ドキドキしながら始まった3年ぶりの吃音講習会ですが、あっという間に1日目が終わってしまいました。無茶振りに近い僕たちからの提案を、参加者のみなさんが柔軟に受け止めて下さり、対応して下さったおかげです。芝居でも、観客の反応の良さが、役者はもちろん芝居そのものを見違えるほど育てると言います。僕たちと参加者が一体になって、講習会の場を作り上げている、そんな感じがしました。
講習会 牧野 さて、2日目。まず、この吃音講習会の顧問である、国立特別支援教育総合研究所の上席総括研究員であり、研究企画部長である牧野泰美さんの「対話とは何か」の基調提案から始まりました。牧野さんの存在は、僕たちにとってとても大きいです。安心感を与えてくれます。牧野さんは、全国各地のことばの教室とつながりをもち、あちこち動いておられますが、この講習会は、そんな研修会と違ってゆったりと参加できる、国立特別支援教育総合研究所という名前が教育委員会などで役に立つかもしれないと、みんなを笑わせながら、話し始めました。自分の緘黙の体験をベースに、子どもとの関係性について、対話の良さについて、話していただきました。

講習会 有馬インタビュー その後、成人のどもる人へのインタビューです。このコーナーは、これまで2回していて、今回が3回目です。ことばの教室担当者で、どもる子どもにかかわっているけれど、大人のどもる人に会ったことがないという人は少なくありません。今回の講習会でずっと流れているテーマは「どんな子どもに育ってほしいか」ですが、目の前で自分を語ってくれるひとりのどもる人として登場してくれました。今回は、中学生のときに僕たちと出会い、吃音親子サマーキャンプに参加したこともあり、今、大阪吃音教室で一緒に活動している女性です。地方公務員という、3年ごとに部署が変わり、仕事内容も人間関係も新しく作り上げていかなくてはいけない職場で、悩みながら、嫌な思いもしながら、それでも人とのつながりを大切にして、真摯に仕事に向き合っている人です。
 明るく、誠実で、その人柄は、すぐに参加者にも伝わり、彼女の話を真剣に聞いて下さいました。こんな大人になってくれたらいいなあというモデルを、目の前で見てもらったことになるでしょう。最後に、ひとりひとりの感想を聞いて、午前中は終わりました。

講習会 相埜 午後、昨日残した7つの視点のうちの2つを、オープンダイアローグの形で行いました。 その後は、これまでの対話と違い、教材を使ってする対話も紹介しました。吃音チェックリスト、言語関係図、吃音キャラクター、どもりカルタを使って、子どもたちと対話をする、それらをきっかけに対話をすすめるというものです。チェックリストは、もともと大人のどもる人のために作ったものなので、今回は、今から5年前に、大阪吃音教室と出会い、これまで3回、吃音チェックリストをしてその数値の変化に驚き、それがなぜなのか考察した人の発表でした。具体的な人生のできごと、エピソードとともに語られる話を聞きながら、参加者も、子どもたちにどう使えばいいのか、イメージしていただけたことと思います。
 時間がなくなって、言語関係図、吃音キャラクター、どもりカルタは、詳しく紹介することができませんでした。これまでの講習会で何度か紹介しているので、僕たちにとってはもういいかなと思っていたのですが、教材の周りに人が集まり、どう使うのかと質問していました。教材を使っての対話の具体的な話が必要だなと思いました。
 最後は、大きな円を作って座り、ふりかえりです。最初に書いた「どんな子どもに育ってほしいか」を再度、考えて発表しました。最初のものはそのままで、追加したという人、もう少し深いものにしたという人、みなさんいろいろでした。
 講習会全体のふりかえりは、アンケートに書いていただきました。びっしりと書いて下さった方もたくさんおられました。
 みんなに手伝っていただいて、後片付けをして、会場を出たのが午後5時。
 あっという間の2日間でした。開催できるかどうか、開催していいのかどうか、いろいろ迷いましたが、今は、開催できてよかったという思いでいっぱいです。僕たちが大切にしてきた、直の出会い、対面での語り合い、全体をオープンダイアローグの形で通したこと、それに参加者が対応して下さったこと、すべてがすばらしい時間を作ってくれました。 フル回転していた僕の頭は、なかなかその余韻からさめませんが、その疲れは心地よいものでした。ああ、やっぱりこんな時間はいいなあ、開催を待っていて下さった人たちといい時間を過ごすことができたなあ、と心から思います。ありがとうございました。
 ぜひ、来年も。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/08/07

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