伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

吃音交流会

茨木市での研修〜吃音交流会〜

 7月21日(金)の午後、大阪府茨木市で開かれた吃音交流会に呼んでいただきました。前日に1学期の終業式を終え、夏休みに入ったばかりでした。
茨木吃音交流会3 保護者に向けて90分話し、子どもたちの質問に答え、全てが終わった後、担当者に向けて90分話をするというハードなスケジュールです。でも、これは、僕が望んでそうしてもらいました。この吃音交流会は、今回で10回目だそうです。コロナでしばらく途絶えていたそうですが、今年、久しぶりに復活したと聞いています。どもる子どもたちや保護者が集まって、交流する、親睦を深めるという意味合いが強い集まりだったそうですが、せっかく行くので、僕が話す時間を大幅に増やしてもらいました。
 僕には、伝えたいこと、知ってほしいことがたくさんあるのです。連絡をくださった担当の方をはじめ、教育委員会の方もかなり柔軟に計画を見直してくださいました。当初の計画では、保護者同士の話し合いにちょっと顔を出してちょっと助言をする程度だったのです。
 吃音についての正しい知識をもってもらいたいと思い、いつものように、たくさん資料を用意しました。話したりない分は、それで補ってもらうことにしました。吃音の基本的な捉え方を話し、健康生成論について話し、あらかじめ出してもらっていた質問に答えていたら、あっという間に時間が来てしまいました。「子どもたちが待っています!」と言われて、子どものいる部屋に移動し、子どもたちからも質問を受けました。
茨木吃音交流会2茨木吃音交流会4 子どもと保護者が帰った後、担当者向けに話をしました。茨木市では、通級指導教室が昨年と比べて、一気に倍に増えたそうです。子どもたちのニーズに合わせて受け皿を作るという英断だったようですが、研修は追いつかなかったでしょう。新しく担当になった人の中には、これまで支援学級を担任した人もいるようですが、急に、4月から通級にと言われた人もいます。週に一度は、担当者同士の集まりをもち、みんなで実践を紹介し合うなど、工夫しておられるとのことでした。それを聞いていたので、できるだけ基本的な話を丁寧にしていきました。僕が吃音に悩み始めた小学校2年生のときの学芸会の話をすると、よかれと思っての配慮が与える影響について初めて気づいたと率直に話してくださる人もいました。担当者向けの時間もあっという間に終わってしまいました。熱心に聞いて下さったことが伝わってくるいい時間でした。
 この茨木市の吃音交流会に呼ばれたのは、僕が毎年、大阪公立大学の松田博幸さんのところへ、ゲストティーチャーとして行っていることがきっかけでした。昨年の12月、僕の話を聞いた学生が、茨木市のSSW(スクールソーシャルワーカー)として来ていて、吃音交流会のことを聞き、「伊藤さんという人がいるよ」と紹介してくれたそうなのです。担当者は僕のことは知っておられたようですが、まさかこんなに気楽に来てもらえるとは、と驚いておられました。基本的に、僕は呼んでもらったら、どこへでも出かけます。吃音一筋に生きてきた僕の話が何かの役に立つのなら、こんなうれしいことはありません。
茨木吃音交流会1茨木吃音交流会5 松田さんとは、大阪セルフヘルプ支援センターの初期の頃、ご一緒し、勉強会やセミナーをしていた仲間です。こんなつながりがあると、うれしくなります。
 吃音交流会参加の中には、昨年初めて吃音親子サマーキャンプに参加し、今年も参加申し込みをしてくれている親子もいました。吃音の世界は広くて狭い、狭くて広い、と思いました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/07/25

鹿児島とのご縁〜長い、古いおつき合いに感謝して〜

 どもる子どもと保護者の「吃音交流会」は、近隣の小学校が集まっての取り組みの一貫でした。
 交流会が終わった後、その日、参加してくださっていたことばの教室の担当者の方と、お昼ご飯を食べに行きました。
吃音交流会後の食事会 予約しておいてくださった店に着くと、そこには、10年前、全国難聴・言語障害教育研究大会全国大会鹿児島大会でお世話になった宮内さんが、僕が鹿児島に来ていることを聞いて、待っていてくださいました。鹿児島大会で、僕は、記念講演をしたのですが、宮内さんは、そのときの大会の事務局長でした。お互いに「変わりませんねえ」と挨拶をして、久しぶりの再会を喜びました。そのとき、全国大会の記念講演ができたのは、同じ年の6月に、鹿児島県大会に講演に行くはずだったのですが、牛の口蹄疫騒動があり、中止になったので、その年の8月の全国大会に呼んでいただけたのでした。不思議な巡り合わせだったと思います。
吃音交流会後の食事会 集合写真 お昼ご飯を食べながら、前日の講演とその日の交流会での僕の話の感想を聞かせていただきました。反応をすぐ聞くことができるのは、とてもありがたいことでした。同席されていた桑原さんは、谷川俊太郎さんと竹内敏晴さんが講師だった、1998年の吃音ショートコースに参加してくださっています。考えてみれば、長い、古いおつきあいなのです。
 皆さんと別れて、溝上さんにホテルに送ってもらいました。その後、10年前、そして6年前にも歩いた天文館通りを歩きました。新しいビルが建てられて、少し様子が変わっていました。
 大阪から遠く離れた鹿児島にも、仲間がいると実感できた2日間でした。

