32回目を迎える吃音親子サマーキャンプのご案内

 昨年の今日、悩みに悩み、迷いに迷った末に、吃音親子サマーキャンプの開催を決め、「今年は、開催します」とブログに書きました。
 案内も申し込み書も何もできていない状態でしたが、とりあえず、日程だけを知らせました。開催を決めた後から、感染者数が徐々に増え、開催を決めた覚悟が揺らぐような感染大爆発が起こり感染者が増えていきます。開催2週間前に、申し込んでくださった方全員に電話をして、参加の意思確認をしました。「参加します!」という声に後押しされて、準備に力を注ぎました。開催前日は、過去最多を更新しましたが、「もうやるっきゃない」の心境でした。
 子どもとして長年キャンプに参加し、卒業してからスタッフとして参加を続けてくれているスタッフの一人が、「この場にいるだけで、もう涙が出てきそうです」と話していましたが、共通の思いだったと思います。いつもの劇の稽古と上演は、形を変え、工夫して、小さなお芝居に取り組みました。開催できなかった年に卒業を迎えた子どもたちも含めて6人の卒業式も行いました。6人の卒業生と保護者の話を聞いていて、無理をしてでも開催してよかったとしみじみと思います。みんな、素晴らしいスピーチでした。
 あれから1年。昨年と同じ今日、今年の吃音親子サマーキャンプの開催案内のお知らせをします。今年は、コロナ前と同じプログラムで開催しようと準備しています。僕たちのキャンプの3つの大きな特徴は、吃音についての話し合いと、声や表現のレッスンのための演劇の練習と上演、そして親の学習会です。スタッフによる事前合宿も、演劇を担当してくださる渡辺貴裕さんのスケジュールに合わせて行います。若いスタッフが参加してくれます。

 明日から6月。「吃音の夏」と、僕たちが呼んでいるシーズンの到来です。
 吃音親子サマーキャンプは、今年、32回目を迎えます。
 ひとりで吃音に悩んでいたとき、同じようにどもる仲間に出会えた喜びは、何にも代えがたいものでした。その仲間といっぱい話し、いっぱい聞き、新しい価値観に出会い、僕もがんばってみようと行動を変えるきっかけをもらいました。もっと小さい頃に、子どもの頃に出会えていたら、そう思って、どもる子どもたちのためのサマーキャンプをしようと、吃音親子サマーキャンプを始めました。たくさんのどもる子どもたちに出会いました。連れてきてくれた保護者、手弁当でかけつけてくれたどもる大人やことばの教室担当者や言語聴覚士などの臨床家、大勢の力が 集まって、吃音親子サマーキャンプは、32年の歴史を重ねてきました。

  あなたはひとりではない
  あなたはあなたのままでいい
  あなたには力がある
 このことを伝えたくて、続けてきました。

 今年の日程は、次のとおりです。
  日時 2023年8月18・19・20日
       18日13時から20日13時まで
  場所 滋賀県彦根市荒神山自然の家
  参加費 17000円(どもる子どもと大人も同額)   
同行のきょうだい 14000円
  内容  吃音についての話し合い
      ことばに向き合うための劇の練習と上演
      親の学習会
 ホームページに詳しい案内と参加にあたっての注意事項、申し込み書があります。
 みなさんのご参加をお待ちしています。

 このブログでは、過去の「スタタリング・ナウ」を紹介してきましたが、今回は特別に、昨年の吃音親子サマーキャンプの後のキャンプ報告のスタタリング・ナウの巻頭言を紹介します。

  
嗚呼、サマキャン卒業式
                 日本吃音臨床研究会会長 伊藤伸二

◆高校の剣道部の部長を吃音を理由に断ったことが、今でも心に残っている。前回のキャンプの時、「どもるところ、見せないんじゃないの」と言われたことも気になっていた。キャンプでもどもりたくないままなのかと、思った。大学受験の面接はビデオ撮影で、どもりまくったが、合格した。やっと、吃音と向き合えたと思った。今回、劇のナレーター役に初めて挑戦した。これまで逃げてきた、アドリブの効かないナレーターに挑戦したことで、やっと卒業の資格があると思った。
◆吃音とつき合えるようになったが、発表に時間がかかり、言いたいことが全部しゃべれなかった。好きだった絵や文章で工夫し、補ってきたが、それ自体が楽しくなり、大学でデザインの方向に進んだ。話し合いや作文を通して、吃音について考え、自分で気づいていなかった気持ちや考えに気づけた。私はどもるのはすごく嫌だったが、話をしたり発表することは好きだったんだと気づいた。
◆年上の子たちと仲良くしていたので、みんなが卒業してしまったら、僕ひとりで卒業式かと思っていたが、コロナのおかげで、一緒に卒業できてよかった。物心ついたときから、サマキャンに参加しているので、吃音に対する考え方、捉え方が、自分のからだに染みついている。吃音は、自分のからだの中にあるものと思っている。
◆小3までいたアメリカのことばの教室では、吃音を治すという考えで、訓練したが、治らなかった。日本に帰り、参加したサマキャンの考え方は全然違っていて、心が軽くなり、話し合いが楽しかった。吃音は、僕には、出身地のようなものだ。出身地は、性格に影響を与えるようだ。「吃音だから、やめよう」ではなく、「吃音だとしても、やる」と、チャレンジした方がいいと思えるようになった。みんなも吃音だからと逃げないで欲しい。
◆小2の時、本を紹介する授業ですごくどもって、周りからいろいろ言われてから、人前で話せなくなった。悩んでいたときにサマキャンに参加した。学校の友だちに、吃音のことを打ち明けても、本当の心の底は見せられない。けれど、ここは心が開ける。サマキャンに来ないと味わえなかったことだ。1年間、蓄積していたものを一気に友だちの前で話せる話し合いが一番の楽しみだった。ここでしかできない経験なので、一回一回大切にしてほしい。今しかない話し合いを楽しんで下さい。
◆小2からどもり出し、なぜ、自分がどもるのだろうかと思っていた。小3で初めてサマーキャンプに参加してどもりのことをたくさん勉強し、友だちができてよかった。小5は、学校の林間学校と重なり林間に行った。でも、続けて参加してきたサマキャンの方が、僕には大切だったと、今思う。来年は、スタッフとして参加したい。
 
 卒業生は、5分を超えるスピーチを、メモをもたず、自分のことばで語った。そして、自分の吃音とのつきあいの経験をもとに、後輩への応援のメッセージを贈っていた。8年、12年と継続して参加してきた重みのある卒業生の語りを聞きながら、私は、阿部莉菜さんのことを想っていた。
 宮城県女川町からキャンプに参加した時は、転校生からひどいいじめに合い、4月からずっと不登校になっていた。3日間のキャンプで「どもっても、大丈夫」と作文を書いて、キャンプの翌日から学校へ行くようになった。将来は、福祉の仕事をしたいと夢を語っていたが、2011年3月11日、東日本大震災の津波にのみ込まれ、卒業式も、語っていた将来の夢も、叶わなかった。
 私は、今年の吃音親子サマーキャンプが終わってすぐに、被災地や震災遺構を尋ねる旅に出た。知人や親戚の人に会い、莉菜さんと母親の容子さんのことをいっぱい語り、墓参りもできた。生きていれば、卒業式で彼女は何を語っただろうか。素敵などもる先輩として、後輩たちにたくさんのことを語っただろう、語りたかったことだろう。
 私は、今後、今年の6人の卒業生を含め、阿部莉菜さんのことをずっと語り続けていきたい。(2022年10月)

 
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/5/31