4日前に、日本吃音臨床研究会のホームページの問い合わせ欄から、1本のメールが入りました。見覚えのある名前です。吃音親子サマーキャンプに参加したことのある子からでした。本文を読むと、第19・20・21回と、連続して3回、サマーキャンプに参加したとありました。もう大学生になっています。大学では、教育・心理学の勉強をしているそうです。
僕のブログを読んで、その中で、宮城県女川町から参加し、大津波で亡くなった阿部莉菜さんの名前をみつけ、連絡してきてくれました。莉菜さんと同じ部屋で宿泊したとのことでした。亡くなったことを知らず、びっくりしていました。
今も、どもりながら、でも、吃音とうまくつきあっているとのことでした。一番しんどかった時期に母がサマーキャンプに連れていってくれたことがよかったとメールにありました。サマーキャンプに連れていってくれたお母さんが7年ほど前に亡くなられたそうなのですが、サマーキャンプの資料は残されていて、その中に、お母さんのメモがたくさんあったそうです。母親と一緒に、吃音とともに豊かに生きる道を歩いてきたことが分かりました。「サマーキャンプは、私の中で唯一、『吃音』と『楽しい思い出』が結びついたもので、サマーキャンプに感謝している」と、メールは結ばれていました。
8月の終わりから、このブログで、サマーキャンプの特集を続けています。今年のサマーキャンプが中止になってしまったので、その代わりにと始めたものですが、そのブログを読んでくれている人の存在を確かに感じることができ、それが一時期共に過ごした参加者だったこと、ありがたいと思いました。
そして、何より、吃音親子サマーキャンプを続けてきたこと、よかったなあと思いました。
第26回吃音親子サマーキャンプ 2015年
会場 滋賀県彦根市荒神山自然の家
参加者数 138名
芝居 雪わたり
第26回吃音親子サマーキャンプを特集したニュースレターの巻頭言
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/10/7
僕のブログを読んで、その中で、宮城県女川町から参加し、大津波で亡くなった阿部莉菜さんの名前をみつけ、連絡してきてくれました。莉菜さんと同じ部屋で宿泊したとのことでした。亡くなったことを知らず、びっくりしていました。
今も、どもりながら、でも、吃音とうまくつきあっているとのことでした。一番しんどかった時期に母がサマーキャンプに連れていってくれたことがよかったとメールにありました。サマーキャンプに連れていってくれたお母さんが7年ほど前に亡くなられたそうなのですが、サマーキャンプの資料は残されていて、その中に、お母さんのメモがたくさんあったそうです。母親と一緒に、吃音とともに豊かに生きる道を歩いてきたことが分かりました。「サマーキャンプは、私の中で唯一、『吃音』と『楽しい思い出』が結びついたもので、サマーキャンプに感謝している」と、メールは結ばれていました。
8月の終わりから、このブログで、サマーキャンプの特集を続けています。今年のサマーキャンプが中止になってしまったので、その代わりにと始めたものですが、そのブログを読んでくれている人の存在を確かに感じることができ、それが一時期共に過ごした参加者だったこと、ありがたいと思いました。
そして、何より、吃音親子サマーキャンプを続けてきたこと、よかったなあと思いました。
第26回吃音親子サマーキャンプ 2015年
会場 滋賀県彦根市荒神山自然の家
参加者数 138名
芝居 雪わたり
第26回吃音親子サマーキャンプを特集したニュースレターの巻頭言
ひとつの家族の物語
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二
「サマーキャンプでは、みんなが吃音について話し合うことから始めて、やがて吃音を超え、苦労すること、悩むこと、そして生きることについての思いを分かち合う。2泊3日の時間と、様々な活動を通して、吃音の子どもと親とスタッフの140人あまりの集まりは、緩やかで、いろいろで、そして大きなひとつの家族になっていく」
TBSの報道番組「報道の魂」を企画・制作した斉藤道雄さん(現在は、手話と日本語の2つの言語で教育する明晴学園理事長)が、その放送をもとに、TBSニュースバードで、自ら解説員として解説し、41分の吃音を特集した番組を作って下さった。吃音を考える上で最適な教材として、私が担当する言語聴覚士を養成する大学や専門学校では、必ずそのDVDを学生に見てもらう。
何度も何度も見ている映像だが、見飽きることがない。そして、このナレーションが流れる2日目の夜の、それぞれが談笑しながら、楽しそうに、野外でカレーを食べているシーンが私は大好きだ。まさに、大家族がひとつ屋根の下で食事をしているかのようだ。
キャンプは今年で26年になる。毎年キャンプの準備を始める頃、不安に襲われる。これまでのキャンプは、参加者もスタッフも満足するいいキャンプになった。果たして今年は、例年のようにいいキャンプになるだろうか。140名を超えるキャンプには、40名以上のスタッフが必要になる。スタッフは交通費も参加費も自ら支払って参加する。昨年までのようにスタッフが集まってくれるだろうか。毎年、毎年このような不安に駆られるが、今年も沖縄県をはじめ九州各地から、関東地方から大勢のことばの教室の教師や言語聴覚士が集まってくれた。そして、キャンプが終わった時、みんなで、今年もいいキャンプだったねと、振り返ることができた。そのようなことを、一年、一年と積み重ねて26年。これはもう奇蹟に近いのではないかと思えてならない。子どもには子どもの、親には親の、スタッフにはスタッフの、それぞれのドラマがある。そのひとつひとつを明らかにしていけば、壮大な人間ドラマになるだろう。
12月4日、横浜市で、横浜市教育委員会が主催する「保護者教室」があった。どもる子どもの保護者会なので、多く集まっても30名程度だろうと予想していたのが、130名ほどが参加した。定員いっぱいで、断られた人が、翌日、私が主宰する吃音相談会に参加するなど盛況だった。大学や専門学校での講義、今回のように保護者に対する講演の場合でも、私の話の中心は、吃音親子サマーキャンプで出会った子どもたちだ。その子どもたちが成長し、就職し、子育てをしている。ある一定の短期間、つきあうのではなく、その子どもが望めば、その子どものその後の長い人生にもつきあう。長いスパンで子どもとつきあっているからこそ、見えてくるものがある。
1965年の夏から始まった私の吃音と向き合う人生。様々な活動をしてきたが、最も基本として大切にしてきたことは、私自身が本当にしたいこと、楽しいこと、一緒に取り組んでくれる仲間がいることしか、しないということだ。私を含め、一人の力は弱く、小さいが、志を同じくする人の力が集まればこのようなことができるのだ。私は「世のため、人のために」と、してきたのではない。自分の喜びであり、楽しみであり、自分がわくわくすることだけをしてきたに過ぎない。その自分本位の様々な活動に、多くの人が関わって下さり、参加した人たちが、参加したことが人生の転機になったと言って下さる。こんなことを50年も続けることができた私はなんと幸せなことか。どもりの神様に感謝せずにはいられない。(了)(2015.12.20)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/10/7