伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

自然治癒

吃音の自然治癒率

 幼児の場合、放っておいたら自然に治る、昔から、吃音はそう言われてきました。実際、そんなふうに自然治癒したかのようにみえる人がいます。しかし、研究者によってかなりの差があり、自然治癒率にも、振り回されてきました。だから、僕たちは、治ったのなら治ったでいい、治らなくてもそれを認め、引き受けて生きていく覚悟をもちたいと考えているのです。
 2012年5月、小児科医の「心の研修会」で話した内容を紹介します。まず、巻頭言からです。(「スタタリング・ナウ」2012.12.18)12.18 NO.220

  
吃音の自然治癒率
              日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 「吃音が起きたときに一番大切なのは、「ゆっくり話してごらん」と注意したり、「ちゃんと話せるから大丈夫」と励ましたりしないこと。スムーズにことばが出たときに、「上手に話せたね」とほめるのもよくない。吃音や話すことに子どもの注意を向けさせ緊張させるからだ。そういうことに気をつければ、ほとんどはウソのようにスムーズに話すようになる。吃音はほとんどが、一過性のものでいつの間にか消えていく」(臨床心理学者)

 「吃音の半数は自然に治癒するが、自然に治るからと治療しないままでいると重症化することがあるので、幼児期から治療を始めた方がいい。自然治癒は1年以内に起こるので、それを過ぎたら専門家の治療を受けた方がいい」(吃音研究者)

 「家庭医学書なども、自然に治るので深刻に考えるべきではないとの見解があるが、自然治癒は1〜2割で、このような誤った認識が治療を難しくしているのは残念だ。幼児期から治療すれば、2〜3年かけて、小学1、2年で治療を打ち切ることができる場合が多い」(吃音研究者)

 「幼児期の特徴として、8割ほどが学齢期までに自然に、あるいは簡単な指導で治る。簡単な指導とは、子どものペースに合わせて間を空けて話し、よく聴き、言いたいことが言えるまで待ってあげる。質問は控えめに、うまく言えないときは、本人のことばをゆっくり繰り返す。吃音を注意することや、言い直しをさせてはいけない。それでも気になるときは、言語聴覚士のいる病院で診察を受けて下さい。ゆっくり動く動物のイメージに合わせて、ゆっくり話すが効果的」(言語聴覚士)

 これらは信頼できる大きな新聞社の記事だ。専門学校の学生にこの4種類の記事の全文を読ませて感想を聞くと、自然治癒率の数値のあまりの違いに驚く。ほとんどが一過性で消えるから、8割、5割、1〜2割と違う。これらの記事は、著名な臨床心理学者や吃音研究者など専門家のことばなのだ。心理学者以外は、幼児期の治療が大切だという点では一致している。

 2012年5月、東京都で開かれた、日本小児科医師会第14回「子どもの心」研修会で、吃音について話をしたとき、300人以上参加していた小児科医師の感想の中で、この自然治癒率についての感想が多かった。8割の自然治癒率を信じ、「放っておいたら自然に治るから、心配することはない」と言い続けてきたことへの反省があった。
 吃音関係者の中でも意見はさまざまなのだから、これは仕方がないことなのだが、なぜこの数字がこうも一人歩きしているのか不思議にもなる。
 先日、中学・高校の私学の教師の人権研修会で、ひとりの教師が私の講演への感想で、子育ての経験を話した。
 「私の長男はどもっていたが、自然にいつか消え、次男もそうだったので、今日の話を聞くまで、自分の子どものように、みんな自然に治るものだと思っていた。うちの子どもは、たまたま、45パーセントに入っただけなのですね」
 このように自然に消えた事実があるからなのだが、「ほとんどが一過性」とは言えない。一過性のものは、私から言わせれば「どもりもどき」で、本来吃音にカウントする必要のないものだろう。
 長年、発生率1パーセントと言われてきた時代、自然治癒は8割と言われていた。最近は、発生率5パーセントで有病率1パーセントと言われる。発生率と有病率の区別はなかったのが、かつての発生率が有病率になっている。この数字の変遷は何を意味するのだろうか。今現実、どもっている子どもの親にとって、これらの数字は何の意味も価値も、もたない。専門家の言う、いいかげんな数宇に踊らされるのは、もうやめにしたい。
 今回、小児科医師が、吃音に関心をもって下さったことがうれしかった。講演原稿を紹介する。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/08/20

