一昨日に続いて、冊子『吃音と上手につきあうための吃音相談室』に寄せて書いていただいたものを紹介します。内須川洸先生と水町俊郎先生です。内須川先生は、日本吃音臨床研究会の顧問で、この冊子の前身『どもりの相談』の監修をしてくださいました。水町先生は、どもる人の立場に立ち、研究を続けられました。お二人とも、僕たちの良き理解者でした。まず、内須川先生からです。

『吃音と上手につきあうための吃音相談室』をおすすめします
   内須川洸 筑波大学名誉教授・昭和女子大学大学院教授


 どもる人やどもる子ども、そしてその保護者にとって、またどもる子どもに係わる普通学級担任教師や通級指導教師にとっても、また、社会に正しく「吃音」を紹介する啓蒙書としても、大変親切で適切な100頁ほどの小本が発刊されました。日本吃音臨床研究会 吃音ガイドブック『吃音と上手につきあうための吃音相談室』です。
 この本は、「吃音と上手につきあう」という基本方針のもとに編集されて首尾一貫していて明快です。
 最初に、エリクソンのライフサイクル論とウェンデル・ジョンソンの言語関係図から基本構想が紹介されています。それぞれの立場、つまり「お母さんへ」、「学級担任の先生へ」、「吃音に悩んでいる十代の君たちへ」、「成人のどもる人へ」といくつかの項目に分けて親切に分かりやすく書かれています。
 巻末には資料として吃音の基礎知識が披露されています。吃音の定義、原因、治療の歴史など、吃音と上手につきあうにはこれだけの基礎知識が必要という心使いからでしょう。なによりも説得力のあるのは、伊藤伸二さん自身が日本吃音臨床研究会の会長として、いろいろな人々と吃音研究を臨床的に探求してきた体験に基づいていること、また、彼自身の吃音体験が随所にちりばめられている点でしょう。さらに、普通学級や通級指導のベテランの協力を得て協同執筆されている点です。その内容については、きっと読者の皆さんも一々首肯されることが多いことでしょう。
 吃音に係わりのある人々、未だ吃音を知らない多くの人々に是非ご一読をお薦めします。残念ですが、私自身は吃音体験を持ちません。しかし、約50年間にわたり「吃音研究」に従事してきた一吃音学者ですが、どもる人やどもる子どもを通じて実に多くの貴重なことを学ばせていただきました。「残念ですが〜」と申したのは、私がどもっていたら、今よりもっと多くの、そして遥かに深いさまざまな学びを得ただろうと感じています。
 ガイドブックいや書籍というものは、どのように優れたものであっても、それ自身に"力"をもつものではありません。読む方々の勇気ある前向きの態度と実践にこそ生きる"力"を生むものでしょう。先哲の師が「人間! この未知なるもの」と叫んだように、「吃音! この未知成るもの」にこそ何かが隠されているに違いありません。(「スタタリング・ナウ」1999.7.17 NO.59)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/01/18