 明日から、第6回新・吃音ショートコースです。大阪だけでなく、東京、千葉、埼玉、愛媛、三重、奈良、兵庫などから、僕の地元の寝屋川に集まってくださいます。いい仲間と、吃音のことや生きることについて真剣に考え、語り合う、いい時間になることでしょう。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/23

吃音交流会 どもる子どもたちとの対話

 フジコ・ヘミングのピアノコンサートの話題を入れたので、鹿児島でのできごとに戻ります。

 鹿児島県大会の翌日の子どもや保護者との「吃音交流会」のつづきです。
 保護者との時間の後、僕は、子どもたちがいる部屋に移りました。参加した子どもは、全部で7人。事前に僕への質問を考えてくれていました。担当者が子どもたちとそれぞれ対話をして、その対話の中で、じゃ、こんな質問をしようと相談していたようでした。
鹿児島吃音交流会4伸二と子ども 質問は、次のようなものでした。特別感があるとか、自己紹介でわざわざ言わなくても、どもっていたら分かってもらえるとか、どもって笑われたら、笑った人が幸せになるからいいとか、びっくりするような内容もあります。もちろん、どもって笑われるのが嫌だからどうしたらいいか、と多くのどもる子どもから出る質問もありました。
 ひとつひとつの質問に、子どもと対話をするスタイルで話はどんどん進み、最後の方では、子どもたちみんなが僕の方へ寄ってきて、だんごのようになって話していました。
 おもしろかったエピソードをひとつ。
 どもって真似をされたときにどうするかについての話になりました。

鹿児島吃音交流会5伸二アップ 僕が 「人が嫌がることをしつこくしてくる人はどんな人ですか?」と、子どもに問いかけると、子どもたちから、「性格の悪い子」「自分がおもしろくなくて楽しくない子」「幸せでない子」などが出てきます。「君たちは、人が嫌がることをしつこくしますか?」と聞くと、「絶対にしない」と口々に言います。優しい子どもたちです。その中で、僕が言ったのか、子どもが言ったのか、「残念な子」というのがありました。
 そこで、「しつこく真似をしてくる子に、君たちが嫌がったり、悔しそうな顔や態度をしたら負けだよ。相手の目的をかなえてあげることになるんだから。その場合は、君たちが言うように、最初は、僕は真似されるのは嫌だから、やめて欲しいと言うけれど、それでも言ってくる子には、今度、実験してみよう」と提案しました。
 相手の顔をしっかり見て「君は、残念な人ですね」とはっきりと言おう、と。また、真似してきたら、また「君は、残念な人ですね」と、相手が言う度に繰り返そう」。その実験をしてみてどうだったか、また教えてねと伝えました。子どもたちは、ひとりひとり「残念な人ですね」と言っていたようです。
 「残念な子ですね」は、子どもたちにヒットしたようでした。
 子どもとの対話はテープにとってあるので、いつか紹介したいと思います。
 
鹿児島吃音交流会6ホワイトボード 最後に、子どもたちからあらかじめ出されていた質問を紹介します。これは、ホワイトボードにまとめられていました。
 終わったとき、やまと君が、そのホワイトボードの空いているところに、「どもりのことがよくわかった やまと作」と書いていました。吃音について、たくさん話し合えた、考えたということの彼なりの表現なのだろうと思いました。
鹿児島吃音交流会7やまとくん
 子どもからの質問
1.僕は吃音があってよかったと思います。他の人と違う特別感があるからです。そんな僕を伊藤さんはどう思いますか。また、伊藤さんは自分の吃音に対してどう思っていますか。
(小5)
2.ぼくは、自己紹介でわざわざ言わなくても、どんどんどもれば、分かってもらえると思っています。わざわざ言わなくても普通に当たり前にあるような、吃音がそういう存在になるようにしたいと思っています。伊藤さんはどう思いますか。またそうするためには、どうしたらいいと思いますか。(小5)
3.どもりを抑えられる方法を教えてください。治すのは無理だから、抑える方法をたくさん知りたいです。(自分なりの工夫をしていますが、ずっとその方法で抑えるのは無理だと思うから、他の人の工夫も知って、真似してみたいです。)(小5)
4.僕は話すことの少ない大工さんになろうと思っています。伊藤さんはなぜ話すことの多い大学の先生になったんですか。(小5)
5.ぼくはどもって笑われる方がいいです。どうしてかというと、笑った人が幸せになるからです。伊藤さんはどう思いますか。(小2)
6.どうして世界大会を開いたんですか。教えてください(小2)
7.なんで世界大会を一番に始めたんですか。(小1)
8.私はどもったときに笑われたら嫌です。笑われないためにはどうしたらいいですか。(小1)
9.どもったときに笑われないようにするためには、どうしたらいいですか。(小2)
10.僕は名前の「は」が言えなくて、6歳からどもるようになりました。伊藤さんは何歳からどもるようになったんですか。きっかけやそのときの気持ちも教えてください。(小4)
11.世界大会では、どんなことを話しましたか。(小3)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/22

