなり、笑い声もたくさん聞かれるようになりました。初参加者も多いのに、かなり難易度の高い表現活動も楽しくこなしている姿を見て、僕は、今年のキャンプもうまくいきそうだと思うのです。
 夕食の前後に、スタッフが上演する劇の復習をしました。指導してくれている渡辺貴裕さんは東京在住なので、当初は2日目からの参加になるだろうとの連絡を受けていました。渡辺さん抜きで復習をし、みんなの前で上演するのは少し不安だったのですが、渡辺さんが運休の東海道新幹線とは別ルートを探してきてくれました。北陸新幹線を使って、金沢を廻って河瀬駅に着くというルートです。おかげで、少し遅れたけれど、復習にも上演にも間に合いました。
 夕食の後は、1回目の話し合いです。親は4つのグループに分かれ、子どもたちは、小学2・3年生、5・6年生、中・高校生、きょうだいと分かれました。ファシリテーターとして、どもる人とことばの教室担当者や言語聴覚士が入ります。サマーキャンプに行ったら、こんな話をしたいと前もって考えて参加した子もいるようです。自分にとって大切な吃音の話題について、きっちりと向き合い、経験を話し、ほかの人の話を聞きます。
スタッフによる劇1スタッフによる劇2 夜8時から、スタッフによる劇の上演です。できるだけせりふを覚えてこようと伝えていたので、みんながんばって覚えてきていました。劇のあらすじをつかんでもらうことと、自分は何の役をしようかなと考えるときの参考にしたもらうこと、が目標です。ちょっと長い劇だったのですが、子どもも親も、真剣に見ていました。いい観客のおかげで、演じたスタッフも、いい感じでした。
 夜の9時から、スタッフ会議です。なんと長い一日だったでしょう。スタッフ会議で出てくる子どもたちの話、細やかな観察に、僕はいつもすごいなあと思います。何気ないことばをちゃんとつかみ、丁寧に対応してくれているスタッフは、本当に強い味方です。ひとりひとりの細やかな対応と、お互いの連携とそれらがつながって、スタッフにも、スタッフのセルフヘルプグループができあがっているようです。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/08/23

第33回吃音親子サマーキャンプ、無事、終わりました

横断幕 申し込みは92名、体調不良、骨折などでの直前のキャンセルが4名で、88名の参加でした。大阪、三重など比較的近くからの参加、遠くは、沖縄、鹿児島、長崎、埼玉、東京、千葉などからも参加がありました。
 コロナで2回中止になって再開した2022年からの参加者がほとんどという新鮮なキャンプでした。
 開催2日前に、台風の影響で、初日の16日、東京−名古屋間の新幹線が終日運休というニュースが流れ、あわてて関東方面からの参加者に連絡をとりました。キャンセルということになるだろうという予想が外れ、前泊して予定どおり参加する人、2日目からの参加に変更する人、北陸新幹線が動いているという情報からルートを変更し金沢を廻って現地入りする人など、キャンセルはなし、でした。困難な中、参加してくれる人たちの思いをしっかりと受け止めて、キャンプが始まりました。
 最初のプログラムは、出会いの広場です。短い時間で、参加者がリラックスし、楽しそうな顔に変わりました。いいキャンプになるぞという予感がしました。
挨拶する伸二 その後、話し合い、事前合宿で練習したスタッフによる劇の上演で、一日目が終わりました。
 二日目は、作文教室、2回目の話し合い、子どもたちは劇の練習、荒神山へのウォークラリー、親は学習会と続きました。
 そして、最終日、最後のリハーサルと、親の表現活動、子どもたちによる劇の上演があり、卒業式、全体でのふりかえりと、2泊3日を目一杯使い、無事、終わりました。
 最後、初参加の人に感想を話してもらいましたが、満足してもらえたようです。
 「伊藤さん、長生きして、キャンプを続けてください」と言ってくださいました。

 今、高校2年生になっている子どもたちが小学6年生のとき、僕は、その子どもたちの話し合いに入っていました。そのとき、「僕たちが卒業するまで、キャンプをしてください」と言われたことを覚えています。言われたときは、「とんでもない、何歳になってると思うんや」と思ったのですが、いつのまにか、それが来年のことになっています。約束を守れそうです。守りたいと思います。目標ができたので、がんばれそうです。

