伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

対話

「吃音の夏」第二弾 第10回親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会〜参加しての感想  吃音親子サマーキャンプを前に

 第10回 親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会〜参加しての感想

 明日からは、いよいよ第32回吃音親子サマーキャンプです。今年のキャンプは、初参加者が多く、フレッシュなキャンプになりそうです。きっと、今頃、不安と期待が入り交じった複雑な思いで、準備されていることでしょう。鹿児島県から初めて参加する親子は、今日は京都に前泊すると聞いています。私たちスタッフも、初めて参加される方、遠くから参加される方の思いを想像しながら、明日の出会いを楽しみに、最後の準備をしています。
 キャンプが始まってしまうと、ブログの更新はできないと思いますので、しばらくお休みします。サマーキャンプの前日の今日は、これまで報告してきた第10回親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会の感想を紹介します。
 初めは、講習会の主催者である、吃音を生きる子どもに同行する教師・言語聴覚士の会の事務局長の渡邉さんの報告、そしてその後に参加者ふたりの感想を紹介します。


横断幕 吃音講習会は、全国難聴・言語障害教育研究協議会の全国大会で発表した安田さんの提案でスタートしたので、子どもと安田さんが対話しているビデオを観て、やはり吃音について「対話」するっていいなと思ました。伊藤伸二さんの基調提案では、安田さんが健康生成論をことばの教室の実践にいかしている提案を解説しながら「対話」の大切さを丁寧に話してくれました。どもることを否定しないが、言語訓練も大切だとする、一貫性のないかかわりが危険であることを参加したことばの教室の担当者や言語聴覚士の方々にわかってもらえたと感じます。
osp 公開講座 大阪のみ 大阪吃音教室のみなさんが、普段の例会の様子を再現してくれました。内容は、吃音チェックリストでセルフチェックを話し合うことでした。〈自分のことを語る、相手の語りを聞く〉を私たちはみることができました。どもることだけでなく、私たちが子どもを全体的にみることや相手の話を聞いて、真剣に考え、知りたいと質問していくことが「対話」になっていると思いました。語っている人が語りたくなるような雰囲気がとても伝わってきました。私も大阪吃音教室に一度は参加してみたいと思っていますが、ここで一コマですが再現してもらって、うれしかったです。そのあともグループの話し合いや休憩時間などで、どもる人の考えや思いを聞くことができて本当によかったです。
 講習会以外では、このようにどもる人本人と一緒に研修をする経験がないので、とてもよかったと参加者が感想に書いていました。これからも、大阪吃音教室のみなさんに参加してもらいたいなと思っています。

牧野さん 次の日は、牧野さんの基調提案からスタートしました。一日目の様子をふまえて、やわらかい雰囲気で話してくれました。私は最近、今回のテーマである「幸せ」について考えるようになりましたが、牧野さんはずっと前から「ハピネス!」と発信していました。幸せをベースに「どもる子どもの生きるかたちを支えるために」について話してくれました。子どものありのままを受け止め、暮らしの中での子どもの思いを知ることが大事ではないか、どもることだけが課題だと大人が勝手に考えてしまわないように大人のかかわりについて、たくさんのことを話してくれました。子どもの幸せという意味で将来を一緒に考えていくことが大事であると実感しました。
渡邉 その後、実際に教材を工夫してつくり実践をしている四人のことばの教室の担当者が、「言語関係図」「吃音かるた」「吃音チェックリスト」など、ことばの教室で子どもと取り組んでいることを紹介しました。「言語関係図」や「吃音かるた」など、同じテーマでも違う教材を制作し、それぞれの工夫がある実践を紹介できたと思います。参加者が自分が取り組むときにどう活用しようかと思って実践してくれたらいいなと思いました。
ティーチイン 2日間もあると思った吃音講習会もあっという間にふりかえりの時間になりました。みんなで輪になって一言ずつ話しました。2日間で印象的だったことや考えたことなど、参加者のことばでふりかえることができました。多かったことは、安田さんが実際に子どもと対話をしている様子がビデオで見れたこと、大阪吃音教室の実際の対話をみることができたことでした。実際のことが伝わってよかったなと思いますし、それをどんな意味があるのかを伊藤さんや牧野さんの話でよりわかり、参加者が意見を交換できた、いい講習会だったと思いました。
 来年は千葉市で行います。来年もたくさんの方々が集まっていい時間を過ごせる講習会にしたいなと思っています。以上、報告でした。


