桜が満開、新年度を迎え、新しい気持ちで、またブログやTwitter、Facebookなど、更新していこうと思います。
今日、日本吃音臨床研究会の月刊のニュースレター「スタタリング・ナウ」の今月号原稿を入稿しました。NO.332でした。入稿を終えたときと、発送作業を終え郵便局に出しに行ったときが、月の中でいちばんほっとする時です。
昔の「スタタリング・ナウ」を紹介していますが、今日は、1997年8月のNO.36です。吃音親子サマーキャンプに参加した子どもの話で、よく覚えているエピソードです。そのままのあなたでいい、が一貫して流れています。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/04/05
今日、日本吃音臨床研究会の月刊のニュースレター「スタタリング・ナウ」の今月号原稿を入稿しました。NO.332でした。入稿を終えたときと、発送作業を終え郵便局に出しに行ったときが、月の中でいちばんほっとする時です。
昔の「スタタリング・ナウ」を紹介していますが、今日は、1997年8月のNO.36です。吃音親子サマーキャンプに参加した子どもの話で、よく覚えているエピソードです。そのままのあなたでいい、が一貫して流れています。
僕、どもっていいんか
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二
「高校生の人もどもってはったなあ」
「悠樹君、その人のお話聞いててどう思った?」
「なんとも思わへんかった。お母ちゃん…僕、どもってもいいんか」
「ええんやで、どもっても」
母親は、うれしくて、ほほ笑みながら答えた。
昨年の、吃音親子サマーキャンプ。家に帰ってからの、母親と小学校3年生の悠樹君との会話だ。
悠樹君はキャンプ中、他の子どもたちとなかなか交われず、独自の行動をしていた。話し合いのときも、虫がとんできては騒ぎ、会話の流れを阻害することが多かった。芝居の練習も、何度も邪魔をし、他の子どもから抗議を受けていた。
このキャンプは彼にとって意味があったのだろうか。スタッフ会議で話題になっていた子どもだ。
悠樹君がキャンプの後、吃音についてこのように母親と話していたことは、母親の感想文で知っていた。私はうれしかったが、半信半疑だった。
先日、偶然ある研究会で出会った人が、悠樹君が通級していることばの教室の担当者だった。悠樹君は夏休みが過ぎて、ことばの教室に再び通い始めたが、元気で、症状面でもかなりの変化があったようだ。何があったのだろう。変わった事と言えば、サマーキャンプへの参加だ。彼女は、それが悠樹君にいい影響を与えたのではないかと気づいた。そこで、彼女は、今年のキャンプに参加することにしたのだと言う。
親子の会話の話を改めて聞いたとき、ウーンとうなった。そして、思わず涙が滲んできた。
「どもってもいいんやで」
これは、私たちが一番、子どもたちに伝えたいメッセージだが、話し合いにまじめに参加することなく、他の子どもたちから、問題児やと言われていた彼が、そのメッセージを受け止めていてくれたとは。子どもたちは、問題児やと言いつつも、彼を無視することはなかったのだろう。彼はグループの中に常にいた。ふてくされたような、恥ずかしいような態度で、劇の上演の時も、彼は彼なりのスタイルでそこにいたのだった。
「どもってもいいんやで」
「そのまんまのあなたでいいんだ」
その子どもの存在を、現在の姿を、丸ごと肯定する。今のままでも自分は認められている。存在することができる。これが、どれほど大きな意味をもつか。どもる子どもを前にして、まず吃音症状へのアプローチをしようとする人々には、その意味を考えていただきたいと思う。
「そのままのあなたでいい」
全てのことに優先して、これがこなければ、治らない、あるいは治りにくい障害や病気、自分の力ではどうしようもない事柄をもった人にとっては、辛いことなのだ。
私たちは決してことばへの直接的なアプローチを否定しているわけではない。むしろ、とても大切なものと考え、実際、サマーキャンプでも、ことばのレッスンや表現としての芝居に取り組む。
しかしそれは、吃音症状ではなく、〈声〉に一緒に取り組むもので、「どもっている、そのままのあなたでいい」が前提にある。症状に注目し、吃音を治してあげたい、軽くしてあげたいと取り組むことは、その子の吃音を、ひいてはその子自身を否定することになりはしないか。
吃音親子サマーキャンプは、吃音を受容する、明確な信念をもったスタッフの、明るい雰囲気の中で行われている。だから、お役に立てたかどうか心配していた子どもが、私たちが一番大切にしているところを感じとっていてくれたのだろう。
サマーキャンプそのものが、そのような装置となっていることになる。治してもあげたい、一方で吃音受容も大切だ、そんな装置では、このようなことは起こりにくいのではなかろうか。
この夏も、昨年を越える100名近い参加者がひとつの装置となる。
(「スタタリング・ナウ」 1997.8.12 NO.36)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/04/05