第35回日本コミュニケーション障害学会学術講演会(2009年5月30日、新潟県長岡市)シンポジウム「グループの力」で発表したものの紹介してきました。今日で最後です。
 成果だけでなく、課題についても触れました。最後は、吃音親子サマーキャンプに参加した子どもの感想でしめくくっています。

特集1〈グループの力〉
吃音親子サマーキャンプにみる、グループの力
                     日本吃音臨床研究会 伊藤伸二

Group Strength Developed by Summer Camp for Children who Stutter and Their
Parents
                             Shinji Ito
【第35回日本コミュニケーション障害学会学術講演会(2009年5月30日、新潟県長岡市)シンポジウム「グループの力」で発表】

9.課題
 キャンプの成果ばかりに焦点をあてて述べてきたが、当然うまくいかない例もある。中学生や高校生で不登校になっている子どもは、親や教師がどんなに勧めてもキャンプに参加しないことが多い。思春期はそれでなくても不安定な動乱の時期である。これまで話題にもせず、向き合ってこなかった吃音に向き合うことは難しい。相談があった思春期の子どもにキャンプを勧めても、実際に参加するのは1割もない。中学生以上の子どもの参加をどう促すかが今後の課題である。同時にそれは、学童期に吃音に向き合うことの必要性を示している。
 また、キャンプに参加しても、問題がすべて解決するわけではない。また、私たちの考え方を受け止められない子どももいる。しかし、一度キャンプに参加することで、免疫力がついていると、私は信じている。卒業した高校生も、将来吃音に悩むこともあるだろう。その悩みの中で、揺れ動きながらも、卒業生が、スタッフとして参加したり、近況を報告してくれる。「吃音を生き抜く力」をつけているのがわかる。一定期間だけの関わりではなく、成人し、結婚して子どもができてからも、長いつきあいが続いている。いつでも困ったときは、メールでも電話でも相談にのっている。

10.おわりに
 「グループの中では、吃音についてこんなことまで話すのか。私は今まで何をしていたのか。ちゃんと聞いてやっていたのか」と自問することばの教室の教師がいる。このようにグループにはグループの良さがあるが、1対1の指導にも、個別臨床の良さがある。その両者が上手く機能したとき、よりよい吃音臨床が展望できるだろう。1対1の臨床と、グループとは違うが、グループでなければできないことがあるのも事実だ。それが「グループの力」だ。

*子どもの感想でしめくくる。
・「高校生もどもってた。僕もどもっていいの」(7歳)
・「何でどもりになったのかと暗い気持ちから、どもりでよかったという明るい気持ちになった」(10歳)
・「2年の頃、よくからかわれたり、真似をされ泣いて帰ったが、3年生の時、キャンプに参加して、どもってもいいんだとわかってから、発表ができるようになった。からかわれたら、『それがどうしたんだ』と言い返します」(10歳)

*高校3年生になり、サマーキャンプの卒業を迎えた時の作文教室で書いた高校生の作文を紹介する。
「やっぱサマキャンの力はすごい」 
                (高校3年生女子・東京)
 サマーキャンプに小4で初めて参加してから早くも卒業という時期を迎えてしまいました。今までの自分の吃音を振り返ってみると、いろいろなことがあったなと思います。小さいときに、友だちの家のインターホンを押したときに、自分の名前が言えなくて泣いて家まで帰ったこと、小4で代表委員に立候補し、全校生徒の前で自分の名前がなかなか言えなくて泣いたこと、小学校の音読で最初の音がなかなか出せなくて、すぐ終わるような文章を何分もかかってしまい、その場から逃げ出したかったこと。他にもここに書ききれないくらい吃音で嫌だったこと、苦しかったこと、泣いたことはいっぱいありました。そのたびに吃音のことを憎んでたし、吃音じゃなかったらこんなに苦しい思いはしなかったのにと何度も思っていました。でもそのたびに吃音サマーキャンプのことを思い出して、「自分だけじゃない。みんなもがんばってるんだ」と思って、サマーキャンプに早く行きたい気持ちでいつもいっぱいでした。
 サマーキャンプに参加してからも中学くらいまでは、吃音の原因がどうとか、治したいという気持ちが全くなかったわけではなかったけど、今は原因とかどうでもいいし、治したいとは思いません。それでも日常では無意識に言いやすいことばに換えて喋っちゃってるんですけどね。
 それでも吃音に対して前と考えが変わったのは、吃音親子サマーキャンプのおかげだと思っています。これから吃音で嫌なことはいっぱいあると思います。人前でも堂々とどもれるのにはまだ勇気がいるし、吃音から逃げることができないけれど、今までどうにかなってきたんだから、これからだって失敗はいっぱいするだろうけど、やっていけると思っています。そう、信じています。

参考文献
平木典子,伊藤伸二.(2007)「話すことが苦手な人のアサーション」金子書房
石隈利紀,伊藤伸二.(2005)「やわらかに生きる一論理療法と吃音に学ぶ」金子書房
伊藤伸二.(2008)「どもる君へいま伝えたいこと」解放出版社
伊藤伸二.(2004)「どもりと向き合う一問一答」解放出版社
水町俊郎,伊藤伸二.(2005)「治すことにこだわらない,吃音とのつき合い方」ナカニシヤ出版(了)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/10/12