挨拶する伸二とみんな 今年、スタッフは39名でした。そのうちの10名がサマキャン卒業生です。キャンプ中に稽古をして、最終日に上演をする演劇のためのスタッフのための事前レッスンには、約半分が参加しました。まず、スタッフ自身が楽しんでいる、珍しいキャンプです。

 おおまかな報告をしました。これから、少しずつ、印象に残ったことを発信していこうと思います。



つどいの広場の丘 例年、荒神山から帰ると、秋の気配が感じられるのですが、今年はまだまだのようです。「吃音の夏」の余韻を楽しみながら、体調を整え、「吃音の秋」を迎える準備をします。みなさん、「吃音の秋」、またご一緒いただけるとうれしいです。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/08/20

第33回吃音親子サマーキャンプ 荒神山自然の家との打ち合わせ

 第33回吃音親子サマーキャンプの参加申し込みが届き始めました。参加費も、郵便振替で届いています。また、サマーキャンプの中で子どもたちと取り組むお芝居をスタッフが練習する事前レッスンも近づいてきました。そんな中、先日、会場である滋賀県彦根市の荒神山自然の家に行き、打ち合わせをしてきました。毎年、開催の1ヶ月前には、出向いて、職員の方と打ち合わせをすることになっています。
 大阪より涼しいだろうと予想していたのですが、その日、彦根の最高気温は35度、大阪より高かったです。
荒神山背景 自然の家に着くと、所長の西堀さん、所員の堀居さんをはじめ、自然の家のみなさんが温かく迎えてくださいました。1年ぶりの懐かしい再会でした。
 プログラムを説明し、参加者がまだ全然未定だと伝え、食事や備品などの提出書類などについて丁寧に説明を受けました。学校の林間学校と違い、僕たちの吃音親子サマーキャンプは、参加者数がぎりぎりまで分からないのが大きな、悩ましい特徴です。
 ここ荒神山でサマーキャンプを開催するのは、今回で25回目。どの所員の方よりも長く使わせてもらっています。そのことはよく理解してもらっていて、僕たち独自のプログラムを尊重してもらっています。全員が作文を書くための会場を確保してもらったり、ウォークラリーの説明をサマーキャンプ卒業生が、経験を活かして行いますが、そばにいて見守ってくださっています。
 荒神山自然の家は、以前は滋賀県が、そして彦根市が運営母体でしたが、経営難で、それぞれ手を離し、今は民間会社の運営となっています。存続が危ういときもあり、僕たちもなんとか続けてほしいとお願いをしたこともあります。
 荒神山は、吃音親子サマーキャンプにとって象徴的なシンボルです。せめてもう少しこのままでと願っています。
 温暖化の影響を受けて、年々暑くなってきているとのこと、生物の生態系にも変化があるようです。名前は忘れましたが、大きななめくじの姿を見ることがなくなったとのことでした。
 来月8月16日から18日まで、荒神山で繰り広げられるであろうたくさんのドラマを思い描きながら、打ち合わせが終わりました。「吃音さん」と呼んでくださる荒神山自然の家のスタッフの皆さんの温かい見守りの中で、今年もいい時間が過ごせそうです。
 参加申し込みは、書類提出の開催2週間前ぎりぎりの8月2日です。お待ちしています。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/07/08

第33回吃音親子サマーキャンプ、開催します

33回目を迎える吃音親子サマーキャンプのご案内

サマキャンの写真 ワークブック表紙 10% 今日から6月。「吃音の夏」と、僕たちが呼んでいるシーズンの到来です。
 吃音親子サマーキャンプは、今年、33回目を迎えます。
 ひとりで吃音に悩んでいたとき、同じようにどもる仲間に出会えた喜びは、何にも代えがたいものでした。その仲間といっぱい話し、いっぱい聞き、新しい価値観に出会い、僕もがんばってみようと行動を変えるきっかけをもらいました。もっと小さい頃に、子どもの頃に出会えていたら、そう思って、どもる子どもたちのためのサマーキャンプをしようと、吃音親子サマーキャンプを始めました。たくさんのどもる子どもたちに出会いました。連れてきてくれた保護者、手弁当でかけつけてくれたどもる大人やことばの教室担当者や言語聴覚士などの臨床家、大勢の力が 集まって、吃音親子サマーキャンプは、33年の歴史を重ねてきました。
 僕たちのキャンプの3つの大きな特徴は、吃音についての話し合いと、声や表現のレッスンのための演劇の練習と上演、そして親の学習会です。スタッフによる事前合宿も、演劇を担当してくださる渡辺貴裕さんのスケジュールに合わせて行います。若いスタッフが参加してくれます。

