7月に入りました。今年の半分が終わったことになります。カレンダーを見ながら、スケジュールを確認してみると、7月半ばからは、吃音親子サマーキャンプのスタッフのための事前レッスン、親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会、千葉県の研修会と、続きます。プライベートの予定も入って、7月のカレンダーはかなり埋まっています。コロナの頃は、予定がほぼキャンセルで、カレンダーが真っ白になっていたなあと思い出します。コロナ前に戻ってきたことを実感します。
 さて、「スタタリング・ナウ」2001.12.15 NO.88 で特集した、杉田さんの「生活に活かす〜実践的交流分析入門」の報告のつづきです。

  
生活に活かす〜実践的交流分析入門 報告
                   講師 杉田峰康・福岡県立大学名誉教授
4つの人生態度(基本的構え)
 人は、多くの人からストロークを受けて成長し、幼い頃から自分と自分の周囲の人達について、「私は愛されていない」や「他人は信用できない」といった、ある種の確信を抱くようになる。このような人生態度がその後の人生について回る。交流分析では4つの基本的人生態度を挙げている。

1.私はOKである、あなたもOKである(自他肯定)
2.私はOKでない、あなたはOKである(自己否定、他者肯定)
3.私はOKである、あなたはOKでない(自己肯定、他者否定)
4.私はOKでない、あなたもOKでない(自他否定)

 このような自分と他人に対する基本的な思いこみは、人生におけるいろいろな決断と行動を正当化するために使われる。

不適応のからくり
 人間関係がうまく行かない場合、どうしたらいいかを考えると

1.相手に巻き込まれず、自分を客観的にみる
2.自分の内的生活に気づき、それに責任を持つ
3.相手理解のために、自分の内面への気づきを深める

 そのために、私たちにとって自己理解が必要なのである。
 ここで、人間関係のストレスを考えると、心理的ストレスとして、私たち個人のPとCの間で「〜するべき、〜であるべき」という気持ちと「〜したい」という気持ちが葛藤となる。不適応のからくりはその葛藤を出発点とし、そこから不安が起こり、その不安を抑圧し、防衛(ゲーム)が起こる。そこから身体症状や問題行動に発展するわけだが、『葛藤を解決するには、葛藤を育成する』のが一番いい。つまり、「二者選択はすぐにするのではなく、しっかりと悩むと脳は一番いい方法を教えてくれる(脳ぺース)」のを待つのである。
 これは、吃音についてもそのまま当てはまると思う。どもる状態に関わらず、自分の吃音にしっかりと直面しなければ、いつまで経っても「私はOK」と思えない。特に、吃音が軽くて吃音を隠したり、話さないといけない場を避け続けていると、吃音に直面するチャンスはいつになってもやってこない。つまり、いつまでもその人の内面は強烈な「どもることへの不安」に占領され続けるのである。これは、治療を受けて症状が軽くなったとしても同じである。事実、なんとか話し方をコントロールして表面的には全く吃症状が出ていない人でも、いつどもるか分からない不安に常に脅えている人が数多くいる。
 私個人を考えても、私の吃音は比較的軽かったために、学生時代は何とかごまかし続けることは出来た。しかし就職してから、電話や話す場面から逃げることは出来なくなり、話すことに対する不安で仕事が手につかず、その結果会社を辞めてしまった。病院に通っても、心理療法を受けてもこの不安は一向になくならず、苦しい日が続いた。それから何年かして幸運にも日本吃音臨床研究会に出会い、私の苦しかった日は終わった。どうしてこんなことが起こったかというと、それは交流分析でいう『許可証』をもらったからである。つまり、幼児期に親から受けた「どもってはいけない、どもるべきではない」という『禁止令』を除くには、「どもってもいい、そのままのあなたでいい」という『許可証』が必要なわけで、脚本から脱却するには、親からの禁止令を許可証に書き直す必要がある。私はこの『許可証』を日本吃音臨床研究会のメンバーからもらうことが出来た。また、この『許可証』は100%純粋でなければあまり効果はない。どういうことかというと、「どもってもいい、でもがんばって症状を減らそうね」だと、やはりそこには「どもってはいけない」というメッセージが存在する。日本吃音臨床研究会は100%「そのままのあなたでいい」をいいながら、どもる人がよりよい生活を送るためにするべき「努力」を提示することができる。

ゲシュタルト療法の活用
 夕食が済んで、いよいよ交流分析を使って実際にセッションがどの様に進むのか、3人のケースを見せてもらった。初めのケースでは、セラピストとクライアントの問題となっている関わり方について、論理療法的なアプローチもしながら、そこで演じられている「ゲーム」を明らかにしていった。
 次の二つのケースでは、自分の感情、思考、行動にどんな問題があるのかをはっきりさせてから、当事者に前に出てきてもらい、ゲシュタルト療法でよく用いられる「あき椅子」を使って、自分と相手を代表する「あき椅子」から交互に頻繁に発言することを実演することで、自分の行動を規制している「禁止令」に気付いていった。また、一つのケースでは、会場にいる参加者2人が当事者を阻む「壁」になって、その「壁」とのやりとりを通して、自己に気付いていった。その時に「壁」に対する話し方が、明らかに変わっていくのに驚いた。両方のケースとも、親の禁止令に対して自分が幼児に決断した状況を再現し、自分の脚本の分析を通して、自分に許可証を与え、自分で自分の人生をコントロールできるという、とてもいいセッションだった。

交流分析を生活に活かすには
 「人生は楽しんでよろしい」と思えること、他の人との違いを楽しむことが大事。「どもることを楽しんだらどうでしょうか」と提案された。人生を楽しむためにはFC(自由な子ども)を高めればよい。その方法として、メス・ペインティングや箱庭療法がある。ペット療法もNP(保護的な親)が上がる。子どもと遊んだり落語を聞くのもよい。「どもってもよろしい」、「楽しんでもよろしい」といった「許可証」をたくさん発行すればいい。
 A(大人の自我)は選択肢の領域なので高める必要がある。他人の目を意識すると言うことは、マイナスのストロークを受け入れていることであり、他人と同じように感じなければならない必要はない。また、他人の感情に責任を持つ必要もない。自分の考えをそのまま伝えてみる(アサーション)のがいい。自分が変わると、相手との関係が変わり、その結果相手が変わる。例えば、優しい人間にはなれないが、優しい行動をとることは出来る。性格は変えられないが、行動は変えることは出来る。(了)

◇杉田先生のご著書◇
こじれる人間関係 ドラマ的交流の分析 創元社
人生ドラマの自己分析 創元社
新しい交流分析の実際 TA・ゲシュタルト療法の試み 創元社など多数


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/07/01