猛暑となった3連休の初めの土日、大阪市内の銀山寺で、吃音親子サマーキャンプのはじめの一歩が始まりました。サマーキャンプで子どもたちと取り組む芝居の練習を、まずスタッフが事前に合宿で行うものです。
 演出家の竹内敏晴さんが、どもる子どもたちのために書き下ろしてくださっていた脚本をもとに、竹内さんが亡くなってからは、学生の頃から、サマーキャンプに関わってくれている渡辺貴裕・東京学芸大学教職員大学院准教授が後を引き継いでくれています。
事前レッスン1 渡辺さんは、自分の専門性を生かし、演劇を仕上げるということではなく、そこに至るプロセスを重視し、子どもたちと取り組めるエクササイズをたくさん紹介してくれます。スタッフはいつも、本番、子どもたちと取り組む姿を想像しながら楽しみにしています。
 この事前レッスン、コロナの影響で、今年、4年ぶりに行いました。会場である銀山寺の住職も、「久しぶりに開催でき、よかったですね」と喜んでくださいました。
大阪在住が中心ですが、遠く千葉、東京、埼玉、静岡、山口、三重などから、20人が集まりました。その中には、事前レッスンに参加するのは初めてだという人が、5人もいました。
 2019年の夏以来、4年ぶりの事前レッスンは、からだを揺らし、声を出し、少しずつ、感覚を取り戻しながら、いつもの空間に変わっていきました。
事前レッスン2 台本が配られ、それぞれいろいろな役を交代しながら、物語をたどっていきました。歌がたくさんあって、登場人物も多くて、楽しい演劇の世界に浸りました。
 レッスンが終わったその日に投稿された、渡辺貴裕さんのFacebookを、渡辺さんの許可を得て紹介します。

 
2023年7月16日 渡辺貴裕さんのフェイスブックより
 吃音親子サマーキャンプ(日本吃音臨床研究会主催)の事前合宿、大阪・銀山寺、終了。
マルシャーク「森は生きている」を故・竹内敏晴さんがアレンジした脚本を使って劇づくりを行ったわけだが、私は、芝居の演出にとどまらず、スタッフが子どもと劇の練習をするときに楽しめるようなプチワークを多く取り入れるようにしている(このあたりの詳細は、石黒広昭編『街に出る劇場』所収の拙稿をどうぞ)。たいていは、その場で思いついたちょっとした遊びだ。
 「女王」と「博士」の日常、つまり、まだ子どもで気まぐれ・わがままな「女王」と、何かにつけて勉強につなげてくるうっとうしい「博士」との短いシーンをペアでつくる。たかだか2分ほどの準備時間で、「セミがうるさい。全部鳴き止ませなさい!」と命じる女王から、女王の「なんでこんなに暑いの」に「今は一年のうち太陽が最も高い時期で…」と自然科学的解説を始める博士まで、笑いで沸く発表が多数出てくるあたり、さすが大阪か(参加者は千葉やら静岡やら山口やらいろいろだけど)。
 林光の有名な「燃えろ〜燃えろ〜あざやかに」の曲に着想を得て、呼びかけの遊び。3〜4人にほのお役で座ってもらい、周りを取り囲む人は、自分が応援したいほのお(いわば「推し」)を決めて、「燃えろ〜燃えろ〜」と呼びかける。ほのお役のほうは、自分が応援されたと感じたら燃え上がり、逆だったら消沈する。それで、自分の「推し」を燃え上がらせる。これぞまさに「推し、燃ゆ」だ!と自分ではかなりツボったのだが、残念ながら他のスタッフには多分通じていなかった。こうしたちょっとした遊びを通じて、人物を掘り下げたり、声をしっかり届ける練習をしたり。
 キャンプ本体でも、劇の完成度うんぬんよりも、こんなふうに虚構の世界を楽しむこと、そこでしっかり人とかかわることを、大事にしたい。


事前レッスン3事前レッスン4 毎年、この事前レッスンから、吃音親子サマーキャンプが始まるのを実感します。子どもたちとどんな時間・空間を共有できるのか、とても楽しみです。
 参加を迷っている方、まだ間に合います。一緒に空間を楽しみましょう。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/07/18