伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

2015年09月

吃音ファミリー

第26回吃音親子サマーキャンプ 13

  吃音ファミリー

 滋賀県彦根市にある荒神山自然の家は、僕の住む大阪より少しだけ秋の訪れが早いようです。8月の第3週に行われる吃音親子サマーキャンプの頃は、そろそろ秋の訪れを感じさせます。特に今年は、過ごしやすい3日間でした。
 サマーキャンプという名前がついていますが、いわゆるキャンプの要素が少ない僕たちのキャンプ、唯一2日目の午後の荒神山へのウォークラリーが野外活動です。
 子どもたちは、劇の練習後に、演劇・生活班ごとにウォークラリーに出発します。最近は、若いスタッフがリーダーになり、高校生が率先して、年下の子どもたちの面倒を見て、みんなで協力し、荒神山の頂上を目指します。ここでもいろいろなドラマが生まれています。
 頂上からは、琵琶湖が見え、とてもきれいだそうです。というのは、僕はこの時間、親の学習会をしているので、ウォークラリーには一度も参加したことがないのです。帰ってきた子どもたちの、疲れたけれど満足そうな顔を見て、ウォークラリーの楽しさを想像しています。
 
カレー1

カレー2

 この日の夕食は、自然の家の食堂で作ってもらったカツカレーを外のクラフト棟で食べます。以前はカレーだったのですが、20周年記念のときにカツカレーにして、好評だったため、その後ずっとカツカレーです。
 子どもたちは劇の練習と荒神山へのウォークラリーで、親たちは学習会でみっちり学習したため、外での夕食は、格別です。ご飯もカツもカレーもたっぷり。みんなお代わりをして、大満足です。クラフト棟のすぐそばの小山を駆け下りる子どもたち、フリスビーや野球を楽しむ子どもたち、テーブルを囲んで大きな笑い声をあげている若者たち、参加者もスタッフも区別がつかない、リラックスした、いい光景です。

カレー3

カレー4
 民間放送のTBSが「報道の魂」で吃音親子サマーキャンプを取り上げたとき、このカレーの食事の光景に、こんなナレーションが流れます。
 「サマーキャンプでは、みんなが吃音について話し合うことから始めて、やがて吃音を超え、苦労すること、悩むこと、そして生きることについての思いを分かち合う。2泊3日の時間と様々な活動を通して、吃音の子どもと親とスタッフの140人あまりの集まりは、緩やかで、いろいろで、そして大きなひとつの家族になっていく」
 アキアカネが飛び交い、気持ちのいい風が吹き、あちこちで語らいがあり、僕は、毎年、この光景を見るのが大好きです。まさに吃音ファミリーだと実感します。

日本吃音臨床研究会  伊藤伸二  2015/9/28

親から見た子どものレジリエンス

第26回吃音親子サマーキャンプ 12

親の学習会
親の学習会1
親の学習会2伊藤伸二
 サマーキャンプ2日目午後のプログラム、子どもは劇の練習と荒神山へのウォークラリー、親は学習会です。親の学習会は、午後1時から5時過ぎまであり、伊藤伸二が担当します。
 これまで、学習会は、吃音について聞きたいこと知りたいことを質問してもらってそれに答えたり、「吃音ワークブック」や「吃音とともに豊かに生きる」などをテキストにして吃音の基礎知識を学んだり、アサーション・トレーニングや論理療法のエクササイズを取り入れたり、どもる当事者の体験談を聞いて質疑応答をしたり、いろんなことをしてきました。今年は、レジリエンスを育てるというテーマに沿って、親からみた子どものレジリエンスを考えました。
 『サバイバーと心の回復力−逆境を乗り越えるための七つのリジリアンス』(金剛出版)を元にして、僕が、僕の体験を通して、レジリエンスとは何かについて説明した後、親たちに、自分の子どもの強み、子どものもつレジリエンスを、7つの構成要素の中のどれに当てはまるか考えながら、具体的なエピソードを書いてもらいました。ひとりひとりが書いた後、これまでの話し合いのグループごとに分かれ、模造紙に図解していきました。そして、最後に、みんなの前で発表したのです。

親から見た自分の子どものレジリエンス

親の学習会3

親の学習会4

 洞察(自分の問題について考え、学び、理解する)
・「どもる君へ」の本を読んで、自分のどもりと向き合う。サマキャンに行って、どもる子やどもる大人の人たちと会って、話を聞いたりして、どもりのことを知る。
・「この話し方は、僕の持病なんだよね」と自分から私に打ち明けてくれた。それまで親子の間でどもっている話し方について話題に話したことがなかったので、驚きましたが、息子なりに自分のしゃべり方が他人と違うことに気づいて、これは何かなと悩み、私の本棚からどもりについて書いてある本を取り出して読んでいたようです。認識は多少ズレていましたが、自分なりに理解しようしていたと知りました。そして、クラスにいるもう一人のどもる子どものことも「だから、オレは絶対その子のことも笑わへん」と言っている。・幼稚園年長から、小学校低学年にかけて、「私は他の子と違って、お話しようとするときにつまるの」と訴えてきた。
・息子が話し終わるまで、時間がかかる、妙な間に、聞きづらいなあという思いが顔に出た祖母が、「ゆっくり話したらいいねん」と息子に言ったとき、息子は一言「おばあちゃん、オレはこんなしゃべりかたやねん」と言った。
・小1のときにクラスでからかいがあり、「自分だけがこんな話し方なのかな」と言った。それから神戸の集いに参加するようになり、自分だけじゃないと気づきました。そこでの子ども同士の話し合いの中で、自分は吃音であることを知り、吃音について学んでいる。

