伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

奥山大史

映画「ぼくのお日さま」、いよいよ9月13日から、全国で公開

ぼくのお日さま 絵はがき 奥山大史監督の「ぼくのお日さま」が、いよいよ全国で公開されます。
 カンヌ国際映画祭に出品!というニュースが流れたときも、受賞発表のときも、ドキドキしました。そして、全国公開の9月13日を、心の中でカウントダウンしながら待ちました。

 「ぼくのお日さま」のことは、これまで何度かブログでお知らせしています。奥山監督との出会いは、2022年の吃音親子サマーキャンプに奥山監督が取材のため参加されたときでした。そのときは、まさかカンヌ国際映画祭に出品されるような監督だとは全く知らず、依頼のお電話が誠実で感じがよかったので、「どうぞどうぞ」と取材を受けました。コロナで2年中止となり、その年も開催できるかどうか心配していた年でした。形を変えてでも開催しようと決断したものの、開催前日に感染者過去最多を記録したときでした。一参加者として、自然にその場に溶け込んでいたという印象でした。
 あれから2年と少し、一昨日いただいたメールにも「いよいよですね。本当にここまで、お力添え、ありがとうございました。今、トロントです」とありました。トロント? と思ったのですが、第49回トロント国際映画祭に出品されたようです。
 吃音親子サマーキャンプのあの雰囲気を、監督がしっかりと受け取り、それを映画に活かしてくださったこと、本当にうれしく思います。

 奥山監督と主演の池松壮亮さんとのインタビュー記事をみつけました。朝日デジタルの《キネマの誘惑》というインタビュー記事です。
 そこに、僕たちの吃音親子サマーキャンプのことを監督が語っています。紹介します。

奥山:吃音を取り入れたきっかけは、ハンバートハンバートさんの曲『ぼくのお日さま』に出会ったからです。この曲に惹(ひ)かれて繰り返し聴き入るうちに、主人公のキャラクターがみるみると、この曲の歌詞に登場する「ぼく」に吸い寄せられていきました。とはいえ、吃音は気軽に取り入れて良いものではないので、まず吃音の親子向けのワークショップに参加させてもらって、そこでいろいろな子たちの話に耳を傾けました。その中で、小学4年生の子が「同じクラスの子たちに、吃音について理解して欲しいとか、学んで欲しいとか別に思わない。ただ、放っておいて欲しい」といっていたんです。そんな素直な思いを聞きながら、タクヤにも、全てを肯定して寄り添いながらも、絶対に吃音については触れない親友を隣に置いてあげたら、自分にも吃音が描けるかもしれない、とふと思いました。同性パートナーに関しても、吃音と同様に取材を重ね、資料となりそうな作品やドキュメンタリーを見た上で考えました。どちらも迷いがなかったわけではなく、どのフェーズでも常に試行錯誤でした。


 7月9日、東京での試写会に招待されたので、僕は、全国公開より一足先に映画を観ました。そのときのことをブログに書いているので、再掲します。映画を観た人と語り合いたいと思います。では、7月11日のブログから。

 
カンヌ国際映画祭出品「ぼくのお日さま」試写会 

 「取材で大変お世話になりました映画ですが、近日マスコミ試写会を行うことになりました。もし、宜しければ、取材がどのように映画へと活きているのか、見届けていただければ大変うれしく思います」
 6月20日、そう書かれた、映画の試写会の案内をいただきました。2022年の夏、吃音親子サマーキャンプに取材のために参加した映画監督からでした。
 その映画は、先日、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でノミネートされた『ぼくのお日さま』で、監督は、奥山大史さんです。

