「ホームレスの命はどうでもいい」
「メンタリスト」を自称する「DaiGo」なる人が、ホームレス状態の人や生活保護利用者への差別発言を、YouTubeチャンネルで動画配信しました。僕はブログをFacebookやTwitterに同時に配信して、多くの人に読んでいただきたいと思いながら、僕自身といえば、実はあまりFacebookやYouTubは見ません。なので、この差別発言も見ていませんが、よく情報を知らせてくれることばの教室の教員の仲間が、ホームレス差別発言への反論として、映画が無料公開されていることを知らせてくれました。
一本は「あしがらさん」で、2002年の、飯田基晴監督作品です。
飯田さんは現在48歳ですが、若い頃にボランティアをしている時に、路上生活をしていた67歳の「あしがらさん」と出会い、豚汁をおいしそうに食べ、「うまかった」と笑顔を浮かべる彼のことをもっと知りたいと、カメラを回し始めます。「おまえのことだけは信用する」と信頼されるようになり、病院入院や、宿泊施設入所、また路上生活、再び病院に入院、そして、自立支援の施設へと、住むところが変わっていく、「あしがらさん」の3年間を追っていきます。どうなっていくのかと、心配になりますが、施設に落ち着き、デイサービスで仲間や支援者の中で、フラダンスをしている「あしがらさん」の笑顔に、温かい、ほっとした気持ちになります。
周りの人が親身に「あしがらさん」と対話を続け、彼も心を開いていく姿に、心が動かされます。日本も、まんざら捨てたものではないと思わせてくれます。
小学2年生の秋から、吃音に強い劣等感をもち、「どもる人間はダメな人間だ」「真っ当な人生を送れるはずがない」と本当に思っていた僕は、勉強も、スポーツも、遊びも、友達との関係もほとんどない、学童期・思春期を送りました。勉強もできない、友達もいない、性格は暗い、中学2年の夏から、家族との関係も悪くなり、学校にも、家庭にも居場所がなくなりました。家族との関係が悪くなった頃から、「僕は、野垂れ死にする」との思いにとりつかれていました。大学4年生の時、日本一周の一人旅をしたとき、金沢市の繁華街、香林坊の路地裏に立ったとき、何度も何度夢に出てきた、「野垂れ死にしている」場所とそっくりなのにびっくりしたことがあります。「63歳までに死ぬ」と根拠なくイメージしていたので、67歳の「あしがらさん」は、人ごとのようには思えませんでした。
困ってそうな人に、誰かが声をかけ、対話を始めると、その人はきっと応えてくれる。そして、その輪が少しずつ広がれば、対話はさらに広がっていきます。
飯田基晴監督が撮影を始めた若い頃、「クリスマスでデートする相手もいないし、あしがらさんのところに行ってみるか」のナレーションがあります。重いテーマの中でほっとする印象に残る一言です。最後のあしがらさんの笑顔のシーンとともに、僕の心にずっと残り続けるでしょう。
その後の「あしがらさん」のことを監督は次のように紹介しています。神保さんというのは、「あしがらさん」の本名です。
もう一本は、教材用の映画「『ホームレス』と出会う子どもたち」です。
「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」(北村年子代表)が、子どもや若者による野宿者への襲撃事件を防ごうと、「なんでホームレスになったの?」という疑問に答え、差別・偏見をなくす教材として制作されました。釜ケ崎(大阪市西成区)の「子ども夜まわり」の子どもたちが、最初は恐る恐る声をかけていきます。危害を加えないと安心できる子どもから声をかけられて無視する人は少ないでしょう。「おっちゃん」たちとの子どもの交流が始まります。本や学校の授業などでは、決して得られない、本人との対話のなかで、子どもたちは路上生活の人たちの人生、置かれている現状を理解していきます。
当事者との対話なしに、その人の問題は決して把握できないのです。「子ども夜まわり」の活動を始めた人たち、それに関わる多くの周りの人たちのすごさを思います。そして、最初は「恐かった」という子どもたちが、「おっちゃん」たちとの交流で、高校受験合格を知らせに行く、子どもたちのしなやかさも。この子どもたちが体験し、考えたこと、感じたことを周りの多くの子どもたちに伝えていくことができたら、通行人や中学生や高校生による襲撃の防波堤に少しでもなるのではと期待がもてます。「子どもたちに襲撃の加害者になってほしくない」の思いが、この映画を通して伝わってきます。
昨年、渋谷区のバス停で路上生活をしていた女性が殴られ亡くなり、岐阜市では路上生活の男性が少年らに襲われて亡くなりました。このような出来事が二度と起こらないように、僕たちに何ができるのかを、考え続けていきたいと思います。
「あしがらさん」は8月31日まで無料公開されています。
https://youtu.be/euXpt3bwAq8
「『ホームレス』と出会う子どもたち」は 9月30日まで無料公開されています。
https://youtu.be/g4J4sm3BkLI
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/8/28
「メンタリスト」を自称する「DaiGo」なる人が、ホームレス状態の人や生活保護利用者への差別発言を、YouTubeチャンネルで動画配信しました。僕はブログをFacebookやTwitterに同時に配信して、多くの人に読んでいただきたいと思いながら、僕自身といえば、実はあまりFacebookやYouTubは見ません。なので、この差別発言も見ていませんが、よく情報を知らせてくれることばの教室の教員の仲間が、ホームレス差別発言への反論として、映画が無料公開されていることを知らせてくれました。