イニシアティヴ(問題に向き合い、自分を主張し、自分が自分の人生のイニシアティヴをとっていく)・自分はどもりだということを、クラスのみんなに分かってもらうために、自分のどもりのことを書いて先生に発表してもらう。
・作文コンクールに自分のどもりのことを書いたり、サマキャンでの話し合いのときに、友だちに言われて心に残ったことを題材にして、どもりのことを多くの人に知ってもらおうとする。
・クラスの友だちに「お前、じゃまや」的なことを言われて落ち込んでいました。他にも嫌なことが重なり、学校へ行くことがどうしてもできなくなり、一日欠席しました。でも、次の日、学校へ行ったとき、その友だちのところへ自分から行き、「なんであんなひどいことを言ったの?」と聞いたそうです。相手の子はすぐに「ごめん」と言ってくれたから許してあげたそうです。
・クラスの中に、強い言い方をしてくる子がいて、そうじのときに毎回怒ったように言われて悩み、学校に行きたくない時期がありました。先生にも相談しました。先生が息子に「先生からその子に言おうか」と言って下さったのですが、息子は「自分で言うから大丈夫」と言い、「強く言われると怒られているように思うから、優しく言って」とその子に直接言えたそうです。すると翌日から、目立って強いことは言われなくなりました。自分から言えて状況が変えられたことで、本人はとてもうれしく自信になったようです。

関係性(人と結びつき、人を大切にする。人間関係を自ら求めて作り上げていく)
・友だちがとても多く、明るく、しゃべることが大好きな子なので、いつも周りに友だちがいる。仲良しの友だちと話すときはどもりを気にせずに話している様子。サマキャンで出会った友だちと手紙などやりとりをして、お互いの思いを深める。
・学校でも一緒にいて心地よい友だちとは自然と結びつきが深くなり、嫌なことを言って来る友だちには少し距離をとり、自分にとって、快の方向へ進む能力がある。
・このサマーキャンプに自分から「絶対行きたい」と言って申し込んだこと。どもっている仲間に出会いたいと心から思ったようだ。
・女の子の友だちがいなかったのですが、自分なりに、言えないときは笑顔を作ったり、積極的に行動したりして、友だちを作ることができた。中学生になっても、部活も一緒になり、相談したり受けたりと、なくてはならない友だちになっている。
・自分がどもるということを周りの友だちに知らせ、理解を求めている。
・なかなか友だちができなかった息子は、4年生で初めて一緒に帰る友だちができた。その友だちは、息子がどもってもことばが出るのを待ち、どうしても出ないときはタイミングよく助けてくれた。中学生になり、クラブも違うので、遊べなくなったが、そんな友だちができたことは息子にとってはとても心強く自信につながったと思う。
・サマキャンで年上のお兄ちゃんたちにばかりくっついて面倒をみてもらっていた子が、同級生の友だちをつくることができ、ここ数年は年下の子の面倒をみられるようになった。

創造性(音楽、絵、文章、詩など、自分を表現する手段をもち、そこから創造性へと発展させる)・小学校高学年からすごく本が好きになり、学校でも毎日図書室に通い、全校生徒で、たくさん本を借りた人の2位になりました。賞をいただき、とても喜んでいた。
・どもってうまく言えないなりにも、どうにか言える方法を探す。「あいうえ」と心の中で言い、「おはよう」と言うなど。言い換えのことばを探す。

ユーモア(自分の欠点や弱点を他人ごとのように笑い飛ばし、自分の嫌な気分を解放する)・細かいことを気にしないおおらかさがある。人の目をあまり気にせず、淡々としている。こちらが端で見ていて大丈夫かなと思うことでも、意外とケロッとしてい。小さいことを気にしないおおらかさは、彼の武器なんじゃないかなと思う。
・以前はつまずいてこけた、お茶をこぼした等のことを話すと、「そんなん、言わんといて」と泣き怒っていたが、最近は自分の失敗談を言って、「僕はようつまずくねん。めっちゃ、痛かったんで」と笑って言うようになった。家族でもお互いのマイナスネタを言い合って、ゲラゲラ笑ったりするときもある。学校の発表でどもったときに「あれっ?あれっ?」と、おどけて笑いをとるときもあるらしい。本人は、「みんな笑うけど、楽しいと思ってくれたらそれでいいねん」と言えるときもあるらしい。いつもではないが。

独立性(自分の人生は自分で切り開いていく)
・自分が参加したい行事などには友だちがいなくても参加するが、自分が興味のないこと、参加したくないと思うものには参加しない。周りに関係なく、自分のことを決められる。

モラル(充実した、よりよい人生を送りたいとの希望をもつ)
・サマキャンで接したいろいろな人の姿を見て、やってもらえたこと、教えてもらったことに感銘し、自分もこうありたいと考え、言語聴覚士になろうと進路を決めた。

親の学習会5

親の学習会6

 グループごとに集まり、模造紙を前にどんなふうに図解していこうか、楽しそうに作業が続きました。笑い声もあちこちから聞こえてきます。そして、できあがった模造紙を貼って、発表しました。一人が代表で発表するグループ、ひとりひとりが少しずつ発表するグループ、発表の仕方はそれぞれ違いますが、「うちの子にはこんないいところがあります」「さすが私の子どもです」「なかなかすごいでしょう」こんなことばが飛び交い、たくさんのレジリエンスが出てきました。
 ひとつのグループが図解の仕方をとらえ違いをしていて、発表ができませんでした。「追試だ」と言いながら、フリーの時間に再度集まり、完成させていました。発表は、参加者全員の前、自分の子どもが聞いている前で、自分の子どものいいところを発表したのです。親も子どもも誇らしげで、本当にうれしそうでした。

日本吃音臨床研究会  伊藤伸二  2015/9/28

竹内敏晴さんの遺産

第26回吃音親子サマーキャンプ 11

 スタッフによる劇上演

 吃音親子サマーキャンプは、劇上演のための事前レッスンから始まる、と僕たちはよく言います。今年も、サマーキャンプ本番の約1ヶ月前、7月25・26日に、25人のスタッフが全国から集まりました。以前は、からだとことばのレッスンの竹内敏晴さんが、サマーキャンプの芝居の台本・演出・構成をすべてして下さっていました。この合宿による事前レッスンで、僕たちは竹内さんから、からだとことばのレッスンと、サマーキャンプでする劇を演出・指導していただき、それを子どもたちの前で演じてみせて、その後、子どもたちと劇作りに取り組むのです。
 竹内敏晴さんが亡くなられてからは、竹内さんの大阪でのレッスンに参加し、京都大学大学院生の時代から、吃音親子サマーキャンプにずっと参加して下さっていた、渡辺貴裕さん(東京学芸大学大学院准教授)が竹内さんの跡を継ぐ形で、スタッフに劇の指導をしてくれています。

