伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

2014年10月

静岡から岡山へそして神奈川へ


 「どもりの語り部」の旅は続く

 第12回岡山吃音キャンプから帰りました。
 第13回静岡キャンプの報告が、まったくできないままに、先週に続いての岡山キャンプでした。その間に、北海道大会のことばの教室の全道大会の記念講演の記録の校閲に追われての岡山行きだったので、静岡キャンプ報告できませんでした。

 明日から、神奈川県の国立特別支援教育研究所の「言語障害教育」の一日研修の講義のためにでかけます。なので、ふたつのキャンプの報告は、その後になりますが、北海道の記録の方もまだ完成していないので、大変です。でも報告できるものがあるのはうれしいことです。

 ひとりで「どもり哲学」を伝えたい。島根キャンプ、群馬キャンプと、伝導の旅は、まだ続きます。
 報告はしばらくお待ち下さい。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/10/26

ナラティヴ・アプローチを学んだ、吃音ショートコースとは


 吃音ショートコースからもう1週間です。先週の土曜日は、台風を心配しながら、この時間琵琶湖の会場に向かっていたのです。それが、今週は今から、静岡県の吃音キャンプに向かいます。今年で12回? これもよくつづいているものだと感心します。また報告はブログで紹介しますが、再度、吃音ショートコースの感想です。



 吃音観が音を立てて崩れる場


吃音ショートコースに参加された皆様

今年もまた夢のような3日間を過ごしたあと、あっと言う間に日常に戻ってあくせく過ごしています。ただ、10年前の頃と全く違うのは、あの頃は吃音ショートコースの3日間があまりにも温かく楽しく、また日々の仕事に戻らなければならぬ事が怖くて苦しくてならなかったのが、今は3日間の栄養を糧に、笑顔で仕事に戻っていける自分をはっきりと感じていることです。

 大阪吃音教室や吃音ショートコースは今も私の最も安心できる故郷であり、また同時に普段の生活では味わえない緊張感に満ちた厳格な実家のような場所でもあります。それは、皆さんが“うわべ”だけではなく、人間としていつも率直に誠実に相手と向き合っていらっしゃる事をいつも痛感させられるからなのですが、その意味では、同じように生きる講師の国重浩一さんと大阪吃音教室や吃音ショートコースの皆さんが旧知の友のように互いにリラックスして向き合えるのが心から納得できる気がしていました。私はちょっぴり緊張しながら、遠くから国重さんを見ていました。そこにある課題を、私は自分に「何がそうさせるのかな?」と問いかけ続けねばならないのだと思います。


 帰ってきてから、メモやリーフレットを読みながら、改めて自分が学んだことは何だったのかを振り返っています。改めて文章で読むと、国重さんが説明されていた色々な言葉の意味がよく分かり、少しずつ点と点が繋がっていっているような心持ちがしています。「ナラティブ・アプローチ」についての全てを専門家のように詳しく理解することはできませんが、私は自分のノートを見て、国重さんが色々な側面から説明されていたことの多くは、自分以外の誰かに、意識的にせよ無意識的にせよ、いつのまにか何となく規定された何らかの価値観や文化や雰囲気に、いつの間にか縛られて自由をなくし、窮屈になってしまっている自分たちのことをもう一度自覚してほしいということだったのではないかと思い始めています。こんな風に分かった風に「要約する」ことも国重さんは戒めていらっしゃったように思いますが・・・(汗)。


 吃音ショートコースの前日、高槻市のことばの教室のどもる子どもたち9人のグループに招かれ、『悩みながら、生きる』という題材で話しをしたり、子どもたちの声を聞き取ったりしました。最後に、ある子どもが「掛田さんが、これまでの人生の中で一番嬉しかったことは何ですか?」と質問してくれました。

 難しい質問だったので、私もしばらく考えて、初めて吃音ショートコースに行ったとき、自分以外の沢山のどもる人たちに出会い、しかもその人たちとどもりについてお腹を抱えて笑い転げた時のことだと答えました。

 あの日、確かに私の心の中の「吃音観」がガラガラと音を立てて変わっていくのを感じました。吃音ショートコースは、私にとってはもちろん新しいことを勉強する学びの場ではありますが、何より全国のどもる仲間たちと年に一度出会い、時にはどうでもよい話で腹の底から笑い合える「お祭り」のような大事な場所であります。