 奥山監督との出会いは、2022年夏。次回作の映画に、どもる少年が登場するので、吃音について、どもる人の生き方について、学びたいとのことで、具体的には、その年の吃音親子サマーキャンプに参加させてもらえないだろうかという依頼でした。2022年は、コロナ明けの3年ぶりのサマーキャンプ。その間、新規の参加者はなく、リピーターだった多くの子どもたちは卒業してしまい、参加者もスタッフも何人集まるか、話し合いはともかく表現活動のプログラムはそれまでと変わらずできるのか、そもそも基本的に密な状態になるキャンプが開催できるのか、状況が全く読めない、不安ばかりが募る中で準備をしていたときでした。
 奥山監督のことは全く知らなかったのですが、その真摯な態度に好感を持ち、快諾しました。サマーキャンプ前日に、コロナ感染者過去最多を記録する中、キャンプは予定どおり開催し、奥山さんは、サマーキャンプの2日目から、話し合いの場面、表現活動の場面などを取材されました。僕たちも、さりげなく紹介しただけだったので、特別扱いはなく、一参加者として、吃音親子サマーキャンプの場になじんでおられた印象をもっています。全体で、表現活動のエクササイズをしているときも、その場におられたので、リーダーは、つい指名してしまい、奥山さんも、流れに乗って一緒にエクササイズに参加されていたと、後で聞きました。
 それから約1年半後、映画のエンディングに、協力者として、伊藤伸二と日本吃音臨床研究会の両方を入れたいと連絡があり、完成間近なのだろうと思っていましたが、まさかカンヌ国際映画祭に出品される映画だったとは思いもしませんでした。
 奥山さんと吃音親子サマーキャンプの出会いが、吃音の少年の描写にどんなふうに反映されるか楽しみにしていたところに、試写会の招待状が届いたのです。。
 
ぼくのお日さま ポスター そして、7月9日、東京渋谷、映画美学校の地下1階での試写会に行ってきました。マスコミ試写会なので、100名弱のマスコミ関係者で、ほぼ満席状態でした。なんか場違いの所に来たのかと思っているうちに、映画が始まりました。

 この映画は、雪の降る街を舞台に、どもるホッケー少年のタクヤと、フィギュアスケートを学ぶ少女サクラ、そして元フィギュアスケート選手でサクラのコーチ荒川の3人の視点で紡がれる物語です。
 ネタばれにならないように気をつけて、いただいた資料をもとに、もう少し詳しい紹介をします。

 雪が積もる田舎町に暮らす小学6年生のタクヤは、少し吃音がある。タクヤが通う学校の男子は、夏は野球、冬はアイスホッケーの練習に忙しい。
 ある日、苦手なアイスホッケーでケガをしたタクヤは、フィギュアスケートの練習をする少女サクラと出会う。「月の光」に合わせ氷の上を滑るサクラの姿に、心を奪われてしまうタクヤ。
 一方、コーチ荒川のもと、熱心に練習をするサクラは、指導する荒川の目をまっすぐに観ることができない。コーチが元フィギュアスケート男子の選手だったことを友だちづてに知る。
 荒川は、選手の夢を諦め、東京から恋人の住む街に越してきた。サクラの練習を観ていたある日、リンクの端でアイスホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て、何度も転ぶタクヤを見つける。タクヤのサクラへの想いに気づき、恋の応援をしたくなった荒川は、スケート靴を貸してあげ、タクヤの練習につきあうことに。しばらくして荒川の提案で、タクヤとサクラはペアでアイスダンスの練習を始めることになり…。

 雪が降り始め、雪が溶けるまでの一冬の情景は、どの場面も、とてもきれいでした。雪の白さはもちろんですが、光も効果的で、きれいな映像でした。それに合わせて、音楽も静かに流れていました。セリフは多くなく、ハデな演出もなく、全体として、穏やかで静かで落ち着いた映画でした。最後に、監督がぜひ、この歌を使いたいと思ったという、ハンバートハンバートの「ぼくのお日さま」が流れました。そのエンディングが流れる中、映画にかかわったたくさんの人の名前の中に、「日本吃音臨床研究会」と「伊藤伸二」をみつけました。

