伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

2023年06月

生活に活かす〜実践的交流分析入門 2

 杉田峰康さんをゲストに迎え、交流分析を学んだ吃音ショートコースの紹介をしたのは、6月12・14日でした。それから半月が経ってしまい、今日は6月30日。6月も今日でおわりです。あまりにも早い月日の流れに驚いてしまいます。
 「スタタリング・ナウ」2001.12.15 NO.88 で特集した、杉田さんの「生活に活かす〜実践的交流分析入門」の報告のつづです。

  
生活に活かす〜実践的交流分析入門
                   講師 杉田峰康・福岡県立大学名誉教授

よりよい人間関係を求めて
 まずい人間関係は「三つの心」のバランスが崩れることから起こる。Pが強すぎるときは、仕事中毒症、脅迫ノイローゼ、権威的すぎ、厳しすぎる人間となり、鬱病になりやすい。Aが強すぎると感情の乏しいコンピューター人間、打算的な人間になる。Cが強すぎると家庭内暴力、ヒステリー、過食症や拒食症のような心身症を引き起こす。特に拒食症、過食症は母であるからだをいじめているわけで、これは「母性性の拒否」を意味し、その状態は自分で自分のことをコントロールできなくなっているので助けてほしいが、甘えたくても甘えられないで苦しんでいる状態である。従ってその治療にはじっくりと耳を傾ける「再養育」が有効となる。
 次にまずい人間関係にはまずいルール(法則)が働いていることを勉強した。これはドライバーというCPから人の行動を促す目的で発信される言葉で、子どもをしつけたり教育するときによく使われる。通常次の五つがある。

1.早く、さっさと、
2.きちんとやりなさい(完全であれ)、
3.がんばれ(もっと努力しろ)、
4.私を喜ばせなさい(親の期待に添いなさい)
5.しっかりしろ(泣く子は嫌い、タフであれ)

 例えば「早くしろ」を親が「お前はグズでのろまだから何をやってもダメだ」という態度で発すると、「失敗せよ、成功してはいけない」という禁止令を発動する引き金になる。
 こじれる人間関係には『ゲーム』が働いていることがよくある。ゲームとは、表面的にはもっともらしい交流の繰り返しの様に見えて、その奥には隠れた動機を伴い、しばしば破壊的な結末をもたらす交流である。例として「子どもを勉強嫌いにするゲーム」について学んだ。あるお母さんが、子どもがテレビを見ているときに「勉強しましょうね、ケーキあげるわよ」と言う(仕掛人)。これに応じて子どもは机につく(カモ)。初めは優しい母親だったのが、子どもが勉強が分からないと、母親がイライラしだして子どもを非難し、両者の関係が混乱する(NP→CP)。そして母親の非難が頂点に達すると隠れていたメッセージが現れる。「もうお母さんはあんたのことなんか知りませんよ。こんなことでいい学校になんか入れるもんですか。もうケーキなんかあげません。」そして結末としては、子どもは眠るまで憂鬱な気持ちを味わい、母親は子どもの寝顔をのぞいて「ああ、またやってしまった。」と後悔の念にかられる。しかしまた明日もこのゲームは繰り返される。この結末で表れる感情を『ラケット感情』(現在の行動に強く影響を与える幼児の感情生活のうち、特に慢性化した不快感)といい、人がゲームを演じるときその結末に決まって味わう感情である。このゲームを止めるためには、ギアをAに入れなければならない。

人生劇の究明(人生脚本)
 人が演じる様々なゲームや特定の性格傾向を考えるとき、『脚本』という概念をもとにして考えてみる。人生脚本のもとになる「幼児決断」はリトル・プロフェッサーが行うと考えられている。したがって、人がよく適応して成功した人生を送るか、あるいは心身の様々な障害に苦しむかの違いは、幼児に親たちとの間で経験した指示や、非言語的な禁止令、手本などによって支配されることになる。
 この例として、次の3つのケースについて、参加者がそれぞれ考えた。

1.スーパーで買ったものを精算するとき、財布を忘れたことに気付いたらどうするか。
2.交通渋滞に巻き込まれたら、どういう態度をとるか。
3.4泊6日のハワイ旅行の帰りに何を思うか。

 例えば1の例では、レジにいる人に「すぐに財布をとりに帰るから取っておいてほしい」と頼む人もいれば、せっかくカゴに入れた商品をわざわざ元の棚に戻す人もいた。

ストローク
 人は心のふれあいを求めて生きている。交流分析では、ある人の存在や価値を認めるための言動や働きかけをストロークといい、「人はなぜ人間関係(交流)を営むのか―それはストロークを求めるため」としている。
 ストロークには次の3つの領域がある。

1.身体的ストローク…スキンシップ(虐待)
2.言語的ストローク…ほめる、挨拶する(非難する)
3.心理的ストローク…ほほえむ、支える(無視する)

 ストロークの種類として、受け取る側にとって肯定的(プラス)か否定的(マイナス)か、条件付きか無条件かによっても分類される。

1.プラスのストローク……それをもらうとイイ気持ちになる刺激
2.マイナスのストローク……それをもらうとイヤな気持ちになる刺激
3.条件付きのストローク……行動や価値に対して与えられる刺激
4.無条件のストローク……存在しているという事実に対して与えられる刺激

