1995年の「スタタリング・ナウ」NO.7で、チャールズ・ヴァン・ライパー博士が亡くなったことを書きました。その号は、ライパー特集を組みました。ライパー博士の経歴と、亡くなったことを受けてのアイナー・ボバーグ博士とミック・ハンリー博士のことばも合わせて紹介します。吃音臨床・研究の第一人者のことは知っておいて欲しいと考えました。

『スタタリング・ナウ』NO.7 1995.2.28

吃音研究の第一人者 チャールズ・ヴァン・ライパー博士逝去

 ウェスタン・ミシガン大学(以下WMU)スピーチ・ヒアリングクリニック(言語聴力診療所)の創設者。
 WMU言語聴力診療所の創設や、言語病理学の世界的権威として知られるチャールズ・ヴァン・ライパー氏は、1994年9月25日、カラマズーで88年の生涯を終えた。

 その生涯を言語障害者を助けることに捧げたヴァン・ライパー氏は、自らもまた26才まで吃音に悩まされたひとりであった。著書も数多く残しており、コミュニケーション障害についての入門書や、吃音を取り上げた論文などがある。
 ヴァン・ライパー氏の同僚であり、友人でもあった、ロバート・エリクソン博士(WMU言語病理学教授)は次のように語った。
 「彼は他の同僚たちとは全く違っていました。ただ単に問題点を見つけて、それについて論文を書いたり、吃音について研究するだけではありませんでした。生涯の仕事を通して、吃音障害者ひとりひとりの治療に積極的に関わってきたのです。
 実際のところ、彼ほど吃音者を助けることができた人間は他にいないでしょう。おそらく世界中を探してもいないと思います。彼の吃音についての著作は、世界各国で翻訳されており、ヴァン・ライパーの名は多くの臨床医の知るところとなっています」

経歴
 アッパー半島のチャンピオンの生まれ。ノーザン・ミシガン大学に2年在籍したのち、ミシガン大学で学士および修士課程を終了した。
 学生時代には、吃音を克服するために3校もの民間の吃音学校に籍を置いていたこともある。心理学の博士号を取得したアイオワ大学においては、言語病理学分野のさきがけとなる多くの人々とともに仕事をした。
 1936年にヴァン・ライパー氏は、WMUに言語診療所を創設し、その所長となった。この診療所は、さまざまなコミュニケーション障害に悩む、何百というクライエントを診断、治療してきている。1983年には、ヴァン・ライパー言語聴力診療所と改名された。
 ヴァン・ライパー氏のリーダーシップのもと、1965年にミシガンで最初の言語病理学および聴力学科が設立された。1994.9.28 KALAMAZOO GAZETTEより

アイナー・ボバーグ博士のことば
   吃音治療研究所(Institute for Stuttering Treatment and Research)理事
 チャールズ・ヴァン・ライパー氏死去の知らせに深い悲しみを感じています。彼はまさしく吃音研究の巨人でした。彼がこれまでに残してきた研究、著作、治療の手順などの業績は、吃音者への理解と手助けに努める者すべてにとって絶大なるものです。ヴァン・ラィパー氏の数多くの優れた文献の中でも最も興味深いのは、おそらく1958年に出版された、20年間におよぶ吃音セラピー実践に基づく論文でしょう。彼は毎年治療法を改善し、それらの克明な記録を欠かさず、5年毎に計画を検討していました。そんな彼の論文を読めることは我々の喜びでもあります。論文は彼の治療計画を骨子として、我々が行う治療技術の効果を常に正しく評価することを示唆するものです。私にとってヴァン・ライパー氏は、これからも愛情こまやかな人物であり、明晰な臨床科学者であるという類い稀な人間であり続けます。

ミック・ハンリー博士のことば
   ウェスタン・ミシガン大学
 ヴァン博士は、わたしが吃音問題に取り組む人々への手助けに努めてきた間ずっと、豊かな協力を惜しまない友人であり、偉大な恩師でもありました。この点については、わたしはヴァンから助言や分析を受けた多くの人々と全く同じ恩恵を受けてきました。自分自身も吃音と共に生きながら、他の吃音者の手助けに一生を通じて携わったヴァンの人柄をよく表していると思う出来事があります。それは死の数カ月前に、ヴァンを3度ほど訪ねて話した折りのことでした。わたしたちはいつもお互いの家族の近況を報告することから始め、2、3のはめを外した話題を経て、思い出話などにも花を咲かせたりしました。そして少し疲れてくると必ず彼は、吃音の話に戻ってくるのでした。効果のあった治療法や失敗した方法、効果の期待できそうなアイデア、自分の吃音とうまくつき合っていけずに悩んでいる人への気遣いなど、それらは尽きることはないのでした。一生涯吃音問題に意識を集中させ続けたこの姿勢こそが、まさしくヴァンその人なのだと思います。(つづく)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/10/30