僕は、1965年の秋に11名の仲間と創立した言友会で、長年全国組織の事務局長や会長をしてきました。1994年に、事情があって、僕は大阪、神戸の仲間と共に全国言友会から離脱しました。それから26年経ち、今では、目指す方向が随分と違ってきたように思います。僕の、吃音の改善を目指すのではなく、徹底して「生き方の問題」だとする姿勢は、会創立以来55年ですが、全く揺らぐことはありません。
精神医療、臨床心理学の領域が、健康生成論、レジリエンス、ナラティヴ・アプローチ、当事者研究、オープンダイアローグへと関心が広がっています。この流れは、僕たちが考えてきた方向と、ほとんど軸を同じにしています。今日紹介する文章は、僕がまだ言友会に所属していた頃、1991年12月12日に書いたものです。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/1/19
精神医療、臨床心理学の領域が、健康生成論、レジリエンス、ナラティヴ・アプローチ、当事者研究、オープンダイアローグへと関心が広がっています。この流れは、僕たちが考えてきた方向と、ほとんど軸を同じにしています。今日紹介する文章は、僕がまだ言友会に所属していた頃、1991年12月12日に書いたものです。
セルフヘルプグループの社会的意義
伊藤伸二
「セルフヘルプグループ活動は究極の遊びだ」と巻頭言に書いた時、共感もあったが、批判も寄せられた。「セルフヘルプグループ活動の社会的意義から考え『遊び』と言われては困る」との指摘だった。
もとより、セルフヘルプグループの持つ社会的意義は承知しており、それは益々高まることはあっても低まることはない。
だからこそ、私たちは肩肘をはらず、おおらかに、楽しみながら続けたい。
吃音を治すことだけに関心があった言友会創立当初は、自分のことだけに目が向いていた。セルフヘルプグループ活動を続ける中で、広く社会や、後に続く吃音の後輩にも目が向くようになった。活動は徐々にその輪を広げていった。
しかし、今、セルフヘルプグループはある意味で安定期を迎え、当初ほどエネルギーを使わずとも、それなりの地域の活動はできる。「新しい会員が入ることが少ないので、同じ顔ぶれになっているが、それなりに楽しい例会ができている。しかし、社会的に動こうとするエネルギーが今一つ高まってこない」とあるリーダーは言う。
セルフヘルプグループの社会的意義が高まる中で、これまでセルフヘルプグループがどのように社会的に目を開き、また今後開こうとしているか、全国の仲間と論議しておくのも意味のないことではない。
◎会員外の読者の広がり
言友会の会員のみを対象としたニュースレターから、今は、広く吃音に関わる人々と、吃音問題を通してコミュニケーションしたいと編集方針を変えて発行している。ことばの教室の教員の読者が大幅に増えた。難しすぎるとの会員の声もあるが、読書会が持たれたり、例会で活用しているところもある。
◎『全国大会』から『吃音ワークショップ』へ
その年の運動方針だけを討議する全国大会から、どもる人個人の成長に焦点をあて、参加者の吃音問題解決に役立つように、また、一人で悩んでいるどもる人や吃音に関わる幅広い人々が参加しやすいように『吃音ワークショップ』と改めた。ことばの教室の教員の参加者が増加しつつある。国語学者、禅僧、俳優、アナウンサー、映画監督、医師、心理臨床家など幅広く学んだことは例会活動にも生かされている。
◎国際大会への取り組み
世界における吃音治療、研究、臨床の動向を知り、世界的レベルで吃音問題を考えていきたいと、日本で第1回国際大会を開いた。以後、世界交流のネットワークは広がり、第2回・西ドイツでは18か国、約550名が参加した。そして、来夏は第3回大会がアメリカ・サンフランシスコで開かれる。
◎パンフレット、ブックレット等の発刊
吃音研究者、ことばの教室の教員、どもる子どもの親、成人吃音の私たちが知恵を出し合い、議論を重ねて作成したパンフレット『どもりの相談』は、現在2万5千部がことばの教室や保健所などに広まっている。最新刊のブックレットも好評である。
◎親の会とのつき合い
第14回全国言語障害児をもつ親の会全国大会に私も参加したが、初めて分科会の中にOB部会が入った。岩手県盛岡市のことばの教室OBの大坊英一さんの『私の人生』と題する難聴者としての体験発表は、両親に、また、現在通級している子どもたちに、勇気と展望を与えた。この分科会は、OB組織「やまびこ会」の活動があって初めて実現したものだ。今後、難聴だけでなく口蓋裂、吃音が話題になってくるものと思われる。OBとしての私たちにできることがあるかもしれない。
また、親の会が現在、進めていることばの教室の「通級制」の充実に関する運動に、成人の私たちとしての役割があれば、積極的に担っていきたい。
◎吃音親子サマーキャンプと両親教室
吃音親子サマーキャンプやどもる子どもの親のための両親教室の中で、成人の私たちは自らの人生を語る。小学生から高校生、親、そして私たちが一つの輪になって互いの話に耳を傾け、語り合う。自らの吃音にのみ取り組んでいた初期のセルフヘルプグループとは別人のように変わってきているのである。
今後も、人と人との関わりを大切にし、楽しく活動を展開していきたいと思う。
1991.12.12
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/1/19