伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

平木典子

私と『スタタリング・ナウ』6

『スタタリング・ナウ』100号記念特集
  私と『スタタリング・ナウ』6


 『スタタリング・ナウ』100号記念特集に寄せられたたくさんの人のメッセージを改めて読み返しながら、おひとりおひとりの温かくも、その力強さに、圧倒されています。昨日のつづきを紹介します。肩書きはすべて当時のものです。

  
「私は私でいいんだ」のメッセージを送り続けて
                     平木典子 日本女子大学教授(東京都)
 伊藤伸二さんから「吃音とコミュニケーション」を初めて送っていただいたとき、「こんな読み応えのあるニュースレターは初めてです」といったお礼を述べたことを覚えていますが、その後、「スタタリング・ナウ」になって、1991年6月4日の第1号から全部ファイルして持っています。どれをとっても読み応えは変わらず、いつもあっという間に読んでしまいます。
 意気軒昂で、ユーモアにあふれ、時にはストレートに、時には逆説的に語られる伊藤さんの巻頭文と、アイデア豊かなプログラムの実践報告に、感動し、すっかり考えさせられ、そして、励まされてきました。このニュースレターは、会員のみならず、多くの人々に読んでもらいたい内容がぎっしり詰まっています。
 勝手なお願いですが、今後とも「私は私でいいんだ」というメッセージをさまざまな形で送り続けて下さることを期待しています。

【吃音ショートコースで楽しくご指導いただいた、アサーティブトレーニングの講義と日常生活に生かせるたくさんの実習満載の年報は、大きな財産です】


  子どもがどもりで悩んでも
             村本邦子 女性ライフサイクル研究所所長(大阪府)
 あっという間に100号なんですね。ふだん忙しくしているので、なかなかまめには読めないでいますが、レターを送って頂き、ファイルが分厚くなるにつれ、「頑張ってくれてるんだな」と安心しています。
 今はもう中2になるうちの息子も、小さい時からどもるんですが(どうやら、それにも時期があって、かなりどもる時期、まったくどもらない時期、いろいろあるようですけど)、それより前から伊藤伸二さんとおつきあいさせて頂いていますので、まったく気楽などもりの母をやっています。
 「伊藤さんみたいに素敵な男性になるなら、どもりもいいか」みたいな…。本人がどもることに悩むようになったら、「吃音親子サマーキャンプ」に親子で参加しようと、正直、楽しみにしているのですが、今のところ、そのチャンスもなく…。本人が特に気にしていないのに、「どもり」のアイデンティティを押しつけるのもどうかなと思い、とりあえず、そのままになっています。
 小学生の半ば頃、友達に「何でお前、そんなに詰まるん?」と問われ、「癖やねん」と答えているのは見たことがあるし、小6の頃、まねされてからかわれたようなエピソードを、間接的に耳にしたことがある。本人が「僕、時々、言われへんくなるから」と言うのを聞くことはある。それでも、そのことで対人関係に消極的になる様子もなく、スピーチを引き受けたり、柔道部のキャプテンをしたりして、決して雄弁ではないけれど、友達も多く、これでいいのかなあと安心して見ています。
 「吃音親子サマーキャンプ」という年頃に間に合うかどうかわかりませんが、彼が、今後、もしもどもりで悩むようになったら、伊藤さんのところにやろうと密かにあてにしておりますので、今後ともよろしくお願いします。
 たとえ直接お世話にならなくても、こんなグループが存在するということ自体、どもりの母には励ましになっています。ありがとう!

【女性の人生サイクルの中で起こる様々な問題を女性スタッフがサポートする。経済的に自立しつつ、もち出しでも社会的活動に取り組む研究所に励まされます】


  話すということ
                     織田さやか NHKディレクター(愛知県)
 毎号とても楽しみにしています。いつも思い出すのは、伊藤さんに出演いただいた『にんげんゆうゆう』でのことばです。「自分にはどもってでも話したい内容があるのか」。話すことは技術ではなく、思いであること、これは表現者である立場の私にとって、いつも大事にしたいと思うことです。
 『スタタリング・ナウ』の中では、毎年夏のキャンプの報告が一番楽しみです。参加した子どもたちがそれぞれに自信と友情を深めていく姿には、こちらもうれしい気持ちになります。今後ともますますすばらしい冊子が続くことを心より祈っております。

【たくさんの付箋が貼られた私の本で、誠実な番組制作の姿勢がうかがえました。30分間に吃音の本質が盛り込まれていて、吃音のいい教材となりました】

 
  『スタタリング・ナウ』はパワーの素
                       山中貴代美 言語聴覚士(山口県)

