サマーキャンプ参加者の感想の中からいくつかご紹介します。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/03/29
どもるのはこの世で自分だけと思っていた
角田大希(小学校5年生)
最初、キャンプに来る前集合した大阪駅では知らない人ばかりで、とてもきんちょうしました。ぼくは、母と二人で初めて参加しました。いやなことはほとんどなく、友だちが9人もできて、うれしかったです。このキャンプに参加するまで、どもるのはこの世で自分だけだと思っていたので、参加して自分の他にもどもって困っている人がいたのが分かったときは、ほっとしました。話し合いのとき、吃音でいやだったことが言えて、すっきりしました。
ウォークラリーはとてもつかれました。だから、神社に着いたとき飲んだジュースはとてもおいしかったです。帰り道では、琵琶湖が見えました。島もありました。景色がとてもきれいでした。劇では、大人の人がするとおもしろかったけど、自分たちがするとドキドキして、きんちょうして、はずかしかったです。でも、ちゃんとセリフが言えてよかったです。練習は大変で、つかれました。
とても楽しかったので、また来年も参加したいと思います。
初めての一人旅
横田直人(高校2年生)
僕は、今回生まれて初めて一人旅をしました。1年前から決意していたのですが、いざ来るとなるとすごく緊張してしまいました。河瀬駅に着くと、周りは子どもだらけで少し驚きました。宿舎に着いても、最初のうちは緊張していて、あまり会話ができませんでした。しかし、その日の夜、高校1年の子が来て、ようやく僕の部屋の4人がそろって、だんだん打ち解けられるようになりました。そして、2日目は、もうみんな仲良くなっていて何でも話せるようになりました。この日の話し合いでは自分の思っていること、感じていることを話し、また聞くこともできたのでとても楽しく、有意義な時間を送ることができました。
その日の夜はもうみんな親友みたいな感じで、何でも話し合い、夜遅くまでふざけ合いました。これが今回一番楽しい思い出として残っています。
3日目は、朝からあと数時間でこの3人と分かれると思うとさびしい気持ちでいっぱいでした。
恥ずかしかったけれど、劇も無事終わり、帰る時間になると、別れるのが悲しくて涙が出そうになりました。今回のキャンプでいろいろな人たちから親切にしてもらい、いろいろな人から優しさをもらいました。おかげで僕は積極的に劇にも参加できたし、友だちもできました。この感謝の気持ちは一生忘れません。
自分だけではないことを知ってほしくて
角田美津代(小学校5年生男児の母親)
昨年、病院で開かれた『どもる子どものの親の相談会』で、吃音親子サマーキャンプのことを知りました。スタッフの方から、今までに参加された人たちの感想等が紹介され、子どもにとって良い経験になるからと勧められましたが、その頃息子の吃音の状態は比較的軽かったため、キャンプに参加することで本当に良い影響だけを受けるのだろうか?もしかして他の吃音者と接することで余計にひどくなるのではないか?という不安の方が大きくて、スタッフの方のことばを素直に受け入れることができませんでした。結局、家の行事ごとと重なったこともあり、昨年は参加を見送りました。
そして今年キャンプに参加させていただいたのは、今まで吃音のことについて自分から話さなかった息子が、3ケ月位前にテレビに出演されている自閉症やダウン症の人が話し辛そうにしていらっしゃるのを見て、「僕もこの人たちと一緒?」と聞いてきたのがきっかけです。普段から学校での様子や友だちのことを自分から積極的に話してくれる方ではないので、息子がそう問いかけてきたときは、学校や友だちとの間で吃音のことで何かあったのかな?とすぐに感じとりました。吃音は治らない。だから吃音自体をどうすることもできない。それなら吃音で嫌な思いをしたり苦しんだりしているのは自分だけではないということを息子が判れば、精神的に楽になり、がんばろうというファイトが湧いてくるのではないか。そう思った私は、親子サマーキャンプのことを子どもに話し、息子も「うん、行ってみる」と前向きでしたので、参加させていただくことにしたのです。
実際キャンプに参加してみて、私も息子も本当に有意義な3日間が過ごせたと思います。初対面の方が多いので最初は緊張しましたが、しばらくするとスタッフや親、子どもとの間に壁や気負いのようなものが感じられなくなり、ありのままの自分で接することができました。
どもる子どもをもつ親としての悩みや心配事を伺うと、共通する所が多いためどれも他人事ではなく、みんな想いは同じだと、心が癒され、励まされました。また、社会や人間関係のしがらみで、なかなか自分の思いを正直に出せないときがある自分にとって、相手を思いやりながら自己主張することの大切さを教えていただいたことは、本当に勉強になりました。
子どもの方も吃音についての作文の中で「今までどもるのはこの世の中で自分だけだと思っていたのに、キャンプに来てみて他にもどもる人がいることを知り、ほっとして安心した」と書いており、それを見たときキャンプの目的はほぼ達成されたように思え、うれしく感じました。
将来、さまざまな困難にぶつかったとき、親以外にも相談できる、自分のことをよく理解してくれる誰かがいることは、息子にとって本当に心強いことだと思います。今回の出会いはその一歩として大切にしていきたい、また大切にしていってほしいと思います。
子どもがどもりだったからこそ
綾部辰浩(年長男児の父親)
今年初めてキャンプに参加したのだが、本当によかったと実感した。それは、キャンプ中もそうであったが、帰宅して康平に「どもっててどうだ」と聞くと、「行く前はどもるのが恥ずかしかったけど、今はどもってもいいかな」と言ってくれたことである。当然、来年も絶対に参加したいとも言ったのだが、親としてこの一言は本当にうれしかった。正直、私自身、キャンプに参加する前は、自分の子どものことばかりを考えていたのだが、実際に多数の子どもを見たとき、こんなにも悩んだり苦しんだりしている子がいるという現実に対して何とも言えない衝撃を受けたのが、初めの正直な感想だった。
次の1日目のプログラムが進んでいくと本当に親としてこれまで心情を吐き出す場がなかったという苦しさから少しずつ解放されていくという流れの中で、親に対して何も言わなかった、言えなかった子どもがどんなに辛く、苦しい強い気持ちを自分の中にかかえていたのか、申し訳なさでいっぱいになった。
ただ、親として具体的に何もしてやれないという虚しさ、苦しさの中で伊藤さんがこのキャンプに来たということだけでもすばらしいと言ってくれて私たち夫婦は本当に救われたような気がした。
話し合い、学習会ともども、皆さんが本心を話し、そして共に悩み、苦しみを共有するという経験の中で、普段の日常生活では忘れがちな家族とは何か、改めて考えさせられた。
話し合いの中で、ある人が子どもに吃音があるおかげで子育てに対していろいろ勉強させられるという話をした方がいた。私も同感である。当然、子どもがどもりでなければキャンプに参加することもなかったわけだし、スタッフをはじめ参加者と知り合うことがなかったのだから。
スタッフに個人的な相談をしたのだが、普通であれば私が患者ということでわたし自身が一歩引いてしまうのだが、悩み、相談に対して同じ目線に立って話をしてくれたことに感謝したい。ここでは一つの大きな家族、飾る必要がない、ありのままの自分が出せるというありがたさを感じた。(「スタタリング・ナウ」2000.9.15 NO.73)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/03/29