昨日、一昨日は、第18回吃音親子サマーキャンプに参加したスタッフの感想を紹介しました。
今日と明日は、保護者の感想です。(「スタタリング・ナウ」2007.11.20 NO.159)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/11/09
今日と明日は、保護者の感想です。(「スタタリング・ナウ」2007.11.20 NO.159)
日本吃音臨床研究会の電話相談、吃音ホットラインには、ほぼ毎日全国から相談の電話が入る。多い時には3件も4件も。長い時には1時間も話すことがある。どもる子どもを持つ親からの相談が多く、中にはどもり始めて3日目という人からの相談もある。
なぜどもるようになったのか。治るのか。子育てが悪かったのか。それらに丁寧にお答えする中で、顔は見えないけれど、電話をかけてこられた第一声と比べると明らかに安心され、ほっとされている表情がうかがえる。「治らないよ」とさりげなく言われてショックだったと、後でよく言われるが、電話はそこで終わらない。「でも、大丈夫だよ」と続く。そう確信できるのは、吃音親子サマーキャンプで出会う子どもたちの姿が鮮やかに浮かぶからである。また、将来的には、大阪吃音教室のどもる仲間の顔が浮かぶからである。
小学生から高校生までのどもる子どもの相談のときには、吃音親子サマーキャンプを勧める。一度ぜひ来てほしいと。初めて電話をして、2泊3日のキャンプに誘われ、「はい、行きます」とはなかなか言えないだろう。本を読んだり、キャンプを撮影しているDVDやビデオを見てからでもいいよ、と言う。
今年のサマキャン初参加者の中にも、そんな電話の中で、即参加を決めた人、前から知っていながらなかなか一歩が踏み出せずやっと参加したという人など様々である。
今号の「スタタリング・ナウ」は、サマキャン特集第2弾として、初めて、あるいは2回目という比較的サマキャン歴の浅い参加者にスポットを当ててみた。親たちの率直な思いがあふれている。
ぜひ、来年も、夏の終わりは、サマキャンで!
二度目のキャンプを終え
小学4年女子の母(兵庫県・2回目の参加)
私たちにとって、このサマキャンは、人生を変えるほどの運命的なキャンプになりました。
今年は昨年の初参加キャンプとは、気持ちも全く違い、皆に会える、皆と話ができるうれしさでワクワクしていました。
どもる娘は2歳からどもり始め、昨年のキャンプに参加するまでの7年間、吃音、どもりということばを全く知らず成長しました。いろいろな所で相談しましたが、下の子が生まれたストレスで優しくしてやれば治ると、どこも同じことを言われました。でも治らない。こんなに優しくしているのに治らない娘にだんだんとイライラしていき、どんどん暗く、苦しくなっていきました。
そんなとき、吃音ホットラインをインターネットで見つけ、吃音の治し方を教えてもらうために電話をしました。子どもには「その内治るよ」と言い続けてきたので、治っていないことを子どもにどう説明し、子どもと今後どうつきあえば良いのか私はせっぱ詰まっていました。
「吃音は治らないよ。娘さんに、お母さんはその喋り方をこれまでその内治るって言ったけど、いろいろ勉強したら治らないんだって。間違えたことを言ってごめんねと謝ってあげなさい」
伊藤さんは言いました。治す方法を聞くために思い切って電話したのに絶望しました。そしてこのサマキャンに誘っていただいたのです。
初参加のキャンプの初日、笑って楽しそうにしている人が信じられず、死に神みたいな顔をして部屋の隅でボンヤリしていたと思います。そんなとき、同じ部屋の人がどんどん声をかけてくれ、話すたびに泣きまくっていました。
そしてキャンプを終え、今年のキャンプまでの1年間で吃音を禁句にしていた7年間は一体何だったんだろうと思うほど娘と普通にたくさん吃音の話をし、お互いどんどん楽になっていきました。
まだまだ悩むこともたくさんあると思いますが、キャンプで力をもらい前向きにがんばっていこうと思います。このキャンプがなかったら私たちは今頃どうなっていたんでしょう?たまにそんなことを考えると恐くなります。
2年越しの参加が缶コーヒーの味を変えた!?
