伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

2011年02月

英国王のスピーチ アカデミー賞の主要部門独占

 吃音が世界に伝えられた日

 今日は、アカデミー賞授賞式をちらちら観ながら仕事をしていました。私はかつて、映画少年、映画青年でした。父親が洋画好きで、「ターザン」映画をみてから、ゲイリー・クーパーやジョン・ウェンの西部劇を、さらに、波止場など1950年代から1960年代の映画はほとんど観ているほどです。バート・ランカスターが一番好きな俳優でした。家が貧しかったのになぜ行けたのか。父親のコレクションの記念切手を勝手に売ってはそれが映画代に化けていました。吃音に深く悩んでいた時代、映画が唯一の友でした。中学時代は、警察に時々捕まり、何度も教師に補導されました。高校時代は国語の音読が怖くて、学校へ行けずに、映画館で過ごしたこともありました。しかし、忙しくなって、最近はほとんど映画館に行けなくなりました。アカデミー賞にも関心が薄くなりりました。

 今年は、胸をどきどきさせながら、そして、主演男優賞、作品賞に「英国王のスピーチ」が決まったとき、思わず涙がでて、拍手をしていました。玄人ぶりたい映画評論家には、「英国王のスピーチ」はそれほど高く評価されていませんでした。だから、授賞式のコメントをする人は、これは、「大衆賞」だと言う人さえいました。映画の専門家なら、違う作品に投票すべきだというのです。昨年のアカデミー賞を知らないのですが、立体映画、3Dの「アバター」だったのでしょうか、それの揺り戻しだと言った人がいました。「保守的」だと「英国王のスピーチ」の作品賞受賞に否定的でした。
 このように中東情勢が緊迫し、とても不安定な、大変な時代だから、オーソドックスな「英国王のスピーチ」が選ばれたことを私は評価しています。もちろん、吃音が正しく、まっとうに描かれていたからですが。吃音の私たちが認知された気持ちにさえなりました。脚本賞では最高年齢たという、デヴィト・サイドラーは、受賞の挨拶で、吃音が認められたというようなスピーチをしていましたし、監督賞の若いトム・フーバーも、母親からこの作品を監督しなさい言われたエピソードを紹介し、吃音に触れていました。主演男優賞のコリン・ファースも誠実なスピーチをしていました。アカデミー賞の授賞式という、吃音とは対局にあるように華やかな舞台で、吃音ということばが聞くことができるのは、おそらく、最初で最後のことでしょう。
 作品賞、主演男優賞、監督賞、脚本賞の主要部門を独占しました。映画のプロを自認する人よりも、大衆の感覚が受賞に押し上げたのでしょう。

 映画は吃音に苦しんでいた時の私の唯一の救いであったし、未来への希望でもありました。映画技術や、斬新な監督術ではなく、奇をてらうアイディアではなく、人間の真実と、誠実さを描いた作品が、吃音がテーマの作品が、主要部門を独占したことは、本当にうれしいことでした。この受賞を機会にもっと多くの人にこの作品が観られ、吃音の理解が少しでも広がればと願っています。評判がいいからみたが、たいしことがなかつたと言う芸能人がいました。その人たちと違って、あの作品に、たくさんのメッセージが込められていることが、感じられたのは、やはり私が吃音に深く悩んできたからでしょう。
 ジェームス・デーンの「エデンの東」を映画を40回以上観て、同じ場面で毎回大泣きした感性が再び戻ってきたような感じがします。悩んできたからこそ、多くのことを感じ取れる。これも吃音の悩む力だと感じたのでした。仕事が一段落しましたので、前よりは少し時間がとれるようになりました。これからまた、映画館に通い、映画老人になろうと強く思ったのでした。
 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二

心の健康セミナー


 2011年2月26日 心の健康セミナーで話してきました。
 
 (財)メンタルヘルス岡本記念財団の主催する「こころの健康セミナー」で話しました。

 私の前にお話になったのが、黒川内科医院院長・黒川心理研究所所長の黒川順夫先生です。
 「対人恐怖は、自分の症状を人に告白できれば全治する」は、症状が再発しても後戻りできないために、人に告白するのだする考え方は新鮮でした。自分を追い込んでいく厳しさを感じました。森田療法の思想は、症状が残っていても日常生活に支障なく、上手く付き合えるようになれば「治った」、「全治」であるです。一般に考えている「全治」とは違うことが改めて理解できました。