 今年の事前レッスンには、大阪近郊の者だけでなく、遠く千葉や神奈川からも参加しました。今年の芝居は、「雪わたり」。2009年、竹内さんが亡くなられた年の演目でした。癌だと分かったのがその年の6月。それから、劇の台本の執筆にとりかかって下さり、6月の末のサマーキャンプのための事前レッスンにも来て下さいました。病の中で、どもる子どもたちへの思いを持ち続けて下さった、まさに最後のレッスンでした。その後、僕の主宰する竹内敏晴大阪定例レッスンを7月に実施し、8月の終わりにサマーキャンプの報告をしました。そして、9月7日に亡くなられたのです。竹内さんの晩年に、深い関わりがもてたことは、僕の喜びでした。この「雪わたり」は、竹内さん最後のレッスンでもあり、掛け合いや歌がたくさん入る、僕たちにとって思い出深い芝居です。

見本劇 坂本・新見・藤岡

見本劇 西山・佐々木親子

見本劇 肩車1

見本劇 肩車2

見本劇 井上・佐々木親子

見本劇 西田幻灯

 どもる人たちが多いので、当然お芝居もどもりながら、誰が誰に向かって話しているセリフなのかを大切にして演じます。どもるため、せりふのある役割をしてこなかった成人のどもる人は、子どもに戻ったかのように楽しく演じます。声を出す喜び、演じることの楽しさを人一倍感じているのです。

 サマーキャンプ1週間前に集まれる者だけが集まり、復習をしました。1ヶ月前の事前レッスンのことを思い出しながらの復習です。これがないと、本番を迎えることができません。
 キャンプの当日、1日目のスタッフは大忙しです。芝居に出るスタッフが全員集まってリハーサルができるのは、1日目の夕食をはさむ小一時間だけ。立ち位置、動き、出入り、小道具など、確認しながらの最終練習です。今年も、なんとか、子どもたちに見せられる程度には仕上がりました。

見本劇 観衆

 話し合いの後、学習室に全員が集まってきます。子どもたちや親が見守る中、僕たちスタッフによる芝居が始まります。アドリブあり、セリフ忘れあり、でも、楽しさだけはちゃんと伝わったようです。子どもも、親も、真剣にみつめてくれるいいお客さんたちでした。

見本劇 終わって礼

 子どもたちは、芝居を見ながら、あの役をしてみようかな、あれはおもしろそうだなと、関心をもって見ていました。それは、芝居が終わって、明日から芝居の練習をするグループに集まって台本を渡したときの子どもたちの表情から分かります。どもるからといってせりふのある役を外された僕の苦い経験から、芝居には強い思い入れがあります。どもっていても、楽しく演じることができればいい、声を出す楽しさや喜びを感じてほしい、そんな願いを叶えてくれそうなスタッフによる芝居の上演でした。


見本劇 終わってからグループで

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2015/09/24

第26回吃音親子サマーキャンプ 10

 親の話し合い

 親も、グループに分かれて話し合いをします。今年は親の参加が40人だったので、8人ずつの5グループに分かれました。私たちのサマーキャンプは、父親の参加が多いのがひとつの特徴です。今年も14人の父親が参加しました。
 複数回参加している者と初参加者をバランスよく組み合わせて、グループを編成しました。どのグループも、最初は、子どものことを絡めながら、何を求めてこのキャンプに参加したのかをひとりずつ語る自己紹介から始めているようです。
 どもる子どもたちが、周りに同じようにどもる子がいなくて、ひとりで悩んでいるのと同じように、親も、他のことでは話せても、どもりについては誰にも言えず、一人で孤立感を強めています。だから、サマキャンで、親の話し合いを始めると、みんなが本当によくしゃべります。初めて出会ったのに、そんなことを感じさせないくらいすぐに打ち解けてずっと以前からの知り合いだったように、よく聞き、よく話をします。親のセルフヘルプグループができあがっているといえます。

話し合い 親

 話し合いを通して得られるもの

^貎佑任呂覆
 親同士の語り合いの中で、親は、どもる子どもを持ち、悩んでいるのは自分ひとりではなかったことを実感します。保健所や児童相談所に相談したら、「そのうち、治ります。様子を見ましょう」と言われてそのままきたという話、子どもの友だちから「なぜ○○君は、そんなしゃべり方をするの?」と聞かれてどう答えていいか分からず困ったという話、毎年クラス替えがあるたびに担任に話をしているが、よく分かってくれる先生もいるけれど理解してもらえない先生もいて困った話、おじいちゃんやおばあちゃんが心配していろいろ声をかけてくれるがそれが逆に負担になっている話、子どものこれからの就職や結婚のことが心配だという話、そのどれもが親たちの共通の話題として上がります。

⊂来への見通し
 先輩の親から、初参加の親へ、実体験に基づく語りがあります。決して押しつけではなく、アドバイスでもなく、親たちは、自分の体験を語ります。それは、年下の子どもを持つ親にとって、今後のことを考えるときの大きな励ましになります。これから起こってくるかもしれないことへの見通しをもつことができ、準備をすることができます。初めて参加したとき、先輩の親たちが本当によく話を聞いてくれてうれしかったから、今度は私がその役割を果たしたいと思ってくれている親がたくさんいます。サマキャンの中で、自分たちの役割を自覚して行動して下さる親がどんどん増えてきました。ありがたいことです。

若いスタッフの体験
 サマキャンに参加すると、自分の子どもより少し年上のスタッフから成人のスタッフまで年代を追って将来を見通せるどもる人の姿を見ることができます。話し合いのグループには、スタッフとして若い成人のどもる人が必ず入っているので、親にしてほしかったことは? 親にしてもらってうれしかったことは? など経験を直接聞くことができます。見本の芝居には、成人のどもる人が、どもりながらせりふを言い、楽しそうに演じています。大人になっても治らないのかと現実を見ることにもなりますが、どもっていても大丈夫という見本を、自分の目で確かめることのできる場です。小学生をもつ親が、こんな中学生や高校生、そして大人になってくれたらと確かな将来像をもつことができるのです。

