昨日の内須川洸先生に続いて、水町俊郎先生の感想を紹介します。僕の考え、僕たちの活動をじっくりと見て、しっかり考え、理解し、応援してくださった方でした。
水町先生との共著で、ナカニシヤ出版から『治すことにこだわらない、吃音とのつき合い方』を出しました。自分の担当の文章を仕上げ、出版を楽しみにされていた先生は、本の完成を待たずに病気のため亡くなられました。亡くなられる一ヶ月ほど前、愛媛大学の水町研究室で3時間ほど、最後の編集会議と、吃音談義をしました。後でお連れ合いに聞いた話ですが、この日はとても元気で、うれしそうだったそうです。僕との最後の吃音談義をするために、一時退院し、僕と会った翌日再び入院し、その後一ヶ月もたたないうちに亡くなられました。水町先生から付箋をいっぱい貼った本をいただきました。メモもいっぱい書いてありました。他者からいろんなことを貪欲に学ぼうとしていた水町先生の誠実さを感じ取ることができました。亡くなる前に、しっかりとお話ができて本当によかったと思います。僕がもう少し早く文章を書き上げていたら、完成した本を手にしていただけたのにと悔やみましたが、先生と共著で、〈治すことにこだわらない〉とのタイトルをつけて本を出版できたことは、大きな喜びでした。
『治すことにこだわらない、吃音とのつき合い方』(ナカニシヤ出版)は文字通り、水町先生の遺作となりました。当時64歳だった水町先生よりも、僕は遥かに年上になりました。もうすぐ79歳ですが、そのことが不思議でなりません。水町先生の書評を紹介します。
水町先生がここまで評価してくださった冊子は今は絶版です。その後、冊子は、芳賀書店から『吃音と上手につきあう吃音相談室』として出版しましたが、それも絶版となりました。そして、今は、NPO法人全国ことばを育む会から、『吃音とともに豊かに生きる』として出版されています。価格は、送料を含めて700円です。ご希望の方は、700円分の切手を同封して、下記までお申し込みください。
〒572-0850 寝屋川市打上高塚町1-2-1526
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/01/19
水町先生との共著で、ナカニシヤ出版から『治すことにこだわらない、吃音とのつき合い方』を出しました。自分の担当の文章を仕上げ、出版を楽しみにされていた先生は、本の完成を待たずに病気のため亡くなられました。亡くなられる一ヶ月ほど前、愛媛大学の水町研究室で3時間ほど、最後の編集会議と、吃音談義をしました。後でお連れ合いに聞いた話ですが、この日はとても元気で、うれしそうだったそうです。僕との最後の吃音談義をするために、一時退院し、僕と会った翌日再び入院し、その後一ヶ月もたたないうちに亡くなられました。水町先生から付箋をいっぱい貼った本をいただきました。メモもいっぱい書いてありました。他者からいろんなことを貪欲に学ぼうとしていた水町先生の誠実さを感じ取ることができました。亡くなる前に、しっかりとお話ができて本当によかったと思います。僕がもう少し早く文章を書き上げていたら、完成した本を手にしていただけたのにと悔やみましたが、先生と共著で、〈治すことにこだわらない〉とのタイトルをつけて本を出版できたことは、大きな喜びでした。
『治すことにこだわらない、吃音とのつき合い方』(ナカニシヤ出版)は文字通り、水町先生の遺作となりました。当時64歳だった水町先生よりも、僕は遥かに年上になりました。もうすぐ79歳ですが、そのことが不思議でなりません。水町先生の書評を紹介します。
ガイドブック『吃音と上手につきあうための吃音相談室』の書評
水町俊郎 愛媛大学教授
私は日本吃音臨床研究会から発行されている諸々の出版物の「読者」、というよりも「熟読者」です。ただ、最近は附属養護学校の校長を併任していることもあって、残念ながらそれらの出版物の全てにじっくり自を通す心理的余裕がありません。しかしこの度、『吃音と上手につきあうための吃音相談室』というガイドブックをお送りいただいたのを機会に、久しぶりに自分なりにじっくりと読み、読後感をまとめさせていただきました。
「はじめに」にも書いてありますように、1978年に『どもりの相談』というパンフレットが発刊されており、今回のガイドブック『吃音と上手につきあうための吃音相談室』はそれを充実させるという意図のもとに改変されたとのことです。私はこの読後感をまとめるにあたって、久しぶりに『どもりの相談』にも目を通しました。21年前のパンフレットと今回の『吃音相談室』に共通していることは、まさに、「具体的吃音対策法というよりも、具体的な吃音問題の背後にあるどもる人の生き方」を問うているその姿勢そのものです。この度の『吃音と上手につきあうための吃音相談室』は、その基本的姿勢を堅持しながらも、改変の意図どおりに、前回のものよりもずいぶん充実した内容となっていました。この21年間の関係者の継続的な前向きの努力の跡を随所にかいま見ることができました。そのひたむきで、真摯な姿勢に心から敬意を表したいと思います。
