どもる人への聞き取り調査をして、発言を分析し、予備調査項目を作成した僕たちは、合宿を何度も繰り返し、吟味して、項目を作りました。その合宿に、筑波大学の内須川洸教授が何度も参加してくださり、できあがったのが、吃音のとらわれ度、日常生活での回避度、人間関係の非開放度、この3つからなる吃音評価法です。今から思い出しても、とても楽しい合宿でした。僕は、1965年にどもる人のセルフヘルプグループである言友会を作りました。そのときから現在まで、言友会からは離れたものの、セルフヘルプグループ活動を続けています。みんなと、わいわいがやがやと話し合い、何かを作り上げていくのが大好きな、「セルフヘルプグループ型人間」です。そのとき、僕は「幸せ」を感じるのです。今年も、1月7・8日と合宿で、「どもる子どもにとって幸せとは」(仮)のテーマの「親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会」の準備をしますが、それがとても幸せな時間なのです。
吃音評価、吃音チェックリストに関しては、日本吃音臨床研究会のホームページに掲載しています。ただし、今は、改訂前のものが掲載されています。近いうちに、改訂した吃音チェックリストを掲載予定です。「スタタリング・ナウ」 1999.5.15 NO.57の続きを紹介します。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/01/04
吃音評価、吃音チェックリストに関しては、日本吃音臨床研究会のホームページに掲載しています。ただし、今は、改訂前のものが掲載されています。近いうちに、改訂した吃音チェックリストを掲載予定です。「スタタリング・ナウ」 1999.5.15 NO.57の続きを紹介します。
吃音評価の試み
吃音と上手につきあうためには、その人が吃音をどのように考え、吃音がその人にどう影響しているのか、つまりその人の吃音の影響度を知らなければならない。どもる人の生活実態を把握し、対策を立てるのである。私たちはこれまでどもる人の生活実態を調査し、吃音評価のあり方、行動調査等、吃音評価を確立するために一連の調査研究を行ってきた。それらの調査をもとに、新たに評価法作成の項目作りを目的に次の調査を行った。
現在吃音に悩んでいる人と吃音の悩みや日常生活の様子などについて話し合い、発言をカード化し、KJ法で整理し、予備調査の項目とした。大阪吃音教室などで、100人の回答を得て、内須川洸・昭和女子大学教授(日本吃音臨床研究会顧問)と私たちで何度も合宿をし、『吃音のとらわれ度』50項目、『日常生活での回避度』30項目、『人間関係の非開放度』30項目の調査項目を決定した。さらに私たちの臨床経験から、項目ごとに配点を変えた。1983年郵送およびワークショップで調査を実施した。すべてセルフヘルプグループに参加している人が対象である。(17〜73歳:男性81人、女性19人)
結果と考察
『吃音のとらわれ度』(満点155点)
最高点151点、最低点6点、平均点62.8点
「たとえ内容がよくてもひどくどもった後には、気がめいる」の質問に「ハイ」と回答した人が一番多く66%であった。「私はどもるのが嫌さに買物にはほとんど行かない」が一番少なく2%であった。しかし100人中2人の回答は注目に価する。
『人間関係の非開放度』(満点83点)
最高点63点、最低点6点、平均点30.5点
「休日は一人で過ごすか」の質問に「いつも」と答えた人は13%、「時々」も加えると67%になる。人間関係が全く開放されていないとする回答の割合は多くはないが、「時々」という回答を加えると、職場での人間関係や親戚とのつきあい等の項目で非開放度は高い得点となる。
『日常生活での回避度』(満点111点)
最高点lll点、最低点0点、平均点31.2点
「結婚式でスピーチを頼まれた時、それを引き受けるか」に「いつも避ける」が一番多く25%。「避けることが多い」、「時々避ける」も加えると職場(学校)での研究発表、職場会議での発言、公式な場での自己紹介などが回避度が高い。
特徴的事例
自分の吃音を軽いと自覚し、周囲の人は吃音と気づいていないという36歳の男性は、吃音のとらわれ度が110点に達した。回避度に関しては、30項目中27項目に「時々避ける」と回答している。一方、やや重いと本人が自覚し、周囲もそう思っているだろうと思うという30歳の男性は、とらわれ度17点、非開放度15点、回避度19点であった。
個別に一覧表にしてみると、吃音症状は重いがとらわれていない人。吃音のとらわれ度は低いが回避度の高い人。吃音症状は軽いと自覚しているが吃音にとらわれ、回避度の高い人など、今後の指導に生かされる問題把握の資料を得た。
評価法の使い方
どもる子ども、どもる人の指導に直接生かせることを目指してこの評価法は作成された。
この中で、一番解決の困難なものは吃音へのとらわれである。「吃音を意識するな」と直接指導されても、長年の吃音に対する否定的な感情はたやすく消えるものではない。しかし、日常の生活態度を把握し、問題点を整理し、行動を変えていくことは可能である。どもる人はどもるのが嫌さに日常生活のさまざまな場面を回避する。本人が自覚している回避行動もあるが、無意識にまで高まっている回避は、本人もそれと自覚していない場合もある。それをある程度明らかにし、自分の行動パタンを知る。具体的に把握した回避の行動を徐々に回避しないように生活指導を行う。さらに職業の問題、将来の展望、レジャー活動等などをカードに記し、それをもとにして何に取り組むか話し合っていく。そして日常生活の回避度を減らし行動する中で、かつて「たとえ内容がよくてもひどくどもった後は気がめいる」に「はい」とつけていた人が次の調査では「いいえ」と回答するようになる。つまり、次のように循環しながら成長していくのである。
日常生活で回避しない→人間関係を開放する→吃音のとらわれから解放される→日常生活で回避しない
吃音自己チェック表
次に紹介する自己チェック表は、当時吃音評価法として考えられたが、今では吃音の自己分析として活用している。大阪吃音教室は年間スケジュールが確立されていて、週に1回続けられているが、初期にこの自己チェックを実施し、自分なりの行動計画を立てる。そして、年間スケジュールが終わる頃再度チエックをすると、かなり大きな変化がある。さらに、どもる子どもの両親教室では、子ども、親用の吃音評価を実施する。参加と同時にチェックする『吃音へのとらわれ度』は、4時間後の相談会終了時に再びチェックするとかなりの変化が起こる。これは、親の吃音についての知識が片寄っていたり、不足していたために、吃音について誤った認識をもってしまっていたからである。親は比較的情報によって吃音についての認識を変えることはできるが、どもる子どもやどもる本人は、自らの行動を通してしか、自己のもつ吃音についての認識を変えることはできない。
この吃音自己チェックは、どもる子ども、親にも実施したいと試案を作成しているが、さらに検討していきたい。吃音をオープンに話す話題に使えるし、論理療法的アプローチに使えるものとなっている。是非皆様も一度チェックし、感想をお寄せ下さい。これを機会に多くのみなさんと論議ができ、よりよいものに発展させることを願っています。(「スタタリング・ナウ」 1999.5.15 NO.57)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/01/04