DCモデルと幼児吃音の臨床

 吃音の問題を考えるとき、一番大切なのは、どもっていることを「かわいそうと思わない」ことだと、僕は思います。特に、幼児吃音では、このことが最大のことではないでしょうか。保護者に、自分の母親から「かわいそう」な存在と見られたらどう思いますかと問いかけると、ほぼすべての保護者が、「それは嫌です」と言います。どもっている子どもを、「かわいそう」ではなく、「今、どもって話しているなあ」とそのままを聞くこと、そしてしっかりと応答することが出発のように思います。
「スタタリング・ナウ」2009.7.21 NO.179 の巻頭言を紹介します。明日からは、前号に続き、水町俊郎さんの愛媛大学教育学部障害児教育研究室紀要をもとにした「DCモデルによる吃音児指導の概要」を紹介していきます。

  
DCモデルと幼児吃音の臨床
                 日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二


 「子どものことを、かわいそうだと思わない」

 幼児吃音の取り組みは、これにつきる。一般的によく言われる「吃音を意識させない」は、あまりにも弊害が多い。幼児であっても、自分の話し方が人と違うことを意識している場合は少なくない。私たちがしなければならないのは、「吃音をマイナスのものと意識する」ことを防ぐことだ。
 自然消失してしまえば問題はないが、消えずにどもり続ける場合、吃音に対して、否定的な感情や考え方をもつと、「まあ、どもってもいいか」と、どもる事実を認める、ゼロの地点に立つのに、大変なエネルギーと、意味ある出来事や人との出会いを必要とする。
 私が開設している「吃音ホットライン」には、電話相談が毎日2件以上あるが、一番多いのが幼児の吃音の相談だ。どもり始めてまだ3日目という相談もある。そして、母親は例外なく、「このままでは、かわいそうだ」と思っている。
 こんなに早く相談できるのは、インターネットのおかげだが、危険も多い。吃音については、様々な情報が錯綜し、親は、強い不安をもっている。いろんなサイトの吃音の原因についての情報で、「私のせいで、子どもがどもり始めた」と子どもへの罪悪感をもつ。情報の洪水に飲み込まれ、おぼれそうになって、やっと日本吃音臨床研究会のホームページにたどりつく。
 私は、母親の、吃音についての今の思いや考えに、まず耳を傾ける。不安、罪悪感、あせり、とまどいなどをほとんど出し切ったと思えたころで、初めて私は、どうしてそのように、感じ、考えるのかと問いかけていく。小児科医や児童相談所、インターネットなどの誤った情報によって、不安や罪悪感を募らせていることがわかる。私は、必要最小限の吃音についての事実を正直に伝える。「治りますか?」との質問には、自然治癒の話をする。自然治癒率も、10%から80%まで、研究者でかなり違う主張があるが、45%が妥当なところと考えられ、治らない可能性があることを、どもり始めて3日の子どもの場合にも伝える。
 また、どもり始めたのは、決して母親の責任ではないことも強調する。原因はいろいろな説があるが解明できていないこと。専門家の指摘するよくない母親の態度によってどもり始めるのなら、世界中にどもる子が増え続けるだろう。どんなに理想的な育て方をしてもどもる子はどもるし、どんなに最悪な育て方をされても、どもらない子はどもらない。今日から、自分の責任だと思うのはやめましょうと話すと、ほっとしたのか、電話の向こうで泣いている。
 自分のせいだと、自分を強く責めている親の罪悪感からの解放は第一にすべきことだ。そうして、いろいろと話していると、親の方から自分自身について、このように話し出す場合が多い。
 「早口のような気がする。最近いらいらしている。しつけに厳しすぎるかもしれない。叱ることが多くなっているようだ」
 「誰でも、イライラしたり、叱ることはある。それが原因ではないけれど、お母さんが、そう自分で思うんだったら、少し話すスピードを遅くしたらいい。叱りすぎず少しだけ大目に見たら」などと、親ができる範囲のことを提案する。
 DCモデルに沿った臨床のように、親の態度を詳しく評価することはしないし、質問して確認することもない。親が自ら気がついて自分で言ったときにだけ、DCモデル的な提案をする。
 今回紹介したDCモデルについて、原因論として考えること、楽にどもる見本を見せることなど、納得できないところはある。しかし、100%賛成できなくても、リッカムプログラムよりははるかに、幼児吃音の臨床に役に立つと私は思う。
 吃音を否定しない基本に立ちつつ、自分にとって都合のいい、使えるところだけを活用する。そのしたたかさは、吃音の臨床にとっては必要だ。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/02/09
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