吃音交流会 保護者との対話

 鹿児島県の県大会の翌日は、僕たちの仲間のことばの教室担当者の溝上茂樹さんが勤める学校で、どもる子どもや保護者との「吃音交流会」でした。コロナ前に何度か取り組まれていたようですが、今回が久しぶりの対面での交流会だったそうです。
鹿児島吃音交流会2 初めは、保護者との時間でした。小1、小2、小4、小5、それぞれの子どもたちの保護者が9人集まってくださいました。簡単に自己紹介をしてもらいました。明るくて元気な子が多いという印象でした。その後、僕はちょっと長めに自己紹介をして、こんな体験をしている僕に、どんなことでも聞いてほしいとお願いしました。僕は、健康生成論については必ず伝えようと思っていましたが、まずは保護者のみなさんが聞きたいと思っていることを出してもらうことから始めました。

○今まで楽観的に過ごしてきたが、もうすぐ思春期を迎える。これから親として何ができるだろうか。

 僕は、先日、テレビで見た大阪府吹田市のいじめ予防プログラムを例として出して、事後対応に追われるのではなく、予防的に取り組む必要があるのではと前置きしてから、これから大変な時期を生きる子どもたちに生きる武器を手渡したいと話しました。
 生きる武器というのは、子どものもっている強みです。それを一緒に探して、育てていくことが大切です。転ばぬ先の杖で、親が先回りをして不安や壁になっていることを取り除くのではなく、子ども自身が自分の課題に挑戦し、悩み、仮に笑われたとしても、笑われることに耐え、何かあったとしても自分を立て直すことのできる子どもになってほしいのです。あれだけ悩んだことが、今の僕の財産になっていると思います。ぜひ、子どもと話をし、対話をして、今、子どもが抱えている課題を把握してほしいとお願いしました。

○新学期のたびに、新しい担任に理解してほしいと書いてきた。これでいいのだろうか。

 本人がそれを望んでいるのならいいけれど、親が勝手に書くのはどうかと思います。書く前にに必ず相談することです。子どもが書いてほしいというのなら、なぜ書いて欲しいのかをはっきりと確認し、どう書こうかと相談することです。今まで出会った子どもの中に、理解してほしいではなく、僕の話し方に慣れてほしいと言った子がいました。自分の身の周りの人にどう理解してほしいかは、どもる子ども本人に決定権があります。親としてはこうあってほしいと思うことはあるかもしれないけれど、親の課題と子どもの課題はちゃんと分ける必要があると思います。

○子どもは自分のどもりのことも含めて話をあまりしないし、将来の夢ももっていないようだ。しゃべらなくてもいいから大工になりたいと言っているが、将来を狭めているような気がする。本心からではないようにも思える。どう声をかけていいのだろうか。

 対話が大事です。なぜ、大工になろうと思ったのか、本当にしたい仕事としてのイメージをもてるのか、ただしゃべることが少ないことだけで考えたのか。ぜひ聞いてください。しゃべることが少ない仕事を目指すとしても、大工以外にないのかということも考えたいです。どもる人の中には、あえて話すことの多い仕事を選んだ人はいっぱいいます。そして、それがよかったと言っている人は少なくありません。どもる人がどんな仕事に就いているのか、吃音と就職について、日本吃音臨床研究会のホームページに動画があるので、それを見てほしいと思いました。保護者が「吃音と職業・就職」について情報をもっておくことが大事だと思います。世界の著名などもる人の話をし、劣等感の直接・間接補償についても話を広げました。

鹿児島吃音交流会1 長く設定してもらったはずの話し合いの時間があっという間に終わりに近づき、僕は、ぜひ話しておきたかった健康生成論についてコンパクトにまとめて話しました。コロナのことで説明するとわかりやすいようです。過酷な環境の中で、生き抜いてきている人はいます。吃音は、その人たちと比べると、そこまで大変なことではありません。どもることを認め、覚悟を決めれば、上手につき合っていくことができます。健康生成論が出てきたアウシュビッツの話も、子どもに分かるように話しておくこともいいのではと伝えました。 その後は、別室にいる子どもたちとの時間でした。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/19
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