 
 
安田さんのことばの教室の実践発表はもちろん、教材の紹介の中で皆さんが紹介されていた事例の一つ一つに、一人の人間として子どもを信頼し、子どもと対等な立場で共に取り組むということが徹底されており、温かい思いが満ちていた2日間でした。子ども達のことを思うと、自分のことのように嬉しいです。
 ことばの教室の担当者が、それぞれの実践での、子どものエピソードを紹介しているときの、皆さんの柔らかい笑顔が印象的でした。
 安田さんの担当しているB君のように、「軽い気持ち」「重い気持ち」などと自分の気持ちを表現できる子どもにとって、「重い気持ち」を語ることができる場があり、それを語れる大人がいるということは、どれほど大きなことだろうと思います。たくさんの子ども達に、安田さんのような人に出会ってほしいと願います。
 僕は、教育の場で子どもと関わる立場ではありませんが、吃音に取り組み始めた頃から、どもる子ども達のことにすごく関心があります。様々な場面で、子どもが一生懸命に生きている姿にふれると、力をもらうし、自分のことのように嬉しく、幸せな気持ちになります。反対に、合理的配慮が濫用され、どもる子どもが生きていく力を、削ごう、削ごうとしている現状にふれると、涙が出るほど悲しいです。「どもる子どもが幸せに生きるために」という思いの輪が、もっと大きく広がり、根付いて欲しいと切に願っています。
 妻によると、僕は今朝、寝言で吃音がどうのこうのと言いながら大笑いをしていたそうです。仲間も大勢できました。我がことながら、名古屋での二日間が、よっぽど楽しかったのだろうと思います。
 次は、いよいよキャンプです。よろしくお願いします。



 
「人は人を図らずも傷つけてしまうものだ」「傷つけるかもしれないとの不安は、人との関係の中では一生ついてまわる」という言葉を聞き、「人を傷つけてしまってはいけない」「不安は取り除かなくてはいけない」という思考になっていましたが、このようなことを前提に人と関わることを知れたことで少し楽になりました。人を傷つけてしまうかもしれないことを極端に恐れてしまっていたことに気づき、「納得する/させる」と同じように傷つくかどうかは相手次第であり、伝えるべき情報は、極度にこだわらず伝えていきたいと思いました。
 「どもる」を「つっかかる」や「ひっかかる」と言い換えることについて、伊藤さんの話を聞き、小学生の頃、自分で「どもる」という言葉を使うのが嫌で、吃音のことを相手に「ひっかかる」と表現していたら、相手から「私もひっかかるよ」と言われて「どもる」ことが伝わらず、「みんなのひっかかるじゃなくて、毎日の会話でどもることなのに」と悲しんでいたことを思い出していました。他の人から「どもり」「どもる」と言われるのは嫌でしたが、表現を曖昧にしてしまうと、語れる言葉がなくなってしまう危険性もあり、「自分を語れる言葉」として残すべきものの見極めが大切だと感じました。
 今回の吃音講習会では、特に、「対話」について深めていけたらと思いながら参加していましたが、「対話」以外のこと(自分自身の生き方、どもる人として、仕事のこと)でも学びがとても多かったです。対話に関して、相手に質問する力だけでなく、話を聴く力をさらに身につけることで、相手がどう向き合ってくれるか変わっていくのではないかと思いました。
 4年ぶりに参加し、自分自身の吃音をとりまく課題や思いを改めて見つめ直すきっかけになりました。来年の講習会でも、自分の思い、行動の振り返りをしたいと思います。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/08/17

対話における大阪人の突っ込み力は、相手への信頼があるから

対話における大阪人の突っ込み力は、相手への信頼があるから

吃音の夏」第二弾 
 第10回 親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会〜大阪吃音教室の公開講座を終えて


