もうすぐ、6月。今年も、吃音親子サマーキャンプの案内の時期になりました。
 今年、吃音親子サマーキャンプは、第34回目を迎えます。これまでたくさんのどもる子ども、保護者、子どもとかかわることばの教室の担当者や言語聴覚士のみなさんと出会ってきました。そして、話し合いの中で、芝居の練習や上演の中で、親の学習会の中で、たくさんのドラマが生まれました。
 あなたはあなたのままでいい、あなたはひとりではない、あなたには力がある
 このメッセージを伝えたくて続けてきた吃音親子サマーキャンプ。どうぞ、ご参加ください。
 今年の吃音親子サマーキャンプの詳細は、日本吃音臨床研究会のホームページのニュース&トピックス(5月23日付け)に掲載しています。参加申込書も、ダウンロードできます。

 さて、今日は、2011年の第22回吃音親子サマーキャンプの特集です。まず、巻頭言から紹介します。(「スタタリング・ナウ」 2011.10.23 NO.206)

 
  
共振する力
              日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二


 「好きな人に何度も話しかけようとしたけれど、どもるのが嫌で結局話しかけられない」
 「どもると相手に嫌われると思うの?」
 「そりゃあ、そうでしょう。どもると嫌われて、相手にされないに決まっている」

 吃音親子サマーキャンプの話し合いで出された話題で、それほど深刻な悩みではないにしても、女子高校生にしては、切実なテーマではある。
 今年の高校生グループ6名のうち4人が女子だ。半数が複数回参加していて、吃音について学び、将来への展望は暗くない。男子は交番勤務の警察官、内装工事の左官工と、現実的な展望を語る。一方女子は、英語を生かして外国で仕事をしたい、国際連合の職員になりたい、言語聴覚士になりたい、ステージのバックコーラスの歌手になりたいと、それぞれに自分の可能性を広くとらえて、夢がある。しかし、現実の学校生活の中では、友人からどもることを指摘されたり笑われたりしているためか、人間関係については不安が残る。
 どもる人のセルフヘルプグループ、大阪スタタリングプロジェクトの例会は毎週金曜日に開かれ、30人前後が参加する。毎回新しい参加者があり、その人たちは就職に際しての、または仕事上での悩みが多い。
 この4月から参加し始めた香緒里さんは親しい人や家族と話すときはよいが、上司への報告や人前でのスピーチ、電話などでは常に緊張し、仕事を辞めたいと上司に相談するほど悩んだ上で大阪吃音教室を訪れた。最初の日の自己紹介。名前が言えず、1分以上もかかったが、顔をしっかりと上げてどもり、精一杯伝えようとする誠実さが伝わってきた。その日から彼女は毎週熱心に通うようになった。大きな問題を抱えて悩んでいるにもかかわらず、私たちが半年は継続して参加したらどうかとすすめても何回かで来なくなる人、一回きりという人も少なくない。その中で積極的に発言し、例会後の喫茶店の語らいにも毎回参加する香緒里さんの熱心さは際だっていた。彼女の自分を変えたいとの熱意が伝わってくる。
 吃音親子サマーキャンプに大学生や成人が参加したいと申し込むことはよくあるが、すべて断っている。キャンプはあくまでもどもる子どもたちのもので、成人のためのものではない。どもる人のスタッフは、児童心理やカウンセリング、グループについて、ことばのレッスンなどを学んできた人、キャンプの卒業生に限られている。吃音の体験をしてきたからといってそれがどもる子どもや親の役に立つとは思えないからだ。
 どもる人がキャンプのスタッフとなる原則を初めて破って、香緒里さんに事前の演劇のためのレッスンからのキャンプへの参加をすすめた。本人がキャンプで自信を取り戻してほしいとの思いだけでなく、彼女の人生に対する真剣さや誠実さがキャンプで接する子どもたちにいい影響を与えるだろうと考えたからだ。
 キャンプをすすめた後で、彼女が来年結婚することになっており、相手の家族との顔合わせでひどくどもることを予想しながら出かけ、実際にかなりどもったとき、彼が「どもっていたけれど、ちゃんと言えていた、よかったよ」と言ってくれたとの体験を聞いた。どもる私以上に彼が私の吃音を受け入れてくれている、私も彼に近づきたいという話をうれしく聞いていた。
 この話を、恋愛の話が出たときに高校生に話すと、目を輝かして聞いていた。見知らぬ誰かではなく、現に今キャンプに参加している人の話だから、「どもっていても大丈夫。受け止めてくれる人はいる」の話も説得力がある。食事の時間に香緒里さんを女子高校生が取り囲んで話を聞いていた。
 キャンプに、小学生、中学生、高校生、大学生、さまざまな仕事をしている社会人が参加していることに大きな意味がある。今、悩んでいることに、ひとつの答えをもった体験者がいることは強みだ。女子高校生にとって、少し先を歩む香緒里さんの体験に、勇気づけられたであろうし、香緒里さんも、自分の体験をしっかりと興味を持って聞く後輩に、自分の体験が役に立っているとの思いが、自信につながったことだろう。
 キャンプのキーワードに「真剣さ」がある。人生を真剣に生きる人の体験と体験がぶつかり合い、共振し、これまでとは違った物語を語り始める。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/05/28