  日本吃音臨床研究会  伊藤伸二  2015/09/23

第26回吃音親子サマーキャンプ 9

 高校生の話し合い

 話し合い高校生


 今年の高校生は、当日の急なキャンセルがあって、8人でした。卒業を迎える高校3年生が3人。高校2年生が2人。高校1年生が3人という内訳です。参加歴は比較的長い子が多く、みんな、サマーキャンプには来るのが当たり前になっているということでした。普段の生活の中では、吃音について話すことがあまりないので、ここでは吃音に関することを話したいと思っていて、話し合いも、それぞれが話したいことを話していく感じで自然にスタートし、自然に深まっていきました。

 今年卒業する高校3年生の一人は、小学2年生から連続して11回参加しています。自分が将来どうありたいのか、未来像がなかなか描けなくて、みんなはどうなのか、将来なりたい仕事や将来の自分の姿を思い描くことができるのかと問いかけました。明確な将来像を持っている子もいれば、まだまだ漠然としている子もいて、それぞれが今の自分の思いを語っていきました。サマーキャンプに参加したことで将来の自分が明確になった一人を紹介します。彼も高校3年生です。

・中学2年生から、STを志望している。それは、このサマキャンに参加して、吃音のことを話し合ったり、ことばの教室の先生や言語聴覚士の人と出会ったことがきっかけだ。面接は怖いけれど、どもるどもらないということではなく、面接の内容で判断するから大丈夫と言われたので、少し安心している。自分が吃音なので、言いたいことが言えない人の気持ちが分かるということと、自分にしかないものを武器にできると思ったからだ。

 話し合いが進む中で、「吃音をなんとか治したい、改善したい」との話がほとんどでてきません。そこでスタッフから、「なぜみんなは吃音は治さなくていいと思えるの」との問いかけがされ、高校生たちはこう答えていました。

・どもりが完全に治った例はないから。
・どもりを治そうとすると自分が苦しむなど振り回されるから、それならつきあっていく方がいいから。
・もうずっとどもっているのだから。
・治すことにエネルギーを使うよりも、どう対処していくか、どうつきあっていくかを考えることにエネルギーを使いたいから。

 将来の姿が見えないと話を出した一人が、言語聴覚士志望にしようかなと、2日目の朝、言い出しました。同じ高校3年生の話が刺激になったようです。

 2回目の話し合いは、初めての試みですが、高校3年生が主導していきました。これまでは、ファシリテーターとして入っていたスタッフが口火を切り、進めてきた話し合いを自分たちで司会・進行していきました。これは、いつでもできることではありません。長くキャンプに参加し、話し合いを重ねてきて、多方面から吃音について考えることができるようになってきた高校3年生だから、任せたのです。もちろん、スタッフはそのまま一参加者として話し合いに参加しました。部活での自己紹介、先輩や後輩とのつきあい方など、身近な部活での話が続きました。みんなに共通している話題なので、具体的に、いろいろな体験談が出て、参考になったようでした。近い将来の大学生になってからのバイトの話も出ました。
 この試みは、おおむね好評でした。司会・進行にあたった高校3年生の3人は、難しさも感じながら、しっかり話を聞き、みんなの意見を引きだそうとしました。参加していた他の高校生にとっては、3年生の3人はとても頼もしくうつったようです。メンターとしての役割をきっちり果たしてくれました。

   日本吃音臨床研究会  伊藤伸二  2015/09/22 

第26回吃音親子サマーキャンプ 8

話し合いとことばのレッスン  中学2・3年生

 毎年、この年代の話し合いは静かに進んでいきます。発言が次々に途切れることなく続いていくというわけにはいかないのですが、じっくり自分と向き合いながら考え、その気持ちにふさわしいことばを探しているようにもみえます。終わってみると、「話し合いがよかった」と言う子が少なくなく、それぞれが仲間の話、スタッフの話に耳を傾け、いい時間を過ごしているようです。
 今年初めてサマーキャンプにタイトルをつけました。「レジリエンスを育てる」どのグループも、またどの場面でも、スタッフは、このテーマを意識して、話し合いや活動を進めていました。
 中学2・3年生グループの話し合いでも、学校でいろんなことがあって大変な状況なのに、それでも学校に行っているみんなの強みについて、話し合いました。なぜ、学校に行くことができているのか、スタッフも考えました。

話し合い中2・3年

 自分の強み

・分かってくれる友だちや、話を聞いてくれる保健室の先生がいてくれる。小学校のときは本が友だちだった。でも、今は、本を読むより、友だちとしゃべる方が楽しいと思っているので、本は悲しさを紛らわすために読んでいる。
・吃音のことを分かってくれる友だちがいて、部活動が楽しいから。
・おもしろい子がいて、笑わせてくれるから。
・分かってくれる友だち、先生がいたから。中学校に行くと、分かってくれない子もいるけれど、分かってくれる子もいる。そんな子たちとしゃべっているのが楽しい。
・私の強みは、忍耐強さかな。それは、すぐに逃げたがるという短所とつながっている。
しゃべれないけれど、人と一緒にいることは好きで、人なつっこいとよく言われる。
・自分のことはよく分からない。説明を求められたら、できるだけ短く端的に答えようとしている。英語のときはほとんどどもらないので、好き。つっかえてもみんなつっかえているからあまり気にならない。
・なかなか言えないとき、がんばって言おうという気持ちがあるから最終的には言える。発表のときは、友だちが静かに待ってくれるし、一緒に言ってくれる友だちがいるから、休まずに行くことができる。
・堂々とどもりながらしゃべって、からかおうとしている子をがっかりさせている。
スタッフからは、こんなふりかえりもありました。
・友だちもなく、勉強もできなかったけれど、文章や日記を書くことが好きで、自分の気持ちを日記に書いていたことがよかった。また、卓球部に入って卓球をしているときだけは、どもりの苦しみを忘れることができた。
・友だちといえる人がクラスにひとりいた。その友だちが良き理解者だった。高校時代は、クラス替えのないコースを選んだ。放課後の時間が楽しかった。どもらないときの自分に対して自信をもつことができた。
・上手ではないけれど、多くの種類のスポーツがそこそこできた。種類の多さが自慢だった。「これは自分だけ」という、他の人と違うものを心の中で自慢していた。