 伊藤さん溝口さんは本当に大変の一言では片づけられない苦労と血のにじむような努力をもってこの吃音ショートコースを持続させて下さっていることと思います。勝手な願いや要求ばかりで大変恐縮ですが、この機会をどうかこれからも私たちに与えて頂きたいという勝手な「願い」を、最後に申し上げたいと思います!
                                                      掛田力哉

吃音とナラティヴ・アプローチは、相性がいい



 吃音ショートコースに3日間、僕たちにしっかりとつきあって下さった国重浩一さん。フェースブックでコメントを公開されていましたので、ちゃっかりとこのブログに貼り付けました。 国重さんに了解を得ていませんが、公開されたものなので、ゆるして下さるでしょう。いい時間を本当にありがとうございました。 

  「吃音とナラティヴ・アプローチ」

日本吃音臨床研究会の吃音ショートコース(10月11日〜13日)に講師として呼んでいただき、久しぶりに日本に帰ることができました。そして、三日間、私が知っているナラティヴ・アプローチについて、話をさせてもらいました。

 日ごろ思っていることですが、舞台の役者はよき観衆を得てより輝き、著書はよき読み手によってより意味のあるものとなります。このショートコースはまさに、よき観衆を得て、自由に語らせてもらったと感じることができました。


 さて、吃音とナラティヴ・アプローチの関係ですが、その可能性を大変感じることができました。

 いくつも重要な点があるのですが、ここでは次の点を上げておきます。

1.吃音領域において治療モデルという支配的なディスコースを前にして、当事者たちの声がかき消されようとしている中で、いかにそのような声を拾っていくのかというナラティヴの姿勢。

2.「吃音」というものによって、全体化されてしまった(ひとくくりにされてしまった)人びとに、その人が本来持っているその人らしさを再び気づいてもらうように働きかけ、その上で治癒することのない「吃音」とともに生きる術を見出そうとするナラティヴの姿勢。これは、「吃音」あるいは「どもり」を取り巻く意味付けの変更として理解されるのだと思います。

3.そして、その方向性をともに歩んでいくコミュニティを励ましていくナラティヴの姿勢。

これらのことについてもっとかけるような気がしますが、長くなりますので、このへんでやめておきます。
                                                       国重浩一

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/10/16

どもりでよかったと思えた3日間


 
 ナラティヴ・アプローチのワークシヨップ

 参加者からの感想を紹介します。僕の感想もほとんど同じです。楽しく、ゆたかな3日間でした。

     どもりでよかった   藤岡千恵
 
 ナラティヴ・アプローチがテーマの、今回の吃音ショートコースの三日間、楽しくてうれしくて、ひたすらワクワクしていました。
 今年は出会いの広場から国重浩一さんが進めてくださり、いつもは味わえない吃音ショートコースになりました。国重さんはとてもフレンドリーな方で、私たちに強く共感してくださり、とても心強い仲間が増えた気持ちです。

 ナラティブ・アプローチの第一人者である国重さんから直接、ナラティブ・アプローチの話をたっぷり聞くことができ、3日間をふり返ってあらためて、すごい経験をしたのだと思いました。

 私は、認知行動療法の大野裕さんの年から毎年続けての参加が叶っており、どの講師の先生との時間もとてもよく覚えています。普通の人生では決して出会うことができない世界の方々と出会い、一緒に時間を過ごせること、本当にすごいことですね。本当に感謝しています。

 吃音ショートコースでは毎年初めて会う方もいて、遠方に住む久しぶりに会う仲間、吃音の夏を一緒に過ごした仲間、いつも大阪で会っている仲間、その人たちと積み重ねた3日間は、本当に特別な時間です。どの瞬間も見逃したくなくて、時々「この仲間のなかにいること」に幸せな気持ちがこみあげていました。笑い、泣き、心を揺さぶられる体験、感動的な場面に出会える、あの時間がすごく好きです。

 国重さんの、ナラティヴ・アプローチでの奥田さんへのインタビューは、奥田さんの芯の強さを垣間見て、とても新鮮な気持ちになりました。強いまなざしと素直なキャラクターに、とても心を動かされました。去年の4月、大阪吃音教室に出会った奥田さんが変化していく姿は清々しく思っています。

