吃音親子サマーキャンプの常連スタッフだった山口の溝部さん。いつか地元の山口で吃音キャンプを開きたいという願いをもっていました。日本吃音臨床研究会の山口支部はないので、山口県難聴言語教室親の会連絡協議会と山口県特殊教育連盟難聴・言語障害教育研究部(県下ことばの教室教員の研究会)の有志で進めた、とあります。島根や千葉などでも、吃音親子サマーキャンプに参加したことのある人が中心になって、キャンプが続いています。
 「スタタリング・ナウ」2001.3.17 NO.79に掲載した、山口の吃音キャンプの様子を紹介します。

吃音キャンプIN山口
   報告者:山口県防府市立佐波小学校ことば・きこえの教室幼児担当 溝部貴代美

はじめに

 いつの日か日本吃音臨床研究会主催の吃音親子サマーキャンプが私の年中行事の1つとなっています。山口県から滋賀県までの道中はとても楽しみです。なぜなら行きは「今年はどんな子どもたちに出会えるのかな?」と思いますし、帰りには「絶対来年も行くぞ」と思うからです。
 そんな楽しいキャンプがついに山口県で初めて実現しました。といっても、日本吃音臨床研究会の山口支局はないので、企画や運営については、山口県難聴言語教室親の会連絡協議会と山口県特殊教育連盟難聴・言語障害教育研究部(県下ことばの教室教員の研究会)の有志で進めました。
 参加者はことばの教室に通級しているどもる子どもの11家族(兄弟姉妹も含め幼児8名、児童12名)をはじめ、保護者15名、ボランティア8名、スタッフ24名、総勢67名でした。
 私が個人的に体験し、見聞きしたことを中心に、キャンプの報告をします。

 《第1日目》
開会の集い 仲間作りゲーム
 10月末の気候も手伝ってあいにくの雨模様でしたが、子どもたちにとっては全く関係なかったようです。名前ビンゴや4つの窓などのゲームに大人も子どもも大盛り上がりでした。初めて出会ったのにすぐに打ち解けて、ワイワイ楽しく過ごしました。

活動.哀襦璽彝萋亜]辰傾腓ぢ1幕
 子どもたちはグループごとに分かれ、ボランティアのお兄さんお姉さんたちとキャンプファイヤーの出し物の練習に一生懸命!?グループによっては鬼ごっこやかくれんぼなど、部屋の中で大騒ぎのグループもあったとか。
 それに対して保護者は、岡本・高校教諭(ことばの教室通級児OB)の話にじっと耳を傾け、質疑や我が子の相談などで、定刻をオーバーしても熱心に話し合っておられました。このような話でした。

・週1回通級していたが、クラスの他の子が勉強しているのに、自分だけがバスに乗って、こっそり抜け出して行くのが嫌だった。しかし、今思えば自分にとっていい時間だったし、母親にとってもいいところだったと思う。
・小学校のあいだは常にどもりを気にしていた。七夕の飾りつけや神社で「どもらないようにしてください」と祈った。しかし、どもりのことでいじめられた記憶はない。小学5年から変わったと思う。それまでは下を向いて歩く子だったが、勉強に目覚め、前を見始めたかなと思った。
・「どもる子ということを意識しないようにつとめていた」「直してあげようと思わないようにした」「他の場面を作るよう努力した」と母親は先日話してくれた。キャンプ、リンゴ狩り、スポーツなど、「他のことで自信をつけてやりたい」と思ったらしい。
・高校、大学時代は、どもりを治そうではなく、これが自分でどう付き合っていこうかと思っていた。人によって向き合い方は違うけれど、いろいろな戦い方をしているのではないかなと思う。
・進路は、教師、福祉、心理などの人と接する仕事をしたいと思った。どもりは何とかなるだろうと考えていた。しかし、教育実習の時どもりを意識した。研究授業の台本を徹夜で原稿用紙20枚ぐらい書いて覚えた。そうしないと不安だった。
・現在授業で、生徒たちは私の話し方をつまると言うが、話が分からないとは言わない。上手にとは思わないで、分かるように言おうと思えば楽でどもりも出にくい。今はどもりを何とも思っていない。しかし苦しむ時期はあるし、苦しむ時期も必要ではないかと思う。そうでないと進歩がない。

楽しかったキャンプファイヤー
 いよいよ子どもたちの発表の時!
 女の子グループは歌やゲームで可愛らしい出し物。男の子グループは、マイクの争奪戦で、特に、クイズコーナーではわれ先に答えを言いたいようで、「ハイハイ」と一斉に手が挙がっていました。「ことばの教室では発表をしたがらないあの子が活発に手を挙げているではないか」と思わず涙ぐんでしまいそうな場面も見られました。このキャンプに参加している人たちはみんな発表を聞いてくれるという安心感、どもっても一生懸命話をしている自分以外の子どもがいるという仲間意識など、子どもたち自身の力で、大人の手がほとんど入っていない自然な状態で、どもりを受け止める何かを感じ取ってくれたのではないかとうれしく思いました。日本吃音臨床研究会の吃音親子サマーキャンプで肌で感じた「仲間がいることの大切さ」や「キャンプが一つの装置の働きをしていること」がふるさと山口の地においても感じることとなりました。あっという間に楽しい時間が過ぎ、クライマックスは火の神様登場。一人一人のキャンドルに火が灯され、静粛なムードで幕を閉じました。