 私も著書や友人の話からよく知っている、水谷啓二先生の啓心寮での生活のお話は、楽しそうにいきいきと話され、私が入った東京正生学院の生活とよく似ていて、懐かしいもののように思いました。その対人恐怖、赤面症の悩みのお話は、吃音にとてもよくにていて、つくづく、対人恐怖や神経症は吃音と親戚だと思いました。
 50歳になってようやく、対人恐怖で悩みや、森田療法の取り組んだ過去の体験を人に話されたということを、正直に誠実に話されるのがとても印象的でした。
 
 黒川先生のお話の後、すぐに私の紹介があったのですが、トイレに行くたくなって、講師から「すみません、ちょっとオトイレに行かせて下さい。ちょっと待って下さい」と言う、なんともしまらないことで、講師がいないのですから、結局休憩時間になりました。

 さて、私の話ですが、どんなに深く吃音で悩んできたかを、歌と、ジェームス・ディーンの映画「エデンの東」の紹介から入りました。いきなり私が歌を歌ったので、おそらくみなさんびっくりされたことでしょう。スタッフのみんさんとの夕食会で、講演会での歌は始めて聞きましたと話しておられました。
 
 「悩みの中から掴んだ生きる力 吃音は創造の病」が私のテーマでした。

 大阪スタタリングプロジェクトの会長・東野晃之さんが、私たちのグループのメーリングリストに流して下さったものをそのまま紹介します。
 
 −いつもレジメどおりでなく、臨機応変に伝えたいことを話す講座スタイルがいいです。講演内容の大よそは、大阪吃音教室などで繰り返し聞いた話ではありますが、マンネリにならないのはこのスタイルにあり、また伊藤さん自身が様々な経験で日々変化しているからでしょう。宮城まりこの「ガード下の靴磨き」の歌、何度聴いても
ジンとくる歌です。どもりが治ってからの姿を夢みて、どもりの殻に閉じこもっていたとき、吃っている現実の自分には、未来を想像することが、未来を想像することができなかった。どもりを憎み、嫌悪し、治ることを夢見るこ
とで心の均衡を保ってきたのかも知れない。
 なぜ、治すのではなく、吃る事実を認め、どもりとつき合うのか、吃音に悩んできた自分の半生を語り、その経験知からの話しには説得力がありました。どもりを全く知らない人にも、その苦しさや対人関係上におこる悩みの核心は伝わったのではと思いました。
 「吃音は、創造の病である」。講演の冒頭で話されましたが、全ての話を聞き終わって私にはそのことがわかりました。悩みのとらわれから解放され、人が変わっていく過程そのものが、創造的な姿だと思えるからです。また自分の変化だけでなく、吃る人のセルフヘルプグループを創り、世界で初めての国際大会を開催し、他者貢献をしてきた伊藤さんの体験を聞くと、吃音は創造の病だったことがわかります。吃る人のなかに、小説家や学術研究者、芸術家など創造的な世界で活躍する人が多いのも吃音が創造力を秘めているからでしょう。いつもの大阪吃音教室とは違う、吃音の伝道師のような伊藤さんの姿を見たようでした−

 いつも聞いている話なのに、14名もの仲間が聞きにきて下さったこと、心強い応援でした。仲間の支えで、みんなさんの代わりに、大阪吃音教室の実践を話しているような感じでした。 
 この後、東野さんたちは、その日公開の「英国王のスピーチ」にみんなで観にいきました。

 2011年2月27日 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二

英国王のスピーチ 4

サンケイ新聞

 英国王のスピーチ、いよいよ明日公開です。産経新聞の記事を転載します。この映画の紹介はいろんなところでされていますが、当事者の声を拾っての紹介は少ないでしょう。いい記事を書いて下さったと感謝します。

 明日は、こころの健康セミナーで、私は講演します。大阪吃音教室の仲間たちは、私の講演を聴いた後、映画を見に行こうと計画を立てています。皆さんも、是非、両方にご参加下さい。繰り返しますが、是非感想を私のメールアドレスにお寄せ下さい。
 明日の公開、本当に楽しみです。多くの人に見ていただきたいです。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二

