昨日は、愛知県で、対面の研修会をしたということを書きました。話を聞いて下さったのは、愛知県のことばの教室の担当者でした。僕が小学生の頃は、ことばの教室はありませんでした。あったとしても行っていたかどうかは分かりませんが。
僕は、21歳で、生き方を変えることができました。小学校2年生から21歳までは暗黒の世界にいました。エリクソンのアイデンティティをもとに、大事な学童期・思春期について書いている文章を紹介します。
『スタタリング・ナウ』NO.14の巻頭言、タイトルもずばり、「ああ、学童期」です。
1995年10月に書いたものです。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/12/25
僕は、21歳で、生き方を変えることができました。小学校2年生から21歳までは暗黒の世界にいました。エリクソンのアイデンティティをもとに、大事な学童期・思春期について書いている文章を紹介します。
『スタタリング・ナウ』NO.14の巻頭言、タイトルもずばり、「ああ、学童期」です。
1995年10月に書いたものです。
ああ、学童期
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二
アイデンティティの概念で知られる、心理学者E・H・エリクソンは、人間の生涯を8つの段階に分けた。そして、その段階ごとに、体験しなければならない発達課題を設定した。
エリクソンの中心テーマが、アイデンティティにあるように、思春期が発達上危機的な時期であることは、言うまでもない。また、乳幼児期が子どもの発達にとって極めて重要な時期であることも、論をまたない。このふたつの時期に比べ、学童期は人生の中でも最も安定した時期のひとつとされ、あまり顧みられない。
しかし、エリクソンによれば、発達は、前段階の発達課題が達成されてこそ次の段階に進むことができ、一つの段階を飛び越すことはできない。とすれば、最も波乱が多く危機に満ちている思春期の前段階である学童期にもっと関心が寄せられるべきである。しかし、学童期に、その課題を十分に達成できずとも、その時期に危機的状況が現れることは少ない。だから対応が遅れてしまう。
学童期は国語の時間当てられて嫌だったが、まあなんとか過ごせたと言うどもる人は多い。悩みが一気に吹き出し、ひどく悩むのは次の思春期だ。
『スタタリングナウ』のNO.1号で、いじめられ体験を語ってくれた山本晋也君は、小学3・4年、5・6年と、ひどい教師にあたっている。学童期の不適切な教師の対応のつけは、思春期に噴出する。思春期にいじめに合った彼は今も、その後遺症に悩む。
この学童期をエリクソンは、「学ぶ存在である」といい、発達課題を《勤勉性対劣等感》で表した。
勤勉性とは、「精一杯学ぶとか、一所懸命何かをする」ことである。学ぶ喜びを味わい、困難なことに立ち向かい、そのプロセスの中で解決していく喜びを持てると、有能感が獲得されていく。
国語の朗読でどもって皆に笑われる。知っている答えも、「分かりません」と言ってしまう。どもることを教師や、級友から否定的に評価されると、学ぶ喜びを味わえない。学ぶことが苦痛になる時、自分は他人より劣っているとの劣等感が強くなる。
学童期に、劣等感よりも勤勉性が勝り、自分なりの有能感を持つことができれば、「どもるけれど、僕にはこんないいところがある。こんなことが出来る」と考えられる。学童期の課題が達成できていれば、山本君も、いじめに向かい合う力がついていたに違いない。
どもるからといって、出してもらえなかった学芸会。「最近手を挙げなくなりました。この消極性をなんとかしたいものです」と何度も書かれた通信簿。児童会の役員選挙で、どもるの私を推薦するかどうかでもめた学級会。私の学童期の教師も級友も、私に劣等感を増幅させる役割しか果たさなかった。何かを成し遂げる喜びも、学ぶ楽しさも全く味わえない、孤独な学童期を私は生きた。当然、思春期の危機に直面する。吃音を恨み、母を恨み、自分は何者であるのか、掴めなかった。
今から振り返れば、私にとってのセルフヘルプグループは飛ばしてしまった学童期のやり直しであったようだ。
学童期にできなかったことを私はセルフヘルプグループの中で、ひとつひとつやり遂げていったようだ。活動の中から、「私にもできるではないか」「私は私なりに出来る力がある」とやっと思えるようになった時、私の学童期の課題は達成された。そして、私の本当の思春期はかなり遅れて始まった。
吃音親子ふれあいスクールに参加した学童期の子どもたち。仲間と語り合うことの楽しさ。しんどく苦しかったけれど、みんなと一緒に劇に取り組み、やり遂げた喜び。僕にもできるという有能感をもってくれたに違いない。どもりなが精一杯舞台で表現する子どもたちの中にそれを見た。
劣等感に勝る勤勉性を、そこからくる有能感を、子どもたちが持てるような体験をおとなたちが用意できるだろうか。吃音と向き合う力は、学童期にこそ養われる。
その大切な学童期が、今、危ない。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/12/25