 安定した人間関係とは、お互いにプラスのストロークを交換し合うことであり、もしプラスのストロークが欠乏(愛情飢餓)すると、マイナスのストロークで補ったり、そのマイナスのストローク交換が習慣になって“ゲーム”となる。
 『ストローク経済の法則』とは、「貧しい者はますます貧しく、富める者はますます富む」ことを意味し、ストロークの収支が赤字の時は、相手にプラスのストロークを与えることは出来ない。そのためには、自分自身にストロークを与えるとよいことや、欲しくないストロークが来たときは拒否すればいいことを学んだ。
 交流分析のカウンセリングの目的の一つは、何らかの理由で信頼と愛情に裏付けられたストレートな交流が営めないために、マイナスのストロークの交換を続ける『ゲーム』からの解放である。(つづく)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/30

鹿児島行き おまけの話〜知覧特攻平和会館〜


 新・吃音ショートコースのホットな話題を入れたので、鹿児島行きが途中になってしまいました。でも、ことばの教室担当者向けの鹿児島県大会と、どもる子どもや保護者との吃音交流会の報告はできているので、ほぼ終わってはいるのですが。
知覧3 今日は、公式行事が終わった後の、鹿児島でのおまけの話です。

 鹿児島県の大会と、翌日の吃音交流会を終え、ほっとした僕には、鹿児島で、行きたいところがありました。6年前にも一度訪れているのですが、知覧の特攻平和会館にもう一度行ってみたいと思っていました。鹿児島に来る前、準備に忙しかったけれど、その中で、高倉健主演の「ホタル」をもう一度観ました。県大会での講演の冒頭にも、それについて触れました。
知覧1 知覧特攻平和会館に着くと、入り口前に、映画「ホタル」の記念碑がありました。
会館の中には、写真、手紙などの遺品がたくさん展示されていました。
知覧2 日本がもう負けると誰もが知っているのに、特攻隊として、敵の軍艦を目指して突っ込んでいく。無駄死にの理不尽さ、作戦の無意味さを誰もが知りながら、日本軍隊上層部に逆らえない。一度動き出したら軌道修正できない、今の日本の政治と似ていてやりきれなくなります。今回は、語り部さんの話を聞くことができました。お母さんが、特攻隊の人達のお世話をしていたという人でした。90歳を超えているお母さんも、写真に登場していました。お母さんから直接聞いた話も交えての語りは、迫力があり、話に引き込まれました。
 その後、薩摩の小京都と言われる知覧の武家屋敷を歩きました。江戸時代にタイムスリップしたかのような町並みでした。
知覧武家屋敷 
 自分自身の経験をもとに、今まで考えてきた吃音についての話をし、そこで初めて出会う人と語り合い、その土地を歩き、その土地ならではのおいしいものを食べ、なんと贅沢な時間を過ごすことができたのだろうと思います。
 知覧特攻平和会館や沖縄戦の跡地などに行くと、いつも吃音のことを思います。かつての日本教職員組合は「教え子を戦場に送るな」と平和教育に力を入れていました。僕は、ことばの教室の教師に「教え子を、吃音の戦場に送るな」と言い続けてきました。吃音は闘えば闘うほど巨大なモンスターになります。闘って勝つのではなく、吃音に負けないことが大事だと言い続けてきました。どうにもならない相手とは和解するしかありません。平和教育の大切さと、吃音がマイナスに影響されないための予防教育の大切さを、今年の夏も伝え続けます。
 
 こうして、今年の「吃音の夏」は、鹿児島から始まりました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/29

新・吃音ショートコースに参加しての感想

新・ 新・吃音ショートコースの最終のセッションは、ふりかえりでした。ひとりひとりが、この2日間で考えたこと、思ったこと、感じたこと、発見したことなどを発表しました。僕は、この時間が好きです。印象に残る場面はひとりひとり違います。同じことばを聞いても、その捉え方は異なります。その人の背景、その日の体調、いろいろなものが合わさって、感想になります。どれもが貴重で大切なことばになっていました。
 発表が終わってから、短い時間でしたが、感想を書いていただきました。書くことでまた違った新・吃音ショートコースが浮かび上がってきたようです。紹介します。

○久しぶりに吃音のことを深く考える機会でよかった。日本語のレッスンでは、以前、大阪吃音教室の日曜例会で1日かけてやった「竹内さんのレッスン」を思い出した。そのときも、言葉と体はつながっている?というようなことをいろいろ勉強したが、その後の日常生活であまり活かしきれてなかったと思う。やはり、勉強して実践してみたいことは、常に日頃から意識をしてやっていかないとダメだと感じた。今回、勉強した日本語のレッスンの中の、「一息で全部言う」「一音一拍」と、どもりそうになったときの対策として、「電話線を通して相手に届ける」「電話の向こうの空いてをイメージする」「相手に聞き返されたらチャンスと思い、ゆっくり話す」の話は、早速意識しながら実践していこうと思う。

○大阪吃音教室とは違い、全国、遠い所から参加される人がいる。この場で何かを確かめるかのように参加している人、自分の人生の何かと重ね、関連づけて話をする人、そんな姿に、私はインスパイアされる。いい刺激をもらって、また日常へと還っていこうと思うし、またこういう場に参加しようと思うのだ。

○在宅ワークになり、大阪吃音教室に参加できる機会がほとんどなくなったので、久しぶりに2日間、吃音についてゆっくり考えることができて有意義でした。幸せについて考えた中で、私は自己受容ができていることが幸せと感じました。今までどもりで悩むことばかりでしたが、大阪吃音教室に出会えて、自分自身を受け入れられるようになってよかったです。

