伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

オープンダイアローグ

第7回 新・吃音ショートコース 2日目

新・吃音SC 1 10月13日、新・吃音ショートコースの2日目が始まりました。
 都合で、この日から参加する人も2人いました。2日目は、1日目のオープンダイアローグで一人の女性に関わって対話を続けた時間について、彼女本人と、その場に居合わせた人たちが気づいたことや考えたことを丁寧にふりかえることからスタートしました。僕は、この、体験したことをふりかえることをとても大事に考えています。
 僕は、これまで、エンカウンターグループやカウンセリングの場に何度も参加していますが、ある場で悩みを出して話し合いの中で、それなりに問題が解決したように見えていた人が、また別のカウンセリングに参加して、同じような問題を出している場に何度も遭遇しました。何度も自分の同じ悩みを話すことを繰り返しているのです。ストンと落ちていないのだろうと思いました。そんな経験があるので、僕は、昨日の僕と対話した人に、1晩寝て考え、整理したことを話してもらうことにしました。話題提供者は、ゆっくり、じっくり振り返っていました。ひとつひとつ噛みしめるように、自分の思いをことばにしていっているのが分かりました。その場にいた人は、その過程を共に歩んでいるように見えました。
 自分の課題を提供した人は、昨日、自分の問題を出して、みんなで考えるということを体験しました。それがそれで終わってしまったら、これは、ひとつの体験で終わってしまいます。体験したことを振り返ることで、それは経験になるのです。それは、もう一つの自分が、自分を見ることとも言えます。それがメタ認知です。その経験を、ことばとして表現し、学びへと結びつけていってほしいと話しました。体験から経験へ、そして学びへ、です。彼女が自分に誠実に体験を振り返ったことで、僕たちも一緒に時間を共有した意義を感じとることができて、そのセッションを終えました。

新・吃音SC 3 次に、アドラー心理学について知りたいというリクエストがありました。僕は、アドラー心理学の基本前提を伝えました。覚えやすいように、語呂合わせになっています。
「こぜに、もった」です。
「こ」→個人の主体性…人生の主役は自分であること。
「ぜ」→全体論…行動も感情も全部含めて私だということ。
「に」→認知論…誰もが主観的に物事を見ている。
「も」→目的論…人の行動には目的がある。
「った」→対人関係…すべての行動には必ず相手がいる。
 そして、アドラーは、共同体感覚を大切にしているのだと話しました。共同体感覚とは、自己肯定・他者信頼・他者貢献の3つで成り立ち、一つが欠けてもだめで、それぞれに関係があり、ぐるぐると廻っています。このことを僕のセルフヘルプグループの体験を通して説明しました。

 ことばの教室の担当者から、社会人になってから自分の吃音を説明するかどうか、どう説明してきたか、成人のどもる人への質問が出ました。
 どもる子どもたちが、クラスの子に、「なんでそんなしゃべり方なの?」と聞かれてどう答えるか、どう説明するかを考えているからだとのことでした。参加していたどもる大人は、説明していない人がほとんどでした。わざわざ言うことではない、どもって話したらそれで分かるだろうということなのでしょう。もし、聞かれて説明する必要があるならば、どもる自分を認めて、吃音について勉強しているなら言ってもいいだろうという話になりましたが、そういう人なら言わなくてもいいだろうということになりました。
新・吃音SC 2 僕は、人が自分の周りの人に対して、吃音の理解を求めて、吃音を公表することは、大事なこととは思いません。まして広く社会に公表するなど何の問題解決にもならないと思います。自分の身近な人、それを僕は半径3メートル圏内の人と言いますが、その人に対して、必要なときに必要であれば言えばいいだけのことです。また、伝えるときに、小さなぼそぼそとした声では伝わりませんから、大きな声が出せるようにしておくことも大事だと思います。とここまで来て、リクエストのあった、楽しく声を出すレッスンをしました。谷川俊太郎さんの詩をみんなで読んだり、ひとりひとり読んだり、母音を意識してゆったりと息を深くして歌を歌ったりしました。気持ちのいい時間でした。