 ことばの教室の教員である、高木さんへの、ことばの教室での実践に対するインタビューはとても力強かったです。奥田さんのインタビューの時とは国重さんの雰囲気も使う言葉もガラリと違っているように思え、それぞれ、全く違う二つのインタビューを見ることができたことも良かったです。

 「発表の広場」のことば文学賞の発表・授賞式は、もう本当に胸がいっぱいになりました。斎さんの「教育実習への挑戦」は、どもる自分に体当たりした教育実習での体験、斎さんの一生懸命で誠実な人柄がよく伝わりました。西村さんの「東京」は、西村さんのことばの世界に夢中になって聞いていました。鳥肌が立ちそうな、ため息の出るくらい素敵な世界でした。
 
 最優秀賞の東さんの「吃音物語」は、胸がいっぱいになりまだ言葉にできませんが、あのユニークで愛らしい東さんが、あれほどの文章を書かれることに衝撃を受けました。あれだけ明るい東さんですが、どもりに悩んで壮絶な苦労をしてこられたことが、あの文章をさらに深いものにしていると感じました。他の作品もとても気になっているので、大阪吃音教室で味わえるのが楽しみです。

 吃音ショートコースに参加した人も、参加できなかった人も、どもりの仲間は本当に、とびきりいろんなキャラクターがいて、本当に面白い世界です。どもりで本当によかったです。

 今年も吃音ショートコースに参加できたこと、とてもうれしかったです。ありがとうございました。 藤岡千恵

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/10/15

ナラティヴ・アプローチの豊かな世界


 第20回吃音ショートコース

 強い大型台風が日本に直撃。開催が危ぶまれた中で、無事に終えることができました。しかし、沖縄から参加予定の二人は、飛行機が飛ばずに、参加出来ませんでした。「とても残念だ」との電話が会場にかかってきました。台風がきたものの、少しだけ時間がずれたことは幸いでした。最終日には近畿地方に来ることが分かったいたので、スケジュールを大幅に変更しました。

 いつものなら出会いの広場で幕開けし、その日の夜は「発表の広場」です。どもる人、どもる子どもの親、ことばの教室の教師、言語聴覚士がそれぞれの立場で、体験や実践を語ります。そして最後にことば文学賞の作品朗読と、授賞式です。毎回、吃音ショートコースはテーマが違い、さまざまな講師から学んできたのですが、この「発表の広場」は変わりません。人の人生に、思いや,考え、実践にふれるとてもいい時間で、僕の大好きな時間です。

 今回は台風の影響で、最終日列車がストップする可能性があり、大切な「発表の広場」がなくなる子とを覚悟で、テーマである「ナラティヴ・アプローチ」に集中することにしました。ニュージーランドからこの日のために、日程を組んで下さった国重浩一さんのプログラムは絶対に省きたくなかったからです。最終日はいつも、講師の方と僕の3時間の対談です。これははずせません。なので、2日目で対談まですべて、ナラティヴ・アプローチに関係することを集中しました。ナラティヴ・アプローチ的な出会いの広場から、国重さんにお願いしました。

 最終日に振り替えた「発表の広場」の2時間以外の、全てのプログラムを、国重さんにお任せしました。
 20回の吃音ショートコースの歴史の中で、こんなことは初めてです。国重さんにお礼のメールを書きました。今回の吃音ショートコースの雰囲気を伝えているとおもいますので、紹介します。

  国重浩一様

大変にお疲れになったことでしょう。その後のスケジュール、もう台風の影響から離れて、順調にこなされていることと推察しています。他ではめったにない、超ハードなワークシヨップに事前の打ち合わせから、おつき合い下さり、誠にありがとうございました。20回の歴史の中で、すべてのプログラムをお任せできたのは初めてです。
とても安心して、全てをゆだねることができました。そして、参加のみんなも安心してもこの流れに喜んでいました。

 この信頼感、安心感、安定感は、東京でお会いしたときの第一印象、その後の私たちへの誠実な関わり方によるものです。そして、人間へのまなざしや、思想・哲学が共通することが多いとの確信でした。私は、とても気持ちよく、とても楽しく3日間過ごさせていただきました。私と同じような価値観を共有する、どもる本人、ことばの教室の教員、言語聴覚士である、参加者の満足した発言や,笑顔、態度から、私と同じような経験をしたのだと、とても満足で、うれしいことでした。