○自分の人生の振り返りを発表させていただき、ありがとうございました。吃音を治すのでなく、吃音の子どもたちと共に生きようとする言語聴覚士が、ひとりでも増えるよう、みんなでがんばっていけるといいかなと思います。考え方を変えないといけないときは、勇気をもって、ふんばって、みんなで手を取り合って、変えなければいけないと思います。

○内容の濃いあっという間の2日間でした。要項にある「吃音哲学」というテーマがピンとこず、心理学的な難しい話をされるのだろうか、果たしてついていけるものだろうかと心配でしたが、杞憂に終わり、思い出に残る2日間となりました。日々、不登校のお母さん方と話し合ってきた、子どもの自己受容、自己肯定、その子を支えるお母さん方の自己受容、他者貢献とも相通ずるテーマでした。内容も、ぎりぎりの子どもたちを支援する人と伊藤さんの深い対談、情景の浮かぶことば文学賞の素晴らしい作品たち、ハピネスではない深い幸せのウェルビーイング、コロナ禍に入って以来の歌を歌ったり、台詞を言い回す体験、日々の困りごとへの対処法、他人は変わらないけれど、自分たちの物事へのとらえ方は変えるとができるという話、大阪吃音教室で受けたライフサイクル論など、こんなに時間が経つのが早く、惜しいと思ったことはありませんでした。

○今回の新・吃音ショートコースは、世界のこと、自分のこと、自分の身の周りで起こっていることを、ちゃんとことばで表現しよう、違うことばの持つ異なる意味、ニュアンスをちゃんと区別しようという内容のイベントでした。思い出せば、私が自分でものを考え始めた1970年代後半は、世界中で「ことばが世界を分節化する機能を疑おう」「ことばを使って考えるのをやめ、丸ごと世界を認識し直そう」という思想が提唱され、広まった時代でした。その後、時代が大きく移り変わり、ことばを大事にしない人があまりに増えて、社会の要路を独占する時代がきてしまい、今再び、一つひとつのことばを大切にするところから世界をやり直すしかないところに舞い戻っているのだと思います。

○2日目だけの参加でしたが、ことばの教室の実践報告や日本語のレッスンの体験、合理的配慮についての話など、たくさんの吃音の世界に触れることができ、楽しかったです。合理的配慮については、以前にも「ほどよいストレスは子どもの成長にとって大事」と聞いたことがありましたが、今、関わっている子どものことを考えながら聞くと、より腑に落ちました。ショートコースを皮切りに始まる吃音のイベント、これからどんな出会いがあるかとても楽しみにしています。

○今回が初めての参加でした。途中からしか参加できなかったため、一番惹かれたタイトル「幸せについて」のお話が聞けなかったことがとても心残りです。少年院の子どもたちの話を聞き、人はどのような形であれ、自分の嫌なことや好きなこと、その全てを通して成長していけるのだと思いました。ライフサイクル論はやり直しのきくものだということばを聞き、どんな紆余曲折を経ても良いんだと、安心する気持ちを感じたのと同時に、とても優しい学問だなあと思いました。

○自己決定権の尊重と幸せの話が2日間の中で一番印象的でした。祖父のケアのことや今、職場で関係している子どもたちのとのかかわりを思い出しながら話を聞いていました。何が目の前の人にとっての幸せなのかをこれからも考え続けながら、人とかかわっていきたいです。自由であることが幸せであるということを、子どもたちに伝えていきたいと思いました。

○印象に残ったのは、1日目の対談後の話し合いで、生徒は、話の内容よりも、その場や時間を覚えているとの意見が出たことでした。また、私も、吃音の相談を受けることがあり、後からもっとこう言えばよかった、ああ言えばよかったと反省することや、1回相談に来てその後来なくなると、対応が悪かったかなあと思っていたのですが、反省しなくていい、1回来てそれで落ち着いたんじゃないかというのを聞いてほっとしました。2日目のウェルビーイング、幸せについては、初めてじっくり考える機会でした。自己決定できる幸せを初めて考えました。どちらかと言えば、他者信頼、他者貢献の方を思っていましたが、フランクルの「最悪の場でも、心の自由は奪えない」を思い出し、自分で選べることの大切さを思いました。

○みんなのいろいろな話を聞いて考えることができた。幸せについては、吃音をもったまま生きることの意味を考えることになった。今後、例会のテーマとして活用できると思った。日常を離れ、じっくり自分をふりかえる時間はとても心地よく、いい時間を過ごすことができた。

○発表の広場での発表は、2回目でした。今回はとてもリラックスした気持ちで、浮かんだことはばを伝えていこうと、ポイントとなることだけ考えて話しました。子どもたちのことを伝えたいということだけが頭にありました。みなさんからもらったことばを整理して、子どもたちに伝えようと思います。幸せについて、みんなそれぞれの一番を聞くのがおもしろかったです。どれも大事だけど、今の私にとっての幸せを感じるものなのでしょう。ときどき、幸せチェックをしてみようと思います。ことば、日本語のレッスンも久しぶりに声を出したという感じで、気持ちがよかったです。体も声も、カチカチ、ガチガチなのが分かりました。気持ちよかったし、楽しかったです。

○対話の難しさについての対話は、去年の吃音親子サマーキャンプでの経験を改めてより深く考えるヒントをもらえたと思う。最近、吃音と自由ということを考えている。自由だということは、自己決定ができるということだと、つながった。幸せということを集中して考えることができ、良い時間だった。日本語のレッスンで大きい声を出そうとしたときに指摘された、体の力みは、普段自分では気がついていなかった。台詞を読む楽しさを感じたし、発表の広場で発表もでき、満足している。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/28