 参加者が丸く円になり、講習会のふりかえりをした後、短時間だったのですが、感想を記入していただきました。そこに書かれていたことは、また機会があれば、ぜひ紹介したいのですが、今日は、それとは別に、NPO法人・大阪スタタリングプロジェクトのメーリングリストで交わされた、講習会1日目の午後、吃音チェックリストを使っての、大阪吃音教室の公開講座をめぐるやりとりを少し紹介します。

osp 公開講座 大阪のみ 吃音講習会に参加のみなさん、お疲れ様でした。
 吃音チェックリスト公開講座を担当いただいた嶺本さん、ありがとうございました。
 実際に活用する様子を見て参考になったと、最終日ふりかえりで参加者から感想がありました。吃音チェックリストは、吃音に関するとらわれ度や回避度の数値が下がったもの、数値に変化がないものも含めて、互いの吃音について語り合う、対話のツールでした。
 話し合いの中で普通に、なぜそうなのか? どういう気持ち? など、知りたいと思ったことを相手に質問しますが、どもる子どもを傷つける恐れがあるので、「大阪の人のようなつっこみはできない」ということばの教室の担当者がいました。予想外の反応でしたが、相手の気持ちを配慮し、あまり慎重になりすぎると対話になりません。短い期間で異動することばの教室担当者のとまどいや悩みを知ったようでした。
 吃音チェックリスト、言語関係図、吃音氷山説などは、大阪吃音教室でやっていますが、ことばの教室でも教材として実践され、事例研究が進みます。講習会ではそれらの事例研究が報告され、教材としての意味づけを知り、参考になりました。
伸二 伊藤さんが基調講演で話された健康生成論の首尾一貫感覚の〈わかる、できる、意味がある〉感覚は、幸せに生きるためになくてはならないものですが、私たちがこれまで教材としてきた論理療法、交流分析、アサーションなどで学び、自分への気づきを得てきたのは首尾一貫感覚で意味づけることができます。ことばの流暢性を求めなくても吃音の悩みから解放され、幸せに生きることができる裏づけをもらったようでした。
 内容の濃い、盛りだくさんの吃音講習会でした。大阪のメンバーが参加し、いろいろな体験を話す意味合いを改めて思いました。(東野)     
 
 参加されたみなさん、講習会でのチェックリストの例会実演、いい時間でしたね。吃音チェックリストの数値は、ともすれば数字の低さをよしと考えがちになるのですが、やりとりの過程でそうではないことが示されていく様子は、吃音講習会の参加者にとって圧巻の展開だったと思います。
 吃音チェックリストは健康生成論の首尾一貫感覚における「わかる」に焦点化したものでしょうが、「できる」、「意味がある」ところにまで私たちの話し合いは進んでいましたのでなおさらです。
 プログラム最後の振り返りでは、公開講座に参加していた大阪吃音教室の人たちの話に「つっこむ力」が話題になりました。興味・関心ゆえのつっこむ力、応答する姿勢は伊藤さんや顧問の牧野さんが語ったこととも通じて、ことばの教室の教員の夏休み明けの子どもたちに向き合っていきたいという振り返りのことばに結実したと感じました。
 嶺本さん、普段の大阪吃音教室と違って、それなりに緊張感がともなう担当だったと思いますが、それこそ嶺本さんにとっての適度なバランスのとれた負荷、経験だったのではないでしょうか。いい時間をともにさせてもらいました。ありがとうございます。(坂本)

 「大阪で普通にしていることが、参加者にとっては、とても新鮮で、衝撃的だったようですね。大阪人だから? いえいえ、相手を信頼しているからできることだと思います」と、伊藤さんたちが書いていましたが、名古屋での吃音講習会での反応で、私が一番驚いたのがその点です。
 普段子どもを相手にしている先生や言語聴覚士が、吃音のことを子どもに質問したり、子どもの発言にツッコんだりするのに、何をためらうんだと思いました。まあ、参加者のそういう反応を通じて、「これからは子どもたちとの対話を心掛けよう」と思う、そんな先生たちが増えていきそうな実感が持てた講習会でした。
 今後とも、大阪から参加しやすいときは、講習会に参加しようと思っています。(西田)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/08/15

新・吃音ショートコース、終わりました

新・ 6月24・25日、寝屋川市立市民会館で、第6回 新・吃音ショートコースを開催しました。24日(土)は、午後1時から夜10時まで、25日(日)は、午前9時から午後5時までという、普通では考えられないような長丁場の研修会でした。初めて参加した人がよく、「プログラムには夜10時までと書いてあって、本当かなと思っていたけど、本当だった」と言います。僕たちにとっては、ある意味、これが普通なのですが。

