「スタタリング・ナウ」(1998.4.18 NO.44)の巻頭言を紹介しましたが、その号には、大阪吃音教室に講師として来て下さった松田博幸さん(現在 大阪公立大学准教授)の「セルフヘルプグループとのかかわり」というお話が掲載されています。
松田さんとは、長年大阪セルフヘルプ支援センターで一緒に活動していました。私は最近は全く参加できていないのですが、松田さんがずっと活動を継続して下さっています。大阪セルフヘルプ支援センターには参加できていないのですが、毎年、年に一度、大学のご自分の講義に僕をゲストとして呼んで下さいます。松田さんが、僕にいろいろ質問して下さり、僕がそれに答えるというスタイルですが、いつも新しい発見があり、学生たちの感想を読ませていただくのも楽しみになっています。
今回の松田さんの文章、今、読み返すと、セルフヘルプグループについての基礎的な知識として、整理されていて、知っておいていい、いや知っておくべきお話です。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/06/27
松田さんとは、長年大阪セルフヘルプ支援センターで一緒に活動していました。私は最近は全く参加できていないのですが、松田さんがずっと活動を継続して下さっています。大阪セルフヘルプ支援センターには参加できていないのですが、毎年、年に一度、大学のご自分の講義に僕をゲストとして呼んで下さいます。松田さんが、僕にいろいろ質問して下さり、僕がそれに答えるというスタイルですが、いつも新しい発見があり、学生たちの感想を読ませていただくのも楽しみになっています。
今回の松田さんの文章、今、読み返すと、セルフヘルプグループについての基礎的な知識として、整理されていて、知っておいていい、いや知っておくべきお話です。
セルフヘルプグループとのかかわり
日本福祉大学(当時) 松田博幸
はじめに
私は、セルフヘルプグループについて研究しています。今日は、セルフヘルグループとは何かについて話させていただきます。
私は、社会福祉系の大学を出て、福祉事務所で仕事をした後、精神科の病院でソーシャルワーカーの仕事をしました。その後、仕事を辞めて大学院に行き、勉強をしているうちに、専門家が行う援助のほかに別の形の援助があるのが分かってきました。そして、自分が勉強したいのはこれだと思い、次第に、セルフヘルプグループに関心が向いていきました。
また、一方で、グループを支援しようというボランティア活動にも参加しました。それが、後で話す「大阪セルフヘルプ支援センター」です。
大阪吃音教室はセルフヘルプグループです。グループの活動をしている方の前で、グループとは何かと話すのはしづらいことです。
「専門職者にセルフヘルプグループの意義や値打ちを伝えようと思えば、何冊も教科書を読んでもらうより、グループのメンバーに5分話をしてもらう方がずっと効果的だ」
グループを支援する活動は、アメリカ、カナダ、ドイツで盛んですが、アメリカでそのような活動にかかわっている人のことばです。
グループはこうこうですよと私が話すよりも、実際に活動しているグループの方に来てもらって話してもらう方が本当はいいのです。
今日は、皆さんがされている活動を整理していくのに役立つ枠組みのようなものを研究者の立場から示せたらいいなと思ってお話します。
いろいろなセルフヘルプグループ
セルフヘルプグループが世界的に増えてきています。古いものは、1930年代から活動を始めています。アメリカでアルコール依存症の人のグループが1935年にできました。AAです。知的障害をもつ人たちの親の会もその頃から活動を始めています。そして、どんどん世界中に広がっていきました。セルフヘルプグループは、何か生活上の課題を抱えた人がその問題や課題を解決するために集まって活動を行っているグループです。実に様々なグループが活動を行っていますが、いくつかのグループの例を、このような人たちがグループを作っているという形で、紹介しましょう。
セルフヘルプグループというと、心や身体に病気・障害のある人たちの会が思い浮かべられやすいのですが、実際にはいろんなグループがあります。どのような人がグループをつくっているか紹介しましょう。
◎身体に障害のある人たちの会
◎難病等の病気の人たちの会
〈稀少難病友の会〉は、日本に2人、3人という数が極端に少ない病気をもつ人たちが集まってるグループです。それぞれみんな違う病気だが、共通するのは、それぞれの患者が極端に少ないことです。私も、この会の旗揚げ式に行きましたが、自己紹介を聞いていると、名前も聞いたことのないような病気の人たちが集まっていて、それぞれ、「自分のこの病気は、日本で数人しかいないのです」と話しておられました。
◎手術や事故の後遺症をもつ人たちの会
◎精神障害をもつ人たちの会
◎アルコール、薬物、摂食障害、ギャンブルなど依存や嗜癖のある人たちの会
何かを止めたいが、止められない。つまり何かに対するコントロールが効かなくなる状態です。お酒をやめられない人たち。シンナー、睡眠剤など、薬をやめることができない薬物依存の人たち、いっぱい食べて、そして吐くことを繰り返してしまう、食べることに対するコントロールが効かなくなる摂食障害の人たち。ギャンブルがやめられない人たち。
◎子どもや伴侶を亡くした人、離婚した人たち等の会
阪神大震災のとき、神戸でも子どもを亡くした親のグループができました。
◎不登校や中退、出社拒否、閉じこもりなどの状況にある人たちの会
◎人間関係に悩む人たちの会
ソーシャルワーカーや看護婦や医者など、援助専門職の人で人間関係に悩んでいる人たちのグループがあります。
◎虐待してしまう人たち、虐待される人たちの会
一般的な機能不全の家庭で大きくなった人たち、家族にアルコール依存症の人がいたという人たち。子どものときに虐待を受けた、虐待とまではいかないが、例えば、家族からすごく厳しく育てられた、あるいは、親から構ってもらえず寂しかったなど、辛い目をしてその傷が癒せない人たちがメンバーになっています。
「アディクション・ママネット」というグループが最近できました。子どもを虐待してしまう親の会です。子どもに手を出す、ほったらかしにして放置してしまうなど、心のなかではやめたいが、してしまう。あるメンバーのことばを借りると、子どもを可愛いと感じることのできないママさんのグループです。
◎ライフスタイルを共有する人たちの会
男の人はこの社会のなかで、男らしさを意識して生きています。心のなかに“男らしくないといけない”が自然に入りこんでいる。でも、それはしんどいから、ときはなたれて楽に生きようというグループです。
◎上記の人たちの家族等の会
アルコール依存症の人を家族にもつ人たち、薬物依存の人を家族にもつ人たちのグループもあります。
◎その他の会
ともかく、いろんなグループがあるということを知っていただければと思います。
外国には、さらにいろいろなグループがあります。例えば、〈顔に傷がある人たちのグループ〉には、手術をして傷が残っている人も、アトピーの人も、口唇口蓋裂の人も含まれます。カナダには、〈大きい人たちの会〉があります。身体が大きい人たちも悩みを抱えています。人の目も気になるし、服を買うとき、どこで買うかの情報も必要になってきます。〈物をうまく片づけられない人たちの会〉もあります。一所懸命片づけようとするんだけど、うまく片づけられなくて家が散らかっていて、いらいらしている人の会です。実にいろんなグループが世界中で活動を行っています。(つづく)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/06/27