  あなたはひとりではない
  あなたはあなたのままでいい
  あなたには力がある

 このことを伝えたくて、続けてきました。

 今年の日程は、次のとおりです。
  日時 2024年8月16・17・18日
       16日13時から18日13時まで
  場所 滋賀県彦根市荒神山自然の家
  参加費 17000円(どもる子どもと大人も同額)   
同行のきょうだい 14000円
  内容  吃音についての話し合い
      ことばに向き合うための劇の練習と上演
      親の学習会

 詳しい案内と参加にあたっての注意事項、申し込み書等は、もうしばらくお待ちください。ホームページに掲載します。
 取り急ぎ、日程と場所をお知らせしました。
 みなさんのご参加をお待ちしています。
  
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/06/01

「吃音の夏」のしめくくり 第32回吃音親子サマーキャンプ 一日目

荒神山 丘 吃音親子サマーキャンプが終わって早10日経ちました。
 会場である荒神山自然の家やその食堂への支払い送金や礼状、チャーターバスの支払い、参加者やスタッフへの礼状、劇の小道具の片付けや、朝のスポーツや遊び道具の片付けなど、準備と同様に、いろいろ思い出しながら、そして来年のことをイメージしながら、後片付けをしています。ぼちぼちと届くサマーキャンプの感想を読んで、10日前のさまざまなできごとを思い出しています。劇のせりふが口をついて出てきたり、あのときあの場面での発言などが鮮やかに思い出されたり、キャンプの余韻を楽しんでいます。

入所のつどい 8月18日(金)、キャンプの初日、2台の車に荷物を積み込み、荒神山に向けて出発しました。普段、僕は車の運転をするのですが、キャンプのときはどうしても睡眠不足になるため、車の運転を控え、大阪のメンバーに車を出してもらっています。高速を走っている頃、先発隊が電車で最寄り駅の河瀬駅に向かっています。自然の家に着くと、打ち合わせをはじめ、キャンプの資料集や劇の台本、スタッフの進行表の製本、シーツの配布、麦茶の用意など、参加者が到着するまでにしなければならないことがたくさんあります。打ち合わせは、僕たちがしますが、その他諸々の準備のため、先発隊が早く来てくれるようになり、本当に助かっています。
 チャーターバスは、自然の家への狭い道には入れず、こどもセンターに着きます。そこから自然の家まで歩きます。雨が降ったらいやだなあといつも思うのですが、僕の記憶する限り、雨が降ったことはなく、バス組が集会室に到着です。リピーターは、すでに河瀬駅で懐かしい再会をしているようです。今回は、初めての参加が多いので、少し緊張している様子も見られました。

開会のつどい開会のつどい 伸二up開会のつどい みんな 入所のつどいが終わり、36名(残念ながら直前に病気などで3人がキャンセル)のスタッフの打ち合わせをします。この日、初めて顔を合わせるスタッフも多く、自己紹介の後、少なくとも初日の分だけの打ち合わせをします。この間、待っていてもらって、全員が集合するのが開会のつどいです。
 僕は、ここで、2つの話をしました。これから始まる2泊3日のキャンプで心がけたいことを話しました。ひとつは、オープンダイアローグが大切にしている3つのことです。対等性、応答性、そして不確実性への耐性です。

 対等性…先生という呼び方はせず、子どもも大人もスタッフも、みんな対等に、みんなでつくりあげていくキャンプだということです。ボランティアとか、支援者という概念は僕たちにはないのです。遠く鹿児島や関東地方から交通費を使って、参加費もまったく同じの全員が参加者という立場を32年間貫いてきました。普段「先生」と言われているたくさんの人たちが参加していますが、「先生」と言わないことがひとつのルールになっています。
 対等だから、世話をしない、教えない、指示しないが私たちのルールです。

