大阪吃音教室の定番の講座のひとつに、「交流分析」があります。僕は、交流分析を、杉田峰康さんの本から学びました。吃音ショートコースの講師は、その分野での第一人者にお願いしてきましたから、交流分析のときは、もちろん講師は杉田さんです。講義と演習を交えて、長い時間、杉田さんからたくさんのことを学びました。今でも、そのときの杉田さんの口調を忘れることはありません。「スタタリング・ナウ」2001.12.15 NO.88 で特集した、杉田さんの「生活に活かす〜実践的交流分析入門」の報告です。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/14
生活に活かす〜実践的交流分析入門
講師 杉田峰康・福岡県立大学名誉教授
2001年11月24日、午後1時から今年の吃音ショートコースのメインである交流分析の講義が始まった。交流分析は、大阪吃音教室でも中心的な講座として長年にわたり勉強している。しかも、その時に参考にする交流分析の本は、たいてい今回の講師である杉田峰康先生の書かれた本だ。また、杉田先生が交流分析を講義されているビデオを会員の一人が持っているため、先生の講義の様子、口調を知っているメンバーは多い。そのご本人から直接講義を受けられるとあって、今年の吃音ショートコースは自ずとワクワクしてくる。
三つの私(構造分析)
杉田先生は、参加者が既に構造分析をある程度理解しているという前提に立って講義を始められた。まず「心の構造」として、私の心の中に存在する次の「三つの私」を考える。
P=Parent:親的な心(厳しい、批判、義務、保護、思いやり等)
A=Adult:大人の心(冷静に考える私)
C=Child:子どもの心(自由な感情表現、本能的、がまん、慎重、イイ子)
次に、上記のPとCが未熟な「子どもの心の構造」について聞いた。子どもの心の構造は大部分がCであり、そのCの中に小さなP1、A1、C1が存在し、親の勝手な欲求、例えば「生まれてこなきゃよかった」や「男の子だったらよかったのに」という言葉は呪いのような命令となってP1に働く。
するとCの中にあるA1は、その幼いリトル・プロフェッサー(生まれながら備わる直感と生存の知恵に富む部分)がする『幼児決断』として、「存在してはいけない」「考えてはいけない」といったような『禁止令』を受け取ってしまう。
この時、私は自分自身のことについて次のことに気付いた。小学校入学前から吃音矯正所に通っていた私は、親から「どもってはいけない」と言われ続け、その結果私のリトル・プロフェッサーは「自由に話してはいけない」「本来の自分を見せてはいけない」という『禁止令』を受け取っていたのだろう。
振り返るとこの禁止令がその後30年以上も私自身を拘束していたことになる。
心の働きをグラフにしてみませんか? エゴグラムの演習
P、A、Cといった自分自身の心の状態(自我状態)がどの様なバランスになっているかをチェックするため、全員でエゴグラムを体験した。
全部で50項目のチェックリストを杉田先生が順に読み上げ、全員が、はい(○)、どちらともつかない(△)、いいえ(×)とチェックし最後に、○:2点、△:1点、×:0点、で計算し、それをグラフに表す。グラフは左から順に以下の5項目が並び、各自の自我状態のバランスが一目で分かる。
CP:厳しい私、
NP:優しい私、
A:冷静な私、
FC:自由な私、
AC:人に合わせる私
できあがったグラフを他の参加者と比べてみると、みんないろいろな形をしているのが面白い。ここで、3人のエゴグラムを例にとって杉田先生が比較してみる。すると、FCが高くてACの極端に低い人、それとは対照的な人、Aが優位な人などで、杉田先生がそれぞれの性格の特徴を分かりやすく解説された。
この吃音ショートコースの参加者全員のエゴグラムで何が優位かを調べたところ、NPとACが高く、Aが低いことが解った。この結果は一般に吃音者に対して考えられているイメージ、つまり吃音者は優しいが、イイ子であったり人に合わせたりすることが多いというイメージと一致しているのが興味深い。(「スタタリング・ナウ」2001.12.15 NO.88)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/06/14