新・吃音SC 4 そして、午後4時前になり、ひとりひとりのふりかえりの時間になりました。ふりかえりを少し紹介します。
・久しぶりに吃音のことをたっぷりと考える時間になり、楽しかった。
・フィッシュ・ボウルで、話題提供者の話を自分と重ねて話していたのがよかった。
・これまでしたことのないことをいっぱいしたなあと思う。話を聞いてもらって、みんなからいろんな話を出してもらった。これは、口に出さないと起こらないことで、口に出すことが大切だと分かった。新しい考えができそうな予感がする。
・吃音の公表が前提になっているところがある。公表する側、公表される側、その双方のメリットとデメリットを考えていきたい。
・対話の中で考え、ことばが生まれていくことを体験した。
・声を出すのが気持ちよかった。
・障害者手帳を取得するかしないかの話がおもしろかった。どんなことも、メリットとデメリットを考えていきたい。
・参加者のまじめで誠実なかかわりの中で、対話がすすみ、ことばが生まれ出てくる場に立ち会えて、なんともいえない心地よさを味わった。

 何のプランもなく、始まった2日間でした。その時、その場で生まれてきた思いのままに、すすめてきました。人と人とが出会う、この濃密な時間が、僕は大好きなのだと改めて実感しました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/10/24

新・吃音ショートコース 1日目

蒜山 紅葉 縮小 













 またしばらくブログをお休みしました。
 10月19・20日は、第26回島根スタタリングフォーラムでした。僕たちの滋賀での吃音親子サマーキャンプは33回続いていますが、それに次ぐ回数です。ことばの教室の担当者が変わっていく中で、事務局が、上手にバトンを渡してつないでいってくれたのだと思います。島根にはたくさんの思い出があります。
 その前の週、12・13日は、新・吃音ショートコースでした。ショートコース前日の11日は、明石の豊岡短期大学姫路キャンパスで「アンパンマンの秘密」について、知人で幼児教育・絵本の専門家長谷さんの話を聞きました。僕たちは遠くに旅行することが多いのですが、今回は明石へのショートトリップでした。
 その前の週、5・6日は、ちば・吃音親子キャンプでした。
 3週連続のイベント、その合間を縫って、「スタタリング・ナウ」の編集・入稿をするというかなりハードなスケジュールでした。

 今は、島根の帰りで、蒜山高原に滞在しています。明日、大阪に帰るので、つかの間の休憩です。木々が色づき始めています。あいにくの雨なのですが、雄大な自然の中に身を委ねるだけで、幸せな気持ちになります。ということで、疲れていると思いますが、元気にしています。千葉のキャンプと、アンパンマンについては報告したので、今日は、新・吃音ショートコースの一日目を紹介します。
蒜山 全景 縮小


 新・吃音ショートコースは、今年で7回目でした。テーマを、「吃音哲学〜吃音の豊かな世界への招待〜」とし、最初からプログラムを組まず、参加者が集まり、そこで何をしたいか、何について考えたいかをまず相談することからスタートします。参加者が自ら決めることを大切にしたワークショップです。
 今回、集まったのは、急な体調不良によるキャンセルを除いて、17名。島根、千葉、滋賀、三重、奈良、兵庫、大阪からの参加でした。自己紹介から始まりました。申込書に、何をしたいのか、要望を書いてもらっていますが、このときに、自分は何をしたいと思って参加したのかを話してもらいました。

 まず、会社で、対話とは何かの研修を受けたが、果たして、たとえば、上司と部下の間で、対話は成り立つのだろうか。研修の講師は、上司はその立場を脇に置いておいてと言うが、難しいし、部下は部下で、グチや不満を並べるだけになってしまう。上司としての、また部下としての心構えとして、何があるだろうか。また、どもる人にとってなぜ対話が必要なのだろうか、という話が出ました。