 応答性…誰かの発言に対して必ず応答することの大切さを話しました。ちょっとした小さな声を聞き逃さず、丁寧に応答していく。話し合いを中心にしたプログラムを組む僕たちは、普段の行動のときにも対話を重視します。

 不確実性への耐性…僕たちは、「〜すべき、〜せねばならない」を、論理療法から学んだ「非論理的思考」として、もたないように心がけています。吃音親子サマーキャンプの3日間のプログラムはありますが、パスもありです。最初からそれを言うことはしませんが、劇をしたくない、山登りはできないという場合も、一応はすすめますが、最終的には本人の決定にまかせます。吃音親子サマーキャンプの目的は何かとよく聞かれることがありますが、目的やゴールはありません。ただ、ずっと続いているプログラムがあるだけで、キャンプで参加者がどのような経験をするかは、本人次第なのです。もちろん、話し合いもゴールはありません。この、どこへ行くか分からない、不確実なものに耐えていく、こうしなければならないというゴールはないこのキャンプをみんなで楽しんでいこうということです。僕たちは不安の中で始まり、最後には「今年もいいキャンプだった」と胸をなで下ろすのです。
 もうひとつは、トーベ・ヤンソンのムーミンの話からヒントを得た「三間」です。
 空間・時間・仲間、この3つの「間」を大切にしようという話です。このことばは、キャンプの間中、ずうっと、ホワイトボードに書いておきました。

出会いの広場2 プログラムのスタートは、出会いの広場です。集会室に全員が集まり、声を出したり、ゲームをしたり、歌を歌ったり、グループに分かれてふりつけをしたり、固かった表情が柔らかく、穏やかになっていくのが見えました。

話し合い1話し合い2 夕食の後は、第1回目の話し合いです。保護者は3グループに、子どもたちは小学校低学年と高学年、中・高校生は混合で2グループに、それぞれ分かれて、吃音について話し合いました。これまでなら、どのグループにも、リピーターがいて、その子たちが、話し合いをひっぱっていってくれていました。話したいことをいっぱい持って参加しているので、話がいつの間にか広がっていきます。初参加の子どもたちは、その輪の中にいて、自然と、他者の語りを聞くことになります。そして、いつの間にか、自分も語り出すという流れができていたのです。初参加者と二回目の参加者の多い今年はどうかなと心配でしたが、スタッフにリピーターが多いこともあって、また協力的な子どもたちが多かったこともあって、いつものような話し合いの場になっていきました。聞いてもらえるという安心感のある場で、子どもたちは、自分の本音を話していたのだろうと思います。対等性と応答性が保証されている中で、共に、不確実性への耐性を発揮していたのだろうと思います。
話し合い3話し合い4話し合い5話し合い6 僕が参加していたのは、小学校5、6年生グループでした。

 夜の8時、全員が学習室に集合します。事前レッスンに参加したスタッフによる劇が始まります。荒神山劇場のオープニングです。この日のために、小道具を作り、郵送してくれたスタッフもいます。今回どうしても参加できないから、せめて小道具作りで参加したいと申し出てくれました。車にたくさんの小道具、材料を運んで、その場で必要なものをつくってくれたスタッフもいます。7月に2日間の合宿で稽古をした、スタッフとしては本番の劇の上演です。いいお客さんのおかげで、多少せりふをとばしたり、間違ったりもしましたが、それもご愛敬で、今年の劇「森は生きている」を演じました。真剣にみつめてくれている子どもたちや保護者のおかげで、みんな役者になったつもりで演じることができました。一番心配そうに見ていたのが、演出を担当してくれている渡辺貴裕さんでした。出演者はみな、楽しんでいました。その様子はしっかりと観客の子どもたちや保護者に伝わったことと思います。
台本配布のとき こうして初日のプログラムが全て終了しました。上々の滑り出しです。自然の家に到着したときの、固かった顔が、緩んでいます。
 夜10時からスタッフの打ち合わせを行いました。それぞれのプログラムの中で気づいたことを率直に出し合います。気になった子どもの話が出ると、関連する話題が続きます。こんなことをしていたよ、こんなことを言っていたよと、自分が見聞きしたその子の話が出てきます。子どもを一面的にとらえてしまうことを防ぐことができます。それらを共有することで、子どもの見方が広がるのだと思います。翌日の打ち合わせをして、スタッフ会議は終わりです。参加者同様、初参加のスタッフの固かった表情もすっかり和らいでいました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/08/31