英国王のスピーチ 3 


 キーワードは「対等」「誠実」

 英国王のスピーチについて、新聞社から取材を受けたと書きましたが、2011/02/21、今日の産経新聞の夕刊に大きく取り上げられました。「芸能エンタメ」の欄なので、もちろん、「英国王のスピーチ」の紹介なのですが、吃音に関する記事かと思うくらい、吃音を取り上げて下さっています。ありがたい紹介記事です。かなり長い時間私の話を聞いて下さり、単に映画の紹介ではない、吃音にかなり焦点をあてた記事に、とてもうれしくなりました。
 その時にお話したのが、「対等」「誠実」でした。それを紹介して下さったのもうれしいです。
 あと7日ですか? アカーデミー賞がたのしみですね。大阪でこの映画が公開される日、前に紹介しました、心の健康セミナーの講演会の日でもあります。吃音について深く考える一日になりそうでうれしいです。

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二

英国王のスピーチ 2

 新聞社の取材を受けました。

 昨日、新聞社の取材を受けました。試写会のあったところで、配給会社の人も同席しました。もちろん、記者のかたもみており、3人でとてももりあがりました。質問がお上手でだいぶ話し込み、
1時間30分は超えていたでしょうか。整理していったわけではないのですが、質問していただくままに、吃音の治療の歴史や、映画にでてくる治療法の解説をしたりして、配給会社の人が、楽しい講義を受けているようだと、言って下さいました。
 この映画、いろんな角度からみることができ、いろんな話し合いができると、3人で話していた時思いました。一人でみて、よかったでは、もったいないと思いました。
 その時出たのは、私たちが学んでいる「アドラー心理学」の、劣等性、劣等感、劣等コンプレックスにも関係します。
 また、家族の支え、国王の誠実さ、国王の座を投げ出した、長男の国王の心理分析などにも話が膨らみ、とても豊かな世界が、この映画で話し合われると思いました。私たちの発行している月刊のニュースレターや、ホームページでも掲載したいと思います。
 
 このブログを読んで下さっているひとで、感想、論評、エッセーなどお書きいただけるとうれしいです。私のこのブログはレスポンスを受けていませんので、私のメールアドレスにお送りいただければ、何らかの形で掲載しようと思います。もちろん、このブログでも紹介できると思います。

 昨日、新聞社の取材をうける当日、うれしい電話相談がありました。ホームページで私の電話番号を知って掛けて下さった、女子大生で、就職試験の面接で困っています。その中で、親や、友だちにいくら吃音の話をしてもわかってもらえない。理解してもらうにはどうしたらいいですかとの、相談にもなりました。その時、2月26日に公開されるこの映画を、家族や友だちと観ると、理解してくれるかもしれないよ。と話しますと、この映画を彼女は知っていました。ある映画予告編で「英国王のスピーチ」をみて、必ず観に行こうと思って、インターネットでこの映画の検索をしていたところ、英国王のスピーチについて書いている、ブログを見つけて読んで、そこから、日本吃音臨床研究会のページにたどり着き、そして、電話をしようと思ったというのです。

 ブログ経由で電話相談にたどりついたことがとてもうれしいことでした。関東の方だったので、また関東地方でワークショップをするから、ホームページ見ておいて下さいと伝えました。
その電話が、取材を受けた当日というのも、何かのつながりを感じました。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 

こころの健康セミナーで講演します。

 創造の病い 

 昨年末から抱えていた大きな仕事が、今日やっと終わりました。
 吃音と認知療法について書きました。
 出版されましたらお知らせします。是非お読み下さい。
 これからは、ブログの更新ができそうです。
 さて、2月26日の講演では「創造の病い」について話します。
 お聞きいただければうれしいです。


心の健康セミナー 2月分 


 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二

英国王のスピーチ

吃音に悩む英国王ジョージ6世が自らを克服し、国民に愛される本当の王になるまでを描いた感動の実話。


 2月4日、「英国王のスピーチ」の試写会に招待されて、観に行ってきました。吃音に関する映画は、ベネチァ映画祭で新人監督賞をとった「独立少年合唱団」など、期待をしていたものが、吃音という観点からすれば、これまで期待はずれに終わっていましたので、期待はしつつも、不安を抱いて見に行きました。
 欧米ではすでに公開され、アカデミー賞の主要12部門に、ノミネートされています。また、国際吃音連盟に所属するグループでは、絶賛され、大きな話題にはなっています。ただ、国際吃音連盟の仲間とは、私とは感覚がかなり違うので、欧米のどもる人のセルフヘルプグループが絶賛したとしても、同調できないかもしれないなあとは思っていました。

 配給会社の試写室には、新聞社、テレビ局などのマスコミ関係者が10数人ほどいたでしょうか。このような試写会は「独立少年合唱団」以来2回目です。
 すばらしい映画でした。