 映画が終わり、会場を出ようとしたとき、奥山さんに声をかけられ、少しお話することができました。プロデューサーとも話しました。「どうでしたか」と聞かれ、僕は正直に率直にこたえました。わずかな時間でしたが、映画好きの僕にはとても良い時間でした。
 映画の中で、タクヤの吃音は特別なものではありませんでした。音読の時間の映像もあり、指名され、ドキドキしながら、タクヤは、思い切って読み始めます。案の定どもってしまいますが、でもそれ以上の描写はありません。どもる少年が音読をしてどもった、ただそれだけなのです。ことさら悲劇的に扱うでもなく、そんな子もクラスにはいるよね、ということのようです。さらりと扱っているなあという気がしました。それは、僕たちにとって、とてもうれしい演出でした。どもりながら話すタクヤが、日常の中に普通に存在していました。家族での食事の場面では、父親が同じようにどもっていました。とりたてて問題にすることなく、よくある話としてとらえられていると思いました。さらりと描いている、それがよかったと感想を言いました。奥山さんは、ほっとした顔をされたように思いました。
 タクヤの友だちとして登場するコウセイ君のことにも触れました。タクヤがどもっていても、どもっていなくても、何ひとつ変わらない友情を示すコウセイ君。監督は、「これは、サマーキャンプで、ある子が「理解してほしいと思っているわけではない。ただ、放っておいてくれたらいい」と話していたのを聞いて、そういう子どもをタクヤのそばに置きたいと思って、その役をコウセイ君にしてもらった」と話されました。
 2年前の2日間の取材の中で、いろいろなことを見聞きし、学んだことが役に立ったと話されました。取材の依頼の真摯なお話、取材当日の真剣なまなざしを思い出しました。そして、あのとき、サマーキャンプに参加していた子どもたちの姿が、映画の中に、確かに活きていたと思いました。

 映画の中で、池に氷が張った天然のスケートリンクで、タクヤとサクラと荒川コーチの3人が滑るシーンがあります。楽しそうです。弾ける笑顔が本当に素敵でした。
 そんな映画の中で、1カ所だけ、気になるセリフがありました。インパクトのある一言だったので、これを後でどう収めるのだろうかと思って観ていました。映画の中で、その最後を収めることはなく、観客に委ねられました。
 
試写会の翌日、取り急ぎ、お礼のメールを送ると、「ご覧いただけて、すっごくうれしかっです。本当にあの取材が大いに参考になりました。感謝しています」との返信がありました。気さくな奥山監督の「ぼくのお日さま」、9月に全国公開されます。ぜひ、映画館に足をお運びください。「ぼくのお日さま」の公式サイトで、最新の予告編を観ることができます。

    「ぼくのお日さま」の公式サイト https://bokunoohisama.com


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/09/14

カンヌ国際映画祭出品「ぼくのお日さま」試写会

 「取材で大変お世話になりました映画ですが、近日マスコミ試写会を行うことになりました。もし、宜しければ、取材がどのように映画へと活きているのか、見届けていただければ大変うれしく思います」
 6月20日、そう書かれた、映画の試写会の案内をいただきました。2022年の夏、吃音親子サマーキャンプに取材のために参加した映画監督からでした。
ぼくのお日さま ポスター その映画は、先日、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でノミネートされた『ぼくのお日さま』で、監督は、奥山大史さんです。

 奥山監督との出会いは、2022年夏。次回作の映画に、どもる少年が登場するので、吃音について、どもる人の生き方について、学びたいとのことで、具体的には、その年の吃音親子サマーキャンプに参加させてもらえないだろうかという依頼でした。2022年は、コロナ明けの3年ぶりのサマーキャンプ。その間、新規の参加者はなく、リピーターだった多くの子どもたちは卒業してしまい、参加者もスタッフも何人集まるか、話し合いはともかく表現活動のプログラムはそれまでと変わらずできるのか、そもそも基本的に密な状態になるキャンプが開催できるのか、状況が全く読めない、不安ばかりが募る中で準備をしていたときでした。
 奥山監督のことは全く知らなかったのですが、その真摯な態度に好感を持ち、快諾しました。サマーキャンプ前日に、コロナ感染者過去最多を記録する中、キャンプは予定どおり開催し、奥山さんは、サマーキャンプの2日目から、話し合いの場面、表現活動の場面などを取材されました。僕たちも、さりげなく紹介しただけだったので、特別扱いはなく、一参加者として、吃音親子サマーキャンプの場になじんでおられた印象をもっています。全体で、表現活動のエクササイズをしているときも、その場におられたので、リーダーは、つい指名してしまい、奥山さんも、流れに乗って一緒にエクササイズに参加されていたと、後で聞きました。
 それから約1年半後、映画のエンディングに、協力者として、伊藤伸二と日本吃音臨床研究会の両方を入れたいと連絡があり、完成間近なのだろうと思っていましたが、まさかカンヌ国際映画祭に出品される映画だったとは思いもしませんでした。
 奥山さんと吃音親子サマーキャンプの出会いが、吃音の少年の描写にどんなふうに反映されるか楽しみにしていたところに、試写会の招待状が届いたのです。。
 