以下では、私がとくに印象深く思ったことことを中心に、簡単に読後感をまとめさせていただきます。
(1)吃音の先輩の経験が「見本」として提示してあること
「エリクソンのライフサイクル論」や「吃音に悩んでいる十代の君たちへ」の章は、伊藤伸二さんの自分史を骨子にしてまとめてあります。このことをどう捉えるかということと関連して、「見本」と「手本」ということについて述べてみたいと思います。
作家の五木寛之氏は、「生きるヒント4」(文化出版局)で、「ここに書かれたことは、ひとつの見本です。それを見て笑うもよし、呆れるもよし、反対するもよし、自由に受け取ってもらえば十分です」と述べています。「手本」とは「習字のお手本」ということからも分かるように、そっくり真似るためのものです。しかし、「見本」とは、ひとに判断の材料を提供するだけのことで、それをどう受け取るかは各自の判断に任されています。伊藤さんも再三にわたって、これはあくまでも「見本」であるという主旨のことを述べておられます。私は、伊藤さんの提示された「見本」は、吃音の読者に判断の材料を提供するという「見本」本来の役割を十分に果たしていると思います。
(2)思春期のどもる人の問題を取り上げていること
吃音の問題を考えるとき、これまでは往々にして、幼児やせいぜい小学校低学年あたりまでの子どもやその親、それと成人のどもる人のことが中心に取り上げられ、中学生や高校生のような思春期の吃音の問題は等閑視されてきたように思います。その点、「吃音に悩んでいる十代の君たちへ」の章はとくに、吃音問題の「谷間」を埋めるための数少ない試みのひとつとして高く評価できると思います。
『自分を好きになる本』で有名なパット・パルマーさんは、彼女のもう一冊の本『おとなになる本』(径書房)の中で、生きる方向を見失っている若者に対して、まず「自分の現在地」を確認することを勧めています。このガイドブック『吃音と上手につきあうための吃音相談室』は、吃音という森に迷い込んでいる若きどもる人が、「自分の現在地」を確認する作業を開始しようとする時、おそらく良きガイド役を果たしてくれることでしょう。
(3)どもる子どもをもつお母さんへの提言が詳細かつ具体的であること
「お母さんへ」の章に一番多くのページが費やされていますが、量が多いだけではなくて、質の面においても読みごたえのあるものになっています。吃音が問題となるのは、吃音を《隠す、逃げる》、《否定する》ようになることであるという視点から、どもる子どもがそのような方向へ進まないための親のあり方について述べられています。「親がまず吃音を受け入れない限り、子どもが吃音および自分を受け入れるようにはならないこと」、「吃音をできるだけ意識させない接し方ではなくて、吃音のことをオープンに話す、いわゆる吃音の早期自覚教育が必要なこと」、「コミュニケーション能力を育てるという観点から子どもに接すること」、「DCモデル、あるいは交流分析の考え方を参考にして子どもに対する自分の接し方を問いなおしてみること」などがこの章で述べられているポイントではないかと思います。これらの提言は、どもる子どもを抱えて悩んでおられるお母さん方にとって貴重な指針となることでしょう。
(4)どもる子どもの学校生活を豊かにするという視点からの提言がなされていること
ガイドブック『吃音と上手につきあうための吃音相談室』の大きな特色の一つは、「学級担任の先生へ」の章を、言語障害児教育の現場の状況に詳しい堀彰人先生が執筆されているということでしょう。「学校生活の中で、どもっているその子が受け入れられ、どもっていても自分を表現し、その子らしく学校生活を楽しむことができているかが大切なことです」、「一方的な推測をもとに配慮するのではなく、直接子どもと話し合いながら不安や緊張への対処を考えていけることが理想だと思います」、「どもることが目立ってきても、それが必ずしも悪い状態ではなく、心理的に成長し始めている時期であることが少なくありません」、「"〜しない子"というように、その子の側だけで見るのではなく、相手や状況との関係による相違を見ていくことが必要です」というような貴重な多くの提言がなされています。それと同時に、学級担任とことばの教室担当の先生との連携によって、子どもの学級での生活がとても円滑にいくようになった例が数多く紹介されています。
受け持っているどもる子どもとの日常の係わりの中で戸惑ったり、不安に思ったりしておられる学級担任の先生方には大いに参考になることでしょう。(「スタタリング・ナウ」1999.7.17 NO.59)

〒572-0850 寝屋川市打上高塚町1-2-1526
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/01/19