 どうしてもことばが出ないとき〜ことばのレッスン

 話し合いが一段落した時、「どうしてもことばが出ないときはどうしたらいい? みんなどうしているか」をみんなに聞きたいとの質問が出ました。

・力を抜いたらいいと聞いた。
・息を一瞬吸って、いっぱい声を出すようにしている。
・下を向いて、自分の近くに落とそうとしていた。

 思春期に入っている子どもたちは、どもってもいいと頭で分かっていても、どもりたくないという気持ちが強くなってしまいます。そして、どうしても声がか細くなってしまいがちです。
 そんな子どもたちに、どもりは治らないけれど、どもりながら話すことはできる、どもっていても相手に届くことばを話すことはできる、そんなことを伝えたくて、「ちょっと声を出してみようか」と、その場が、声を出すレッスンの場になりました。
 ひとりひとり、声を出してみました。目をそらすのではなく、相手を見て話をすること、息を吸うことより吐くことを大事にすること、息を吐いて、相手に届けるようにすること、実際に声を出しながら、大切にしてほしいことを伝えました。
 ただ黙っていたのでは、相手には何も伝わりません。声を出そうとしている、何か話したいという気持ちがあるのだということは伝わるようにしよう。「どもっているなら、どもっていると相手に分かる必要がある」ということを以前言ったことがありましたが、コミュニケーションが大切な今、どもりながら話す私たちにできること、しなければならないことはたくさんありそうです。
 二人の子が、苗字を言ったあと、名前を言おうとしてブロック(難発)の状態になって、完全にストップして、息が流れません。そこで、伊藤伸二が、日本語の発声の基本を説明し、ブロックの状態になつた二人に、声を出して息を吐くこと取り組んでもらいました。例えば「伊藤・・・・・」と長く息が止まっている子に、「いとう・しししししし」といくらどもっても最後まで息を出し切ることを試みました。しばらく試みてみると、二人ともなんとか、苗字と名前がつながりました。つまり、出ないのではなく、激しくどもる状態をみせたくないから、ちゃんと声が出ると思えるまで、息を詰めているのです。二人の内の一人が、苗字と名前の間で切れないでつながって言えたのは初めての経験だと言いました。
 
 なぜどもるの?と聞かれたとき

 また、話し合いの再開です。なぜどもるの?と聞かれたらどうするか、ひとりひとりが自分の体験を語りました。
・今までは「まあ…」とごまかしていた。
・相手が笑いながら聞いてくるから、私も「ハハハ」と言って無視していた。しつこい子には「何、言ってるの?」と言った。
・ちゃんと聞いてねと説明した。
・英国王のジョージ6世と同じ、とか誰かと同じって言うのはどうかな。
・「あなたはどう思う?」と返す。「分からない」と言うので、私も「分からない」と言ってハハハと笑う。
・私は何も答えなかった。
・オランダの世界大会のとき、缶バッジをもらったが、そこには、「私はどもります。それが何か?」と書いてあった。どもることは悪いことではないのだから、そう言えたらいいな。

 今回の話し合い、ことばのレッスンをしたのは初めてですが、今後は、声が出ないタイミングで必要なレッスンをしてみようと思いました。

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2015/09/20

第26回吃音親子サマーキャンプ 7

   話し合い  中学1年生


 スタッフの一人、西田逸夫さんは、この年のキャンプで初めて、子どもたちの話し合いに参加しました。それまでの4回は、親の話し合いに参加していたのです。新鮮な印象から、弟がどもるから参加している兄と、初めて参加した一人の男子について触れているところを一部紹介させていただきます。

 私の参加した中1グループは、3回以上参加している4人、初参加の2人、弟が吃音である兄が1人の7人だった。スタッフはベテランの桑田さんと掛田みちるさん、初参加で沖縄から来られた恩納さん、それに私の4人だった。
 兄は、話し合いの最後の感想で、去年までの2回は弟と同じグループに参加していたが、今年初めて同学年の人と話せて良かった、みんなが学校でどうしているのか分かった、と話していた。部屋の隅に座って口数も少なく、スタッフに促されても発言をパスすることが2度3度とあったが、発言すれば真摯な内容で、聴き手として話し合いにしっかり参加している姿が印象的だった。
 初参加の一人、参加前からサマキャンに期するところがあった様子で、話し合いの冒頭から積極的に発言した。学校生活でそれまでどれだけ困って来たか、どんなふうにからかわれ、どう対応して来たか等など。このとき、複数回参加している3人は並んで窓際に座っていたのだが、1時間半の間に3人が3人とも、壁にもたれた姿勢から徐々に身を乗り出し、終わりごろにはすっかり壁から離れて前のめりになっていた。
 初参加の子が話す内容は、何度も参加している子どもたちが時折、自分以外のどもる仲間のことも含めての考えを披露するのに比べ、自分自身のことだけに終始した。これは吃音のことを初めて話す場に臨んだのだから当然のことであるし、彼の場合はそうした余裕のなさが真剣さにつながっていて、むしろ好もしく感じた。

 子どもたちのどのグループもそうであるが、複数回参加した子と初参加の子の絶妙なバランスがいい味を出している。偶然の産物である。


話し合い中1年

 <自己紹介 自分のどもり方>
 話し合いは、まず、自己紹介から始まりました。子どもたちは、その中に、自分のどもり方について自分なりに分かっていることを盛り込んでいました。
・のどがところがつまって言えなくなる感じ。
・連発といって、頭文字をたくさん発音してしまう。知らない人の前でよくそうなる。
・友だちとしゃべるときは普通に言えるけど、人前だと考えてしまってことばが出なくなる。
・みんなの前で言うときには黙り込んでしまう。
・言いたいことが出てこない。
 スタッフも、「よろしくお願いします」と言いたいときに、「よよよよ…」となってしまうことや、小学校や中学校時代の新学期、またどもるのだろうと思うと、憂鬱だったなどと振り返って話します。そんなふうに、自然とどもりの話が始まり、深まっていきます。