新・吃音ショートコース、終わりました

新・ 6月24・25日、寝屋川市立市民会館で、第6回 新・吃音ショートコースを開催しました。24日(土)は、午後1時から夜10時まで、25日(日)は、午前9時から午後5時までという、普通では考えられないような長丁場の研修会でした。初めて参加した人がよく、「プログラムには夜10時までと書いてあって、本当かなと思っていたけど、本当だった」と言います。僕たちにとっては、ある意味、これが普通なのですが。

 1日目、自己紹介の後、今回、この場でどんなことをしたいか、リクエストを聞いて、2日間のおおまかなプログラムを立てました。

新・吃音ショートコース 伸二と奥田 高校生の生活支援の仕事をしている人から、「カウンセラーではない支援ものという立場で話すが、話にきた相手にとって、話した時間、内容がこれでよかったのかと、終わってからよく思う。対話は対等性が大事だと聞くが、なかなか難しい。どんなことを大切にすればいいか」という話題が出ました。とても大切なテーマで、対話について考えている僕にとっても、ぜひ、考えたいことでした。彼女とじっくり「対話の難しさ、対話をするときの心構え」などについて、対話をしました。彼女の実体験から出てくることばに耳を傾け、僕も、これまでの経験や今考えていることなど、真剣に話しました。周りの参加者も、そんなふたりをしっかり支えてくれました。一人の人間として、他者にどうかかわるか、その奥深さを改めて思った時間でした。
 「対話について」の対話は、教師や対人援助にかかわる人だけでなく、職場、家庭での人間的な対話について、深まっていきました。今回の吃音ショートコースの中での、「ハイライト」だったと、僕は思いました。真面目で、誠実であるが故の対話の難しさが、参加者の一人一人に響いたと思います。

新・吃音ショートコース 伸二アップ 次は、今、心理学だけでなく、企業や自治体などでも注目されているウェルビーイングについて考えました。それぞれが思う「幸せ」について話し合いました。人間にとって大切な三間(空間、時間、仲間)アドラー心理学の共同体感覚、ポジティヴ心理学から、PERMA(パーマ)の5つの概念、リフの6つの要素、それらの中のキーワードから、自分にとって何が大事と思うか、ひとりずつ発言していきました。似ていたり、違っていたり、でも結局は似ていたり…「幸せ」からの切り口は、多くのことが考えられるいいテーマでした。

新・吃音ショートコース西田 新・吃音ショートコース深堀新・吃音ショートコース小島新・吃音ショートコース尺八発表の広場では、中井久夫の著書「治療文化論」から発見したことを、吃音とからめて考察したことの発表をはじめ、東京からの参加者が自分の転職にまつわる体験や、三重県からの参加した元ことばの教室担当者がこれまでの自分を振り返って話をしました。元ことばの教室担当者は、東日本大震災の後、復興支援の一貫として、尺八の演奏をして、福島を訪れているそうです。彼女の尺八に合わせて、みんなで「花は咲く」の歌を歌いました。どれも、その人らしい内容で、参加者は引き込まれました。

新・吃音ショートコース東野と藤本新・吃音ショートコース東野と吉本 発表の広場の後半は、ことば文学賞の発表です。今年は11編集まりました。そこから3編選んで、読み上げました。聞いていたみなさんから感想をもらい、その後で、最優秀作品と優秀作品を発表しました。どれも、しっかり書いてくださっていて、内容も深く、ことばの選び方、表現の仕方なども洗練されていました。最優秀と優秀の2人は、幸い、新・吃音ショートコースに参加されていたので、感想も聞くことができました。
 今年から、佳作(審査員特別賞)を2編選ぶことになっていましたが、時間がなくなってしまい、入賞者3人の作品だけを読み上げました。佳作(審査員特別賞)の2作品を選びながら、その2編を読むことができませんでした。タイトルだけを紹介したら、2編とも、作者が参加していたことが分かりました。それなら、なんとか時間をやりくりして、発表したらよかったなと残念に思いました。ことば文学賞の選考にあたり、作者名は伏せられているので、僕にはだれの作品なのか分かりません。そのためにこのような残念なことも起こるわけです。
 今年26回目だった「ことば文学賞」、ここまで続けるという強い意志を持ち続けた大阪スタタリングプロジェクトの会長をはじめ、担当の人に感謝です。
 ぎりぎり午後10時、会場を出ました。

新・吃音ショートコース渡邉 2日目は、発表の広場の続きで、千葉のことばの教室担当者がどもる子どもとの「幸せ」についての取り組みを発表しました。その子どもたちから、どもる大人に聞いてきてほしいと要望がありました。「どもりが治ることが幸せとは思わないが、その理由を説明するのが難しいので、どもる大人はどう考えるのかを知りたい」とのことでした。普段、しっかり考えている子どもたちなので、大人顔負けの深い話をしています。

新・吃音ショートコース伸二後ろ姿 その後は、音読を免除してほしいと願い出る保護者について、担任教師から相談があった話、合理的配慮の功罪、日本語のレッスン、どもりそうなときの対処法、エリクソンのライフサイクル論など、リクエストされたことは全部取り上げ、終わることができました。