 対話と会話の違いについて話した後、フランスの「小さな哲学者たち」のドキュメンタリー映画を紹介しました。幼稚園に通う子どもたちが、愛について、死について、友情について、など、大人でも難しいと思われるテーマで話し合いをしています。その場には必ず幼稚園の先生がファシリテーターとして入っています。子どもたちは、この哲学の時間を楽しみにしています。
 では、どんな場だったら、自由に話せるだろうか、と参加者に問いかけました。
・自分が傷つけられない、批判されない場
・安心できる場
・信頼でき、自分を認めてくれる場
・安心でき、安全な場
・平等に時間が与えられる場
・存在してもいいという雰囲気がある場
・年齢、利害関係など関係なく、対等な立場である場
・出た話はその場限りということが守られる場
・評価されない場
・責められない場
・必ず誰かが応答してくれる場
・他人のことばを紹介するのではなく、自分の人生を賭けて発言する場

 どれも、そうだなあと思います。こういう場でないと、人は話すことはできません。こう考えてくると、最初に出てきた、職場で上司と部下の間で対話は成立するかというと、日本では、かなり難しいと僕は思います。上司の立場の人が、上司という役割を脇に置くことができれば、可能かもしれませんが、日本の場合、難しいでしょう。
 すると、対話は無理、考えるということができなくなってしまいます。では、どうするか。
 対話は、何のためにするのでしょう。他者との対話を通して、自分が自由になるためです。身につけてしまったものから解放されるためには、自己内対話では無理です。独り言だと固着してしまいます。対話は、お互いが生きやすくなるため、自由になるため、ストレス対処のためにも大切です。会社でどう対話を成立させるか、他の部門の人どうしなら成立するかもしれません。利害関係のない上司と部下なら、成立するでしょう。そして、上司同士が、対話の難しさなどについて共有していくことで、対話の大切さとともに、そのときの心構えも共有できるではないでしょうか。

 以上、まとめた形で紹介しましたが、ひとつの結論は出すことが目的ではない対話が、参加者がそれぞれ意見を言い合い、聞き合いして、対話を繰り返しながら、続いていきました。

 参加者からのオープンダイアローグのフィッシュ・ボウルを経験したいとの要望を受けて、できるかどうかわからないままに、参加者のひとりが今、抱えている問題を取り上げることにしました。フィッシュ・ボウルに完全な形があるわけではないでしょうが、今回はかなり変形です。真ん中の小さな円には4脚の椅子を置きます。そこに、問題提供者と僕が座り、固定席としました。そしてもうひとり、参加したい人が座り、もうひとつの椅子が空いています。外の大きな円には、そのほかの人が座り、中の話を聞きます。話したくなったら、真ん中の小さな円の空いている椅子に座ります。それまでそこにいた一人が抜け、常に椅子はひとつ空いている状態にしておきます。
 個人的な大きなテーマなので、長い時間、話しました。決して急がず、ぽつりぽつりと出てくることばを大切にしながら、どうしてそう思うんだろうと問いかけていきました。本人が、自分の問題の核心に近づいていくのがおぼろげに見えてきます。いろんな意見が、混声合唱のように、本人の頭の中に響いていたことでしょう。そして、僕は、最後に、「これで終わっていいですか。何か最後に言っておきたいことはありますか」と尋ねました。「ありません」と言った本人の顔は、なんかすっきりと見えました。最後に、この対話を聞いていた参加者全員が、レスポンスをしました。このレスポンスがとても大事です。応答性です。ひとりひとりが、自分のことと重ね合わせて聞いていたことが分かるレスポンスでした。本人は、最後に、「うれしい。昔と比べて、こんな会に参加して、こんな場に出るなんて、自分でも信じられない。変わってきたんだなと思った。みんなの経験を聞いて、自分に対していろいろ言ってもらえるのがうれしかった」と言いました。