一本は「あしがらさん」で、2002年の、飯田基晴監督作品です。
飯田さんは現在48歳ですが、若い頃にボランティアをしている時に、路上生活をしていた67歳の「あしがらさん」と出会い、豚汁をおいしそうに食べ、「うまかった」と笑顔を浮かべる彼のことをもっと知りたいと、カメラを回し始めます。「おまえのことだけは信用する」と信頼されるようになり、病院入院や、宿泊施設入所、また路上生活、再び病院に入院、そして、自立支援の施設へと、住むところが変わっていく、「あしがらさん」の3年間を追っていきます。どうなっていくのかと、心配になりますが、施設に落ち着き、デイサービスで仲間や支援者の中で、フラダンスをしている「あしがらさん」の笑顔に、温かい、ほっとした気持ちになります。
周りの人が親身に「あしがらさん」と対話を続け、彼も心を開いていく姿に、心が動かされます。日本も、まんざら捨てたものではないと思わせてくれます。
小学2年生の秋から、吃音に強い劣等感をもち、「どもる人間はダメな人間だ」「真っ当な人生を送れるはずがない」と本当に思っていた僕は、勉強も、スポーツも、遊びも、友達との関係もほとんどない、学童期・思春期を送りました。勉強もできない、友達もいない、性格は暗い、中学2年の夏から、家族との関係も悪くなり、学校にも、家庭にも居場所がなくなりました。家族との関係が悪くなった頃から、「僕は、野垂れ死にする」との思いにとりつかれていました。大学4年生の時、日本一周の一人旅をしたとき、金沢市の繁華街、香林坊の路地裏に立ったとき、何度も何度夢に出てきた、「野垂れ死にしている」場所とそっくりなのにびっくりしたことがあります。「63歳までに死ぬ」と根拠なくイメージしていたので、67歳の「あしがらさん」は、人ごとのようには思えませんでした。
困ってそうな人に、誰かが声をかけ、対話を始めると、その人はきっと応えてくれる。そして、その輪が少しずつ広がれば、対話はさらに広がっていきます。
飯田基晴監督が撮影を始めた若い頃、「クリスマスでデートする相手もいないし、あしがらさんのところに行ってみるか」のナレーションがあります。重いテーマの中でほっとする印象に残る一言です。最後のあしがらさんの笑顔のシーンとともに、僕の心にずっと残り続けるでしょう。
その後の「あしがらさん」のことを監督は次のように紹介しています。神保さんというのは、「あしがらさん」の本名です。
神保さんが、6月26日にお亡くなりになりました。昭和7年の生まれと聞いていましたので、83歳にはなっていたと思います。昨年2月にスープの会のグループホームから、新宿区内の特別養護老人ホームに移られていました。今年に入ってご兄弟と連絡がついて、面会にいらしたそうです。神保さんもひと目でご兄弟のことがわかり、驚き、喜んでいたと聞きました。亡くなる前にご兄弟にお会いできて本当によかったと思います。
僕が神保さんに初めて会ったのは1996年でしたので、今年でちょうど20年となります。今月のローポジション10周年記念の上映イベントでは「あしがらさん」も上映します。
追悼上映のようになってしまい、とても複雑な心境です。
映画を観てくれた方からはいつも、「あしがらさんはいまどうしていますか?」と聞かれます。あの過酷な暮らしを経たうえで、よく長生きされたと思います。僕は神保さんとのかかわりを通じて、多くのことを学びました。映画を通じて、それを多くの方と共有させて頂きました。お会いできたことにあらためて感謝し、ご冥福をお祈りします。
2016.07.05 飯田基晴
もう一本は、教材用の映画「『ホームレス』と出会う子どもたち」です。
「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」(北村年子代表)が、子どもや若者による野宿者への襲撃事件を防ごうと、「なんでホームレスになったの?」という疑問に答え、差別・偏見をなくす教材として制作されました。釜ケ崎(大阪市西成区)の「子ども夜まわり」の子どもたちが、最初は恐る恐る声をかけていきます。危害を加えないと安心できる子どもから声をかけられて無視する人は少ないでしょう。「おっちゃん」たちとの子どもの交流が始まります。本や学校の授業などでは、決して得られない、本人との対話のなかで、子どもたちは路上生活の人たちの人生、置かれている現状を理解していきます。
当事者との対話なしに、その人の問題は決して把握できないのです。「子ども夜まわり」の活動を始めた人たち、それに関わる多くの周りの人たちのすごさを思います。そして、最初は「恐かった」という子どもたちが、「おっちゃん」たちとの交流で、高校受験合格を知らせに行く、子どもたちのしなやかさも。この子どもたちが体験し、考えたこと、感じたことを周りの多くの子どもたちに伝えていくことができたら、通行人や中学生や高校生による襲撃の防波堤に少しでもなるのではと期待がもてます。「子どもたちに襲撃の加害者になってほしくない」の思いが、この映画を通して伝わってきます。
昨年、渋谷区のバス停で路上生活をしていた女性が殴られ亡くなり、岐阜市では路上生活の男性が少年らに襲われて亡くなりました。このような出来事が二度と起こらないように、僕たちに何ができるのかを、考え続けていきたいと思います。
「あしがらさん」は8月31日まで無料公開されています。
https://youtu.be/euXpt3bwAq8
「『ホームレス』と出会う子どもたち」は 9月30日まで無料公開されています。
https://youtu.be/g4J4sm3BkLI
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/8/28