 幼い頃から吃音にコンプレックスをもち、自分を否定しながら生き、内気な性格から人前に出ることが最も苦手だった国王の次男が、「王冠を賭けた恋」のために王位を捨てた兄の代わりに、国王の座についたジョージ6世、現在の英国女王エリザベスの父の物語です。何人ものセラピストの治療を受けても改善しません。デモステネスの小石を口に含んで訓練したという話から、実際にビー玉を6こも口に入れて訓練するシーンが出てくるのにはおどろきました。オーストラリア人のセラピストに出会い訓練をするのですが、驚くことに、1936年のことなのに、現在とまったく変わらないセラピーなのです。よく、検証された映画だと思いました。見方を変えれば、吃音の治療法は1930年ころから、まったく進歩していないことになります。

 父からスピーチが出来ないことを激しく叱責され落ち込むジョージ。
 王位継承評議会のスピーチでどもり、その夜「私は王ではない」と泣き崩れるジョージ。
 吃音に悩む人の心理が状況が見事に描かれていきます。

 「ナチスドイツとの開戦直前、不安に揺れる国民は王の言葉を待ち望んでいた。王は国民の心をひとつにするために、世紀のスピーチに挑むのだが・・・」

 パンフレットにはこう書かれています。
 
 あまり説明や私の感想を書いてしまうと、これから映画を見る人の興味をそいでしまいまうことになるのでこの程度にします。

 もうひとつ、同じ時代を生きた吃音であったことで知られる、英国首相のチャーチルがどうでてくるのか、とても興味深いことでしたが、ちゃんとでてきました。よくみていないと見逃してしまいそうですが、私としては、とても重要な役割をしていました。
 
 吃る人本人だけでなく、どもる子どものおやにも、ことばの教室の担当者、言語聴覚士など、関係者には是非みてほしい映画です。

 2011年2月4日 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二

金沢こころの電話 2

 私のグループ体験
 

 金沢こころの電話では、カウンセリングのいろんな研修はあるのですが、エンカウンターグループは、これまでなかったようです。だから、グループとは何かについて知らない人もいたので、はじめに少し私のグループ体験を話しました。
 1967年頃でしょうか、カウンセリングに興味をもちはじめてころのグループは、エンカウンターグループという名称ではなく、カウンセリングワークショップという名前で開かれていました。当時、カールロジャーズの来談者中心療法といわれていたものが、日本に普及しつつあった時代だってように記憶しています。
 参加したグループは、「さあ始めます」とファシリテイターが発言したきり、みんな黙ってしまいます。1時間、2時間と沈黙が続きます。半日も黙って過ごした時もありました。このようなグループに何度も参加する中で、何かいやなものを感じ始めました。メンバーが自分なりに一所懸命話したことを「まだ、あなたは本当のことをはなしていない」と、無理矢理、自分に直面させるカウンセラーがいました。勇気を出してはつげんしたものを、カウンセラーの当人に気づかせてあげたいという意図なのでしょうが、私はいやな感じがしました。「自分にさあ向き合え」と責められているような感じがしたのです。当時、自分なりに悩みから解放されつつあった私は、そんなに深刻な問題はもうあまりなかったので、自分が責められているような感じがしました。何度かそのような経験をしたので、グループに嫌気がさして、ある時からまったく参加しなくなりました。私自身が、グループで傷ついた体験をまず話したのです。

 1989年の年末、私は10年続けたカレー専門店をたたんで、新しい人生を模索していました。その時、九州大学の村山正治先生の九重エンカウンターグループにとても行きたいとなぜか思ったのです。締め切りが過ぎており、満員だったにも関わらず、グループの始まる10日前に申し込み、無理を言って参加させていただきました。自分のこれまでを整理したかったのと、嫌な体験をしたグループの思いをなんとか払拭したい、村山先生のグループなら、これまでとは違う、グループ体験ができるに違いない。確信めいたものがあったからです。
 そこで、安心して自分を語り、他人の話に耳を傾け、心の底から大笑いする経験をしました。これまでのグループの嫌な緊張感がまったくなく、むしろ深刻な問題を笑い飛ばし、そして、真剣に向き合う。笑いのとても多いグループで、心地よさ、安心感。私が常に経験している、私たちのセルフヘルプグループのような、安心感、安全感をもつことができ、「グループっていいなあ」と思ったのです。それが、再び私をエンカウンターグループに向かわせた体験でした。
 こんな話を少しして、グループがはじまったのでした。
 
 2011年2月1日  日本吃音臨床研究会 伊藤伸二
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