いつの間にか7月に入りました。今年の半分が過ぎてしまったことになります。本当に早いですね。そして、あっという間に梅雨が終わり、この猛暑です。身体を労りながら、「吃音の夏」を楽しみたいと思います。
 前回で、渡邉美穂さんの実践発表が終わりました。ところが、「スタタリング・ナウ」2012.2.20 NO.210 には、おわりにの後に、もうひとつ章があります。
 僕は、これまで何度も、全国公立学校難聴・言語障害教育研究協議会の全国大会で、吃音の分科会のコーディネーターをしてきました。発表者が発表してよかったと思ってもらえるよう、しっかり発表原稿を読み、しっかり聞き、誠実に丁寧にコメントしてきたつもりです。
 今日、紹介する渡邉さんの「発表を終えて」にこめられた悔しさ、悲しさ、怒りは、どれほどのものだったか、僕にもよく似た経験があるので、分かります。その経験があったからこそ、それをバネにがんばれたとも言えますが。
 今年も各地でいろいろな研修会が開催されます。発表した人が一番得するよう、コーディネーターの役割は大きく、また、場を支える参加者のあり方も大切だなと思います。

  
自分や吃音と向き合うことの大切さ 番外編
         渡邉美穂(千葉市立あやめ台小学校ことばの教室)
発表を終えて

 9年前、全国公立学校難聴・言語障害教育研究協議会(全難言協)大会で、同じ学校でことばの教室の担当を共にしていた高瀬景子さんと、どもる子どもたちのグループ学習や交流について実践報告をした。グループ学習や交流を始めたばかりで、迷いながら毎日数人の担当者同士でいろいろなことを話し合いながら行ってきた。吃音親子サマーキャンプに参加し始めた頃でもあり、いろいろな人との出会いを私たち自身も楽しいこと、嬉しいこととして捉え、子どもたちの出会いの場をことばの教室の中で工夫していこうと考えていた。
 9年前の発表も、開催地は北海道だった。『親、教師、言語聴覚士が使える 吃音ワークブック』(解放出版社)に高瀬さんが書いている、K君の変容について2人で熱く語った。しかし、コーディネーターが発表内容を批判的に捉えていた。自分の好きな電車についてどもりながらも話したいことを楽しそうに語るビデオのK君(6年生)の姿を見て、コーディネーターは、「こんなにどもっていて、ことばの教室を卒業させるの?今まで何をしてきたの!」と激しい口調で私たちにことばを投げかけてきた。私たちは、予期せぬことばに驚いた。そして、うまく説明できず、納得してもらうことができなかった。悔しかった。
 私たちが伝えたかったのは、どもる子どもたち同士の出会いや取り組みが、K君にとってよかったという事実だった。しかし、どもっている様子のことばかりを指摘して、K君が表情豊かに、大好きな電車について思いっきり語っていることには全くふれてくれなかった。でも、発表会が終わった時、私たちの発表を聞いていた参加者の何人かが感想や励ましのことばを書いたメモを渡しにきてくれた。「感想を言える雰囲気ではなかったので、一言よかったと言いたくて」このような内容がたくさん書かれていた。とても嬉しかった。そんな悲しい発表から9年たった。
 今度こそ、どもっているその様子だけに注目するような分科会の話し合いにだけはしたくないと思っていた。私の不安を打ち消すように、高瀬さんや、現在同じ学校の黒田明志さんが一緒に北海道に休暇をとって応援にきてくれた。また、分科会会場に伊藤伸二さんや島根県の宇野正一さんも来てくれた。私にとって何があっても助けてくれる心強い味方が前の方に席を陣取ってくれた。また、この提案をするために事務局といろいろと事前の連絡をとっていた。その方と北海道でやっと会えた時「私、9年前にあの分科会で提案を聞いていました。今回、北海道にリベンジに来たんですよね?」と驚くことばをかけてくれた。また「あの分科会の雰囲気は、その後の北海道の中でも話題だったんですよ。変な感じでしたよね」と言ってくれた。私たちの思いは、伝わっていたのだ。そして、その人が会場係として、そばにいてくれた。会場はアウェイではなく、ホームでの発表となり緊張しやすい私にとって、最高に話しやすい場となった。
 私の提案がどう受け取られるか不安だったが、子どもたちが自分や吃音と向き合っている事実を会場参加者もコーディネーターも理解してくれた。ある参加者は「『学習・どもりカルタ』を買って子どもたちと作っています。出来上がったらみせたいです」と言ってくれた。発売から一年、徐々にどもりカルタ仲間が増えてきている実感も得た。どもっても話したいことを話し、やりたいことを進んで行っている子どもたちに温かいことばもたくさんもらった。分科会は、楽しくて嬉しい時間となった。
 今回、全国大会で気持ちよく発表できたのは、この9年間の間にいろいろと学ぶことができたからだと思う。『吃音ワークブック』の出版に向けて合宿をし、夜通し吃音について語り合ったこと。「どもりカルタ」やいろいろなワークを通じて子どもたちが語ってくれたこと。どれも私にとって大事な時間となり、私の考えや思いを整理することができた。また、その意欲をかき立ててくれたのは、9年前の発表での悔しさからきたものかもしれない。どれも私にとって大事な通過点であったとやっと今思えるようになった。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/07/03