 そして、7月9日、東京渋谷、映画美学校の地下1階での試写会に行ってきました。マスコミ試写会なので、100名弱のマスコミ関係者で、ほぼ満席状態でした。なんか場違いの所に来たのかと思っているうちに、映画が始まりました。

 この映画は、雪の降る街を舞台に、どもるホッケー少年のタクヤと、フィギュアスケートを学ぶ少女サクラ、そして元フィギュアスケート選手でサクラのコーチ荒川の3人の視点で紡がれる物語です。
 ネタばれにならないように気をつけて、いただいた資料をもとに、もう少し詳しい紹介をします。

 
雪が積もる田舎町に暮らす小学6年生のタクヤは、少し吃音がある。タクヤが通う学校の男子は、夏は野球、冬はアイスホッケーの練習に忙しい。
 ある日、苦手なアイスホッケーでケガをしたタクヤは、フィギュアスケートの練習をする少女サクラと出会う。「月の光」に合わせ氷の上を滑るサクラの姿に、心を奪われてしまうタクヤ。
 一方、コーチ荒川のもと、熱心に練習をするサクラは、指導する荒川の目をまっすぐに観ることができない。コーチが元フィギュアスケート男子の選手だったことを友だちづてに知る。
 荒川は、選手の夢を諦め、東京から恋人の住む街に越してきた。サクラの練習を観ていたある日、リンクの端でアイスホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て、何度も転ぶタクヤを見つける。タクヤのサクラへの想いに気づき、恋の応援をしたくなった荒川は、スケート靴を貸してあげ、タクヤの練習につきあうことに。しばらくして荒川の提案で、タクヤとサクラはペアでアイスダンスの練習を始めることになり…。


 雪が降り始め、雪が溶けるまでの一冬の情景は、どの場面も、とてもきれいでした。雪の白さはもちろんですが、光も効果的で、きれいな映像でした。それに合わせて、音楽も静かに流れていました。セリフは多くなく、ハデな演出もなく、全体として、穏やかで静かで落ち着いた映画でした。最後に、監督がぜひ、この歌を使いたいと思ったという、ハンバートハンバートの「ぼくのお日さま」が流れました。そのエンディングが流れる中、映画にかかわったたくさんの人の名前の中に、「日本吃音臨床研究会」と「伊藤伸二」をみつけました。

奥山監督と 2 映画が終わり、会場を出ようとしたとき、奥山さんに声をかけられ、少しお話することができました。プロデューサーとも話しました。「どうでしたか」と聞かれ、僕は正直に率直にこたえました。わずかな時間でしたが、映画好きの僕にはとても良い時間でした。
 映画の中で、タクヤの吃音は特別なものではありませんでした。音読の時間の映像もあり、指名され、ドキドキしながら、タクヤは、思い切って読み始めます。案の定どもってしまいますが、でもそれ以上の描写はありません。どもる少年が音読をしてどもった、ただそれだけなのです。ことさら悲劇的に扱うでもなく、そんな子もクラスにはいるよね、ということのようです。さらりと扱っているなあという気がしました。それは、僕たちにとって、とてもうれしい演出でした。どもりながら話すタクヤが、日常の中に普通に存在していました。家族での食事の場面では、父親が同じようにどもっていました。とりたてて問題にすることなく、よくある話としてとらえられていると思いました。さらりと描いている、それがよかったと感想を言いました。奥山さんは、ほっとした顔をされたように思いました。
 タクヤの友だちとして登場するコウセイ君のことにも触れました。タクヤがどもっていても、どもっていなくても、何ひとつ変わらない友情を示すコウセイ君。監督は、「これは、サマーキャンプで、ある子が「理解してほしいと思っているわけではない。ただ、放っておいてくれたらいい」と話していたのを聞いて、そういう子どもをタクヤのそばに置きたいと思って、その役をコウセイ君にしてもらった」と話されました。
 2年前の2日間の取材の中で、いろいろなことを見聞きし、学んだことが役に立ったと話されました。取材の依頼の真摯なお話、取材当日の真剣なまなざしを思い出しました。そして、あのとき、サマーキャンプに参加していた子どもたちの姿が、映画の中に、確かに活きていたと思いました。

