どもる人、どもる子どもの親、研究者、臨床家が一堂に会し、吃音について語る、そこに吃音問題の真の解決があるのではないか、その思いは、1986年、京都で開催した第一回吃音問題研究国際大会の大会宣言に盛り込まれ、その後、具体的な取り組みが続けられました。大阪吃音教室が、吃音と上手につきあう吃音教室として講座を中心とした活動に変わったのも、そのひとつでした。そして、もうひとつ、今回紹介する、吃音ショートコースと名付けた2泊3日の合宿もそうでした。
 吃音ショートコースの記念すべき第一回は、1995年秋、大阪で開かれました。今日は、3日間の様子を紹介します。その前に、どうして吃音ショートコースが始まったかについて少し紹介します。
 1965年の夏、大学1年生だった僕は、「どもりは必ず治る」と、新聞や雑誌に大きな広告を出して宣伝していた民間吃音矯正所の東京正生学院に行きました。そこの寮で、30日間生活し、その年の秋に、僕はどもる人のセルフヘルプグループ言友会を11人の仲間と創立しました。56年も前のことです。
 その後、僕は、第一回吃音問題世界大会を開催するなど、全国組織の会長として長年活動を続けましたが、残念ながら、事情があって全国言友会連絡協議会から、大阪、神戸の仲間と共に離脱しました。そうなると、これまで僕が中心になって開催してきた、言友会の全国大会を開催することも、全国大会に参加することもできません。大阪、神戸の仲間が、交流や学びの場を失うことになってしまいます。全国組織から離脱したのは、僕の個人的な事情だったので、多くの仲間に申し訳ないと強く思いました。
 そこで、これまでの全国大会とは違う、吃音の枠を超えて、様々な領域の専門家を講師に招いて、ワークショップをしようと考えました。しかし、第一回はやはり吃音そのものにしっかり向き合いたいと、これまで常に僕たちを支えて下さっていた、筑波大学の内須川洸先生と、僕が生まれ変わるきっかけとなった東京正生学院の梅田英彦先生を講師に招きました。また、計画の段階から、参加者みんなで考えようと、プログラムをあらかじめ作らずにスタートしました。その記念すべき第一回吃音ショートコースの報告がありましたので、紹介します。
 その後、吃音ショートコースは、いろんな分野の第一人者から学ぶものへと成長していきます。

1995年 第一回吃音ショートコース
 1995年9月22・23・24日、日本吃音臨床研究会の主催で、吃音ショートコースが開かれました。
 どっぷりと《どもり》につかり、《どもり》について考える2泊3日にしようとの呼びかけに集まった64人の参加者。
 どもる人、吃音研究者、ことばの教室担当者、スピーチセラピスト、どもる子どもの親など、立場はそれぞれ違いますが、そのひとりひとりが主役となり、楽しく、そして真剣に、どもりと、自分と、向き合った吃音ショートコースとなりました。
 予めプログラムを決めず、参加者の思いを出し合いながらプログラムを作り上げていこうと試みた、手作りのショートコースでもありました。

9月22日
 『出会いの広場』。ゲームや自己紹介を通して参加者が互いを知り、気持ちがほぐれていきます。
 続いて、プログラム作り。どもる人、臨床家、親とそれぞれグループに分かれ、話し合いたい、知りたい、発表したい、そんな参加者ひとりひとりの思いが出されました。
第1回吃音SC プログラム作り 再度全員が集まり、各グループから出された話題は全て紹介されました。せっかく出された問題は全てそれなりに処理をしたいという方針だったので、その場でできることは、その場で解決し、残った問題は、幅広い参加者の力で明日からのプログラムへ組み込んでいくことにしました。
 どもる子どもの親から、親のもつ悩みをじっくりと聞いて欲しいと要望が出された時には、全員の了解を得て、昼の大きな時間枠を、内須川洸先生の、個人的なカウンセリングの時間とするなど、参加者の要望をかなり満たせたプログラムができあがりました。最初、どのようになるか大変不安だったこの全員参加のプログラムづくりに、参加者は大いなる満足感を持って下さったようです。

9月23日
 午前中は、前東京正生学院の理事長の梅田英彦先生による講演でした。演題は『ある民間吃音矯正所の終焉』。30年成人吃音の臨床に携わってこられた梅田先生のお話は、どもる人への愛情に満ちあふれたものでした。
 午後は、前述の梅田先生、日本吃音臨床研究会顧問の内須川洸先生、日本吃音臨床研究会会長の伊藤伸二の3人によるグループワーク。
 梅田先生は、どもる人のために、『楽にどもる方法』、内須川先生は親のための『個人的カウンセリング』、伊藤はことばの教室担当者やスピーチセラピストとともに『早期自覚教育のすすめとことばへの直接的指導』でした。
 昼の部の最終は、内須川洸先生の講演でした。『内須川式吃音児の治療指導法』は、長年の研究実践に裏打ちされた迫力あるものでした。成人のどもる人にもよく理解できたと好評でした。
 夜の実践発表は次の4つでした。
‖膾綉媛散擬爾亮汰〜吃音と上手につき合う例会活動〜
△匹發訖佑梁慮魁蹴慍馮表をめぐって―
B臘纏圓砲けるどもる子どもに関する調査
さ媛賛道劼佞譴△ぅ好ール
 その後の交流会は時間は短かったが盛り上がりました。会場は、参加者の話し声、笑い声で包まれました。

9月24日
 午前中は、《吃音の受容》をテーマとしたパネルディスカッション。パネラーが一方的に話すという従来の形とは違い、参加者が自由に発言し参加していくスタイルとなりました。3時間という長丁場を、休憩なしに集中しました。ひとりひとりの発言に重みがあり、率直に正直に胸のうちを語り合えた時間でした。
 午後は、オープンマイクとティーチイン。今、話したいことをスピーチするオープンマイクは、大阪吃音教室の青年部が大活躍でした。ティーチインでは、参加者がひとりずつ感想を語りました。
 参加者の率直な感想にうなずき、熱いものが流れ、こころがひとつになったような連帯感に包まれました。
 夢が叶った、全てのプログラムが終わってそう思いました。9年前京都での国際大会の時に感じた満足感と、これからが出発だという盛り上がるエネルギーを再び感じました。
 吃音ショートコースの詳細は、次回から報告します。


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/12/28