小学2年生男子の母(愛知県・初参加)
今年初めてサマーキャンプに参加しました。実は、昨年も資料を取り寄せ、申込用紙に息子と私、2人の名前を記入したのに、それを出すことができなかったのです。
約1年前、1年生の息子が小学校での生活に少しずつ慣れてきた頃のことでした。クラスメイトも登下校グループも、ほとんど小学校に入ってから出会った子どもたち。次第に真似やからかい、女の子たちからは、「なんでそんなしゃべり方になるの?」と聞かれることが多くなっていたらしい。
夜布団に入ると、シクシクと泣き始め、どもることを真似されたことなど話し出すのです。くやしがったり、怒ってみたり…。
「言い返したくてもその言葉もつまるから嫌だ!」そして最後に言うのです。「日本の中に一人くらいことばがつまるのを治せる先生がいるでしょ?どんな遠い病院でもいいから連れていって!」と泣くのです。そんな息子の姿に私だって泣きたくなる。でも、必死に涙をこらえ息子へのことばを探す。「悔しかったなあ」「そんな病気や先生がおったらすぐにでも連れて行ってやるのになあ」「でも、そんなあなたが父ちゃんも母ちゃんも大好きだよ!」それくらいしか言えなかった。顔までスッポリ布団をかぶり、泣きながら寝入ってしまう息子を不欄に思った。
小学校に入学しても吃音が続いている子は自然に治る可能性がかなり低くなることを本で読み、その頃はそのことが私を焦らせていた。治る可能性を信じたかったし、息子にもその希望を持たせてやりたいとまで思っていた。布団に入ったら、楽しい話題で一日を終わらせてやりたかったが、泣く日が目立った。
そんなとき、インターネットで見つけた"吃音ホットライン"メールを送ると、いつでも連絡してきて下さいと返信下さったので、息子たちを早く寝かせてから電話をかける。泣きながら寝ていく息子のことを話すと、伊藤さんは優しい声でこう言ってくれました。「お母さん、それは辛いよなあ」そして、明るい声で続けられた。「でも、すばらしいことだよ。だって一日の終わりにお母さんに思いっきり弱音を吐いて寝ていけるんだから!」と。いろいろお話した後、「お母さん。息子さんのどもりは治らないから勇気を持って向かい合って下さい」と伊藤さんに言われた。"ドキッ"とした。そしてその時締め切り間近のサマーキャンプについて教えて下さり、ぜひ来て下さいと誘っていただいた。でも、そのとき私はキャンプの説明などほとんど耳に入っていなかったかもしれない。
「治らないよ」と明るく言われてしまった。数日後資料と申し込み用紙が届き、目を通しまた少し戸惑ってしまう。おやつ、アルコール、携帯電話禁止?コーヒーまで?プログラムにはバーベキューやキャンプファイヤーもないぞ!
その中で吃音と向かい合わなければいけない。2泊3日である。そこへ、夜な夜な「治してほしい」と泣きながら訴える息子とその息子をどうにかして治してやりたいといつも思っている夫を連れていくのだ。私だって数日前に言われた「治らないよ」でまだ心がザワザワしていた。だから、夫が仕事の都合で参加が難しいと知りホッとした。
とりあえず息子と二人で参加しようと思った。でも、結局出せなかった。吃音と向かい合うチャンスを見送ってしまったのだ。
2年生に進級した息子。新学期は私も緊張する。新しいクラスの子どもたちは息子の吃音にどんな反応をするのだろうか。担任はどんな人だろうか。
吃音について知っているだろうか。2年生の家庭訪問で新卒で笑顔がかわいい新担任が「息子さんはとても元気で少し落ち着きがないので、もう少し落ち着けばことばも治るんじゃないですか」とハキハキと言った。直感した。「私が渡した伊藤さんの本、まったく読んでいないな…」と。
夜の涙タイムはなくなったものの、息子の吃音は変わらず。いろいろな場面で不便を感じている様子。「オレがバカだからことばがつまるんだ」と自分を責めてみたり、その反面、友人宅へ遊びに行くとき「母ちゃん、オレ作戦考えたんだよ。おじゃましますだと“お”がつまるから、しつれいしますって言うとつまらないんだ。すごいでしょ。オレって天才」と元気に遊びに行った。涙が出た。
今年こそは息子をキャンプに連れて行ってあげなくてはいけない。日頃息子は「ことばがつまる仲間」を求めていた。親友の名前を出し、「あいつもことばがつまればいいのにな」と笑顔で言う。初めてサマーキャンプについて息子に話した。メインは劇上演だけど、仲間がたくさん来ることにひかれ息子は参加することを決めた。「つまらんかったら来年は行かんからね」と生意気な宣言のおまけつき。夫も苦笑いで2日間の休肝日を宣言した。こうして年越しの初参加となった。次男もなぜか張り切っていた。
キャンプは、入所のつどい後、廊下の隅でひとつのかばんから、夫と荷物を分ける作業から始まった。別室だとは思っていなかったのです。その横を息子が「じゃあね」と笑顔で走っていった。
2泊3日、たくさん涙あり、たくさん笑いありのてんこ盛りキャンプでした。私のベスト5。
・たくさんの人と出会い
・伊藤さんの講義
・子どもたちの劇上演
・息子が書いた作文のタイトル『どもる子いっぱい』を知ったとき
・夫の変化
キャンプからの帰り道、一番最初に迷うことなくコンビニに寄り、夫と缶コーヒーを買って飲んだ。コーヒーってこんなにおいしかったかな。2日間飲めなかったからだけでなく、充実感がそう感じさせてくれてるんだろうなと思っていると、車の後部席から息子が前に乗り出しこう言った。
「オレ、これからもずっとことばがつまるキャンプに出て、高校生で卒業証書もらうんだ」
120円の缶コーヒーを極上の味にしてくれた。次男は、保育園で、劇で歌った「巨人の星」や「スーダラ節」を熱唱し、保育士さんを驚かせたらしい。我が家に夏休み恒例のイベントができました。(つづく)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/11/09