夜の密談?懇談会
 子どもたちの寝静まった後、誰ということもなく密かに大人たちが1つの棟に集まり、時には大声で笑ったり、時にはヒソヒソ話で小グループになったり、ウンウンと頭を上下に振ってうなずきながら話に聞き入ったり、と楽しいおしゃべりの時間が3時間、人によっては明け方まで続きました。
 子どもたちがキャンプファイヤーの場面で感じたように、大人たちも暗黙の雰囲気で何かを感じたようです。山口県は東西南北に広がり、交通の便が悪く、どもる子どもを持つ親同士で話し合う機会が持ちにくく、自分の子ども以外のどもる子どもと出会う機会がありませんでした。しかし今回、この懇談会がその機会となり、有意義な時間がもてました。保護者同士の話し合いの場としても、ことばの教室担当者としても、保護者と肩の力を抜いて話ができたことはありがたいことでした。

 《第2日目》
活動:プラホビー・親の話し合い2幕
 ハイキングの予定が、天候不順で予定を変更して、子どもたちはプラホビーという活動。これは子どもたちが好きな絵やことばを台紙に書き、レンジでチンすると縮小され、キーホルダーができるというものです。幼児にも簡単に作ることができ、しかも記念に残るといううれしいおみやげとなりました。
 保護者やスタッフは、「岡本先生の話をまだ聞きたい」「昨夜の話し合いでも話し足らない」という意見が多く、10人程度のグループに分かれて話し合いをすることになりました。一人一人の悩みや意見が具体的に出され、そのことについて岡本先生や上田敬介先生(山口県身体障害者センター)、ことばの教室担当者、保護者でもある成人のどもる人など、いろいろな立場の方々からのアドバイスや体験談を話していただきました。

野外炊飯
 グループでカレーライスを作りました。危なっかしい手つきで頑張る子どもたちの包丁さばき。お母さんの表情はちょっぴり不安そうでしたが、やさしく見守ってくれていました。
 それぞれのグループで協力したり役割分担をしたりしながら完成を待ちます。ルーが煮えるまでの待ち時間、子どもたちは大自然の野山が遊び場となり、ズボンや上着を汚しながら遊んでいました。
 さあ食事の時間!お味のほうは甘いカレーもあれば、激辛のカレーもあれば、お焦げ入りのご飯もあれば、といった具合にバリエーション豊かなカレーでしたが、おいしく楽しくいただきました。

解散の集い
 後日報告集(文集)を作成するために、子どもたち、保護者、スタッフなど参加者全員に感想文を書いてもらいました。話したことや感じたことを文に書いてまとめるという作業は難しいことですが、新鮮な気持ちを残しておくという意味でも大切な活動でした。保護者の感想文の一部を紹介します。

・キャンプと聞いた時から、この日を指折り楽しみにしてきました。親の方も同じ悩みを持つ者どうしでいろんな話ができ、またどもりとうまくつき合いながら頑張っていらっしゃるお話を聞き、とても心強い思いでした。私自身も10数年どもることを隠しながらいた自分と、そのカラを打ち破った自分との違いを、つまりながらも皆さんの前でお話できたことは、また一歩、自分に勝てたと思っています。岡本先生が話されていたように自分との戦いですが、楽しく戦っています。逃げたり隠れていても何の解決にもならないことを、身をもって教えてくれたのは子どもだと思っています。子どもも、どもりとうまくつき合ってくれると確信しています。(小学2年生のお母さん)
・最初、子どもはキャンプへの参加にあまり気乗りしないようでしたが、同じ班のお友達と電話番号を交換するほど意気投合し、とても楽しかったようです。私も主人も、子育てに関する意見のくい違いが多くあるので、先生方、親の会の方々の貴重な意見をおうかがいすることができてとても参考になりました。悩んでいるのは自分だけじゃないということがわかり、親子ともども、気が楽になり心強く感じました。(1年生のお母さん)
・子どもは幼児で他のお兄ちゃんたちとうまくやっていけるか少し不安でしたが、他の子のリードのおかげで楽しくやっている姿を見て安心しました。吃音について岡本さんの話、先生、同じ立場のお父さん、お母さんの話を聞いて、吃音はおおらかな気持ちで長くつき合っていくことを教えていただきました。自分自身の心の中のもやもやが晴れたような気分です。これからの子どもへの接し方も少しは変わり、ちょっとずつでもいい方向に進めばいいなと思っています。(幼児のお母さん)

 その後、子ども代表、保護者代表、ボランティア代表の方々が感想を言いました。その中でも私が印象に残ったのは、子ども代表のAくんのことばです。
 「別のキャンプに行くと何でそんなしゃべり方なのかと馬鹿にされるけど、このキャンプでは何も言われなかった。だからキャンプに来て良かった」
 このことばを聞いて胸がジーンとしました。

おわりに
 1泊2日という短いキャンプでしたが、充実したキャンプになりました。子どもたちの胸の奥に自信や希望、彼らの行く先で出会う困難に立ち向かうことのできるパワーの源など何かを感じてくれていればと期待しています。また、保護者やことばの教室担当者にとっても、子どもとの接し方を反省したり、子どもの見方を考え直したりする良い機会となりました。また、子ども同士の関わりの中から、子どもたちの新しい部分が発見できたり、意外な行動を見せつけられたり、ことばの教室では見せない表情を見せてもらったりと収穫が多かったように思います。このキャンプで子どもたちから得たパワーを糧に、今後のよりよい支援を考えていきたいと感じました。
(「スタタリング・ナウ」2001.3.17 NO.79)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/04/27