 映画の中で、池に氷が張った天然のスケートリンクで、タクヤとサクラと荒川コーチの3人が滑るシーンがあります。楽しそうです。弾ける笑顔が本当に素敵でした。
 そんな映画の中で、1カ所だけ、気になるセリフがありました。インパクトのある一言だったので、これを後でどう収めるのだろうかと思って観ていました。映画の中で、その最後を収めることはなく、観客に委ねられました。
 
試写会の翌日、取り急ぎ、お礼のメールを送ると、「ご覧いただけて、すっごくうれしかっです。本当にあの取材が大いに参考になりました。感謝しています」との返信がありました。気さくな奥山監督の「ぼくのお日さま」、9月に全国公開されます。ぜひ、映画館に足をお運びください。「ぼくのお日さま」の公式サイトで、最新の予告編を観ることができます。

    「ぼくのお日さま」の公式サイト https://bokunoohisama.com

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/07/11

奥山大史監督の映画「ぼくのお日さま」、カンヌ国際映画祭へ

奥山大史監督の映画「ぼくのお日さま」、カンヌ国際映画祭へ

今日は、うれしいというか、不思議な縁を思わせるニュースです。

ぼくのお日さま ポスター2024年5月14日(火)〜5月25日(土)開催の第77回カンヌ国際映画祭。日本からは日本人最年少記録での出品となる奥山大史監督の『ぼくのお日さま』が、ある視点部門にノミネート。今年の審査員長は、『バービー』のヒットも記憶に新しいグレタ・ガーヴィグが務め、是枝裕和監督が最高賞パルムドールの審査員に選出されている。

 実は、この奥山大史さんと、2年前に出会っているのです。
 2022年の夏が近づいた頃、映画監督の奥山大史さんから連絡がありました。
 次回作の映画に、どもる少年が登場するので、吃音について、どもる人の生き方について、学びたいとのことで、具体的には、その年の吃音親子サマーキャンプに参加させてもらえないだろうかという内容でした。2022年は、コロナ明けの3年ぶりのサマーキャンプでした。その間、新規の参加者はなく、リピーターだった多くの子どもたちは卒業してしまい、参加者もスタッフも何人集まるか、話し合いはともかく表現活動のプログラムはそれまでと変わらずできるのか、そもそも基本的に密な状態になるキャンプが開催できるのか、状況が全く読めない、不安ばかりが募る中で準備をしていたときでした。
 奥山監督のことは全く知らなかったのですが、その真摯な態度に好感を持ち、快諾しました。サマーキャンプ前日に、コロナ感染者過去最多を記録する中、キャンプを予定どおり開催しました。奥山さんは、サマーキャンプの2日目から参加し、話し合いの場面、表現活動の場面などに静かに参加されました。僕たちも、さりげなく紹介しただけだったので、特別扱いはなく、一参加者として、吃音親子サマーキャンプの場になじんでおられた印象をもっています。全体で、表現活動のエクササイズをしているときも、その場におられたので、リーダーは、つい指名してしまい、奥山さんも、流れに乗って一緒にエクササイズに参加されていたと、後で聞きました。
 それから約2年、今年に入ってだったか、昨年の秋から冬にかけてだったか、奥山さんの関係者から電話があり、「映画のエンディングに、協力者として、名前を入れたい。伊藤伸二と、日本吃音臨床研究会の両方を入れるが、それでいいか」との問い合わせがありました。OKをして、それからまたしばらく時が過ぎました。
 そして、先日、新聞記事で、映画についてのお知らせを見つけました。
 映画のタイトル「ぼくのお日さま」は、映画の主題歌でもある、ハンバートハンバートが歌う歌、「ぼくのお日さま」からとられたそうです。この歌は、以前、話題になり、知っていました。どもることを歌ったものです。
 奥山さんと吃音親子サマーキャンプの出会いが、吃音の少年の描写にどんなふうに反映されているのか楽しみです。