新・吃音ショートコース日本語のレッスン 日本語のレッスンでは、発音・発声の基本の確認と、歌を「一音一拍」を意識し、「母音」を押して、ゆったりと歌いました。そして用意してきた、歌舞伎の演目、「白浪五人男」の口上を全員が一人で演じました。「問われて名乗るもおこがましいが、…」おなかから声を出し、気持ちのいい時間でした。特に、コロナ禍で大きな声を出すことがなかったので、より気持ちがよかったのかもしれません。

 参加者の感想は、また次回、紹介しますが、それぞれに満足して帰っていただけたようで、ほっとしています。大阪吃音教室とはまたひと味違った時間を過ごすことができました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/27

鹿児島とのご縁〜長い、古いおつき合いに感謝して〜

 どもる子どもと保護者の「吃音交流会」は、近隣の小学校が集まっての取り組みの一貫でした。
 交流会が終わった後、その日、参加してくださっていたことばの教室の担当者の方と、お昼ご飯を食べに行きました。
吃音交流会後の食事会 予約しておいてくださった店に着くと、そこには、10年前、全国難聴・言語障害教育研究大会全国大会鹿児島大会でお世話になった宮内さんが、僕が鹿児島に来ていることを聞いて、待っていてくださいました。鹿児島大会で、僕は、記念講演をしたのですが、宮内さんは、そのときの大会の事務局長でした。お互いに「変わりませんねえ」と挨拶をして、久しぶりの再会を喜びました。そのとき、全国大会の記念講演ができたのは、同じ年の6月に、鹿児島県大会に講演に行くはずだったのですが、牛の口蹄疫騒動があり、中止になったので、その年の8月の全国大会に呼んでいただけたのでした。不思議な巡り合わせだったと思います。
吃音交流会後の食事会 集合写真 お昼ご飯を食べながら、前日の講演とその日の交流会での僕の話の感想を聞かせていただきました。反応をすぐ聞くことができるのは、とてもありがたいことでした。同席されていた桑原さんは、谷川俊太郎さんと竹内敏晴さんが講師だった、1998年の吃音ショートコースに参加してくださっています。考えてみれば、長い、古いおつきあいなのです。
 皆さんと別れて、溝上さんにホテルに送ってもらいました。その後、10年前、そして6年前にも歩いた天文館通りを歩きました。新しいビルが建てられて、少し様子が変わっていました。
 大阪から遠く離れた鹿児島にも、仲間がいると実感できた2日間でした。

 明日から、第6回新・吃音ショートコースです。大阪だけでなく、東京、千葉、埼玉、愛媛、三重、奈良、兵庫などから、僕の地元の寝屋川に集まってくださいます。いい仲間と、吃音のことや生きることについて真剣に考え、語り合う、いい時間になることでしょう。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/23

吃音交流会 どもる子どもたちとの対話

 フジコ・ヘミングのピアノコンサートの話題を入れたので、鹿児島でのできごとに戻ります。

 鹿児島県大会の翌日の子どもや保護者との「吃音交流会」のつづきです。
 保護者との時間の後、僕は、子どもたちがいる部屋に移りました。参加した子どもは、全部で7人。事前に僕への質問を考えてくれていました。担当者が子どもたちとそれぞれ対話をして、その対話の中で、じゃ、こんな質問をしようと相談していたようでした。
鹿児島吃音交流会4伸二と子ども 質問は、次のようなものでした。特別感があるとか、自己紹介でわざわざ言わなくても、どもっていたら分かってもらえるとか、どもって笑われたら、笑った人が幸せになるからいいとか、びっくりするような内容もあります。もちろん、どもって笑われるのが嫌だからどうしたらいいか、と多くのどもる子どもから出る質問もありました。
 ひとつひとつの質問に、子どもと対話をするスタイルで話はどんどん進み、最後の方では、子どもたちみんなが僕の方へ寄ってきて、だんごのようになって話していました。
 おもしろかったエピソードをひとつ。
 どもって真似をされたときにどうするかについての話になりました。

鹿児島吃音交流会5伸二アップ 僕が 「人が嫌がることをしつこくしてくる人はどんな人ですか?」と、子どもに問いかけると、子どもたちから、「性格の悪い子」「自分がおもしろくなくて楽しくない子」「幸せでない子」などが出てきます。「君たちは、人が嫌がることをしつこくしますか?」と聞くと、「絶対にしない」と口々に言います。優しい子どもたちです。その中で、僕が言ったのか、子どもが言ったのか、「残念な子」というのがありました。
 そこで、「しつこく真似をしてくる子に、君たちが嫌がったり、悔しそうな顔や態度をしたら負けだよ。相手の目的をかなえてあげることになるんだから。その場合は、君たちが言うように、最初は、僕は真似されるのは嫌だから、やめて欲しいと言うけれど、それでも言ってくる子には、今度、実験してみよう」と提案しました。
 相手の顔をしっかり見て「君は、残念な人ですね」とはっきりと言おう、と。また、真似してきたら、また「君は、残念な人ですね」と、相手が言う度に繰り返そう」。その実験をしてみてどうだったか、また教えてねと伝えました。子どもたちは、ひとりひとり「残念な人ですね」と言っていたようです。
 「残念な子ですね」は、子どもたちにヒットしたようでした。
 子どもとの対話はテープにとってあるので、いつか紹介したいと思います。
 