 ここで夕食の時間となりました。夕食後は、発表の広場でした。「若者言葉の「大丈夫です」は、大丈夫か」と「医療機関での言語聴覚士による吃音へのアプローチ」を聞きました。また、参加者の尺八演奏に合わせて、みんなで歌を歌いました。ゆったりとした気分になりました。最後、いつもなら、ことば文学賞の発表なのですが、今回は該当作品なしということで、締め切り延長としました。
 最後に、資料として配付した、毎日新聞の東京版を読んで、感想を言い合いました。

 濃い時間が過ぎていきました。午後10時まで、警備担当の人から「時間です。退出してください」と言われるまで、目一杯時間を使いました。血の通ったことばのやりとりの時間は、僕にとって何よりの贅沢な時間でした。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/10/22

吃音の秋〜第6回ちば・吃音親子キャンプ 初日〜

 しばらくブログをお休みしました。第6回ちば・吃音親子キャンプに参加していたためです。
 今日からまた再開します。

旗 「吃音の秋」がスタートしました。3週連続で、吃音関連のイベントです。
 まず最初は、10月5・6日の第6回ちば・吃音親子キャンプです。僕たちの仲間である千葉市のことばの教室の担当者の渡邉美穂さんが企画・運営しています。渡邉さんは、滋賀県で行っている吃音親子サマーキャンプの常連スタッフです。滋賀県まで行くのはちょっと遠いという人のために、滋賀でのキャンプのような場を地元千葉で作りたいと思った渡邉さんは、準備を重ねてきて第1回を開催し、今年はもう6回目になりました。
 ちばキャンプの大きな特徴は、参加者全員によるオープンダイアローグ。金魚鉢(フィッシュ・ボウル)と呼ばれる形式で、みんなで対話をします。去年45名だった参加者が、今年は80名になりました。初参加者も多いのですが、リピーターの子どもも多く、「オープンダイアローグ、ああ、あれね」と言う頼もしい子もいるそうです。初日夜の総勢80名でのオープンダイアローグ、とても楽しみです。

