親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会と吃音親子サマーキャンプ、僕たちが大切にしている大きなイベントの準備が本格的に始まりました。もうすぐ、ホームページ上に掲載予定です。これらのイベントが夏に集中しているので、いつからか、僕たちは、「吃音の夏」と呼んでいました。その原点が、ここにあったのだと、「スタタリング・ナウ」2001.9.22 NO.85の巻頭言を読んで、思いました。
このときは、第30回全国難聴・言語障害教育研究協議会全国大会島根大会と、どもる人の世界大会ベルギー大会の日程が重なっていました。そのほか、この年は、岐阜で開催した第1回臨床家のための吃音講習会(親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会)、記念講演を頼まれた第25回九州地区難聴・言語障害教育研究会熊本大会、吃音親子サマーキャンプがありました。読み返してみて、とてもハードなスケジュールだったことに我ながらびっくりしています。まだ、若かったのでしょう、濃密な時間を過ごしました。
今年の「吃音の夏」は、どんな出会いがあるのか、じっくりと味わいたいと楽しみにしています。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/05/27
このときは、第30回全国難聴・言語障害教育研究協議会全国大会島根大会と、どもる人の世界大会ベルギー大会の日程が重なっていました。そのほか、この年は、岐阜で開催した第1回臨床家のための吃音講習会(親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会)、記念講演を頼まれた第25回九州地区難聴・言語障害教育研究会熊本大会、吃音親子サマーキャンプがありました。読み返してみて、とてもハードなスケジュールだったことに我ながらびっくりしています。まだ、若かったのでしょう、濃密な時間を過ごしました。
今年の「吃音の夏」は、どんな出会いがあるのか、じっくりと味わいたいと楽しみにしています。
吃音の夏
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二
からだがふたつあればいいのに。こんなに選択に迷うことも珍しかった。吃音の国際的な活動を選ぶか、どもる子どもの教育の全国大会を選ぶか。
国際大会は、第一回大会の開催者として、国際吃音連盟の礎を作り、ドイツ、アメリカの大会に参加し、スウェーデン、南アフリカ大会の6年間は参加していない。海外の人々は、世界大会を初めて開いた人を特別の思いで評価はしてくれるが、6年間も参加していないと忘れられた存在になってしまう。少しあせりにも似た思いもあって、今回のベルギー大会は是非とも参加したかった。
日程が重なって、第30回全国公立学校難聴・言語障害教育研究協議会全国大会島根大会の、吃音分科会のコーディネーターの依頼を受けていた。島根県の言語障害学級の担当者が団結して開く、どもる子どもたちのキャンプ、島根スタタリングフォーラムにかかわって3年になり、島根のことばの教室の人達とはとてもかかわりが深い。その人たちが開く全国大会である島根大会のコーディネーターも、以前から依頼を受けており、断りたくない。すると、今度は第25回九州地区難聴・言語障害教育研究会熊本大会の記念講演と吃音分科会のコーディネーターの依頼があった。国内の言語障害児教育の大きな行事が続いたため、ベルギー大会への参加は潔くあきらめることができた。
島根大会は素晴らしかった。「子どもたちが自分らしく暮らしていくための支援のあり方」のテーマが、基調提案、記念講演、シンポジウムに一貫して見事に流れていた。「子どもの障害を軽減、改善することが本当にその子どもの幸せや暮らしの充実につながるのか?」という、ことばの教室担当者自らへの問いかけだ。私がずっと主張してきたことでもある。せっかく流れるテーマを、吃音分科会ではさらに一歩踏み込みたい。分科会は5時間あり、全国のことばの教室の皆さんとかなりつっこんだやりとりができた。
島根に続いて岐阜県では、臨床家のための吃音講習会を開いた。日本吃音臨床研究会と岐阜吃音臨床研究会を中心に、岡山、大阪の人達が企画して運営したもので、以前から開きたかったものだ。当初、60名の参加を予定して計画を立てたが、全国から約170名が参加して下さった。臨床家が、吃音だけをテーマに2日間集中して取り組んだ。最高気温39.7度という記録的な暑さの中、クーラーが止まるというアクシデントの中で、どもる子どもへの支援、子どもの親への支援、担当する教師への支援、子どものことばへの支援への提案がなされた。参加者のアンケートには、「これまでに参加した研修会にはない、熱い思いをもてた、充実した講習会だった」と感想が寄せられた。
すぐに続いた熊本大会。記念講演は荷が重かったが、『言語障害児・者として生きてきて見えてきたもの』と題して2時間、自分の吃音人生を振り返り、言語障害児教育に期待することを話した。講演会は一般にも公開され、450名ほどが参加された。個人の体験は一般化はできず、ひとりよがりになるかも知れないと前置きして吃音で悩んできた中から考えてきたこと、見えてきたことを話した。次の日の言語障害学級の担当者が参加する吃音分科会では、ふたつの事例報告をもとに話し合った。主張が明確なコーディネーターであるために、論点は明確になり、私としては、充実した分科会だった。
続いて、第12回吃音親子サマーキャンプ。よもや昨年のような146名という多い参加はないだろうと思っていたのが153名の申し込みで、急遽キャンセルが入ったが、140名の大きなキャンプになった。今年、作者のミヒャエル・エンデが亡くなり、その追悼のようなかたちになった演劇『モモ』は、大人も子どもも楽しめた。今年は劇が一番楽しかったと高校生が言ったのが印象に残る。子どもたちの吃音についての2回にわたる話し合い、親の話し合いは、それぞれのグループで深まっていた。子どもたちの、どもりについてもっと話し合いたいという感想も、うれしい。一緒に真剣に取り組む劇の練習。親は親で子どもたちの前で演じるパフォーマンスの練習。子どもの時代に帰って2時間びっしりと練習する姿は印象的だった。涙があふれ、大きな笑いに包まれ、「来年も絶対に参加する」と子どもたちは言いながら、それぞれの生活に帰っていった。
吃音の臨床家、研究者、保護者、吃音の子ども、本人が幅広く集まり、吃音をテーマに人生を考える。日本吃音臨床研究会の活動趣旨が凝集した、今年の熱い、暑い、吃音の夏はこうして終わった。(「スタタリング・ナウ」2001.9.22 NO.85)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/05/27