大阪人権博物館(リバティ大阪)が、本日、閉館
5月26日付け朝日新聞の夕刊で、大阪人権博物館(リバティ大阪)がいったん閉館するとのニュースを知りました。2008年、当時の橋下徹府知事から「展示内容が分かりにくい。公金を投入する意味を感じない」「差別、人権などネガティヴな部分が多い」と見直しを求められた大阪人権博物館。反論もしたし、なんとか継続できるよう模索を続けたのですが、立ちゆかなくなり、閉館になったとありました。これはぜひとも、見ておかないといけないと思い、出かけました。
新聞記事を見られた方もおられたようで、多くはないけれど、それなりの人出でした。
閉館間際のため、特別に入館料は無料でした。中は、3つのゾーンに分かれていました。
ゾーン1 いのち・輝き
この世に生まれてくるということ、生きているということについて考えるコーナーです。私たちの生命はかえがえのないものです。この世に生まれて来たすべての生命が大切にされる社会について問いかけています。
・人工呼吸器をつけて生きる
・性別にとらわれない生き方
・働く権利
・DVや児童虐待
・HIV/AIDS
・環境
・犯罪被害者 など
ゾーン2 ともに生きる・社会をつくる
大阪から日本や世界を見渡すと、多くの文化や生活、歴史があることに気づきます。さまざまな文化や人びとの生き方が大事にされ、共に生きる社会をつくるために私たちに何ができるのかを考えるコーナーです。
・世界と大阪
・在日コリアン
・ウチナーンチュ
・アイヌ民族
・ハンセン病回復者
・障害者
・ホームレス
・被差別部落
・大阪の歴史 など
ゾーン3 夢・未来
世の中にはさまざまな職業があり、多くの人たちが働いています。働く人がどんな体験をしているかを知ることや、自分に合った仕事を調べることなどを通して、夢や未来について考えるコーナーです。
・いじめ
・働くということ など
主な所蔵品としては、次のようなものがあります。
・島崎藤村の小説「破壊」の初版
・朝鮮の人々が日本の植民地支配に抵抗する三・一独立運動のビラ
・水俣病を世界に伝えた米国人写真家の故ユージン・スミスのオリジナルプリント
・差別戒名を刻んだ墓石
・「解体新書」「蘭学事始」の実物 江戸時代の医学者杉田玄白が刑死者の遺体解剖に立ち合った際、被差別身分の人が執刀矢説明を担った。
・琉球使節の「江戸上り」の絵画 江戸時代に薩摩藩の支配下にあった琉球王国が、国王即位の際に江戸に謝恩使を送った様子を描く。
・足尾銅山鉱毒問題に取り組んだ田中正造のはがき
・戦前にアイヌの人たちが差別撤廃を訴えた講演会のポスター
・ハンセン病療養所で使えるお金「園内通用票」
・米占領期の沖縄の人たちのパスポート
部落問題を中心に展示されていると思っていましたが、それだけではなく、さまざまな差別、人権問題について、来館者に問いかけ、考えてみようと投げかけているようでした。幅広く扱っているため、雑多な感じがするのですが、そこに流れているのは、ひとりひとりを大切にするということだろうと思います。それができていれば、悲しいできごとは起こりません。僕は、吃音を通していろいろなことを考えてきました。その中で、吃音だけでなく、様々な障害や生きづらさについても考えるようになりました。吃音を深く考えることで、吃音の外の世界も広がったような気がします。
どの博物館でも、ショップでは、いつも買い物をしますが、今回は、『障害学の現在』(2002年・大阪人権博物館)と、『ビジュアル部落史3巻 水平運動と融和運動』(2007年・大阪人権博物館)を買ってきました。『障害学の現在』には、2018年に僕を東京大学先端科学技術研究センター主催の講演会に講師として呼んで下さった、福島智教授の「盲ろう者と障害学」、稲葉通太さんの「ろう文化へのアプローチ」が納められています。
また、展示されていた、島崎藤村の小説『破壊』の初版本も目につきました。僕はこれまで何度も書いてきたように、映画や文学、小説からいろんなことを学んできました。小説では下村湖人の『次郎物語』を挙げてきましたか、もっと大事な本があったと気づきました。『破壊』です。被差別部落出身だということを隠せと父から強く戒められていた青年教師・瀬川丑松が、苦悩の末、ついにその戒めを破るシーン。自分が教えている生徒に「みなさん、許して下さい」で始まる、自分が被差別部落出身であることを語る文章を、中学生頃だったか、何度も何度も声に出して読んでいました。時には泣きながら読んでいた記憶が少し残っています。
差別は許せないとの思いと、当時はあまり意識していなかったものの、吃音を隠し続ける人生、話すことから逃げる人生に危うさを感じていたのだと思います。それが後に、僕が『水平社宣言』に影響を受けて起草した『吃音者宣言』に結びついたのだろうと思います。『吃音者宣言』は『水平社宣言』に影響を受けました。それは間違いないことですが、大阪人権博物館で、島崎藤村の小説『破壊』の初版本を目にしたことで、ここに、僕の原点があったのだと気づきました。新しい気づきでした。
今日で5月が終わります。予定していた研修会や講演会が全てキャンセルになり、ぽっかりと穴があいたような1ヶ月でしたが、なんとか、ブログ、Twitter、Facebookは、ほぼ毎日書き続けることができました。5月の終わりに、閉館間近となった大阪人権博物館に行き、『水平社宣言』『破壊』に出会ったことをひとつの縁と思い、明日から、『吃音者宣言』について、これまでに書いたもの、書かれたものを紹介していこうと思います。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/5/31
