吃音の研究者で、僕たちの考え方を全面的に支持し、応援して下さったのが、筑波大学の内須川洸教授と愛媛大学の水町俊郎教授のふたりでした。その中のひとり、水町俊郎先生が、大阪吃音教室で話して下さった「吃音について思うこと」を紹介します。
 まじめで、誠実で、謙虚で、僕たちの話に耳を傾けて下さいました。たくさんの研究論文を残して下さっています。それらを紹介していかなければらならないと思いながら、まだできていません。そのひとつのきっかけになればと思い、今回、「スタタリング・ナウ」NO.25に掲載されていたものを紹介します。

  
吃音について思うこと
                  愛媛大学教授 水町俊郎

二つのアプローチ
 まず、私の吃音についての考え方を知っていただくために、吃音に対しての二つのアプローチを紹介しましょう。いろいろある考え方の極端と極端を抜き出すとこうなります。

・speak more fluently approach
・stutter more fluently approach

 前者は「より流暢に話す」アプローチということで、限りなくどもらない人と同じような話し方を身につけさせようとする考え方です。どもる話し方はいけない話し方なので、なるべくどもらない、普通の人と同じような話し方に近づけようとする立場の考え方。
 後者は「より流暢にどもる」アプローチということで、吃音の問題は、表面的に流暢な話し方をするかしないかが基本的な問題ではない。自分のスピーチの問題にとらわれて、やるべきことをやらないとか、逃げの人生を生きていくとかいうことに、問題のポイントがあるという考え方です。
 この立場の人達は、ことばの問題は、「流暢にしゃべらなくてよいのです。以前より少しでも楽などもり方や、コミュニケーションが楽にできる」とか、「少しでも人に伝わりやすくしゃべれればそれでいい」。むしろ、そういうことにひけめを感じたりすることの方に問題があると主張します。
 ことばの問題の背景にある心理的なものにターゲットを置くべきであって、ことばそのものに関しては、今までよりも多少でも、つながりがつくような話し方ができれば、それはそれでいいんだというとらえ方です。
 要するに、吃音の症状そのものをどの程度治そうとするかの違いであるといえます。

どこまでを治療の目標とするか

・治療対象としてのspeech behaviorの分類

ー然な流暢性(spontaneous fluency)
▲灰鵐肇蹇璽襪気譴仁暢性(controlled fluency)
受け入れることができる吃音(acceptable stuttering)

 要するにどもるんですから、それをどの程度改善しようとねらうか、の問題です。一番ゆるい目標が、の《受け入れることができる吃音》です。これは、吃音は基本的には治っていない、症状は取れていない、しかし、従来より少し楽などもり方ができている、こういうところをねらいます。
 以前はものすごくどもっていたが、最近は以前よりもリラックスしたどもり方ができている。それはそれでいいんだ、というターゲットの置き方です。
 これに対してもう一つレベル・アップされた段階が、△痢團灰鵐肇蹇璽襪気譴仁暢性》です。
 例えば、「えーと」とか特別なものを入れるとスムースに出てくるとか、意図的にゆっくりしゃべるようにすると出てくるとか、あるいは、メトロノームの音に合わせてしゃべるとスムースに出てくるといった、何かの助けをかりると流暢に出るようになる、そういうレベルをねらうのが△任后
 ,痢埃然な流暢性》、これは要するに、どもらない人と同じで何の工夫もせずにスラスラことばがしゃべれること。吃音の悩みを一つも持たない話し方です。
 はじめにあげた二つのアプローチの考え方が、どこまでをねらっているか、ということですが、,里匹發蕕覆た祐屬汎韻犬茲Δ望しもどもらない話し方を目指すのが"speak more fluently approachです。まとめますと、こうなります。
『"speak more fluently approach"の立場の者は、究極的な目標を,砲きます。もしこれが達成不能であれば△鯡槁犬砲靴泙垢、これが達成されないからといって、に目標を下げることはありません。なぜなら、彼らの目標は、あくまで"fluency"(流暢性)の達成にあるのだから』
 それに対して、"stutter more fluently approach"の立場の者も、できるならば,鮹成したいのです。,砲覆襪砲海靴燭海箸呂覆ぁ△塙佑┐泙垢、ねばならない、とは考えません。そして、それが容易ではないと考えていますし、現に症状がそう簡単に取れるものではない、ということも大体わかってきています。,量槁犬砲△泙蠅砲海世錣蠅垢ると、かえってどもる人にスピーチに対する意識を強める結果になる、との考え方から、を目標にすることが多いのです。
吃音を持ちながら、一回きりの人生をどう生きていくかをもっと考えた方が得策だと、考えます。
 吃音症状面をどうしようとしているか、という点で、この二つは基本的に違います。
 また、どういう人にどちらのapproachが有効か、という研究があります。
 簡単に言いますと、吃音から逃げよう、避けようという気持ちが非常に強い人には、後者のstutter more fluently approachが良いだろう、そして、内面的にそれほど大きな問題はない、しかし、何とかしたいという場合には、speak more fluently approachの方が良いだろうと言われています。
私自身はどういう立場かといいますと、最初勉強を始めた頃はspeak more fluently approachの勉強、つまり症状をどうやって取るか、の勉強を一生懸命していました。ところが今は、完全にstutter more fluently approachの立場に立っています。症状だけやっていても、どうにもならないということが、私なりにわかった上で移ったわけです。吃音の背景にある心理に重点を置く、という考え方です。(つづく)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/02/17