毎月発行しているニュースレター「スタタリング・ナウ」の10月号と11月号は、今夏の吃音親子サマーキャンプを特集しました。10月号は、参加者として、そして卒業後はスタッフとして、参加を続けている森田さんが、サマーキャンプ全体を報告し、11月号は参加した人たちの感想を特集しました。
 サマーキャンプには、どもる子ども、その保護者やきょうだい、どもる大人、ことばの教室担当者や言語聴覚士、そして、吃音と何の関係もないけれど、ことばや声、生きることや表現することに関心のある人など、さまざまな人が対等の立場で参加しています。仕事としてどもる子どもと出会っていることばの教室担当者の目から見たサマーキャンプを、「スタタリング・ナウ」2002.10.20 NO.98 で掲載しています。紹介します。

サマキャンへ行こう!
  第13回吃音親子サマーキャンプに参加して

             神戸市立稗田小学校きこえとことばの教室 桑田省吾

はじめに―目からウロコ―
 「よかった。見方や考え方が変わった」
 参加した子どもや保護者から、多くの感想が寄せられるサマーキャンプだが、これまでこのサマキャンに遭遇して最も目のウロコを落としたのは、ことばの教室の教員や病院等のスピーチセラピストではないか。
 「当然行く、それが一番の楽しみだから」と、私も今年で2度目のキャンプに参加した。
 私はことばの教室担当の教員。ことばの教室には、どもる子とその保護者が教室に通ってくる。毎日遅くまで個別での指導やお母さん方との話し合いに明け暮れ、保護者の心配が早く無くなって欲しいと願っている。子どもたちには、「今日は調子いいやん。その調子で学校でもがんばって」とか、「どもる自分を受け入れて、自分を好きになるんやで」、などと言いながら、帰した後、これでいいんだろうかとも思ったりしている。
 私たちも、ことばの教室に通級する子どもの療育キャンプは毎年行うが、あるとき、今後のキャンプのありかたについて話し合っていると、「まずは吃音親子サマーキャンプに行ってみなきゃね」と何人かに言われた。「たった3日のキャンプに一体何があるんかいな」と、半信半疑だった。そこで何を教えてもらえるのか。どんなしくみで、どんなメニューなのか。子どものどんなためになるのか。などと頭でっかちで考えていた。キャンプを経験した今、迷うような思いは吹っ飛び、日頃のことばの教室での指導観も大きく変わった。まだ2度しか参加していない私が、その意義やしくみを解釈するのはまだまだおこがましいが、サマキャンの経験をレポートすることで、なんで"教員(私)の目からウロコが"かを察していただけたらと思う。

いざ彦根の荒神山へ
 翌日から新学期が始まるという日程の悪さに、昨年よりは大幅に参加者が減ると思いきや、はるばる沖縄からの4人家族含め140名ほどの参加があった。
 私は、前日から興奮して眠れず、行く道中も1年前のことを思い出しながら気持ちはどんどんキャンプに向かって深まっていった。ふと空海さんがなぜ人里離れた高野山にみんなを集わせたのか、分かる気がした。行き帰りの道中もまた思いふくらむ大切な時間だ。
 期待や不安を胸に河瀬駅に集合する。昨年は初参加だったので、トレードマークの黄色い旗を探す側で、迎えてもらう温かさに驚いた。今年は旗を持って迎える側になった。次々に到着し、あいさっをして下さる参加者の温かさに、これまた驚かされた。1年振りの顔と顔を見合わせ、歓声や歓談が巻き起こり、初参加の人もそのうれしそうな様子に引き込まれていく。
 最初、伊藤伸二さんから単純明快なキャンプの趣旨説明が行われた。(伊藤さんが参加者全体にキャンプの説明をするのはこの場面だけだったように思う)
◎したくないことはしない。
◎世話する側もされる側もない。
 この2点だけで、あとはご自由に。「そうか、キャンプってホントはそうだったんだ」。何かストンと腑に落ちるものがあった。さあ、今年も楽しむぞ。
 出会いの広場。いくつかの質問に、答えの同じ者が集まる。「アンタもそうだったのか」の連帯感。そしてミニ運動会。各チームの選手代表が、特設ステージへ。みんなの応援の中で全力を尽くして持てる技を競い合う。といっても砲丸投げならぬ、風船飛ばしとかなんだが。進行役のことばの教室の教員松本進さんも、身障センターの言語聴覚士伊藤照良さんも、どもりながらの司会進行だ。どもるそのこと自体を楽しんでいるような雰囲気がみんなに伝わり、身も心もすっかりリラックスで、みんなとてもいい笑顔になってくる。
夕食は自由席。いくつもの輪が自然にでき、最初の食事から盛り上がる。食後のフリータイムは、おしゃべり、ゲーム、のんびりごろごろと、さまざま。ふと近くにいる人と自然におしゃべりが。もう、荒神山とそこに集う人達全体がサマキャンの色に染まっている。(「スタタリング・ナウ」2002.10.20 NO.98)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/11/30