岸見一郎さんをゲストに迎え、2泊3日で学んだ「アドラー心理学」。「スタタリング・ナウ」2010.4.20 NO.188 で、そのときの様子を特集しています。その吃音ショートコースに参加した人の感想と、参加者にショートコースの最後に書いていただいたふりかえりから、一部抜粋して、紹介します。

アドラー心理学に出会って

  たくさんのキーワードに囲まれて
                                 掛田力哉
 アドラー心理学のゴールは、「他者を仲間である」と思うこと、私は他者に貢献できることを知ること、そして「自分を好き」になることだという話があった。しかし、それが容易なことではないことは、吃音に悩み、自分を信じられず、他者の目を恐れ続けた経験のある人なら十分に理解できることだ。しかしまた同時に、講師の岸見さんがそのための行動や思考の例としてあげたことは、「自己の非論理的な思考を見つめ直す」(論理療法)、「他者を無理矢理コントロールするのでなく、まず自分の思いを率直に語る」(アサーション)、「他者を変えるのではなく、まず自分を変えてみる」(建設的な生き方)、「自分のコミュニケーションの傾向を知る(交流分析)など、私たちが大阪吃音教室で長年続けてきたことと同様のことばかりであったことにも驚かされた。
 私個人としては、「怒り」のコントロールのこと、子どもと「対等」な関係を築いていくことなど、教師として、親としての自身を振り返り、その傲慢さ、怠慢さを痛感させられるエピソードがたくさんあり、今このときにアドラー心理学や岸見さんに出会えたことを本当にありがたく思った。「勇気」「理想」「誇り」などのことばがキーワードとして出てくるところも、アドラー心理学が研究室の中のためでなく、つましく生きる私たちひとりひとりの人生のためにこそ生まれ、考えられたことを思わせた。人生に「深刻にならずに、真剣に」取り組んでいらっしゃる岸見さんご自身の生活の中から語られることばは、一つ一つが胸に響いた。

吃音ショートコースのふりかえりより
・アドラー心理学を勉強し、個人的には親との関係等で活かしていきたいと思いました。怒りを使わず、接していきたいと思いました。また、自分の人生を楽しむことの大切さを感じました。自分も幸せでないと他人にも貢献できないのではと思いました。
・岸見さんのことばに、「好きなことをするのに先延ばしにしない」ということばがありました。そのことばは私にとってすごく大事なことで、すごく勇気づけられました。
・症状に振り回されないで目的を考えるというお話が、今までの私の誤解を解いていただけた。そのことで、気持ちが軽くなり、無駄な労力や余計なエネルギーを使わないでも生きられることを学び、本当に助かりました。そうすることで、気力を充実することができると思うと、勇気がわいてきます。
・叱らない、ほめない、という育児法、表面的には私もそうしてきたように思いますが、もっと基本的なところで、他者信頼できていたかどうか、対等に遇してきたかどうか、かなり不足していたと反省が湧いてきます。が、すでに子育て終了。これからは影響は小さいかもしれないが、周りの人との対人関係に気をつけて、少しでも他者貢献していけたらいいなと思います。
・私は教師をしていますが、子どもに、上から目線で接したり、怒ったりすることがよくありました。でも、今回、岸見さんのお話をお聞きして、それは、対等ではない。子どもに「〜をしてあげる」ではなく、「一緒に〜をしていこう」と共に考える協同作業をしていくことが大切だと分かりました。「教師だから、上手に導かなくてはならない」ではなく、もう少し子どものことを信頼し、子どもに任せながら、一緒に歩んでいきたいと思いました。
・吃音は二つの意味で人を「今ここに生きること」から遠ざけます。一つは、頭に浮かんだとおり話せないため、自分のことばが「今ここ」のことばを絞り出すことを気にするあまり、意識が話し相手から離れ、自分の内面に沈潜してしまいやすい。この二重の制約を超えて、どもりの只中にいるときにも「今ここ」に生きるにはどうするかを、今後一つのテーマとして考えたい。また、先の見えない悩みの最中にいる人が「今ここ」に生きることをどう支援できるか、考えていきたい。(了)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/03/22