 <中学校進学、部活動>
 中学校に進学し、小学校より友だちとの関係が強くなりました。部活動も始まりました。
・剣道をしているが、号令がうまくかけられなかったとき、友だちに打ち明けたら、代わりにやってくれた。相談してよかった。
・サッカーの県大会で、名前と生年月日を言わないといけないことがあった。僕のどもりを知っている子が一人いて、助けてくれた。
・小学校に比べて中学校は、発表する機会も多くなり、どもることも増えたが、環境が変わって新しい気分になって、がんばっている。
・最初の一文字が言えたら、後は大体言える。友だちがそのとき、一緒に言ってくれる。・小学校低学年のころは、どもると、みんなは笑った。でも、高学年や中学校になると、笑わないけど、「どうしたの?」という感じで、シーンとなる。

 <どもりは障害か、障害じゃないか>
・障害じゃないと思う。友だちには、障害でもないし、病気でもないと伝えている。
・僕は障害ではないと思っていたが、友だちから言われて迷っている。障害だと言われたとき、傷ついた。
・障害じゃない。生活の中で、不便を感じていないから。
・何十年も続くなら障害だと思う。今、治す薬がないのだから、だったら障害になると思う。
・僕は障害だと思う。僕のお母さんのお姉さんの子どもに障害があり、どもりも、知的障害もあるから。
・障害というのは、生まれつきのもの。どもりは物心ついてから始まるから障害ではないと思う。

 <どもりが治る薬があったら飲むか>
・飲む。学校で「早く言え」とか言われるから。
・飲むと思う。普通の人のようにどもりが治ったらどんな感じなのか体感してみたい。
・僕は飲まない。
・一回試しに飲んで、大丈夫そうだったら飲むし、だめだと思ったら飲まない。
・十何年か吃音だったので、これからもそれでいい。飲まないと思います。

 小学校から中学校に進学した子どもたち、環境の変化にとまどいながらも、自分らしく生活している様子が話の中から、分かります。障害かどうか、どもりが治る薬があったら飲むかどうか、そんな話題提供をしながら、子どもたちは、自分と同じようにどもる仲間と普段の生活の中ではなかなかできない吃音を話題にして話しているのでしょう。メンバーの多少の入れ替わりはあるでしょうが、この仲間とは、来年も話し合いの場で出会います。自分の1年間の成長や変化を、仲間に共に話し合う中で、確かめているとも言えるのではないかと思いました。初参加の子が、次回はリピーターとしての発言をしてくれるでしょう。そうしてサマーキャンプの文化は、受け継がれていくのだと確信しました。 

第26回吃音親子サマーキャンプ 6

   小学校5・6年生の話し合い  子どもたちの持つ力はすごい

話し合い5・6年

  話し合い 小5・6年生

 複数回、サマーキャンプに参加したことのある子どもと初参加の子どもがちょうどいいバランスで混じり合った5・6年生グループ。担当した千葉市立院内小学校ことばの教室の渡邉美穂さんは、話し合いの印象をこんなふうに書いています。
 
 私の担当した5・6年グループでは「ぼくたちは、5年も参加したベテランだから何でも質問して」と初参加者の子に話していました。決して偉そうに言ったわけではなく、自分たちの話ではなく、まずあなたの話したいことを聞いて一緒に考えようとしていたのです。
 初参加の子が「どうしてそんなしゃべり方なの?」ってきかれて困ったと言うと「じゃあ、どんなことを言い返せばいいか一人ずつやってみよう」と率先して取り組みました。そのベテランの子たちは、自分たちがしてもらったことを思い出しながら取り組んでくれたんですね。レジリエンスでいう、メンターです。


 記録を読んでみると、子どもたちの生き生きとした話し合いの様子が分かります。
子どもたちの声を紹介します。長い話し合いのごく一部で、話の順序は少し変えています。

 <なぜ、そんな話し方をするのか? と言われたら>

初めて参加した一人が、「なんでそんな話し方なの?」と聞かれたとき、「ずっとこういう話し方なんだ」と言った。相手は、納得してくれたみたいだったけど、また同じような質問があったときはどうしようかと、みんなに話題を提供しました。
 「じゃあ、みんなで対策を考えよう」複数回参加している子の呼びかけで、参加しているひとりひとりが、自分の経験や、経験してないけれど考えたことなど、次々に発言が続きました。ロールプレイが始まりました。

・なんでそんな話し方なの?と聞かれたとき、話題を変えるようにしている。
・質問されたら、「あなたはどう思う?」と聞き返して、さらに聞かれたら、「分からない」と言う。
・なぜかを説明できないんだから、「分からない」でいいんじゃないか。
・研究の結果を勉強して、「○○先生が研究したけど、無理だったんです」と言ったらいいんじゃないか。きっと説得力があると思う。
・「分からない。僕に聞いても分からない」と言う。相手が聞くことを諦めてくれるように言う。
・「じゃあ、あなたが研究して」と言ってみようか。
・「僕はこんなふうにつまるけれど、みんなに一生懸命話してる。、こうなるから、仲良くして下さい」と言ってみようか。
・世界中で、研究してるけど、分からないらしいよ。
・いろいろあるの。子どもの事情。
・こんなしゃべり方なんや。生まれつき。ごめんな。(アハハハと笑う)

 <どもる自分のことを説明するときは>

・吃音を説明するとき、障害という病名みたいなことばになってる感じだから、どう説明したらいいか困っている。
・吃音っていっても分かってくれない。
・このしゃべり方、このオレの話し方、それが吃音だって言えば、自分で説明してないけど、分かるかも。
・「こういうしゃべり方だから、分かって」と言ったらいいんじゃないとお母さんが言った。
・このサマーキャンプではないキャンプに参加したとき、「早く言って」と言われた。この人たちとはもう二度と会わないのだから、丁寧に説明する必要はないと思った。重要な人物とそうではない軽い人物と、説明することばは違っていいと思う。使い捨てみたいなことば、ないかな。
・全校生徒の前で、自分の吃音のことを話したサマキャン卒業生がいたけど、その人の真似をして、中学校でやってみようかと思ってる。ひとまとめに言っておいたら楽かな。

