吃音をオープンにするということがよく言われます。具体的に、いつ、どんなふうにオープンにするのか、ことばの教室の担当者からの質問をきっかけに、考えました。今日が第一回吃音ショートコースの分科会「早期自覚教育」の最後です。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/01/20
《吃音ショートコース分科会》
早期自覚教育について
◇吃音の話題はタブーか
ことばの教室担当(長崎) 私は「君はなぜことばの教室に来たんだ?」と、尋ねることにしている。「知らん」「お母さんが連れてきたから」という子もいるが、多くは「つっかえるから」「ことばが出にくいから」と答える。こう、あからさまに尋ねることは良いのか。
伊藤 大賛成だ。今まで、腫れ物に触るように「それを話題にするのはよくない」と言われてきたが、本当にそうか。「吃音親子サマーキャンプ」で親たちと話し合うと、多くのお母さんが、保健所や小児科で、「そのうちに治りますよ。放っておいた方がいいですよ」「吃音を意識させないようにしましょう」と言われている。「ゆっくり聞いてあげましょう」など良いアドバイスもあるが、「意識させてはいけない」が大きな眼目としてある。
お母さんはそれを信じて意識させないようにしてきたが、今小学校5年になっても治っていない。これからどうしたらいいのか、悩んでいる。
「小学校4〜5年まで持ち越すと、将来完全に吃音が治るというのは難しい。治らないかもしれない。吃音を受け入れていける子どもに育てたい。そのためには吃音について子どもと話しましょう」と言うと、お母さんたちは、こう言いました。
「治りますよと言われて、懸命にどもりを話題にしないように注意してきたのに、今急ブレーキをかけて、方向転換はなかなかできない」
幼児の時から何か根本的に道筋が間違っているのではと思います。オープンに、吃音を話題にしていくというのは大賛成です。
◇どのようにオープンにするか
ことばの教室担当(千葉) ことばの教室にくる子どもに、いきなり吃音を話題にしにくい時がある。心の中で「嫌だなあ」と思っていることは、なかなかことばに出しづらい。準備状態として、話題にできるまで待っててもいいのかな、という気持ちがある。
伊藤 よくタイミングについて聞かれます。その子どもにとってのタイミングや、教師との人間関係の中での一番いいタイミングで吃音の話題をもちだそうということでしょうが、そのようなタイミングを見極めようとすると、いつまでも話せないことになります。タイミングは考えないで、自分が話したい、話そうと思った時がタイミングだと考えていいんじゃないでしょうか。ことばの教室で吃音を話題にするのは当然のことなので、気負わず、自然に話し始めたらいいと思います。
ある意味、押してだめなら引いてみな、押してよければ押してみる。試行錯誤を恐れない、冒険を恐れないということが大事です。こちらのやったことがスパッと決まるということは、ほぼありえない。ダメなら修正する。元のところへ戻る勇気を持つ。予測不能な人間の営みはそんなものだと思う。
また、何が何でも自覚させるということではなく、何年も待つ子どももいるだろう。吃音について話しても、終了のギリギリになって初めて自覚ということになることもあると思います。
ことばの教室担当(千葉) 7月に千葉で全難言全国大会があった。その中で、高学年のどもる子どもに、吃音をどうやって話題にしていくかというテーマになった。ある先生は、「言い出したいんだけど、言ったらよけいその子を傷つけるのではないか。心配で言い出せない」と言われた。結局、どうしたらいいんだろうと、教師の側がピリピリすること自体、「あんたのどもりはまずいことなんだぞ」と伝えているのではないか、という話になった。吃音を話題にして、「しつこいな」ということになれば、それを修復していく過程も、我々にとってもその子にとっても大切な勉強である。こちらが肩の力を抜いて、その子全体とつきあって二人の関係を作っていく中で、タイミングがあって話ができたときからつきあっていこうかな、というまとめになった。
ことばの教室(神戸) 幼児の相談が多いのだが、幼児について「オープンにする」とはどういうことを言うのか?
伊藤 吃音をオープンにというのは、「さあ、あなた、どもりについて話しましょう」ということではない。幼児であっても、自分の吃音に気づいていて、運動会の練習で号令をかけるのが嫌だから練習に行かない、などの回避行動が幼稚園で生じている例はいっぱいある。本人がはっきり意識して話してきた時、その話題を避けないことが、幼児の場合のオープンと考えていい。具体的にどのように言うか状況によるが、さらりと話題にしましょう。お母さんが大変なことだと考えなければ、いろいろと対応ができるでしょう。
それから、よく言われている「『ゆっくり言ってごらん』とか、『言い直してごらん』と言っては絶対ダメ」というのは、決してそうではない。私も小さい子を指導するとき、言っていることが早口で分からない時、「もういっぺんゆっくり言ってよ」などと、ストレートに言う。それはどもるのがだめということでなく、「あなたの話をよく聞きたいが、あわてて言われると分からない。もう一度言って」ということです。
根本には、「どもったっていい」「この子が将来どもったまま成長しても大丈夫」という人間観がある。この子は吃音の問題を持っているが、他の子は違った問題を持ちながら成長していくんです。(了)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2022/01/20