今日は、今年最後の対面での研修会でした。朝早く新幹線で名古屋へ向かいました。愛知県版「はじめのいっぽ」という研修会です。僕たちの仲間の愛知県のことばの教室担当者が僕を講師に呼んでくれました。参加者は、27名。吃音親子サマーキャンプも、吃音講習会も中止になった今年でしたが、こうして対面での研修会を開催していただけたこと、本当にありがたかったです。
 参加者への資料は、「吃音の対話的アプローチの基本前提」と「子どもへの対話的アプローチ〜ナラティヴ・アプローチ、当事者研究、レジリエンス、健康生成論、オープンダイアローグをキーワードに〜ことばの教室でできること」というパワーポイントが2種類、「吃音と上手につきあうために、知っておきたい吃音の基礎知識」と、おそらく共通するだろうと思われる、千葉の秋の研修会で出た質問に答えたものを事前に送っていました。
愛知研修1 研修会は、9時半から始まり、12時までとされていました。初めての方もいらっしゃるだろうと思い、まず、自己紹介から始めました。小学校2年生のときの学芸会でせりふのある役を外された話、これは担任教師の合理的配慮、教育的配慮のエピソードとしてぴったりの話です。善意の、良かれと思ってすることの危うさを伝えたいと思いました。そして、東京正生学院での30日間の合宿の意味を話しました。どもらないようにする訓練の場が、どもれる体になった場であり、僕が吃音と共に生きる道筋に立ったスタートで、ことばの教室がそういう場であってほしいにつながります。
 そんなふうに、皆さんに自己紹介をしていたら、パワーポイントをつかって話をするつもりでいたのですが、心に思い浮かんだままを伝えたい、しゃべりたいという思いが大きくなり、「使わないでこのまましゃべります」と言ってしまいました。お配りした資料は、おうちに帰ってから、復習用として使って下さいと言って、僕は話し始めました。
愛知研修2 自分自身の体験から、考えたこと、たくさんのどもる人やどもる子どもたちとの出会いから考えたこと、長年のセルフヘルプグループでの活動の中からみつけたこと、30年の吃音親子サマーキャンプで子どもたちから学んだことなど、たくさん話したいことが浮かんできます。
 言語訓練ではなく、対話が大事だと話した僕に、休憩時間、ある担当者が来られて、質問されました。「ものすごくどもる子どもがいる。そんな子でも、訓練はしなくていいのだろうか」ということでした。とても大切な質問です。どんなひどくどもっている子どもに対しても、僕は、言語訓練はしない方がいいと思います。でも、言語訓練ではない、日本語のレッスンはした方がいいと思います。日本語の発音・発声の基本を学び、声を出す喜び、楽しさを知るレッスンです。具体的には、竹内敏晴さんに教えていただいた母音をしっかり出して、童謡や唱歌などの歌を歌うことです。好きな絵本、詩、文学、物語、せりふなどを声を出して読むことです。とにかく声を出し、話すことを、ぜひ、ことばの教室で、毎時間していただければなあと思います。
 短い休憩の後、事前にいただいていた質問に答え、ことばの教室でできることを具体的に教材を紹介して、12時ぎりぎりまで話しました。あっという間の2時間半でした。話したいことがありすぎて、2時間半では足りないくらいでした。その後、時間に余裕のある人が残って下さって、座談会のような、質問に答える時間を持ちました。
 こうして、地道に、少しずつ、考えていること、実践していることを伝えていきたい、そんな思いで大阪に帰ってきました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/12/24