 「ことば」というものについてそれまで何げなく使ってきた私が、子どもに指導するという立場に立つことになり、無知だったどもりについて勉強してみようと思い、吃音ショートコースに参加したことが『スタタリング・ナウ』との出会いでした。そこで初めて「ことば」「表現」について深く考えさせられました。それ以後、『スタタリング・ナウ』を読むたびに、自分に置き換えて考えたり、子どもや親御さんの立場になって考えたりするようになりました。そして、その作業をすることによって、自分のことを振り返る機会となったり、仕事へのエネルギーになったりして、自分自身が豊かになったような気持ちになるのです。
 私にとって『スタタリング・ナウ』とは「パワーの素」ではないかと思います。そんなパワーの素を企画・作成される皆さん、これからもいろいろな角度から見た記事を発信され、私を刺激して下さい。期待しています。

【吃音親子サマーキャンプになくてはならない人です。小さな子どもたちが、話し合いの輪の中で吃音についての話をし始めるのは、まるで魔法にかかったようです】

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/01/23

吃音ショートコース報告 平木典子さんを講師に迎えてのアサーショントレーニング

 「スタタリング・ナウ」NO.38では、1997年に開催した吃音ショートコースの報告が掲載されています。吃音ショートコースは、1995年から始まり、21回開催しました。さまざまな分野の第一人者といわれる方を講師に迎え、2泊3日の実習・体験型形式にこだわったワークショップでした。このときは、アサーショントレーニングの平木典子さんが講師でした。じっくりと語り合い、楽しく真剣に実習に取り組んだことを懐かしく思い出します。参加者のひとりが、詳しいドキュメントを報告してくれていますので、紹介します。

    
1997年吃音ショートコース〜ドキュメント〜
                       
 1997年9月13日〜15日、奈良県桜井市にある国民年金保養センター『大和路』で'97吃音ショートコースが開催された。
 今年は吃音と自己表現をテーマに平木典子・日本女子大学教授をお招きし「アサーション・トレーニング」を行った。
 今年もどもる人、ことばの教室の担当者、スピーチセラピスト、どもる子どもの親など計78名が近畿地方を中心に、遠くは北海道、長崎から参加した。

はじめに
 思い出すこと、書き留めておきたいことが、キラ星の如く現れ、容易にまとまりがつきません。吸収しようとすれば、いくらでも自分の糧にできる事柄。まさに嬉しい消化不良に、今、陥っています。無くさないように、忘れないように、そっと手のひらに掬いとって、いつまでも自分の心に留めておきたい、そんな貴重な体験でした。
 本音で語り合えることって、本当に愉しいですね。終わった後、すぐに一年後の吃音ショートコースが楽しみになっています。

 『台風が来そう』と心配したのは、吃音ショートコースの休憩時間を利用して、会場付近の飛鳥散策をする思惑があったからです。昨年の大津市から奈良へと吃音ショートコースの舞台が移り、体調も万全で、だいぶ前から楽しみにしていました…。
 
出会いの広場
 初日は、滋賀県のことばの教室担当者の司会による出会いの広場で幕を開けた。
 「猛獣狩に行こうよ」「3歩下がって、3歩進んで」等など、当意即妙の進行に乗せられ、楽しいスキンシップ。これですっかり緊張がとれる。狭い新聞紙の上にくっつくように立ったり、おんぶしたりしていると、もう家族のような雰囲気。とても初めて出会ったという気がしなくなる。
 続いて、参加者全員の自己紹介。なにしろ参加者が多い。吃音者にはきついが、30秒の制限付き。「○○の○○さん」と、自己紹介した人が次の人を指名して行く。初めて出会ってる人も多いはずなのに、形容詞や副詞をつけながら指名するとは…。出会いの広場が生きていた。
 固くなっている人、ユーモアを交えて語る人それぞれだが、全員がもれなく話すいい時間だ。出会いの広場からが始まりと思っていたが、正式には開会式からが本番だった。余裕とユーモアたっぷりの司会と、顧問の内須川洸先生の明るくにこやかな挨拶、日本吃音臨床研究会会長の伊藤伸二さんのなごやかな挨拶が、開会式という堅苦しさを取り去り、楽しく吃音ショートコースで学びあおうという意欲と参加者の一体感を生み出した。(この雰囲気がいいんだよね)