 1日目、自己紹介の後、今回、この場でどんなことをしたいか、リクエストを聞いて、2日間のおおまかなプログラムを立てました。

新・吃音ショートコース 伸二と奥田 高校生の生活支援の仕事をしている人から、「カウンセラーではない支援ものという立場で話すが、話にきた相手にとって、話した時間、内容がこれでよかったのかと、終わってからよく思う。対話は対等性が大事だと聞くが、なかなか難しい。どんなことを大切にすればいいか」という話題が出ました。とても大切なテーマで、対話について考えている僕にとっても、ぜひ、考えたいことでした。彼女とじっくり「対話の難しさ、対話をするときの心構え」などについて、対話をしました。彼女の実体験から出てくることばに耳を傾け、僕も、これまでの経験や今考えていることなど、真剣に話しました。周りの参加者も、そんなふたりをしっかり支えてくれました。一人の人間として、他者にどうかかわるか、その奥深さを改めて思った時間でした。
 「対話について」の対話は、教師や対人援助にかかわる人だけでなく、職場、家庭での人間的な対話について、深まっていきました。今回の吃音ショートコースの中での、「ハイライト」だったと、僕は思いました。真面目で、誠実であるが故の対話の難しさが、参加者の一人一人に響いたと思います。

新・吃音ショートコース 伸二アップ 次は、今、心理学だけでなく、企業や自治体などでも注目されているウェルビーイングについて考えました。それぞれが思う「幸せ」について話し合いました。人間にとって大切な三間(空間、時間、仲間)アドラー心理学の共同体感覚、ポジティヴ心理学から、PERMA(パーマ)の5つの概念、リフの6つの要素、それらの中のキーワードから、自分にとって何が大事と思うか、ひとりずつ発言していきました。似ていたり、違っていたり、でも結局は似ていたり…「幸せ」からの切り口は、多くのことが考えられるいいテーマでした。

新・吃音ショートコース西田 新・吃音ショートコース深堀新・吃音ショートコース小島新・吃音ショートコース尺八発表の広場では、中井久夫の著書「治療文化論」から発見したことを、吃音とからめて考察したことの発表をはじめ、東京からの参加者が自分の転職にまつわる体験や、三重県からの参加した元ことばの教室担当者がこれまでの自分を振り返って話をしました。元ことばの教室担当者は、東日本大震災の後、復興支援の一貫として、尺八の演奏をして、福島を訪れているそうです。彼女の尺八に合わせて、みんなで「花は咲く」の歌を歌いました。どれも、その人らしい内容で、参加者は引き込まれました。

新・吃音ショートコース東野と藤本新・吃音ショートコース東野と吉本 発表の広場の後半は、ことば文学賞の発表です。今年は11編集まりました。そこから3編選んで、読み上げました。聞いていたみなさんから感想をもらい、その後で、最優秀作品と優秀作品を発表しました。どれも、しっかり書いてくださっていて、内容も深く、ことばの選び方、表現の仕方なども洗練されていました。最優秀と優秀の2人は、幸い、新・吃音ショートコースに参加されていたので、感想も聞くことができました。
 今年から、佳作(審査員特別賞)を2編選ぶことになっていましたが、時間がなくなってしまい、入賞者3人の作品だけを読み上げました。佳作(審査員特別賞)の2作品を選びながら、その2編を読むことができませんでした。タイトルだけを紹介したら、2編とも、作者が参加していたことが分かりました。それなら、なんとか時間をやりくりして、発表したらよかったなと残念に思いました。ことば文学賞の選考にあたり、作者名は伏せられているので、僕にはだれの作品なのか分かりません。そのためにこのような残念なことも起こるわけです。
 今年26回目だった「ことば文学賞」、ここまで続けるという強い意志を持ち続けた大阪スタタリングプロジェクトの会長をはじめ、担当の人に感謝です。
 ぎりぎり午後10時、会場を出ました。

新・吃音ショートコース渡邉 2日目は、発表の広場の続きで、千葉のことばの教室担当者がどもる子どもとの「幸せ」についての取り組みを発表しました。その子どもたちから、どもる大人に聞いてきてほしいと要望がありました。「どもりが治ることが幸せとは思わないが、その理由を説明するのが難しいので、どもる大人はどう考えるのかを知りたい」とのことでした。普段、しっかり考えている子どもたちなので、大人顔負けの深い話をしています。

新・吃音ショートコース伸二後ろ姿 その後は、音読を免除してほしいと願い出る保護者について、担任教師から相談があった話、合理的配慮の功罪、日本語のレッスン、どもりそうなときの対処法、エリクソンのライフサイクル論など、リクエストされたことは全部取り上げ、終わることができました。

