大阪吃音教室は、前期と後期にわかれ、あらかじめスケジュールが決まっています。もちろん、参加者によって臨機応変に対応しています。各講座の担当は、大阪吃音教室の仲間が、自分も勉強しつつ、当日も参加者と共に作り上げています。
 その中で、特別講座と呼ばれるものが年間いくつか設定されています。昨日、紹介した、5月26日の櫛谷宗則さんの「吃音によって倒れた者は吃音によって起きる」もその中のひとつです。
 「スタタリング・ナウ」2001.8.23 NO.84で紹介している平井雷太さんも、特別講座の講師として来ていただきました。「鬱(うつ)と吃音から見えてきたもの」とのタイトルのインタビュー記事を紹介します。平井さんは、僕が、小学2年のときの学芸会での体験を意味づけてくれた人です。

大阪吃音教室特別講座
  「鬱(うつ)と吃音から見えてきたもの」
     講師  平井雷太さん(セルフラーニング研究所所長) 
     聞き手 伊藤伸二


平井雷太さん紹介
 1949年、長埼県生まれ。早稲田大学政経学科卒業。ノルウェー農業体験、公文数学教育センター、スイス・サマースクールなどの教育現場を体験する。1980年、セルフラーニングシステムを実現可能にする「らくだ教材」の製作に着手。1990年より「押しつけない、命令しない、強制しない」関係を伝える講座としてニュースクール講座を実施。平井さんは、子どもの頃どもり、いじめられっ子だった。また思春期以降はうつに悩んだ。『見えない学校、教えない教育』(日本評論社)など著書多数。

  いじめられっ子のひとりごと
もし私がいじめられっ子でなかったら、
くやしさ、くちおしさ、無念さを
学ぶことはしなかった
いじめっ子たちをしかとすることが
最大の抵抗であることを
学ぶこともなかった
しかし
もっと私を傷つけたのは
やさしい子どもたちだった
私がどもると
私のそばで一生懸命助けてくれた子ども
私のかわりに本を読んであげようかと
出席の代弁をしてあげようかと
この屈辱にくらべれば
肉体的な苦痛などどうということはなかった
いじめの傷はいえても
やさしさの傷がいえることはなかった

伊藤 この詩をあるきっかけで読んで、平井さんに会いたいと思っていました。その数カ月後、大阪府立図書館で平井さんのエッセイの本を見つけ、とても共感する部分があり、改めて会いたいなあと思っているとチャンスは巡ってくるものですね。その後、何度か会う機会があり、「僕たちのセルフヘルプグループのミーティングに来てもらえませんか」と先だってお話したら、「いいよ」と言って下さって、今日の講座が実現しました。大阪吃音教室でする「インタビューゲーム」を考えた人でもあります。

◇考えない、がテーマ
平井 平井雷太です。今、週3回は東京にいて「スクールらくだ」で、下は4才、上は5、60才の生徒の対応をしています。私の長男が25才で、彼が4才のときから教材を作っており、21年ぐらいこの仕事をやってます。延べで2700人くらいの生徒と対応しています。10年ほど前に、僕の教材をフリースクールの教材として、ある出版社が全国展開しようと思ったら、1年目に70教室できて2年目に全部つぶれた。教材があればだれでも指導できるのかと思ったら、全然そうはいかなくて、「教えない教育」とは何か、自分で自分のやってることがわからないから、始めた講座が学師養成講座です。「教師」ではなくて「学師」。教師に教わるんじゃなくて、学ぶ人をどうやって育てられるか。それを10年以上して、その中でインタビューゲームが生まれた。去年はその講座を200回くらいしました。
 僕は、どもりのことと関係するんですが、ほとんど悩みの元は考えることだと思ってる。31のときから就職しないと決めて、なりゆきにまかせて、自分のやることは自分で決めない。「頭を使わない」「考えない」が、とても重要なキーワードなんです。
 考えずにしゃべりますから、何をしゃべるかわかりませんが、よろしく。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/05/21