2005年秋、TBSのディレクターである斉藤道雄さんが新しく始められた番組「報道の魂」、その初回に取り上げられたのが「吃音」でした。取材を通してたくさんのことを語った僕は、斉藤さんに、原稿をお願いしました。「スタタリング・ナウ」2005.11.22 NO.135 の巻頭言は、原稿を寄せてくださった斉藤さんへの僕からの返信の形をとっています。
 今、自分で読み返してみても、温かく、大きな力を得て、胸が高鳴るような喜びを感じているのが伝わってきます。斉藤さんは、今も「スタタリング・ナウ」を読んでいてくださるし、ときおり、自分の知り得た吃音の情報を知らせてくれます。バイデンが大統領選挙を戦っているときの記事を紹介してくださったのも斉藤さんです。
 人と人とのつながりの不思議さを思わずにはいられません。
 タイトルの「場の力」、吃音親子サーキャンプだけでなく、親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会にも大阪吃音教室にも、場の力を思います。人が出会い、語り、聞き、つながる、そんな場の力に支えられ、これまで僕は生きてきたのだとしみじみと感じています。

 
場の力
                    日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二


斉藤道雄様
 「勝手すぎる書き方かもしれず、ご希望に添えなかったかもしれません」の前置きの後、「メッセージ」と題した力のこもった文章を一気に読みました。読み進み、涙がにじんできました。ここに私たちを深い部分で共感し、理解して下さる人がいる。大きな力強い援軍を得た、そんな気がしました。うれしい原稿ありがとうございました。
 長い時間カメラが回っていました。吃音親子サマーキャンプの2泊3日間、大阪スタタリングプロジェクトの大阪吃音教室、さらに私の自宅や大阪教育大学にまで来て下さいました。かなり大量の取材テープだったことでしょう。私もインタビューでいろんなことを話したように思います。
 取材に来られた日の大阪吃音教室は、今秋の吃音ショートコース、「笑いとユーモアの人間学」の前段階として、自分の吃音からくる失敗やかつては嫌だった体験を笑い話として笑いとばす講座でした。笑いやユーモアについて考える時間であるため、大きな笑い声に満ち満ちていました。斉藤さんに代わって取材に来られた方が、予想をしていた内容、雰囲気とは全く違うと本当に驚いておられました。編集作業が始まった頃、斉藤さんからも「どの部分を切り出しても、伊藤さんたちの笑いや明るさが際だっている。吃音に悩む人にこのまま紹介したら、どのようなことになるか、ちょっと心配もあります。でも、本当のことだし…」といったような内容のメールをいただいていました。苦労をしながらの編集作業だったと推察します。
 「報道の魂」は、私たちの明るさよりもむしろ吃音に悩む人々への思いに満ちていました。どもる人のもつ苦しみと、苦しかったからこその明るさを表現して下さっていたように思います。
 世界の日本の吃音臨床・研究の主張は依然として「吃音の治癒・改善」を目指しています。私たちの考えや実践は少しずつですが理解されるようになり、仲間も増えました。しかし、少数派であることに変わりはなく、時に大きな壁、流れに空しさを感じることもあります。そんな時、いつも私たちを励ましてくださるのは、不思議なことに言語障害の研究や臨床にあたる人々よりも、今回のように、違う領域で活動をされている方々です。
 以前、NHKの海外ドキュメンタリーで「もっと話がしたい、吃音の克服への道のり」という番組がありました。吃音が改善され、幸せになった、だから、「吃音は治る、改善できる」というような内容だったように記憶しています。今回、メディアを通し、あのような切り口で吃音が扱われたのは恐らく世界でも初めてのことではないでしょうか。「どもっていても大丈夫」「吃音に悩むことにも意味がある、悩んだからこそ今がある」という私が伝えたいことのほとんどは、あの番組の中で、私以外のどもる人や子どもたちも語っていました。本当によく切り出して下さったと感謝しています。
 「どもりは差別語か?」の問いかけに対する高校生たちの意見。話し合いをしたこともないテーマに、自分のことばで自分の意見を語る子どもたちに、本当にびっくりしました。私たちが考えている以上に子どもたちは育っていました。子どもたちのすごさに驚き、誇りに思えました。
 斉藤さんが最後に書いて下さったように、あの映像から私が一番勇気づけられました。私が主張し活動してきたことは間違いではなかった。あんなに大勢の子どもや親やどもる人たちが私に、「これまで言ってきた、そのままでいいんだよ」「あなたはひとりじゃない。大勢の仲間がいる」「あなたには、40年も継続してきた力がある」このメッセージを送ってくれたんですね。また、斉藤さんがこれまで取材されてきた、先天性四肢障害の人、ろう者、べてるの家の精神障害者と斉藤さんを通してつながることができました。私の主張は何も奇をてらったものでも、非現実なことでもなく、人がそれぞれに豊かに生きていくためのキーワードなのですね。 これからも、私たちの考えや活動を見守って下さい。ありがとうございました。出会いに感謝します。伊藤伸二

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/06/26