
その記事には、1966年、フジテレビのディレクターとして、両親を亡くした5人兄妹がたくましく生きる姿を活写した社会派連続ドラマ「若者たち」を演出。1967年から同じ出演者で作られた映画版「若者たち」でも監督を務めた、とあります。
「若者たち」は、僕にとって、忘れることのできない映画です。
たいまつ新書『吃音者宣言―言友会運動十年―』の中の一文を紹介します。
この上映会のときには、監督の森川時久さんも、俳優の山本圭さんも来てくれました。
脚本家の山内久さんとは、その後、長くおつき合いが続きました。山内さんの逗子市のご自宅に招いていただき、いろいろと話をしました。1981年、当時、所属していた言友会の全国大会でも、僕との対談がありました。そのときのテーマは「時こそ今」でした。「常に、ユーモアを忘れず」と、年賀状にはよく書かれていました。
強烈に思い出すのは、第一回吃音問題研究国際大会の時のこと。少しでも関わりのあった人にカンパを要請するはがきを出したとき、返事をする必要がないにも関わらず、山内さんからは「赤貧洗うがごとしの生活で、金銭的応援はできませんが、心から成功をお祈りします」との丁寧なお手紙をいただきました。どんな金額の多いカンパよりも、僕にはとても大きな応援になりました。山内さんは、社会派の脚本家で、仕事を選んでいたために、生活は豊かではなかったのでしょう。久しぶりに観た「若者たち」三部作の中では、学生運動、政治運動、障害者問題、原水爆禁止平和行進などのシーンが出てきます。やさしいまなざしの中に、平和への強い思いが常に込められていました。
この山内久さん、音楽の佐藤勝さん、主演の田中邦衛さん、最近亡くなった山本圭さん、そして今回、監督の森川時久さんが亡くなりました。映画「若者たち」の主な関係者はほとんど亡くなってしまいました。
今でも「君のゆく道は、果てしなく続く・・・」の佐藤勝作曲の歌を口ずさみますが、貧しくとも、真剣に現実と向き合い、必死に生きたひとつの時代が終わったなあという気がします。 僕もあの時代を、これらの人たちと一緒に生きたこと、ありがたいことだったと思います。
映画「若者たち」と僕の物語は、自分自身でもとても好きで、仲間によく話しているようです。また、機会があれば話したいと思います。『吃音者宣言−言友会運動十年』の文章を紹介します。
映画「若者たち」のこと
会が充実するにしたがって、これまでの活動では物足りなくなってきた私たちは、何か夢のあることがしたくなっていた。また言友会の存在を大きくアピールすることはできないか、常にそのことが頭の中にあった時期でもあった。
ある日、新聞で「若者たち」という映画が制作されながら、配給ルートが決まらず、おくらになりかけているという記事を読んだ。テレビで放映されていたものが映画化されたのだった。テレビで感動を受けていた私は、いい映画が興業価値がないことでおくらになることが不満だった。そしてその置かれた立揚を言友会となぜかダブらせていた。
「そうだ、この映画を全国に先がけて言友会で上映しよう。そして吃音の専門家に講演をお願いし、講演と映画の夕べを開こう。吃音の問題を考えると同時に、映画を通して若者の生き方を考えよう」
そのことが頭にひらめくと私の胸は高鳴り、もうじっとしておれなくなった。さっそく制作した担当者に電話をし、新星映画社と俳優座へと出かけていった。どもりながら前向きに生きようとしている吃音者のこと、言友会のこと、そして今の私たちに必要なのは、映画『若者たち』の主人公のように、社会の矛盾を感じながらも、社会にたくましくはばたこうとする若者の生き方であることを訴えた。私たちの運動には理解や共感をしえても、未封切の映画の無料貸し出しとは別問題であった。あっさりと断わられたが、私は後ろへ引き下がれなかった。東京の吃音者に言友会の存在を広く知らせ、共に吃音問題を考え、生きる勇気を持つにはこの企画しかないと私は思いつめていたのだ。
私は、六本木にある俳優座にその後も何度も足を運んだ。交渉を開始してすでに七ヵ月が過ぎた。そして、映画『若者たち』も上映ルートが決まらぬままであった。再度私はプロデューサーに長い長い手紙を書いた。あまりのしつこさにあきらめたのか、情勢が変化したからなのかわからなかったが、この手紙がきっかけとなって映画を無料で借り出すことに成功した。そして、上映運動が展開される時には協力を惜しまないことを約束した。これまで私が生きてきてこの日ほどうれしかった日はかつてなかった。さっそく事務所にいる仲間に伝え、手をとりあって喜んだ。
とにかく、250名もの人を集め、主演の山本圭も参加してくれての夕べは成功した。会場を出る時参加者は『若者たち』の歌を口ずさんでいた。(『吃音者宣言―言友会運動十年―』たいまつ社 1976年)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/09/08