鹿児島吃音交流会6ホワイトボード 最後に、子どもたちからあらかじめ出されていた質問を紹介します。これは、ホワイトボードにまとめられていました。
 終わったとき、やまと君が、そのホワイトボードの空いているところに、「どもりのことがよくわかった やまと作」と書いていました。吃音について、たくさん話し合えた、考えたということの彼なりの表現なのだろうと思いました。
鹿児島吃音交流会7やまとくん
 子どもからの質問
1.僕は吃音があってよかったと思います。他の人と違う特別感があるからです。そんな僕を伊藤さんはどう思いますか。また、伊藤さんは自分の吃音に対してどう思っていますか。
(小5)
2.ぼくは、自己紹介でわざわざ言わなくても、どんどんどもれば、分かってもらえると思っています。わざわざ言わなくても普通に当たり前にあるような、吃音がそういう存在になるようにしたいと思っています。伊藤さんはどう思いますか。またそうするためには、どうしたらいいと思いますか。(小5)
3.どもりを抑えられる方法を教えてください。治すのは無理だから、抑える方法をたくさん知りたいです。(自分なりの工夫をしていますが、ずっとその方法で抑えるのは無理だと思うから、他の人の工夫も知って、真似してみたいです。)(小5)
4.僕は話すことの少ない大工さんになろうと思っています。伊藤さんはなぜ話すことの多い大学の先生になったんですか。(小5)
5.ぼくはどもって笑われる方がいいです。どうしてかというと、笑った人が幸せになるからです。伊藤さんはどう思いますか。(小2)
6.どうして世界大会を開いたんですか。教えてください(小2)
7.なんで世界大会を一番に始めたんですか。(小1)
8.私はどもったときに笑われたら嫌です。笑われないためにはどうしたらいいですか。(小1)
9.どもったときに笑われないようにするためには、どうしたらいいですか。(小2)
10.僕は名前の「は」が言えなくて、6歳からどもるようになりました。伊藤さんは何歳からどもるようになったんですか。きっかけやそのときの気持ちも教えてください。(小4)
11.世界大会では、どんなことを話しましたか。(小3)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/22

フジコ・ヘミングのピアノソロコンサート

フジコヘミングのピアノソロコンサート

フジコ・ヘミング パンフレット_0001 フジコ・ヘミング パンフレット_0002昨夜遅く、鹿児島から大阪に帰りました。17日の吃音交流会のつづき、子どもたちとの対話について紹介するつもりでいたのですが、ホットな話題をと思い、今日行った、フェスティバルホールでの「フジコ・ヘミング」のピアノソロコンサートについて書きます。
 
フジコ・ヘミング 会場とピアノ 出会いは、今から13年くらい前になります。横浜で吃音相談会を開いたときに、両親と参加した大学生がいました。母親の陰に隠れるようにしていたその男子大学生は、その後、私たちの合宿などに参加して、自分の生き方としてバイオリンの道に進みました。吃音のこともあり、大変な苦労をして、ドイツの大学院に進学し、その後、ウイーンのとても有名な管弦楽団に所属しています。日本でも毎年コンサートが開かれています。招待をしていただいたのですが、毎年の新年の合宿と日程が重なり、一度も彼の演奏するコンサートには行けていません。ご両親は海外の演奏家を日本に招くなどの音楽関係の仕事をされていて、最初の出会いからずっとお付き合いが続いていました。お母さんからは、折に触れ、成長していく彼の様子を知らせていただいていました。
 そのお母さんから、大阪のフェスティバルホールでフジコ・ヘミングのピアノソロコンサートを主催するので、招待しますよという連絡をいただきました。ちょうど鹿児島から帰った翌日だったので、ありがたくお受けしました。
 フジコ・ヘミングは、NHK BSのドキュメンタリー番組で「魂のピアニスト」として紹介されていて、世界的なピアニストだとはよく知っていたのですが、コンサートに行ったこともなく、生で演奏を聴くのは初めてです。海外での演奏会も多く、精力的に演奏活動をされていますが、お年は90歳です。これはすごいことだと思います。
フジコ・ヘミング ピアノとパンフレット 会場はぎっしり満席で、舞台には1台のピアノが置かれていました。彼女がシルバーカーを押し、付き添われながら登場すると、舞台はとたんにパッと華やかになります。
 ショパンが大好きな彼女、今日も、ショパンの曲がたくさん選曲されていました。90歳という年齢を忘れてしまうほどの熱演でした。服装、しぐさ、そして「たくさんの拍手をありがとうございました」ということばの声、かわいいと思いました。ドキュメンタリーでみていた通りの人でした。 
 聞き覚えのある旋律が多く、馴染みのある曲がたくさんありました。
 おかげで、ことばの教室の担当者の鹿児島県大会の準備にかなりのエネルギーを使い、当日も頑張ったご褒美のような一日を過ごすことができました。
 毎年、年末のベートーベンの「第九」が恒例になるなど、「交響楽団」や「管弦楽団」などのコンサートには行くのですが、ピアノだけのコンサートは初めての経験でした。聞き慣れた旋律の心地よさに、世界がまた広がりました。吃音が縁でこのような機会がもてること、本当にありがたく、いつものことながら吃音に感謝しているのです。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/21

吃音交流会 保護者との対話

 鹿児島県の県大会の翌日は、僕たちの仲間のことばの教室担当者の溝上茂樹さんが勤める学校で、どもる子どもや保護者との「吃音交流会」でした。コロナ前に何度か取り組まれていたようですが、今回が久しぶりの対面での交流会だったそうです。
鹿児島吃音交流会2 初めは、保護者との時間でした。小1、小2、小4、小5、それぞれの子どもたちの保護者が9人集まってくださいました。簡単に自己紹介をしてもらいました。明るくて元気な子が多いという印象でした。その後、僕はちょっと長めに自己紹介をして、こんな体験をしている僕に、どんなことでも聞いてほしいとお願いしました。僕は、健康生成論については必ず伝えようと思っていましたが、まずは保護者のみなさんが聞きたいと思っていることを出してもらうことから始めました。