第32回 吃音親子サマーキャンプ、無事、終わりました

荒神山 丘 台風がほんの少し早く抜けてくれて、無事、第32回吃音親子サマーキャンプを開催することができました。昨年、たくさんのリピーターが卒業式を迎えたことと、2年間の中断が影響して、リピーターが減って、初参加が多く、2回目の人と合わせると、8割くらいでした。
 これまで自然と培われていた伝統や文化がどうなるのだろうと、少し心配でしたが、新鮮な出会いを楽しみながら、「今までどおり」は通用しないので、丁寧に対応していこうと思っていました。
 始まってみると、確かに最初は固い表情の人も少なくなかったのですが、だんだんと、毎年のように和やかな雰囲気になっていきました。
 今年のプログラムは、コロナ前と同じ、フルバージョンで行いました。
 吃音についての話し合い、演劇、話し合いと話し合いの間に設けた作文、ウォークラリー、親の学習会、どれもサマーキャンプには欠かせない大事なプログラムです。親のパフォーマンスも、最初はリピーターが少ないので難しいかなあ、やめようかなあとも思ったのですが、やっぱりちょっと負荷のかかった課題に挑戦してもらおうと思い、設定しました。練習が始まると、いつの間にか、これまでどおり、わきあいあいで、話し、動き、笑い、みんなで作り上げていく姿を見ることができました。話し合いをしてきたグループだからこその結束力でした。これまで大切してきた伝統や文化は、しっかりと根付いていたことを再確認できました。

 スタッフは、当日、初めて顔を合わせる者もいる中、子どもに対する目が温かく、子どもを大切にすることが自然にできているのがよく分かります。ひとりひとりが、その場で、それぞれの役割を果たしていること、そしてそれを信頼する仲間であること、自然に育まれるその雰囲気がなんとも言えず、居心地のいいものでした。このスタッフのチームワークは、本当に不思議で、とてもありがたく、誇らしく思います。
 終わってみれば、今年もまたいいキャンプでした。
 大勢の人の力が集まって、サマーキャンプというすてきな空間が作られているのだと思います。
 感想文が届き始めていますが、いつも演劇のための事前の二日間、スタッフに演劇指導をしてくださる、東京学芸大学教職大学院の渡辺貴裕さんの感想をまず紹介します。noteからです。