 いつものなら、最終セッションで必ずひとりひとりが、3日間を振り返り、考えたこと、感じたことを話します。その時間は、みんなの経験したことを丁寧に分かち合う、大切で、私の大好きな時間なのですが、今回は台風の影響でできませんでした。感想を書いて、提出してもらう時間もありませんでした。なので、参加者全員は難しいですが、感想を寄せられたものは後日お送りします。

 私は、ずっと技法ではなく、思想・哲学にこだわってきました。これにはこだわりつつも、「布教」にはわかりやすさ、シンプル、技法も必要です。今後は、それらを考えつつ、「どもりを否定するな」を広めて行きたいと思います。

 どうか、私たちの、孤立はしていても、孤独でない、いい仲間への支援をよろしくお願いします。厚かましく、いろいろとお願いすることが多くなると予感しています。できる範囲で、おつき合い下さいますよう、心からお願いします。お疲れでしょうが、その後のお仕事が順調にすすむことをお祈りします。

心から、心から感謝しています。ありがとうございました。    伊藤伸二

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/10/15

ナラティヴ・アプローチのワークショップ


  2014年 第20回吃音ショートコース 2014年10月11日〜13日


 大型台風が直撃する中、明日から秋に毎年開いている、吃音ショートコースと名付けた、2泊3日のワークショップです。
 沖縄から参加予定の言語聴覚士養成専門学校の教員と、学生が、飛行機の欠航のために参加出来なくなりました。沖永良部島からの参加のことばの教室の教員は、前日に出発したために、さんかできましたが、楽しみにしていただけにとても残念です。

 今年で20回目です。体験学習のワークショップにこだわった2泊3日の合宿が、20回も続くとは軌跡に近いと思います。資料集にこんな文章を書きました。

  

  ナラティヴ・アプローチ
          
            ようこそ吃音ショートコースへ
                                     日本吃音臨床研究会  伊藤伸二   

 吃音ショートコースは、今年で20回になりました。
 ワークショップ形式にこだわった吃音ショートコース、講師として来ていただく人にお願いするのが大変でした。講演だけなら、たくさんの候補は挙げられますが、2泊3日のワークショップとして関わって下さるとなると、講師もテーマも、そんなに簡単なことではありません。その難しいことを、よく20回も続けてこられた、これは奇蹟に近い、と感慨深いものがあります。
 
 どもる人のセルフヘルプグループであるNPO法人・大阪スタタリングプロジェクトの仲間と、日本吃音臨床研究会につながる、ことばの教室の教師や言語聴覚士との共同の取り組みのひとつとして取り組まれたのが、この吃音ショートコースです。いろいろな分野の第一人者が、私たちの吃音の取り組みに共感し、忙しいスケジュールをやりくりしながら、3日間つきあって下さっただけでなく、とても力を入れて誠実に関わって下さったからこそ、年報として18冊の冊子にまとめられましたし、その内の4冊は、金子書房の書籍として出版されたのです。それは、私たちの大きな財産になっています。改めて、ありがたい出会いが実現したと心から感謝の気持ちが湧いてきます。

 将棋のことはまったく知りませんので、比喩が的を得ているかどうかは分かりませんが、「詰め将棋」が、相手の王将に向かって、一手一手と詰め進んでいくように、「吃音とともに豊かに生きる」という吃音の王将に向かって、正面から一手一手と進んでいった20年の歴史だったと思います。日本の、世界の、吃音の取り組みが、100年以上失敗を繰り返し、それでも方向転換できない中で、私たちだけが独自の路線を歩み続けることができたのは、志を同じくする大勢の仲間の支えと、私たちの方向性の正しさを強調して下さった、大勢の講師の方々のおかげです。幸せな20年でした。

 さて、今回のナラティヴ・アプローチは、これまで吃音ショートコースで学んできたことを整理し、発展させる集大成のようになると私は考えています。私の1965年からの吃音の旅は、ナラティヴ・アプローチで整理することができますし、今後の指針も示してくれるものになると確信しています。講師として、私たちがワークショップにこだわった中で、ナラティヴ・アプローチを学ぶ、一番ふさわしい人に来ていただくことができました。一昨年運良く東京で国重浩一さんと少しですが、お話しする機会がもてました。初対面にもかかわらず、古くから私たちを見ていて下さってきたような印象をもちました。その時から、今回のようなワークショップで来ていただくことを願っていました。