○今まで楽観的に過ごしてきたが、もうすぐ思春期を迎える。これから親として何ができるだろうか。

 僕は、先日、テレビで見た大阪府吹田市のいじめ予防プログラムを例として出して、事後対応に追われるのではなく、予防的に取り組む必要があるのではと前置きしてから、これから大変な時期を生きる子どもたちに生きる武器を手渡したいと話しました。
 生きる武器というのは、子どものもっている強みです。それを一緒に探して、育てていくことが大切です。転ばぬ先の杖で、親が先回りをして不安や壁になっていることを取り除くのではなく、子ども自身が自分の課題に挑戦し、悩み、仮に笑われたとしても、笑われることに耐え、何かあったとしても自分を立て直すことのできる子どもになってほしいのです。あれだけ悩んだことが、今の僕の財産になっていると思います。ぜひ、子どもと話をし、対話をして、今、子どもが抱えている課題を把握してほしいとお願いしました。

○新学期のたびに、新しい担任に理解してほしいと書いてきた。これでいいのだろうか。

 本人がそれを望んでいるのならいいけれど、親が勝手に書くのはどうかと思います。書く前にに必ず相談することです。子どもが書いてほしいというのなら、なぜ書いて欲しいのかをはっきりと確認し、どう書こうかと相談することです。今まで出会った子どもの中に、理解してほしいではなく、僕の話し方に慣れてほしいと言った子がいました。自分の身の周りの人にどう理解してほしいかは、どもる子ども本人に決定権があります。親としてはこうあってほしいと思うことはあるかもしれないけれど、親の課題と子どもの課題はちゃんと分ける必要があると思います。

○子どもは自分のどもりのことも含めて話をあまりしないし、将来の夢ももっていないようだ。しゃべらなくてもいいから大工になりたいと言っているが、将来を狭めているような気がする。本心からではないようにも思える。どう声をかけていいのだろうか。

 対話が大事です。なぜ、大工になろうと思ったのか、本当にしたい仕事としてのイメージをもてるのか、ただしゃべることが少ないことだけで考えたのか。ぜひ聞いてください。しゃべることが少ない仕事を目指すとしても、大工以外にないのかということも考えたいです。どもる人の中には、あえて話すことの多い仕事を選んだ人はいっぱいいます。そして、それがよかったと言っている人は少なくありません。どもる人がどんな仕事に就いているのか、吃音と就職について、日本吃音臨床研究会のホームページに動画があるので、それを見てほしいと思いました。保護者が「吃音と職業・就職」について情報をもっておくことが大事だと思います。世界の著名などもる人の話をし、劣等感の直接・間接補償についても話を広げました。

鹿児島吃音交流会1 長く設定してもらったはずの話し合いの時間があっという間に終わりに近づき、僕は、ぜひ話しておきたかった健康生成論についてコンパクトにまとめて話しました。コロナのことで説明するとわかりやすいようです。過酷な環境の中で、生き抜いてきている人はいます。吃音は、その人たちと比べると、そこまで大変なことではありません。どもることを認め、覚悟を決めれば、上手につき合っていくことができます。健康生成論が出てきたアウシュビッツの話も、子どもに分かるように話しておくこともいいのではと伝えました。 その後は、別室にいる子どもたちとの時間でした。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/19

「吃音の夏」のスタート

「吃音の夏」、スタートは鹿児島から

 今、鹿児島に来ています。今日は、どもる子どもたち、その保護者、ことばの教室の担当者たちとの吃音交流会でした。保護者向けに話をした後、子どもたちから質問を受ける形で話をしました。その様子については、後日にするとして、まず、6月15日、初めて空路で鹿児島入りしました。
 鹿児島には、これまでにも何度か来ています。2013年には、全国公立学校難聴・言語障害教育研究協議会全国大会鹿児島大会があり、記念講演をしましたし、2017年には、今回と同じ鹿児島県の難聴・言語障害研究県大会がありました。上野公園で演説の練習をした西郷隆盛像が街のあちこちにあり、どことなく懐かしい感じのする鹿児島の街です。