 (https://note.com/takahiro_w/n/nccfd06b1b104 参照 2023年8月24日)
          子どもがもつ力に圧倒される
       〜第32回吃音親子サマーキャンプに参加して〜
                      渡辺 貴裕
 第32回吃音親子サマーキャンプ(主催:日本吃音臨床研究会)を終えた。
 どもる子どもと親が、琵琶湖畔にある荒神山自然の家に集まり、2泊3日を共に過ごす。
 どもる大人(成人吃音者)やことばの教室の教師や言語聴覚士などもそこにスタッフとして加わる。
 8月18日(金)〜20日(日)に開かれた今回、2000-2001年のコロナ禍による休止を挟んだ影響か、子ども&親のリピーター参加が減っていたが(初参加者率増)、それでも参加者は全体で80名ほど。大阪・兵庫を中心に、三重やら千葉やら神奈川やら鹿児島やら全国から集まる。
 学生時代から、かれこれ連続22回目の参加になる。なぜ私はこうして参加し続けているのか。 今でこそ竹内敏晴さんの後を継いで事前合宿でのスタッフ向け劇の指導を担当するようになってはいるが、元々はそうではないのだし、別に、演劇教育の専門家として参加しているわけではない。もちろん、吃音の専門家でもない。また、ボランティアとして他人の役に立つために、というのもちょっと違う。むしろ、「専門家」でも「ボランティア」でもなく、何も背負わない者としてその場に居て、それでいてかつ(あるいは、だからこそ)、子どもがもつ力に圧倒される、人間ってすごいなあとしみじみ思える、そんな経験を毎年できるから、私は参加し続けているのだと思う。
 1日目の話し合いでは(吃音の調子もあってか)一言もしゃべらなかった高校生の子が、2日目の話し合いでは、自分が就きたい仕事のこと、オープンキャンパスに行って「どもっててもその仕事でやっていけるか」尋ねたときのこと、なぜその仕事を目指すようになったのかといったことを、時々言葉が出なくなりながらも、話す。周りのメンバーは、それにじっと耳を傾ける。ごく自然に、けれども極めて濃密に、話すことと聴くこととが行われる。
 2日目朝の作文で、ことばの教室のこととキャンプのことを書いてきた小学生。どちらもすごく楽しい、特にことばの教室は、学校の中で一番楽しい時間だという。ただし、その楽しさは、椅子取りゲームとか、いっぱい「ゲームができるから」。「じゃあキャンプの楽しさは?」と尋ねてみると、その子いわく、「キャンプの話し合いでは、吃音でイヤだったこととか、みんなの、吃音への思いを聞ける」。「相手の気持ちを分かれて、うれしい」と。子ども自身が、吃音と正面から向き合うこと、仲間とつながることの価値を認識している。
 担任の先生への怒りを作文にぶつけた小学生もいる。「ゆっくり話して」と言ってくる先生に対し、「ゆっくり言おうとどもるもんはどもるんだから、そういう問題じゃない」。「知らないように知ってるように言うな」と。そうやって言語化できることの強さ。
 私自身、3日間というほんのわずかな間に、子どもへの見方をどんどん塗り替えられる。
 話し合いのときには引き気味で、あまり自分のことをしゃべらなかった子が、劇の練習のときには自分なりの工夫なり表現なりをバンバン入れて、周りの笑いと喝采をかっさらっていったりとかも。こんなふうに、子どもってすごいなあと思わされることの連続だ。それは、普段自分が背負っているものを降ろして、ただただ、人がもつ力の前に謙虚になれるということでもある。
 吃音のキャンプは他の場所でも行われるようになったけれども、こうした関係性をもてるのはなかなかないという。他だと、ことばの教室の教師なりの専門家が準備してプログラムを提供する、という形になりがちだし、成人吃音者が来る(招く)場合でも、「吃音の当事者や先輩の話を聞く」といったプログラムの一部に組み込まれてしまいがちだそう。それはそれでよく分かる。「教師」なり「専門家」なり、というのは、「ちゃんと自分が役に立たないと。何かやってあげないと」と思ってしまうものだから。
 一方、この吃音親子サマーキャンプは、「専門家」が何かを提供するという図式ではない(ことばの教室の先生も参加してるけれど、むしろ、自分が学びにきている気分だろう)。もちろん、支柱としての伊藤伸二さんの存在は大きいが、キャンプそのものに関しては、どもる子どもも親も(時には子どもの兄弟も)スタッフも一緒になって場をつくっていく。
 劇の練習のときのリードとか話し合いの進行&記録とか食事の準備とかシーツの管理とか、スタッフが担う役割はいろいろあるものの、スタッフみんなが同じように担うわけではないし(臨機応変に入れ替わりもするし)、親が担うものもあるし、名前がつくような「役割」ではないけれど、キャンプ卒業生でもある若手スタッフらがいきいきと人前でしゃべったり子どもとかかわったりしてさまざまなタイプの「わが子の将来像」を示すといった、私が決してできない類の「役割」もある。
 そんなふうに、参加者同士が固定的な関係に陥ることなく、一緒につくる。だからこそ、子どものすごさに圧倒されることが可能になるのだろう。自分の背負っているものを降ろすからこそ、純粋に、人のすごさを楽しめるのだろう。そうした時間をもてるのは私にとって貴重で有難いものだし、それは他の参加者にとってもそうなのかもしれないと、思う。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/08/24

