先日紹介した巻頭言に書いた、読売新聞の「人生案内」を紹介します。相談者は、20代の主婦で、これまで誰にも吃音のことを相談してきませんでした。子どもに本を読んであげることができないのが辛いという切実な内容です。それに回答するのは、大阪大学教授の三木善彦さん。内観療法を広めた人で、僕たちの吃音ショートコースの講師として来ていただいたこともありました。相談内容と回答を紹介します。回答の中で、三木さんが紹介してくださったのが、『吃音と上手につきあうための吃音相談室』でした。

【人生案内】 幼いころから吃音の20代主婦 子どもに本を読んでやれない

スタナウ57〜62 新聞記事_0004 人生案内 20歳代の主婦です。幼いころから、吃音に悩んできました。
 自分の思っている言葉が口から出てこないのです。頭の中で考えていることが、のどのところまで来ているのに、しゃべろうとするとことばが出ず、顔の表情までおかしくなるのです。
 子どものころはまだよかったのですが、この年齢になると、いろいろな付き合いがあるので、ものすごくつらい思いをしています。
 子どもの保育園の先生ともうまく会話できませんし、なにより、子どもに本を読んでやることができません。
 死ぬまでこのままなのかと考えると、本当に悲しくなります。これまで、だれにも相談できず、一人でずっと思い悩んできました。どうかよいアドバイスをお願いいたします。(岡山・A子)

【回答】 三木善彦 大阪大教授
 吃音の原因はいまだに解明されておらず、治療法も確立されていません。人口の1%の人が吃音だといわれていますが、あなたのように深刻に悩んでいる人と、そうでない人がいます。その差は吃音について知り、上手につきあっているかどうかです。吃音を隠し、話すことから逃げていると、ますます話せなくなり、悩みが深まります。
 「私は吃音の癖があるのよ。聞きにくかったら、ごめんね」と言って、恥ずかしくても勇気を出して話すようにしましょう。子どもにもどんどんと本を読んであげましょう。丁寧にゆっくりと読むことは、言語訓練になります。
 言葉が不自由でも、人と交際し、やりたいことをやれば、楽しい人生になります。吃音に負けずチャレンジする姿は、子どものよい手本になることでしょう。
 「吃音と上手につきあうための吃音相談室」という冊子は、本人や親や教師にも参考になります。日本吃音臨床研究会(〒572・0802大阪府寝屋川市打上919の1のBの1526、電話 072-820-8244)まで、500円切手同封で請求してください。
               1999年6月25日付け 読売新聞 「人生案内」


 この冊子はもうありませんし、日本吃音臨床研究会の住所も変わっていますが、大きな反響がありました。

 日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/01/15