大学生のときから吃音親子サマーキャンプに参加してくれている渡辺貴裕さんのFace bookの記事を紹介します。渡辺さんは、吃音との接点はなかったそうですが、僕たちが大阪で開催していた、竹内敏晴さんの「からだとことばのレッスン」への参加がきっかけで、学生時代からキャンプに参加するようになり、今に至っています。
 僕たちの良き理解者であり、大切にしている表現活動・演劇の担当をしてくださっています。長年、竹内敏晴さんが脚本を執筆し、事前レッスンとして合宿で演出してくださっていました。その竹内さんが亡くなり、さて、吃音親子サマーキャンプの大きな柱である劇の稽古と上演のプログラムをどうしようと思っていたとき、「引き継ぎましょう」と言ってくれました。以来、僕たちの演劇活動を支えてくださっています。
 渡辺さんの許可を得て、渡辺さんの書かれた、吃音親子サマーキャンプの報告をそのまま紹介します。

第31回吃音親子サマーキャンプにスタッフとして参加してきた
荒神山 写真 渡辺さん
 滋賀県彦根市の荒神山自然の家で開かれる2泊3日のこのキャンプには、学生のときから毎年もう20回以上参加してきたのだが、去年・一昨年はコロナ禍のため中止になっていた。
 今年も、開催できるどうかスレスレのところだった。が、主催者の伊藤伸二さんが「行動制限が出されない限り実施」という方針を固め、開催。3日間、どもる子どもたちやそのきょうだいとその親、スタッフ(どもる大人やことばの教室の教師、言語聴覚士など)が集まり、吃音について話し合いをしたり、作文を書いたり、劇の練習と発表をしたり、山に登ったりする。親は学習会がある。
 劇は、今年は、スタッフの事前合宿もできなかったため難しいんじゃないか、となっていたのを、開始10日ほど前の打ち合わせで急遽実施する方向になった。
 そんなわけで、大枠ではほぼ例年通りの内容だ。参加者は少し少なめの約80名。
 初日のスタッフ顔合わせのミーティングで、キャンプ卒業生であり今は理学療法士をしているスタッフが、
 「3年ぶりなんで、ここに来られるだけで泣きそうなんですけど」
と言っていた。
 私は彼が小学生のときから知っていて、どもりまくりながら(正確には、難発でなかなか声が出てこないなか)真っ直ぐにセリフを届けようとする姿、普段学校の友達とはできないような吃音に関する話を同年代の仲間らとしてきた姿を知っている。参加者としても、大学生以降のスタッフとしても、キャンプを大事に思ってきたことを知っている。そんな彼の率直な言葉が私の胸にも刺さる。
 また、私自身、3年ぶりの再会、3年ぶりのこの場にグッとくる。
 休止前、高校生で「医者を目指します」と言っていた女の子が、1浪のあと無事医学部に合格して勉学に励んでいた。小さい頃からキャンプに参加して生き物が大好きだった男の子が大学生になって海洋学部に入っていた。それぞれ、入試のときの面接やら入学後のプレゼンやら苦労もしているが、吃音と共にしなやかに生きている。
 そして、キャンプは、私自身、素の自分でいられる場だ。「大学の先生」うんぬん関係なく、気楽に子どもとも親ともスタッフともかかわれる。その心地よさ。キャンプ自体、伊藤さんの方針で「対等性」を大事にしていて、「スタッフが何かをしてあげる場」ではないことに価値を置いているのだが、そのなかで過ごすことで、自分の大元に立ち戻れる気がする。
 私が自身の専門としても「評価する−される」「助言する−される」とは異なる関係性での実践を通しての学びや対話を追究していることの原点の一つは、この吃音親子サマーキャンプにある。
 キャンプは、全員が1日2回の検温をしたが、一人の発熱者も出ることなく、無事終了。
 他にもいろいろと書きたいことはあるが、ひとまずはこれで。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/08/27