開会のつどい 渡邉挨拶開会のつどい 全体 僕たちは、前日の金曜日に千葉入りしました。
 初日、渡邉さんにホテルまで迎えに来てもらって、会場に到着しました。11時から、スタッフの打ち合わせがあり、それぞれ最後の準備をして、参加者を待ちます。
 13時過ぎからはじめの会があり、出会いの広場と続きます。
出会いの広場1出会いの広場3 出会いの広場は、たんたん・どんどんゲームから。あることばの教室担当者のオリジナルゲームです。リズムに合わせて、手拍子をしたり足踏みをしたりするのですが、シンプルなだけにおもしろいものでした。毎年担当しているその人は、今年はどうしようかなあといろいろ考え工夫されていると聞きました。次は、おなじみの4つの窓でした。好きな食べ物は? ラーメン、オムライス、焼き肉、おすしの4つの中から選び、同じ答えの者どうしが集まり、話し合います。2問目は、いろんなことがあって疲れたなあというときにどうする? どういうときが幸せを感じるか? でした。おいしい物を食べる、人と話す、音楽を聴いたり演奏したりする、運動をする、本を読む、この中から選びました。
 出会いの広場の活動を通して、初めての参加者の顔が緩んできたのが印象的でした。
DVD視聴 この後は、視聴覚室で、DVDを2つ観ました。今、制作中の吃音親子サマーキャンプの紹介動画と、今年1月、NHK EテレのハートネットTVで放送された「フクチッチ」の番組です。「フクチッチ」で、吃音が取り上げられ、吃音の歴史の中で、「吃音者宣言」が大きな転換点だとして、僕が自宅で取材を受けたものです。番組は、講談の語り口ですすめられ、吃音者宣言が紹介されました。
保護者との話し合い2保護者との話し合い1 この後は、親子別々のプログラムです。保護者との話し合いは、夕食の6時過ぎまで続きました。僕の話を聞くのが初めてという人が多かったので、僕にとっても、新鮮でした。
 今回、ちばキャンプで、僕が伝えたいと思ったことは、「非認知能力」です。これを伝えるために、僕は、自分の体験を話しました。吃音に悩み、勉強を全くしなかった僕は、いわゆる認知能力は低かったと思います。そんな僕が、大学に行き、21歳で生き方を変えることができたのは、僕にどんな力があったのだろうか、そんな問いかけをして、非認知能力について考えてもらいました。
 この間、子どもたちは、強みのワークをしたそうです。ポジティブ心理学の24の強みの中から、自分の強みを探し、それに理由を添えて画用紙に書き、ワッペンも作りました。好奇心が強いとか、向上心があるとか、コミュニケーション力があるとか、難しいことばを使うことに心地よさを感じながら、自分をみつめていた子どもたちでした。
 夜は、全員で大きな輪を作り、真ん中に椅子を5脚出し、オープンダイアローグのフィッシュ・ボウルです。今年のちばキャンプの参加者が昨年から大幅に増えて、80名。総勢80名が一堂に会してのフィッシュ・ボウルは、見事でした。リピーターの子どもたちが多く、その子たちの動きに触発されて、話し合いの大きな渦が形成されていったように思います。真ん中にずうっといた僕は、たくさんの質問を受けました。
・バカにされたとき、どうした?
・「吃音」ということばの由来は?
・なぜどもるのか?
・吃音のことをどう思っているのか?
・もし、治療法がみつかったら、治しますか?
・どもることを「自然現象だから」と説明した子がいたが、それをどう思うか?
・どもることは失敗だと思うので、恥ずかしいから、朝早く起きて練習をしていることをどう思うか?
・日直のとき「早く言え」と言われて嫌だった。どうしたらいい?
・なぜ、長年、吃音の研究を続けてきたのか?

フィッシュ・ボウル1フィッシュ・ボウル2フィッシュ・ボウル3 一問一答にならないよう、やりとりをしながら、答えるようにしました。長いはずの時間があっという間に過ぎてしまいました。
 夜の8時30分頃まで、その時間は、僕にとって、幸せな時間でした。
 こうして、一日目が終わりました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/10/08

第5回ちば吃音親子キャンプ 流れていたのは、《あなたはあなたのままでいい あなたはひとりではない あなたには力がある》

 9月30日(土)、千葉市立少年自然の家に、千葉県下から、どもる子ども、その保護者、そしてことばの教室の担当者が集まってきました。第5回目となるちばキャンプ、今年は、初参加者が多いということを聞いていたので、新鮮でわくわくしていました。
 出会いの広場 全体はじめの会の後は、出会いの広場。緊張している参加者の気持ちがほぐれていくのが分かりました。動きの少ないエクササイズから始まり、だんだん声を出していくものになっていきます。ドレミの歌の「ドは○○のド」「レは○○のレ」など、○○の中に入ることばをグループで考えて、最後、みんなで合わせてみました。歌うときに立ったり座ったりしたので、立体感のあるものになりました。「好きな季節は、春夏秋冬のうちどれ?」などの好きな4つの窓に分かれて集まっての話し合いは、互いのことを知るいいきっかけになったようです。進行してくれるスタッフのやわらかい語り口が、安心感と一体感をもたらせてくれました。
保護者学習会 全体 伸二立って保護者話し合い 伸二アップ保護者学習会 全体 その後は、子どもは吃音カルタを作り、保護者は学習会です。僕は、学習会を担当しました。話そうと決めていたことはあるのですが、まずはひとりひとりの質問に答えることにしようと思いました。これが知りたかった、これを聞きたかった、という思いに丁寧に応えたいと思うからです。初めての人が多かったので、前段に、僕は自分の体験を話しました。小学校2年生の秋の学芸会でせりふのない役しかもらえなかったことから悩み始めたこと、治ることばかり考え、どもりが治らないと自分の人生みは始まらないと思い詰めていたこと、治すために行った東京正生学院でどもりは治らなかったけれど、その合宿生活でどもれない身体からどもれる身体になれたこと、今、吃音と上手につきあい豊かに幸せに生きていること、そしてそのことを子どもたちや保護者に伝えたいと思い、発信していること、それらを話して、今、一番伝えたいメッセージは、《あなたはあなたのままでいい あなたはひとりではない あなたには力がある》だとしめくくりました。