どもる子ども、どもる人の自己表現を探る〜KJ法を使って 
 夕食の後、KJ法なるものに挑戦(KJ法とは、川喜田二郎氏の考案した創造的問題解決の技法)。
 成人のどもる人は、「自分自身の自己表現について」、ことばの教室の教師は「どもる子どもの自己表現について」8人ほどを1グループとして取り組む。
 思いついたことをカードにどんどん記入するグループ。話し合った発言を全て記録係がカードに記入するグループなどさまざまだが、最後には大きな模造紙に図式化しなければならない。
 カードづくりで話し合い、そのカードをグループで関連づけて、図式化していく中で話し合う。K(かなり)J(時間)がかかる方法のため、その日中に終わらないグループも出てきてしまった。
 時間はかかったけれど、参加者全員の意見が尊重され、いろんな考え方が検討され、グループで集中できるやり方だった。ことばの教室の先生たちのグループは翌日も頭を絞りながら取り組まれていた。
 模造紙にグループで考えたことが図式され、最後までやりとげたことは、いい思い出になった。
 終わったグループからコミュニティアワーと称する宴会に参加。恒例の、自分のお金が続く限りでの飲み放題(アルコールは自動販売機からのセルフサービス)、食べ放題のドンチャン騒ぎ。お酒を傾けて笑顔と話し声と笑い声が一杯。どこにどもる人がいるのか分からない。みんな話をすることが好きなんだと思った。
 一番遅く終わったところで、2時頃まで続いたというから、ああ眠う〜。(そしてこの時間もまだまだKJ法を続けていたグループがあったというから驚き)

実践発表
 発表数が増えたため実践発表は時間を繰り上げ8時半から。(これじゃ〜休む間もないよ〜。昨夜は、お風呂にも入れなかったのに。)
◇成人の体験
 兵庫県龍野市から参加された人が、ライオンズクラブの定例会の1年の進行役を引き受け取り組む中で、吃音者宣言をせざるを得なくなったという体験を発表。身につまされると同時に励まされた。
◇神戸吃音教室の仲間による劇
 出し物は『ベニスの商人』。中には体調がすぐれない人もいたが、4人で、ドタバタ劇を演じ、吉本喜劇より面白いというお褒め?の言葉をもらっていた。
◇活動報告
 大阪吃音教室の東野晃之会長の吃音親子サマーキャンプの報告は、スタッフが楽しく取り組んでいることがひしひしと伝わり、僕も参加したいという思いになる。日本吃音臨床研究会の伊藤伸二会長は、今夏サンフランシスコで開かれた第2回IFA大会(国際吃音学会)での発表の様子の報告。国際的に活動が広がっていくのが実感できる。
◇どもる子どもの母親の体験
 小学6年生のお母さんの体験発表。子どものどもりとどう向き合えばいいのか悩んでいた頃のこと、吃音親子サマーキャンプに参加して子どもが成長し、変化してきたことなどを振り返っての話だった。からかわれて、「自分ががまんすればいいんや」と言っていた小学4年生が、「僕、どもりやからどもるねん。気にせんといて」と言えるようになり、さらに6年生では、校長に投書して、「この学校にはどもる子がいます。いじめたり、からかったりしないで」と全校生徒の前で言ってもらうというエピソードなど、子どもの変化と、自分自身も変わったという話に、成人のどもる人は自分の子どもの頃を思い出し、ことばの教室の先生方は担当している子どものことを思い出して、涙を流している人もいた。
◇吃音親子サマーキャンプの劇
 子どもたちと取り組んだ劇『狼森と旅森、盗人森』をキャンプのスタッフで、その一部分を上演。出演者が本当に楽しそうに演じているのにっられて、見ている方も楽しくなってきた。キャンプに参加した子どもたちもきっとそうだったのだろうと想像できる。小道具の立派さにも感激。
◇実践発表
 ことばの教室の先生方やスピーチセラピストの先生方の実践発表が続いた。昨年まではことばの教室の担当だった人が、長崎・佐世保市から参加された。今年は普通学級の担任に変わられたが、月に1度はどもる子どもや親たちと集まりを持っておられ、その報告の発表だった。
 千葉県からの参加者は、ことばの教室の担当経験と現在のセンターでの経験とから、今吃音について考えていることや、吃音児の指導として行われている環境調整について、自分の率直な思いを語られた。
 カウンセラーとスピーチセラピストの立場からの発表もあった。交流分析学会で発表されたもので、交流分析の手法を使ってあるどもる人のカウンセリングをされ流暢になった事例の発表だった。
 それらのまとめを内須川顧問は、環境調整についての解説や、今流暢になっても再発の危険性と、長期のフォローの大切さを強調。学会のようなやりとりに、どもる人にとっては、新鮮な緊張が走った。ちょっと時間がオーバーし、そのため、昼食の後直ぐに午後の部が始まるということに(休む間がないよ〜) 1997年9月 (つづく)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/05/09
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