先だっての松元ヒロさんに続いて、白石正明さんをみつけた
4月28日の朝日新聞朝刊の「be on Saturday」に、「ケアの可能性広げるキラーパス」との見出しと写真入りの大きな記事が載っていました。写真の人は、昨年1月、渋谷のロフト9で、映画とトークのイベントに登壇していただいた、医学書院の編集者・白石正明さんです。映画とトークのイベントでの話は、日本吃音臨床研究会の機関紙『スタタリングナウ』の2017年の4・5月号で2回に渡って紹介しています。その中から、白石さんのことばを取り出して紹介します。
名物編集者の白石さん、「軽い吃音がある」と紹介されています。そのことは、イベントの控え室で、僕は、ご本人から聞いていました。そして、本番の舞台では、司会役の永田浩三さんから、吃音の話題を振られ、白石さんは、こんなふうに語り始めました。
白石 僕も小学校、中学校の頃、どもるみなさんと同じで音読が苦手でした。音読というのは、みんな教科書を見ていますから、次にどんなことばが来るのかを全員が知っているわけです。その知っていることばを出すというのが、苦手でした。成績は中の上ぐらいだったんですが、音読で言えなくなるたびに、自己評価は成績最下層の友だちのさらにその下に格下げされる。その情けない感覚は今でも残っていますね。
白石さんは、「シリーズ ケアをひらく」を担当し、『べてるの家の「非」援助論』など30冊を刊行されていますが、そのキーワードは、「当事者」とか、「治療とは違う文脈で見ていこう」ということのようです。そこにこめられたこだわりについて、このように語っています。
白石 最初に「べてるの家」に出会ったのは、もう20年以上前のことです。『精神看護』という雑誌を創刊するにあたって取材をしていったら、「北海道で儲けている精神障害者の人たちがいる。統合失調症で儲けている作業所らしい」みたいな話があって、それが商売になるのかとびっくりして、浦河に行ったのが初めです。
浦河で行われていたのは、それを「治す」というよりも、それを「使う」と言うか、その個性を逆に商品にするという発想でした。スキャットマン・ジョンとも近いところがあると思うんですが、治さなきゃいけないと思っている人にとって、これはすごい希望ですよね。僕自身、ちゃんとしゃべらなければと思うと、よけいことばが出てこない。そんなこともあったので、「それでもいい」じゃなくて「それがいいんだ」と言ってくれるべてるが、僕自身がすごく気持ちよかったんです。気持ちよかったのと同時に、「これ、売れるんじゃないか」と(笑)。
最近、吃音と言わずに、「吃音症」という言い方をする人の相談を受けることが少なくありません。「症」がつくと、治療しなきゃいけないものになってしまうように思います。白石さんは、治療ではなく、不具合を抱えながらも生きていく、道はたくさんあるということにことにこだわっていらっしゃるようです。
白石 僕は、医学書院の中で全くのマイナーです。基本的にはやっぱり「吃音症」を「治す」方向ですが、それはそれでいいと思っています。そういうのがあってもいいんだけど、それ以外の道もたくさんあることが覆い隠されてしまうのは、問題だと思っています。だから、自分としては、そうじゃない道もたくさんあるということを、自分のためにも、やってきているわけです。
今、精神医療の分野でブームになっているのが「オープンダイアローグ」です。これまで急性期はとにかく薬で鎮静して、しばらく経ってから社会復帰ということだったんですが、最近はその急性期の人のところに数人で行って、何をするかというと、単に雑談をする。話をすることによって回復させようという動きがあるんです。さっきの話で言えば、「治療するかしないか」じゃなくて、「一人なのか複数なのか」という選択肢が、大きなテーマになっているんですね。
「治療しない」と言っても、一人でいては多分同じことです。仲間と一緒に何かをする場を設定できるかどうかというのが、決定的に重要になってくると思います。
スキャットマン・ジョンも、アルコールとか薬物とか、セルフヘルプグループで回復した。吃音も全く同じで、治療関係の中で先生に何かを教えてもらって治すではなくて、そういうオープンダイアローグ的な場で、生きやすくなっていく。そういうことがメインストリームになっていくんじゃないかと思っています。
白石さんのことばには、僕たちに通じる、たくさんのことばがありました。初めてお会いしたにもかかわらず、僕は、あの日、渋谷で気持ちよくお話させていただきました。この新聞記事を読みながら、あの場の、なんともいえない心地よさを思い出しました。
もうすぐ刊行されると聞いている、伊藤亜紗さんの本「どもる体」、とても楽しみです。
「べてるの家」との出会いは、僕たちと共通するものです。僕は、べてるの家の向谷地さんと一緒に、『吃音の当事者研究−どもる人たちが「べてるの家」と出会った』(金子書房)を出版しました。おもしろい本です、是非お読み下さい。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/04/29