・治らないと聞いたけれど、本当だろうか。
・子どもは、気にしていない、困っていないと言うが、吃音から目をそらしているように思えるのだが…。
・からかわれたとき、どうしたらいいか。親として何ができるか。
・職業の選択肢が狭くなるのではと不安があるが、実際はどうだろう。
・子どもが、クラスの子どもに伝えるとき、どういうふうに伝えたらいいか。
・苦労したエピソードを教えてほしい。
・どもり方に変化はあるか。

 いつものように、僕は、ひとつの質問に対して、自分の体験はもちろん、これまで出会った多くのどもる人やどもる子どもの顔を思い浮かべながら、実在する具体的な話をして答えていきました。話がふくらみ、広がり、長くなるのですが、これは必要なことだと思います。たくさんのエピソードを話す中で、保護者が、どもる子どもに対して、《あなたはあなたのままでいい あなたはひとりではない あなたには力がある》を実感してくださったらうれしいです。
 残り40分くらいで休憩をとり、それから、まとめの話をしたのですが、午後2時20分から5時20分過ぎまで、たっぷりと話しました。それでも足りないくらいでした。
 食事は、食堂でバイキング形式です。
オープンダイアローグ 全体 内側・外側オープンダイアローグ 伸二アップオープンダイアローグ 内側 夜は、6時30分から、参加者全員が集まって、オープンダイアローグのフィッシュボウルを取り入れた話し合いです。内側に椅子を5脚、外側に残りの人が座ります。話したいこと、僕に聞きたいことがある人は、内側に座ります。周りの外側の人は、しっかり聞き、その場を支えます。「誰か、ここに座りませんか」と内側を指して声をかけると、さっと、子どもたちが出てきました。僕と話をしたい、そのためにこのキャンプに来たんだという子がいました。こんなうれしいことはありません。子どもたちにとっては、吃音はなぜ出るのだろう、どこで作られてどこから出てくるのだろう、というのが大きな疑問のようでした。これには、「分からない」と答えるしかありません。不思議に思う気持ちはよく分かります。でも、世の中には分からないこと、不思議なこと、解明されていないこと、原因が分からないことは、山ほどあります。吃音も、そのひとつだということではないでしょうか。
 内側の椅子は、入れ替わりがあり、保護者やスタッフも入ってきて、いろんな話をしました。ずっと内側に座っていた子どももいましたが。
 昨年の第9回親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会で、初めてこの手法を取り入れてみました。そのときも、果たしてうまくいくかどうか分からなかったのですが、予想以上に話が深まりました。でも、それは大人だったからできたことで、子どもの場合はどうだろうと思っていました。昨年のちばキャンで試しに取り入れてみて、手応えを感じたので、今年もスタッフがプログラムに入れていました。子どもだから無理かもしれないと思ったこと、失礼なことでした。子どもたちも、しっかりと考え、発言しています。年齢に関係なく、しっかり考えることができれば、充分に取り組めるものだと思いました。吃音は、これだけのことを考えさせてくれるテーマです。そして、これは、ちばキャンの名物プログラムになりそうです。
 こうして一日目が終わりました。にぎやかだった子どもたちの声も、だんだん聞こえなくなりました。吃音が縁で集まった参加者たち、それぞれがいろんなことを思いながら、夜が更けていきました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/10/08