 遠く、ニュージーランドから、私たちの日程に合わせて来て下さいますが、事前の連絡で、吃音について、私たちの活動について強い関心をもって下さっていることが、ひしひしと伝わってきました。20回記念の吃音ショートコースに、国重浩一さんをお迎えできること、私たちの20年の活動へのご褒美のような気がします。
 その大切な吃音ショートコースに皆さんとご一緒できる幸せに感謝します。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/10/10

どもる子どもからの、うれしい電話

 今日、ことばの教室を終了します

  「今ここにいる、小学3年生の子どもが、今日でことばの教室を終了するので、伊藤さんと話したいと言っていますが、代わってもいいですか」

 昨日、鹿児島市立名山小学校・ことばの教室の福田加寿子さんからの電話です。もちろん喜んで子どもと話しました。しっかりとした声です。こんな話をしてくれました。

 「3年生になって、学級で発表したいけど、クラスの子どもが自分のことを知らないし、「どもり(吃音)について知らないから、発表したくなかった。ことばの教室の先生に相談したら、どもりのことをみんなに分かってもらうために、自分で、どもりについて話したらと言われて、話そうと決めて話した。
 『僕は、話すときにどもります。でも、がんばって発表するので、聞いて下さい』
 こう言ったら、クラスのみんなは分かってくれたので、どもることについて、何も言われなくなった。だから、僕のどもりについての悩みは解消したので、ことばの教室を今日、終了します」

 「そうか、すごいね。僕は小学2年生からどもりに悩み始めてたけれど、君のようにはできなかったし、どもっても大丈夫と、とても思えなかった。今の3年生は、君が話して分かってくれたけれど、クラスが変わり、中学、高校に行って、今回と同じように理解してくれるとは限らないよ、それでも、君は大丈夫なの?}

 いろいろと揺さぶりをかけましたが、自分の力で、自分の言葉で、自分の直面する困難を解決したのは、彼にとって大きな実績です。この実績を強化していくことで、彼は今後も同じように困難に立ち向かうことができると思いました。
 今、僕が勉強している「ナラティヴ・アプーローチ」には、自分のつくった第二のストーリー(オルタナティブ・ストーリー)を誰かに話して証人なってもらう、聴衆になってもらう取り組みがあります。
 ことばの教室の福田さんは、彼の変化の物語の聴衆、証人として僕を選んでくれたのです。

 電話のことをつれあいに話して、その子どもは以前に手紙をくれた子じゃないの、返事もしていなかったのかと叱られました。今年の7月に彼の手紙をいれた福田さんからの手紙が来ていたのでした。一番忙しかった時期で、その手紙をすっかり忘れていたのです。

 ことばの教室ので、「親・教師・言語聴覚士の使える吃音ワークブック」(解放出版社)で勉強しているので、その表紙に吃音親子サマーキャンプの150人ほどの写真の中から、「伊藤さんは、どの人?」と福田さん聞いて、違う人を指していたので、僕に手紙を出そうと、書いてくれたのだそうです。

 その手紙には、「学習・どもりカルタ」(日本吃音臨床研究会発行)のカルタで、「いもりとやもりと それからどもり みんなちがって みんないい」が一番おもしろく、一番ぴんときたのは「ひとりじゃない 仲間がいるから がんばれる」ですと書かれていました。

 言いにくいときの工夫が書いてあり、「伊藤さんは、どうしていますか」の質問が書いてあったのに、それに答えられなかったことが残念です。手紙をもらっていたのに、初めてのように電話で話してもうしわけなかったと、深い反省をしています。

 明るい、元気な声に、3年来の途中の終了も、本人の決めたことに、すごいなあと思いました。困ったときはまた、ことばの教室を再開すればいいし、僕とも一度話しているので、電話してくれればいいと思いました。

 「吃音症状の軽減」を目指さず、子どもと吃音と向き合うことを実践する、ことばの教室のすばらしさを思いました。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/10/01






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