新・吃音ショートコース日本語のレッスン 日本語のレッスンでは、発音・発声の基本の確認と、歌を「一音一拍」を意識し、「母音」を押して、ゆったりと歌いました。そして用意してきた、歌舞伎の演目、「白浪五人男」の口上を全員が一人で演じました。「問われて名乗るもおこがましいが、…」おなかから声を出し、気持ちのいい時間でした。特に、コロナ禍で大きな声を出すことがなかったので、より気持ちがよかったのかもしれません。

 参加者の感想は、また次回、紹介しますが、それぞれに満足して帰っていただけたようで、ほっとしています。大阪吃音教室とはまたひと味違った時間を過ごすことができました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/27

第9回親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会 2日目報告

 ドキドキしながら始まった3年ぶりの吃音講習会ですが、あっという間に1日目が終わってしまいました。無茶振りに近い僕たちからの提案を、参加者のみなさんが柔軟に受け止めて下さり、対応して下さったおかげです。芝居でも、観客の反応の良さが、役者はもちろん芝居そのものを見違えるほど育てると言います。僕たちと参加者が一体になって、講習会の場を作り上げている、そんな感じがしました。
講習会 牧野 さて、2日目。まず、この吃音講習会の顧問である、国立特別支援教育総合研究所の上席総括研究員であり、研究企画部長である牧野泰美さんの「対話とは何か」の基調提案から始まりました。牧野さんの存在は、僕たちにとってとても大きいです。安心感を与えてくれます。牧野さんは、全国各地のことばの教室とつながりをもち、あちこち動いておられますが、この講習会は、そんな研修会と違ってゆったりと参加できる、国立特別支援教育総合研究所という名前が教育委員会などで役に立つかもしれないと、みんなを笑わせながら、話し始めました。自分の緘黙の体験をベースに、子どもとの関係性について、対話の良さについて、話していただきました。

講習会 有馬インタビュー その後、成人のどもる人へのインタビューです。このコーナーは、これまで2回していて、今回が3回目です。ことばの教室担当者で、どもる子どもにかかわっているけれど、大人のどもる人に会ったことがないという人は少なくありません。今回の講習会でずっと流れているテーマは「どんな子どもに育ってほしいか」ですが、目の前で自分を語ってくれるひとりのどもる人として登場してくれました。今回は、中学生のときに僕たちと出会い、吃音親子サマーキャンプに参加したこともあり、今、大阪吃音教室で一緒に活動している女性です。地方公務員という、3年ごとに部署が変わり、仕事内容も人間関係も新しく作り上げていかなくてはいけない職場で、悩みながら、嫌な思いもしながら、それでも人とのつながりを大切にして、真摯に仕事に向き合っている人です。
 明るく、誠実で、その人柄は、すぐに参加者にも伝わり、彼女の話を真剣に聞いて下さいました。こんな大人になってくれたらいいなあというモデルを、目の前で見てもらったことになるでしょう。最後に、ひとりひとりの感想を聞いて、午前中は終わりました。

講習会 相埜 午後、昨日残した7つの視点のうちの2つを、オープンダイアローグの形で行いました。 その後は、これまでの対話と違い、教材を使ってする対話も紹介しました。吃音チェックリスト、言語関係図、吃音キャラクター、どもりカルタを使って、子どもたちと対話をする、それらをきっかけに対話をすすめるというものです。チェックリストは、もともと大人のどもる人のために作ったものなので、今回は、今から5年前に、大阪吃音教室と出会い、これまで3回、吃音チェックリストをしてその数値の変化に驚き、それがなぜなのか考察した人の発表でした。具体的な人生のできごと、エピソードとともに語られる話を聞きながら、参加者も、子どもたちにどう使えばいいのか、イメージしていただけたことと思います。
 時間がなくなって、言語関係図、吃音キャラクター、どもりカルタは、詳しく紹介することができませんでした。これまでの講習会で何度か紹介しているので、僕たちにとってはもういいかなと思っていたのですが、教材の周りに人が集まり、どう使うのかと質問していました。教材を使っての対話の具体的な話が必要だなと思いました。
 最後は、大きな円を作って座り、ふりかえりです。最初に書いた「どんな子どもに育ってほしいか」を再度、考えて発表しました。最初のものはそのままで、追加したという人、もう少し深いものにしたという人、みなさんいろいろでした。
 講習会全体のふりかえりは、アンケートに書いていただきました。びっしりと書いて下さった方もたくさんおられました。
 みんなに手伝っていただいて、後片付けをして、会場を出たのが午後5時。
 あっという間の2日間でした。開催できるかどうか、開催していいのかどうか、いろいろ迷いましたが、今は、開催できてよかったという思いでいっぱいです。僕たちが大切にしてきた、直の出会い、対面での語り合い、全体をオープンダイアローグの形で通したこと、それに参加者が対応して下さったこと、すべてがすばらしい時間を作ってくれました。 フル回転していた僕の頭は、なかなかその余韻からさめませんが、その疲れは心地よいものでした。ああ、やっぱりこんな時間はいいなあ、開催を待っていて下さった人たちといい時間を過ごすことができたなあ、と心から思います。ありがとうございました。
 ぜひ、来年も。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/08/07