第5回 ちば吃音親子キャンプ、終わりました

旗 9月30日・10月1日、千葉市立少年自然の家で、第5回ちば吃音親子キャンプが開催されました。滋賀で開催している吃音親子サマーキャンプにスタッフとして、長年参加している渡邉美穂さんが中心になって、千葉でも、どもる子どもや保護者、スタッフが集まって、吃音についてじっくり考えたいと始めたものです。
 僕は、第1回から欠かさず参加しています。
 吃音についての話し合い、保護者の学習会、作文など、吃音親子サマーキャンプが大切にしているエッセンスを踏襲していて、それに加えて、千葉ならではの、オープンダイアローグを取り入れた参加者全員での話し合いの場を大切にしています。
はじめの会 渡邉はじめの会 伸二アップ ちょうどいい人数で、オープンダイアローグのフィッシュボウルの手法を取り入れています。円の内側には椅子が5脚、周りには取り囲むように全員が座ります。話せるのは内側の人たちだけ。話したいことが話せたら外側に戻り、別の人が内側に座って話すという、入れ替わり立ち替わり移動して、流動的なおもしろい話し合いが展開します。小学生がこのような対話ができることが、すごいことです。三人の子どもと僕が対話をするその輪の中に子どもだけでなく、保護者や教員が加わってきます。最初、僕は、とても子どもには無理だろうと考えたのですが、今、子どもたちに謝りたい気持ちです。
 渡邉さんが、ちば吃音親子キャンプが終わったことを報告しているので、それを紹介します。

 
ちば吃音親子キャンプが終わりました。
 日帰りの人も入れると45人の参加がありました。
 子どもたちは、吃音かるたを作ったり、オープンダイアローグのフィッシュボール(金魚鉢)で伊藤さんと対話したりしました。
 親は、伊藤さんと3時間、1時間半と2回の学習や相談をしました。
 私も2日間でたくさんいろいろな人と話しました。
 おもしろかったのは、6月の吃音ショートコースで日本語のレッスンをしたのですが、そのときの材料が、歌舞伎の白浪五人男の名台詞でした。それを使って、みんなで声を出しました。それがおもしろかったので、私は、通ってきている子どもたちに知らせました。すると、その口上を真似て「自己紹介」を作る子どもがいました。その自己紹介をキャンプ1日目にみんなに披露したのですが、2日目には、参加している子ども全員が、その歌舞伎の口調で自己紹介を考え、発表しました。歌舞伎など知らないような1年生も、「知らざぁ言って聞かせやしょう!7年前に千葉で産湯につかり・・・・」とおもしろい自己紹介を考えて披露しました。
 苦手でできれば避けたいと思っていた自己紹介が、こんなにおもしろくユニークな形で目の前に表れ、子どもたちもびっくりしたと思います。作ったり、発表したりしている子どもたちは、とても楽しそうでした。吃音カルタも作りました。子どもたちのその場での対応力や想像力を、吃音かるたや自己紹介で感じました。
 伊藤さんの話を聞いた親たちからは、「聞きたいことがきけてよかった」「これから子どもと対話をしていきたい」などの感想がありました。
 溝口さんが、子どもが書いた作文を読んで、子どもと対話をすることで、さらに子どもが、書いた作文に自分の思いを追加したり、広げたりして表現していました。こうやって子どもたちの思いが広がっていくんだと、私は学びました。
 竹尾さんと出口さんが、出会いの広場で、参加者がリラックスできるようなゲームや歌を準備してくれました。みんなで四つの窓で話をしたり、ドレミの歌で歌詞を考えたりしました。「ドは、ドラえもんのド〜」など。
 本当に楽しい時間があっという間に過ぎました。
 17人のスタッフが、キャンプを支えてくれて、無事におわりました。
 終わってすぐ、その場で、来年の予約をしました。来年は、10月5・6日(土・日)です。来年も楽しみです。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/10/04
Archives
livedoor プロフィール

kituon

QRコード(携帯電話用)
QRコード