東京ワークショップ2 3連休の最終日は、今回12回目となる東京ワークショップでした。今年は、直前、2人のキャンセルがありましたが、それでも19人の参加でした。遠くは鹿児島からどもる子どもの母親が参加しました。鹿児島、大阪、静岡、長野、埼玉、千葉、東京と住んでいる所もバラバラですが、ひとりひとりの背景も様々です。言語聴覚士、ことばの教室の担当者、どもる子どもの保護者、どもる本人、吃音ではなく緘黙で、僕のブログを読んで昨年に続き参加の人、自分の母親が、昨年、「親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会」に参加してすすめられたというどもる子どもをもつ自身もどもる母親、ホームページを見て初めてどもる人の集まりに参加したという人、大阪吃音教室に参加したこともある東京在住の人、年に一度この東京ワークショップで出会うどもる子どもをもつ自身もどもる長野県の人、今25歳になっている息子と吃音親子サマーキャンプに何回か参加したことのある母親、長い間「スタタリング・ナウ」を購読してくれていて、今回初めて出会うどもる人、こうして挙げるだけでも、本当に様々な立場の人が集まったんだなあと思います。
東京ワークショップ1 何年か前は、自己紹介だけで午前が終わってしまったことがあります。今回は、簡単に名前とどこから参加したかだけを言ってもらって、スタートしました。せっかく遠いところから参加してくださったのだから、今一番知りたいことを知り、疑問に思っていることを解消して帰ってもらいたいと思いました。

東京ワークショップ3 鹿児島から参加した母親は、この4月から小学校に入学する子どもに伝えておくべきことは何かが一番気になっていました。母親自身が娘の吃音をどう受け止めたらいいのかも、聞きたいことのようです。僕は、その子どもにぴたっとヒットするようなことばなどはないと言いました。吃音は、一人一人違うのだから、マニュアルなどありません。ただ、やめた方がいいのは、マイナスに将来を想像し不安になることです。何かが起こったら、そのときに考えることです。起こる前から先取りして心配するのではなく、起こってから、子どもと一緒に考えよう、悩もう、楽しもうと答えました。そして、そのときまでにできることは、吃音について親が勉強しておくことです。また、子ども抜きには何も決定しないことが大事です。子どもに相談し、常に複数の選択肢を考えることだと思います。母親は、ひとつひとつうなずきながら聞いてくれました。そして、参加しているどもる人に、親に言われて傷ついたことば、うれしかったことばは何かと尋ねました。
 参加者からは、「何も言われなかったことがよかった」、「母が学校に配慮してほしいと言いに行って、その翌日からクラスのみんなの態度が変わった。それが嫌だった」、「吃音のことを家で共有できたのはよかった」など、経験が出されました。

 仕事でプレゼンをしなければならないが、そのときどもると、恥ずかしいという人がいました。恥ずかしいと思うのはよくないと思うから思わないようにしているけれど、恥ずかしい気持ちは消えないと言います。普段、あまりどもらないので、プレゼンのときにどもると、しっかり仕事をしているつもりだけれど、評価が下がるのではないかと思ってしまうと言います。1週間に一度、5分間のプレゼンが気になって気になって仕方がないのです。僕は、まず、「恥ずかしい」と思ってもいいんじゃないかと言いました。「恥ずかしい」と思うのはよくないことだと思うと、「恥ずかしい」と思う自分を責めてしまいます。どのようなプレゼンなのか、どんな準備をしているのか、そして実際のプレゼンの様子について質問しました。一所懸命用意した文章を読み上げるのだそうです。聞いている人たちは手元にその資料をもっているので、その通りに言わなければと思ってしまいます。すると、よりどもってしまうとのことでした。
 具体的な対策としては、資料は資料としてしっかり作るけれど、ブレゼンは、そのとおりにしゃべらず、自由にしゃべったらどうかと提案しました。手元に資料があるのだから、別のことをしゃべってもいいのです。書いたとおりのことをしゃべらなければと考えると、どもる僕たちは苦労します。そこで、以前相談があった、銀座の眼鏡屋に勤めていた人の話を例に挙げました。接客マニュアルがあって、そのとおりにはできないけれど、売り上げがトップの彼女は、社長に自分なりの接客でいきたいと申し出て、社長もそれを許可してくれたという話です。自分がみつけた自分に合ったサバイバル術で生き抜いていこうと言いました。参加者からは、他の人がキラキラしてみえるけれど、本当はちょぼちょぼだとか、プレゼンはそんなにみんな真剣に聞いていないのではとか、どもらない人でも電話やプレゼンが苦手な人は少なくないとか、いろいろと話が出ました。

東京ワークショップ4 午後も、話は続きます。自分の吃音に最近気づいたという人が、これから、吃音とどうつきあっていったらいいのか、どう考えたらいいのか、と悩みを出しました。インターネットで調べて、この東京ワークショップに初めて参加した人ですが、よくみつけてくれたなと思います。スキャットマン・ジョンの例を話しました。周りのみんなには見えている吃音という象を必死に隠そうとすることを止め、レコードジャケットに吃音のことを書いて、それからは自分らしく生きたジョンでした。自分の吃音を認めて、機嫌よく生きるのがいいのではと提案しました。どもって当たり前、それが自分なんだと思って生きていく、他のことに目を向けていきたいと、話してくれました。
 その他、いろんな話題が出ました。ひとりひとりの人生に耳を傾け、みんなで考え、語り合う、いい時間でした。

 最後に、僕から、サバイバルして生きていくための武器として、論理療法のABC理論を説明しました。考え方次第で、悩みは消える、というこの考え方を武器として持っておくことは、これからの人生できっと役に立ち、自分自身が生きやすくなると思います。
 時間が迫ってきました。退出時間を気にしながら、感想を聞きました。
・これまで行っていた吃音の研修会では、吃音指導の間接法、直接法の話ばかりだったが、ここでは、当事者の生の声が聞けたのがよかった。
・みなさんが躊躇なく前に出てきて、伊藤さんと対話しているのがすごいなと思った。
・対話が大事だと改めて思った。ABC理論を子どもたちと勉強したい。
・本の中でしか知らなかった伊藤さんに会えてよかった。
・世の中のマニュアルに抗って、生きていきたいと思う。
・自分は自分でいいんだと、再認識した。
・気持ちが軽くなった。
・吃音ではないけれど、ここは居心地がいい。人の気持ちを聞くのが好きで、ほっとする。
・どもってもしゃべり続けるのが一番だと思った。
・こうして参加して、動いてみて、元気になった。
・どしっと、その場その場で対処するのがいいんだと分かった。
・ABC理論が心に残った。Bを変えるんだということが分かった。
・オンラインでなく、やっぱり直接会えて話し合えたことがよかった。

 「また、来年も来ます」と言ってくれた人がいました。ありがたいことです。元気で、来年もまた、会いたいです。
 午前10時から始まったこの東京ワークショップ、午後5時に終わりました。昼食時間を除いて、ずっと話し合いました。笑いあり、涙ありのすてきな時間でした。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/01/24