講習会 相埜発表全体講習会 ティーチイン1

第9回親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会1日目報告

 タイムリーな話題をと思い、長岡花火で寄り道をしました。吃音講習会の報告に戻ります。

 前日に千葉入りした僕たちは、実行委員のメンバーと落ち合い、最終の打ち合わせをしました。キャンセルは5人、参加者は34人と確定したので、少ない人数を活かした講習会にできないだろうかと思い、ふと思いついたことをみんなの前に出してみました。
 「これまでしたことがないから、失敗するかもしれないけれど…」と前置きをして。
 それは、2日間の講習会全体を、オープンダイアローグのようにして、対話の世界にどっぷりつかってみようという試みでした。
 講習会に流れるテーマとして、僕たちが考えていたのは、「どんな子どもに育ってほしいか」でした。その子ども像を明確にして、そのためにどんなことをしていったらいいのか、考えたいと思ったのです。まず参加者に、今、自分が思う「どんな子どもに育ってほしいか」を書いてもらいました。
 そして、オープニングの出口さんの実践発表に入りました。出口さんは、「どのような環境に置かれても自分らしく過ごせるように、しなやかな考えをもってほしい」という明確な子ども像を持って、子どもたちと対話をしていきました。これまでのような、僕の基調提案から始まるという形ではなく、ことばの教室の実践発表から始めたということは、参加者にとって、とっつきやすいものだったようです。穏やかな口調で、子どもとの対話を本当に楽しく語る発表に、みんな引き込まれていきました。また、子どもと対話をしている映像も流れました。子どもも出口さんも、楽しそうです。
 その後、この発表について、質問を受けたり、感想を述べたりするの一般的な形ですが、それを変えてみました。

フィッシュボウル1 出口と フィッシュボウル(金魚鉢)というワークの形ですすめました。
 フイッシュボウルは、多人数で考えや気持ちをシェアするときに使われるワークです。

1 大きな椅子の輪に全員が座り、その内側に 5脚の椅子で小さな輪を作る。
2 提案者と伊藤に加えて、希望者二人が、内側の小さな輪の椅子に座る。もう一脚は空いた席にしておく。
3 内側の輪の中、まず四人が対話し、外側の輪の人はそれにじっと耳を傾ける。
4 外で話を聞いていて、話したくなった人は内側の空いている席に座る。この席は自由席で、出入りするタイミングは自由で、発言してしばらくしたら退席して、空いた席に外側の人が入る。

フィッシュボウル 大きい輪2 実践発表を聞いて、何を感じ、考えたかを、今年、ことばの教室の担当になったばかりの人と、数年経験している人と、僕とが対話をします。そこには、発表した出口さんもいてくれます。質問したり、感想を言ったりしながら対話を続けます。それを周りの人が聞いていて、話したくなったら、空いている席に座り、対話に加わるという形にしました。
 多人数の中だと話せないことも、小さな輪だと話しやすく感じることがあります。ここでは内側の「話す人」と、外側の「聞く人」を分けています。外側の輪にいる人は、内側の小さな輪での対話に耳を傾けながら、自分の中にどんな思いや感覚が生じるかに注意を向け、自身の中に響く声が生まれてきたら内側の輪に入って全体でシェアします。内側の人と外側の人が入れ替わりながら、多くの人の声がシェアされました。