第32回 吃音親子サマーキャンプ開催まで、1週間となりました

 第32回吃音親子サマーキャンプが1週間後に近づいてきました。今年も、関西地方を中心に、遠くは沖縄、鹿児島などの九州地方から、東京、神奈川、埼玉など関東地方から、山口などの中国地方から、参加申し込みが届いています。
 昨年は、吃音親子サマーキャンプの華であり、大事にしている演劇の稽古と上演が前年までの形ではできませんでした。当初は大きな声を出し、歌い、相手に伝わることばを吟味していくプログラムは抜いていたのですが、やはり、少しでも演劇をしたいと急遽小さな劇に取り組みました。みんな、大喜びでした。誰よりもスタッフが大喜びで張り切るのが、僕たちのキャンプの特徴です。
 今年は、全面的にコロナ前の形に戻しての開催です。同年代のグループに分かれての吃音についての話し合い、自分の声やことばに向き合うための演劇の練習と上演、親の学習会など、久しぶりのフルバージョン開催に向け、わくわくしながら準備をしています。
 演劇のためのスタッフの事前レッスンは、7月15・16日、大阪市内のお寺で行いました。そのレッスンに参加したスタッフは、そのときの映像を見ながら、それぞれ自主練習をしています。事情があり、今回、サマーキャンプに参加できない、サマーキャンプ常連スタッフは、演劇の小道具作りを申し出てくれて、サマーキャンプのあの場を想像しながら、せっせと小道具作りに励んでくれています。会場の荒神山自然の家に郵送してくれることになっています。それぞれが、自分の持ち味を出して、サマーキャンプにかかわってくれています。このようなスタッフのおかげで、サマーキャンプは、32年間も続いてきました。
 今年、初めて、事前レッスンに参加したスタッフから、手紙がきました。長くスタッフとして参加してくれている関東地方のことばの教室の担当者です。

 
念願叶って、事前レッスンに参加でき、幸せな2日間でした。帰り際に、坂本さんから「昨日より元気そうだね」と声をかけられました。充実した時間を過ごした満足感が表情や身体にあらわれていたのでしょうね。
 レッスンが始まって、身体を動かしたり声を出したりしたとき、身体は動かないし、声も出ないし、続かないしで、自分がこんなにも固まっていたのだと気づきました。でも、劇の練習を通して、楽しさが増してきて、事前レッスンに参加できてよかった、うれしいという気持ちが広がりました。事前レッスンの場は、サマーキャンプ当日と同じように、ぬくもりが感じられて、いいなと改めて思いました。すてきな機会を設けていただきました。サマーキャンプ本番も楽しみにしています。


 今年の吃音親子サマーキャンプは、初めて参加される方が多いです。昨年、初めて参加したという人も合わせると、全体の7、8割くらいでしょうか。フレッシュなキャンプになりそうです。これまでは、リピーターが多くいて、その中で初参加の方が自然と混じり合って、いつの間にかその人たちがリピーターになっていって…、そうして、サマーキャンプの伝統が受け継がれてきました。コロナ禍のため、空白の3、4年間ができたことがこんな所にも影響しているようです。
 サマーキャンプのもつ伝統は、それを目標としたわけではありませんが、いつのまにか熟成されていったように思います。話し合いのとき、ひとりひとりの語りにしっかり耳を傾けること、話す人は、自分のことばで自分の思いを伝えること、ただ共感するだけでなく、関心をもって聞き、質問してその人の物語の世界を広げていくこと、指示・命令のことばはできるだけ最小限にして、それぞれが時間を守って動くこと、強制はしないが、自主的に自分の課題に取り組むこと、精一杯表現すること、それらのことが自然にできていたように思います。鰻の名店が、伝統のタレをつぎたし、つぎたし、伝統の味を守ってきたようにして、吃音親子サマーキャンプは32年の年月を積み重ねてきたました。小学1年から高校卒業まで連続して参加していた、リピーターが全員卒業し、今年は、ベテランのいない初めてのキャンプになります。吃音親子サマーキャンプの文化を、一から作っていく再スタートの年になりそうです。その新鮮さを楽しみ、ドキドキを味わいながら、サマーキャンプの2泊3日を過ごしたいと思います。また、報告します。このブログを読んでくださるみなさんと、素敵な時間を共有できることを願って…。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/08/11
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