鹿児島1鹿児島3 6月16日、南九州市立知覧小学校で、第47回鹿児島県難聴・言語障害教育研究会南九州大会が開かれました。コロナの影響を受け、対面での研修会は久しぶりのようでした。知覧小学校のある知覧は、武家屋敷があり、南九州の小京都と言われる落ち着いた街でした。僕にとっては、知覧は、以前行ったことのある知覧特攻隊平和会館のある街です。
 武家屋敷の近くにある知覧小学校の体育館が会場でした。参加者は、約60名で、研修会が始まりました。講演は、午前に90分、午後に70分と2回予定されています。通常は講演となると90分です。とてもその時間では話しきれないので、県大会としての行事もある中で、講演時間をできるだけ長くとってもらえないかとお願いし、70分の追加の時間をとっていただきました。普通は考えられないことだろうと思います。
鹿児島5 講演のタイトルは、「どもる子どもが幸せに生きるために〜ことばの教室でできること〜」です。今年は、〈幸せ〉がキーワードです。
鹿児島6 導入は、知覧ということで、僕の大好きな高倉健さんの映画「ホタル」からスタートしました。鹿児島に来る前に、僕は録画してあった「ホタル」をもう一度見てきました。平和に、幸せに生きることを考えたいというところから、話を始めました。僕の経験、世界の流れ、真の吃音問題など、用意したパワーポイントは、最初のスライドから動かず、話が進んでいきました。健康生成論についてのみ絞ってお話する予定でしたが、健康生成論について話す前提として、僕自身の体験と吃音の取り組みの世界の歴史はある程度話しておかないといけないことでした。あっという間に、90分が過ぎました。昼休憩をはさんで午後の部の70分、話せなかったことは、たくさん用意した資料で補っていただくとして、これまで実践してこられたことの意味づけ、新しいキーワードを持っていただきたいと念押しして、講演は終わりました。健康生成論の首尾一貫感覚の要素、把握可能感、処理可能感、有意味感を育てることが、今後の教育に必要だという僕の主張が、なんとか伝わったという実感をもつことができました。
鹿児島11 この鹿児島での研修が、2023年度の「吃音の夏」のスタートでした。いいスタートが切れました。
 今日の「吃音交流会」は、僕の仲間の溝上さんが勤める原良小学校でありました。どもる子どもたち、保護者の方と過ごしたいい時間については、また後日、紹介します。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/17

生活に活かす〜実践的交流分析入門 1

 大阪吃音教室の定番の講座のひとつに、「交流分析」があります。僕は、交流分析を、杉田峰康さんの本から学びました。吃音ショートコースの講師は、その分野での第一人者にお願いしてきましたから、交流分析のときは、もちろん講師は杉田さんです。講義と演習を交えて、長い時間、杉田さんからたくさんのことを学びました。今でも、そのときの杉田さんの口調を忘れることはありません。「スタタリング・ナウ」2001.12.15 NO.88 で特集した、杉田さんの「生活に活かす〜実践的交流分析入門」の報告です。


  
生活に活かす〜実践的交流分析入門
                   講師 杉田峰康・福岡県立大学名誉教授

 2001年11月24日、午後1時から今年の吃音ショートコースのメインである交流分析の講義が始まった。交流分析は、大阪吃音教室でも中心的な講座として長年にわたり勉強している。しかも、その時に参考にする交流分析の本は、たいてい今回の講師である杉田峰康先生の書かれた本だ。また、杉田先生が交流分析を講義されているビデオを会員の一人が持っているため、先生の講義の様子、口調を知っているメンバーは多い。そのご本人から直接講義を受けられるとあって、今年の吃音ショートコースは自ずとワクワクしてくる。

三つの私(構造分析)
 杉田先生は、参加者が既に構造分析をある程度理解しているという前提に立って講義を始められた。まず「心の構造」として、私の心の中に存在する次の「三つの私」を考える。

P=Parent:親的な心(厳しい、批判、義務、保護、思いやり等)
A=Adult:大人の心(冷静に考える私)
C=Child:子どもの心(自由な感情表現、本能的、がまん、慎重、イイ子)

 次に、上記のPとCが未熟な「子どもの心の構造」について聞いた。子どもの心の構造は大部分がCであり、そのCの中に小さなP1、A1、C1が存在し、親の勝手な欲求、例えば「生まれてこなきゃよかった」や「男の子だったらよかったのに」という言葉は呪いのような命令となってP1に働く。
 するとCの中にあるA1は、その幼いリトル・プロフェッサー(生まれながら備わる直感と生存の知恵に富む部分)がする『幼児決断』として、「存在してはいけない」「考えてはいけない」といったような『禁止令』を受け取ってしまう。
 この時、私は自分自身のことについて次のことに気付いた。小学校入学前から吃音矯正所に通っていた私は、親から「どもってはいけない」と言われ続け、その結果私のリトル・プロフェッサーは「自由に話してはいけない」「本来の自分を見せてはいけない」という『禁止令』を受け取っていたのだろう。
 振り返るとこの禁止令がその後30年以上も私自身を拘束していたことになる。

心の働きをグラフにしてみませんか? エゴグラムの演習
 P、A、Cといった自分自身の心の状態(自我状態)がどの様なバランスになっているかをチェックするため、全員でエゴグラムを体験した。
 全部で50項目のチェックリストを杉田先生が順に読み上げ、全員が、はい(○)、どちらともつかない(△)、いいえ(×)とチェックし最後に、○:2点、△:1点、×:0点、で計算し、それをグラフに表す。グラフは左から順に以下の5項目が並び、各自の自我状態のバランスが一目で分かる。

CP:厳しい私、
NP:優しい私、
A:冷静な私、
FC:自由な私、
AC:人に合わせる私

 できあがったグラフを他の参加者と比べてみると、みんないろいろな形をしているのが面白い。ここで、3人のエゴグラムを例にとって杉田先生が比較してみる。すると、FCが高くてACの極端に低い人、それとは対照的な人、Aが優位な人などで、杉田先生がそれぞれの性格の特徴を分かりやすく解説された。
 この吃音ショートコースの参加者全員のエゴグラムで何が優位かを調べたところ、NPとACが高く、Aが低いことが解った。この結果は一般に吃音者に対して考えられているイメージ、つまり吃音者は優しいが、イイ子であったり人に合わせたりすることが多いというイメージと一致しているのが興味深い。(「スタタリング・ナウ」2001.12.15 NO.88)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/14
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