 「ぼくのお日さま」の公式サイト https://bokunoohisama.com

 映画『ぼくのお日さま』今秋、公開決定。
『僕はイエス様が嫌い』の奥山大史さんが監督を務め、池松壮亮さんが出演、ハンバート ハンバートさんの代表曲と同名タイトルの映画『ぼくのお日さま』の公開が決定しました。
映画『ぼくのお日さま』は、雪の降る街を舞台に、吃音をもつホッケー少年のタクヤと、フュギュアスケートを学ぶ少女さくら、そして元フィギュアスケート選手でさくらのコーチ荒川の3人の視点で紡がれる物語。
奥山監督が子供の頃に約7年間フィギュアスケートを習っていた経験から、「雪が降り始めてから雪が解けるまでの少年の成長を描きたい」と本企画をスタート。本作の主題歌「ぼくのお日さま」は、ハンバート ハンバートさんが2014年に発表したアルバム「むかしぼくはみじめだった」に収録された楽曲で、監督がプロットを考える中でこの曲と出会い、その歌詞を聞いた途端、「主人公の少年の姿がはっきり浮かび、物語がするすると動きだした」といいます。

一方、本企画をスタートさせる前後に、奥山監督が総監督を務めたHERMESのドキュメンタリーフィルム「HUMAN ODYSSEY 」で池松さんと撮影を共にした際、奥山監督が池松さんの佇まいに魅せられ、この物語に大人の目線を加えたいと思ったことから「夢に敗れた元フィギュアスケート選手のコーチ」という池松さんが演じるキャラクターが生まれました。

また、デビュー作『僕はイエス様が嫌い』に続き、本作でも監督、撮影、脚本、編集を手がける奥山監督は、スケートを滑りながら、カメラを回しています。
本作は、釜山国際映画祭2022 で行われた世界40カ国288企画からなる「Asian Project Market 2022」で「ARRI アワード」 を受賞しているほか、これまで濱口竜介監督、三宅唱監督らの作品を世界へ紹介してきたフランスの会社シャレードによる海外セールスも決まっており、黒沢清監督や深田晃司監督の作品をフランスで公開してきたアートハウス・フィルムズの配給により11月にフランス公開される予定です。

あたたかくて懐かしい。でも、誰も観たことがない“新しい”日本映画が誕生しました。映画『ぼくのお日さま』は《今秋》テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテ ほかにて全国公開となります。

主題歌を歌っているハンバートハンバートのコメント
《佐藤良成さん コメント》
 奥山監督から最初手紙をいただきました。今作ろうとしている映画は、私の曲の中の「ぼく」から物語がふくらんだもので、主題歌にもその曲「ぼくのお日さま」を使いたいと。脚本や前作も拝見して、彼と是非仕事したいと思い快諾しました。出来上がった作品は、どのシーンのどのカットも実に美しい光と色で、こんな絵を撮る奥山監督は恐ろしい人だなと思います。自分の曲がこんなにも素晴らしい映画となって生まれ変わるなんて、本当に幸せです。

《佐野遊穂さん コメント》
 とにかく映像の美しさが印象的でした。どこを切り取っても儚さが漂っていて、監督のキャラクターがそこに一番現れてるように感じました。この楽曲の「ぼく」や、タクヤ、荒川コーチ、それぞれに小さな救いがあったように、この映画がまた誰かのお日さまになれば嬉しい事だと思います。
(「ぼくのお日さま」公式サイトより引用)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/05/17
Archives
livedoor プロフィール

kituon

QRコード(携帯電話用)
QRコード