 <子どもたちのレジリエンス>

・自己紹介でどもったら、いろいろ言われた。いやだったけど、後で、「大変なんやな」と言われた。「病気みたい、なんや」と言ったら「大変やな」と言ってもらって、うれしかった。
・クラス替えがあるということは、自分のことを知ってる人が増えるということ。だから、いいことなんだ。
・1年生のとき、からかわれたことがあってまねされて嫌な気持ちになった。でも、今になってみたら、そのことも大したことないなあと思えるようになった。
・自分の名前の初めの音が言えなくてごまかした。その子は、僕の吃音のことを知ってる子だったんだけど、誤解されたみたい。ごまかすのは、逆効果なんだと思った。
・自分のことを自分でクラスのみんなに言えた。去年はできなかったけど、僕には成長する力があったんだ。その元は、みんなからの励ましと、こうしたいという自分の願望があったからだと思う。
・まねされて嫌だったけど、先生が注意してくれた収まった。まねした子は髪の毛がない子だったんだけど、先生は「それと同じだよ」と言っていた。収まったけど、なんか…
・一緒にしてもいいところと、してほしくないところとがある。そのとき、なんか嫌だったんだよね。気持ちの部分は一緒かもしれないけど。
・音読のとき、先生がパスしてもいいと言ってくれる。でも、読み方が分からないと思われるのは嫌だから、読んで、すごくどもったけど、よかった。

 <最後に感想を>

・いっぱい話せたし、聞けたし、それぞれの学校の事情も分かってよかった。
・去年のサマーキャンプ後のことが話せてすっきりした。こういう考え方もあるのかと知ることができてよかった。僕は、「病気」とかは使わないけれど、そういうふうな考え方もあるんだと分かってよかった。
・どもるとき、いろんな方法があって、みんながんばっていると思った。
・自分の将来のこと、みんなと考えることができてよかった。
・自分と違う人の意見を聞くことができてよかった。
・みんなの話を聞いて、吃音についてどう対処していったらいいか、自信がついた。
・みんながそれぞれ努力しているのが分かってよかった。自分の意見も聞いてもらえてよかった。みんな、いい5、6年生になったなって思う。

 <ファシリテーターからも一言>

・自分の考えをしっかり持っていてみんなすごい。
・みんな前向きだし、嫌なこともあるけれど、それをちゃんと自分の力で乗り越えているのがすごいと思った。
・積極的に話し合いを盛り上げたり、話を聞いたり、ほんとにいい場だったと思う。

第26回吃音親子サマーキャンプ 5

  話し合い〜当事者研究〜 小学校4年生

 吃音親子サマーキャンプでの話し合いの報告を続けます。
 次は、小学校4年生のグループです。
 この話し合いの様子を、ファシリテーターとして入っていた、大阪スタタリングプロジェクトの川益彦さんがまとめて下さいました。そのまま、紹介します。

話し合い4年



      小4当事者研究

川益彦

 2015年吃音親子サマーキャンプの話し合いは、5人の小学校4年生を平良さん、溝口さん、僕の三人のスタッフで担当した。子どもは全員男子で、4回目が二人、2回目が一人、初参加が二人だった。
 最初の話し合いでは、なるべくみんなが話せるように、一人の子どもに全員が質問し、その子が終われば次の子どもにみんなで質問する方法を繰り返した。
 初参加の二人は恥ずかしがることもなく、積極的に発言した。それは良かったのだが、複数回参加している子どもと比べたら、人の話を聴けていないことが分かった。聴くということには、単に相手の話を聞いていることだけではなく、それについて考えるという行為が含まれなければならない。初参加の二人は、聞こえた瞬間に自分の思いつきをしゃべった。当然深く考えたわけではないので、たとえ発言は面白くても、薄っぺらいし深まらない。その点、複数回参加している子ども達は違う。じっくり相手の言った状況を想像し、自分だったらどうするかを考えてから発言する。複数回参加することにより、相手の話を聴くという習慣が自然とできていることが良く分かった。

 二日目の話し合いは前日の反省から、みんながじっくり相手の話を聴いて考えるためにどうするかという作戦を立てた。たまたま僕が着ていたTシャツが「当事者研究」だったので、小4男子5人にできるかどうか分からなかったが、正統派の当事者研究をやってみることにした。
 毎年二日目の朝食後に全員で作文を書くので、それぞれに「何について書いたか、良かったら教えて」と言ってスタートした。全員が作文で書いたこと、すなわち今一番心に残っている事や、引っかかっていることを教えてくれた。
 子ども5人と平良さんと僕で輪になって座り、その真ん中に「問題」を抱えた子を座らせる。その状態で真ん中に座っている子どもから改めて詳しくその時の状況を聞き、それから「問題」だけを真ん中に残したまま、その子どもにも輪に加わってもらい、みんなでその問題について研究する。つまり場所を移動することによって子どもと問題を分かりやすく分離し、困っている子ども自身も客観的に自分の問題に向き合うことができる。
 それからみんなでその問題に名前を付けた。例えば、しつこくどもりをからかわれるケース。これを事件と捉え、みんなでその事件に名前をつけた。それも単に「どもりからかわれ事件」といった単純な名前ではなく、火曜サスペンス劇場みたいにタイトルだけで事件の概要が判り、可能ならちょっとユーモアのある名前にしようと提案した。名前が決まったら、みんなで対処方法を研究した。困っている本人も当事者として研究する。有効かどうか、現実的かどうかは気にせず、自由に発想する。ここでは思いつきもOKだ。この場面ではたとえ暴力沙汰でもかまわない。他の子どもの発言を聞いて、それに改良を加えても良い。
 平良さんの提案で、すぐに発言するのではなくじっくり考えるために1分間をシンキングタイムとし、その間は黙って考えるというルールを作った。シンキングタイムが終われば自由に発言できる。しかし誰かが研究発表しているときは静かに聴くのは当然である。
 取り扱った問題は具体的には、一人の子どもからしつこくからかわれて困っている事件、どうしようもない教師がいて訴えた結果担任を外させたがそれでも気持ちが収まらない事件、学年代表に選ばれて全校生徒の前で自己紹介して結果的にどもらずに言えたが順番を待つ間ドキドキして不安だったという問題などだ。
 最後のテーマでは、どもらずに言えたから良かったというのではなく、待っている時間とても不安でドキドキしたことを問題にして、その間どうすれば良いかをみんなで考えた。ある子どもは「Hなことを考える」と発言し、爆笑を誘った。
 
