大阪吃音教室の歴史、考え方の変遷、内容、参加者の変容とその分析などを紹介してきました。今日は、第一回吃音ショートコースでの活動の発表のまとめを紹介します。
 これは、1995年に報告されたものですが、大きな3つの柱は、今も変わりありません。ひとつひとつの講座は、毎年2月に行われる運営会議で改訂してきています。今年の運営会議は、2月19・20日に予定されています。コロナの影響でどうなるか微妙ですが、運営会議は、運営委員ひとりひとりがこの1年に考えたことや感じたことも語るので、その人の動向も知ることができる貴重な時間となっていて、とても楽しみにしています。

 
大阪吃音教室報告 まとめ
 1987年4月からの大阪吃音教室の実践は、今年で8年目を迎えています。参加者は当初から、常時20名から30名が参加します。
 吃音講座を含むその内容は、参加者の感想や要望などを検討し、毎年例会を考える合宿等で論議しながら、改良されています。現在では、当初にはなかった、一分間スピーチやアサーショントレーニングが加わり、数年前からは、話しことばへのアプローチとして、竹内敏晴ことばのレッスンが取り入れられています。
 〈吃音と上手につき合う〉を全面に出した大阪吃音教室の実践は、どもる人自身の学びや自己啓発が吃音克服に必要であることを実証した取り組みであると言えます。
 吃音に悩む人をどう支えるかは、セルフヘルプグループの究極の目的です。そのための独自の方法を探り、相互援助機能を高めるためには、グループ構成員一人一人が〈吃音と上手につき合う〉実践を積み重ねていくことでしょう。
 この8年間の中では、私たちなりの援助の事例ができつつあります。それらをまとめ、整理しながら、今後も大阪吃音教室をよりよいものにするため、さらに〈吃音と上手につき合う〉プログラム作りを続けたいと考えています。

●下記は、大阪吃音教室スタート時のプログラムだが、その後一年ごとに改訂がなされている。
〈吃音講座のスケジュール〉
講座1 吃音に関する基礎講座
1)吃音とうまくつき合うために
吃音とうまくつき合うためにはどうすればよいか
2)吃音の原因と治療の歴史
真似をしてうつるのか? 遣伝なのか? 吃音の原因についての正しい知識を得、これまでの治療法の歴史を知る
3)アメリカの治療法の紹介
ウェンデル・ジョンソンの言語関係図とチャールズ・ヴァン・ライパーの吃音方程式を中心に
4)吃音の予期不安・場面恐怖・吃語恐怖
吃音問題を考える上で大切な予期不安や恐怖について、その克服を探る
5)セルフヘルプの考え方
自分の問題を自分自身が気づき、解決していくことの重要性について
6)吃音問題解決の新しいアプローチ
新しくみんなで作る吃音方程式
7)吃音の事例研究
あるどもる人の事例検討を通して、自己の吃音を客観的にとらえる

講座2 コミュニケーション能力を高めるための講座
8)どもる人のコミュニケーションの諸問題
他人とのコミュニケーションを阻むものは何かについて考える
9)どもる人にとっての話し方教室
人前で話せる、人と楽しく雑談できる、人から信頼される話ができるなど、それぞれの目的に応じて訓練法を学ぶ
10)どもる人にとっての文章教室
要領よく話すために自分の考えをまとめるなど、コミュニケーションに役立つ文章作りのすすめ
11)どもる人にとっての朗読教室
より豊かな表現力を身につけるための朗読練習
12)発声訓練について
日l常生活の中でどのような発声の訓練をすればよいか

講座3 自分を知り、自分を高めるための講座
13)交流分析1 自分の中にある3つの自我とエゴグラム
自分の中にある3つの自我に気づく
14)交流分析2 気持ちのよい交流をするためのやりとり分析
自分がとっている交流パターンに気づき、よりよいものにする
15)交流分析3 人間関係をよくするストロークについて
人間関係をよりよいものにするために、相手にプラスのストロークを与えることの大切さを学ぶ
16)交流分析4 人との交流での時間の構造化(人生目標の明確化)
より有意義な時聞の使い方を考える
17)交流分析5 脚本分析
これまで知らずのうちに繰り返し行ってきた非建設的な行動パターンに気づき、それを変える
18)論理療法1 論理療法の基礎哲学
人はなぜ、不安や悩みをいつまでも持続させるのか、そのしくみを知る
19)論理療法2 非論理的な考え方
自分が持ち続けている非論理的な考え方に気づく
20)論理療法3 非論理的な考え方の粉砕
不安や悩みからの解放の道を探る
21)行動療法 断行訓練
言いたくても言えない、言わない自分に気づき、正当に自分を主張することの大切さを学ぶ
22)ゲシュタルト・セラピー
今、ここでの気づきの大切さを学び、自分を変えるとはどういうことかを知る
23)自己開示
人と楽しくつき合う、人生を豊かに楽しく生きるには自分をさらけ出すことが必要であり、そのときの留意点について考える
24)森田療法
吃音のとらわれ、吃音によるはからいの行動から脱却するために森田式生活術から学ぶ

(『障害児指導の方法』学苑社 吃音の指導法〈3〉成人吃音の指導 より)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/01/31