5月26日付け朝日新聞の夕刊で、大阪人権博物館(リバティ大阪)がいったん閉館するとのニュースを知りました。2008年、当時の橋下徹府知事から「展示内容が分かりにくい。公金を投入する意味を感じない」「差別、人権などネガティヴな部分が多い」と見直しを求められた大阪人権博物館。反論もしたし、なんとか継続できるよう模索を続けたのですが、立ちゆかなくなり、閉館になったとありました。これはぜひとも、見ておかないといけないと思い、出かけました。
新聞記事を見られた方もおられたようで、多くはないけれど、それなりの人出でした。
閉館間際のため、特別に入館料は無料でした。中は、3つのゾーンに分かれていました。
ゾーン1 いのち・輝き
この世に生まれてくるということ、生きているということについて考えるコーナーです。私たちの生命はかえがえのないものです。この世に生まれて来たすべての生命が大切にされる社会について問いかけています。
・人工呼吸器をつけて生きる
・性別にとらわれない生き方
・働く権利
・DVや児童虐待
・HIV/AIDS
・環境
・犯罪被害者 など
ゾーン2 ともに生きる・社会をつくる
大阪から日本や世界を見渡すと、多くの文化や生活、歴史があることに気づきます。さまざまな文化や人びとの生き方が大事にされ、共に生きる社会をつくるために私たちに何ができるのかを考えるコーナーです。
・世界と大阪
・在日コリアン
・ウチナーンチュ
・アイヌ民族
・ハンセン病回復者
・障害者
・ホームレス
・被差別部落
・大阪の歴史 など
ゾーン3 夢・未来
世の中にはさまざまな職業があり、多くの人たちが働いています。働く人がどんな体験をしているかを知ることや、自分に合った仕事を調べることなどを通して、夢や未来について考えるコーナーです。
・いじめ
・働くということ など
主な所蔵品としては、次のようなものがあります。
・島崎藤村の小説「破壊」の初版
・朝鮮の人々が日本の植民地支配に抵抗する三・一独立運動のビラ
・水俣病を世界に伝えた米国人写真家の故ユージン・スミスのオリジナルプリント
・差別戒名を刻んだ墓石
・「解体新書」「蘭学事始」の実物 江戸時代の医学者杉田玄白が刑死者の遺体解剖に立ち合った際、被差別身分の人が執刀矢説明を担った。
・琉球使節の「江戸上り」の絵画 江戸時代に薩摩藩の支配下にあった琉球王国が、国王即位の際に江戸に謝恩使を送った様子を描く。
・足尾銅山鉱毒問題に取り組んだ田中正造のはがき
・戦前にアイヌの人たちが差別撤廃を訴えた講演会のポスター
・ハンセン病療養所で使えるお金「園内通用票」
・米占領期の沖縄の人たちのパスポート
部落問題を中心に展示されていると思っていましたが、それだけではなく、さまざまな差別、人権問題について、来館者に問いかけ、考えてみようと投げかけているようでした。幅広く扱っているため、雑多な感じがするのですが、そこに流れているのは、ひとりひとりを大切にするということだろうと思います。それができていれば、悲しいできごとは起こりません。僕は、吃音を通していろいろなことを考えてきました。その中で、吃音だけでなく、様々な障害や生きづらさについても考えるようになりました。吃音を深く考えることで、吃音の外の世界も広がったような気がします。
どの博物館でも、ショップでは、いつも買い物をしますが、今回は、『障害学の現在』(2002年・大阪人権博物館)と、『ビジュアル部落史3巻 水平運動と融和運動』(2007年・大阪人権博物館)を買ってきました。『障害学の現在』には、2018年に僕を東京大学先端科学技術研究センター主催の講演会に講師として呼んで下さった、福島智教授の「盲ろう者と障害学」、稲葉通太さんの「ろう文化へのアプローチ」が納められています。
また、展示されていた、島崎藤村の小説『破壊』の初版本も目につきました。僕はこれまで何度も書いてきたように、映画や文学、小説からいろんなことを学んできました。小説では下村湖人の『次郎物語』を挙げてきましたか、もっと大事な本があったと気づきました。『破壊』です。被差別部落出身だということを隠せと父から強く戒められていた青年教師・瀬川丑松が、苦悩の末、ついにその戒めを破るシーン。自分が教えている生徒に「みなさん、許して下さい」で始まる、自分が被差別部落出身であることを語る文章を、中学生頃だったか、何度も何度も声に出して読んでいました。時には泣きながら読んでいた記憶が少し残っています。
差別は許せないとの思いと、当時はあまり意識していなかったものの、吃音を隠し続ける人生、話すことから逃げる人生に危うさを感じていたのだと思います。それが後に、僕が『水平社宣言』に影響を受けて起草した『吃音者宣言』に結びついたのだろうと思います。『吃音者宣言』は『水平社宣言』に影響を受けました。それは間違いないことですが、大阪人権博物館で、島崎藤村の小説『破壊』の初版本を目にしたことで、ここに、僕の原点があったのだと気づきました。新しい気づきでした。
今日で5月が終わります。予定していた研修会や講演会が全てキャンセルになり、ぽっかりと穴があいたような1ヶ月でしたが、なんとか、ブログ、Twitter、Facebookは、ほぼ毎日書き続けることができました。5月の終わりに、閉館間近となった大阪人権博物館に行き、『水平社宣言』『破壊』に出会ったことをひとつの縁と思い、明日から、『吃音者宣言』について、これまでに書いたもの、書かれたものを紹介していこうと思います。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/5/31