 サマキャンの話し合いの必需品として、毎年僕は『どもる君へ いま伝えたいこと』と『吃音ワークブック』を持っていく。これは話し合いの手段に困ったときのネタに使ったり、質問や疑問が出た時の参考書にもなるので、必ず持っていく。
 今年は当事者研究の中で、みんなの研究発表が終わってから「伊藤さんだったらどう答えるだろう?」ということで、「Q15どもりをどう説明したらいいか」と「Q19学級代表になりそうなので、どうしたらいいか」を読んだ。みんなはひたすら静かに聞き耳を立てて聴いていた。
 「どもりをどう説明したらいいか」では梶崎大生くんの体験を読み、みんなだったらどうするか、全校生徒の前で発表するか、自分のクラスの中だけで発表するか、あるいは先生には言うがクラスのみんなには黙っているか、およびその理由を順に聞いていった。みんなそれぞれ自分の現実のクラスや学校を思い浮かべながら真剣に考えていた。これも、一人ずつが研究したからこそ深く考えることができたのだと思う。

 このようにして、全員の事件や問題を順番に研究し、小4の当事者研究は予想以上に成功裏に終わった。当事者研究の良いところは、「いじめられている子ども」ではなく、「いじめられるという問題に困っている子ども」というように、問題と子どもを分離して問題を外在化することで、困っている本人も客観的に考えるところにある。また、名前をつけたり研究発表という型にはめる事で、ゲーム感覚で楽しみながら出来る事が分かった。このように当事者研究は、年代を問わず、楽しみながら、しかも真剣に話し合うための強力な手法であることが分かった。

第26回吃音親子サマーキャンプ 4

 
   話し合い 小学1・2年生のグループ


 サマーキャンプ一日目の夜の活動は話し合いです。子どもは子ども、親は親でグループに分かれて、話し合いをします。
 
今年の親の参加は、40人。1グループ8人ずつにして、グループを5つ作りました。複数回参加している親と、初参加の親をバランスよく分け、そこにファシリテーターが入ります。ファシリテーターは、ことばの教室担当者や言語聴覚士などの臨床家と、成人のどもる人が、それぞれのグループに3人から4人程度入ります。 

 子どもたちは年代こどにグループを作ります。今年は、‐学1・2年生、⊂学4年生、小学5・6年生、っ羈悖映生、ッ羈悖押Γ廓生、高校生の6つのグループに分けました。それぞれのグループには、親グループと同様、ファシリテーターが入ります。 

 どもりの話をしたいと思うが、どう切り出していいのか分からない、どもりについて聞いても「別に」という返事が返ってくるだけで、後が続かない、そんなことばの教室担当者の声をよく聞きます。しかし、吃音親子サマーキャンプでは、話し合いが大きな目玉であることが浸透しているようで、「では、話し合いを始めます。何か話したい人はどうぞ」と声をかけるだけで、話し合いが始まり、進んでいくグループもあるようです。
 複数回参加している子どもたちが率先していい話し手や聞き手のモデルになってくれているからでしょうか。 話し合いなんて難しいかもしれないと思う、小学校低学年の子どもたちでも、それなりに話し合いの形ができているから不思議です。どうやら吃音親子サマーキャンプには、不思議な魔法の力があるようです。子どもたちは、この話し合いの時間を楽しみにしており、もっと話し合いの時間を長くしてほしいと言う子もいます。

 今日は、小学1・2年生の子どもたちの話し合いの様子を知らせましょう。
 スタッフ会議のときのファシリテーターからの報告と話し合いの記録ノートをもとに書いていきます。子どもたちの発言はできるだけそのまま記録してもらっています。

話し合い1・2年


 急なキャンセルがあって、小学1・2年生グループは、1年生が1人、2年生が2人の3人グループでした。3人のうち初参加が2人、残る1人は4回目の参加です。ファシリテーターとして入っているのは、元ことばの教室担当者と、サマキャン卒業生で今保育士をしている当事者の青年です。
 「どもりのキャンプに行くって、今朝、言われて来ました」、「サマーキャンプでは、いろいろ勉強をするって聞いて来た。普通に勉強するのかなと思っていたら、違ってた。思っていたよりずっと楽しい。劇をするって聞いて、今からわくわくしている」初めての参加する子どもの声です。
 「劇をするのがちょっと苦手だけど、お兄ちゃんと一緒に来た」複数回参加している子どものこの声に、ファシリテーターの青年が「僕は小学生のときは参加していない。高校生になってから参加した。知らない人ばかりで不安だったし、劇の練習は緊張した。でも、同じようにどもる子どもどうしで話し合いをするのは自分のためになったし、気持ちが楽になった」と続きます。
 「どもったとき、笑われるのが嫌」という発言に、ほかの2人も「そう、そう」と共感の声があがります。「本当は、笑うのはダメだよと言いたい」には、「僕はお母さんに話して、先生に言ってもらってる」「友だちに言うとき、そばに先生にいてもらって、自分で言う」など、経験したことがぽつりぽつり出てきます。
 「お父さんにも笑われると思うから、どもりのことは言わない」と言った子に対して、お母さんはちゃんと聞いてくれると思っている子は「○○君のお父さんも笑わないと思うよ。だから、言ってみたら」と返します。
 この子たちにとって、どもりは<大きい>問題のようです。「一日の終わりにする帰りの会で、友だちからいいことをしてほめられたこともあるけれど、そんなことは<小さい>こと。だから、家に帰ってお母さんに言わない。でも、どもりのことは<大きい>ことだから、絶対話す」
 小学1・2年生ながら、吃音をテーマに生きている子どもたちなんだなと改めて実感しました。
 
Archives
livedoor プロフィール

kituon

QRコード(携帯電話用)
QRコード