 はじめに、内側に座る人を募集しました。誰が出るかに時間がかかっていたら、緊張が高まります。勇気ある初参加の二人がさっと出てきてくれたことが、この試みを成功に導いてくれたようです。この真ん中にいる人たちは自由に、出口さんに聞きたいこと、自分が考えたこと、などを話していきます。真ん中に出ることは緊張を伴うようですが、みなさん、ドキドキしながらも、次々と入れ替わって参加して下さいました。いきいきと場が動いている感じがしました。僕も、みんなの発言に触発されて、いろんなことを考え、たくさん話しました。「対話っていいね」という講習会のテーマが、目の前で展開されているのを見たようです。

この形式を2日間通して、行いました。話題が変わるたびに、最初、真ん中に坐るメンバーが変わります。参加者が少ないから、ほぼ全員が真ん中に座ることになりそうでした。
 
 実践発表の後、午後は、同じ形で、対話をすすめるにあたって大切にしたい7つの視点について、話題提供者と僕と、また2人を募集し、4人が対話し、1つを空席にして輪の外から加わって真ん中で対話をするというスタイルで進めました。だんだんとみんなもこのスタイルに慣れてきたようです。
 たっぷりあると思っていた時間がなくなり、7つのうち、2つは、翌日に持ち越しました。ゆっくり丁寧に進めたいと思っていたので、何の問題もありません。
 午後7時、公式プログラムが終了しました。夕食も食べずに、こんな時間まで研修をするなんて、考えられないかもしれませんが、楽しい時間でした。
 初めての試みなので、失敗するかも、と思いましたが、それは危惧に終わりました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/08/05

第9回 親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会

 コロナのために2年中止になっていた「親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会」を、今週末の7月30・31日、千葉県教育会館で開催します。
 開催を決めた5月とはコロナの感染状況が大きく違ってきていますが、政府・自治体が行動制限しないというので、最大限の感染対策をとって、対面での研修会を開きます。感染急拡大のため、また濃厚接触者になったからと、せっかく申し込んで下さったのにキャンセルされた方もおられますが、新しい申し込みもあります。
 直前になりましたが、会場は、ゆったりとかなり広いので、余裕があります。
 どもる子どもの保護者、ことばの教室担当者や言語聴覚士の方、当日参加も受け付けますので、ご参加下さい。

 今回のテーマは、「対話っていいね」〜対話をすすめる7つの視点〜
   健康生成論、レジリエンス、ナラティヴ・アプローチ、ポジティブ心理学、
   オープンダイアローグ、当事者研究、PTG(心的外傷後成長) です。

 どもる子どもの幸せを考え、私たちは、言語訓練ではなく、吃音の本質・特徴を踏まえた、生きる力を子どもが自身でみつけていくための同行者でありたいと考えています。そのために、これまで学んできた、《健康生成論、レジリエンス、ナラティヴ・アプローチ、ポジティブ心理学、オープンダイアローグ、当事者研究、PTG(心的外傷後成長)》という7つの視点で、子どもたちとの対話を振り返ります。
 対話は、教育に限らず、今、多くの場で、その重要性が言われています。対話をしたいと思うが、どもる子どもに吃音の話をしていいのだろうか、傷つけるのではないだろうかと、躊躇しているという話も聞きます。ためらわず、一歩、対話の世界に入っていただくために、今回、「対話っていいね!」というテーマを設定しました。担当者が、対話は必要で、対話っておもしろい、対話って楽しいと思っていただくことが一番です。具体的な対話事例を提供し、参加者のみんなで考える時間にしたいです。
 今まで、皆さんが日々実際に実践されてきた「子どもとの対話」の意味づけをし、それに少し、この視点で話し合えるのではという提案もできたらと思います。また、どもりカルタや吃音チェックリストなど教材を使った対話のすすめ方なども紹介します。
 吃音の新しい取り組みの展望を、共に探っていく研修会になればと願っています。
 
日時 2022年7月30・31日
    30日(土)9時40分〜20時(受付は9時20分〜)
    31日(日)9時20分〜16時30分
会場 千葉県教育会館
参加費 6000円(当日、受付でお支払い下さい)


 僕たちは、明日、千葉に向かいます。久しぶりの吃音講習会開催に、今からわくわくして準備をしています。詳細は、日本吃音臨床研究会のホームページをご覧下さい。
 参加申し込みをして下さった皆さん、どうぞお気をつけて会場にお越し下さい。
 いい時間を共に過ごしましょう。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/07/28
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