吃音親子サマーキャンプ最終日のはずでした。今年、高校3年生を迎える子どもたちは、きっと参加していたでしょう。そして、最終プログラムで、ひとりひとり自分のことばで、自分を語り、卒業していったことでしょう。1年生から参加した子なら、12年間、夏のひとときを共有したことになります。我が子同然のような子どもたちとの出会いを、僕は本当に大切なものと考えてきました。来年こそ、の気持ちを強くしています。

 昨日のつづきです。ここにも、熱い思いで参加している大阪吃音教室を大切にしている仲間がたくさんいます。

  
たくさんの友人
                        中川昇一(大学生)
 私が大阪吃音教室に参加して良かったと思うことのひとつは、同じ吃音を持つたくさんの友人ができたことです。様々な年代、職業の人たちと吃音の悩みなどについて話し合うことは吃音教室での私の楽しみのひとつです。大学生活では出会うことのない、年代の人、様々な仕事について頑張っている人との出会いは、将来大学を卒業し、社会人になる自分自身をイメージすることができます。大学生活の出来事や、将来への漠然とした不安なども、自分と同じように吃音の悩みを持つ人たちの前では、吃音の悩みを素直に話すことができました。いろんな苦境に陥りそうな時も、私は何度も支えられてきました。そんな人たちと吃音の悩みはもちろん、学校とか友だちとか、いろいろな話題で語り合っていると、私は話すことが本当に楽しいと感じることができます。
 人と話す楽しさを知ったことが、私を明るくしてくれました。だから私は、この吃音教室でいろいろな人と出会えて本当に良かったと思っています

  入会して30数年
                           松本進(教員)
 大学時代を中心とした3、4年はこのどもる人のセルフヘルプグループにのめりこんで、他人と話を交わす時間のほとんどが、どもる人相手でした。それは、安心して生の自分をさらけ出せる時間でした。
 どもりの悩みはより小さくはなったけれど、吃音はずっとそのまま続きました。しかし、スラスラしゃべれることが偉いことでもないし、またそういう人ばかりの世界が唯一の世界ではない、と思えるようになりました。そのことから、「ある決まった一つの生き方にしか価値がない」とか、「世間とは、人間とは、こういうものだ」という硬直した考えから、逃れられたと思います。これは、自分をより客観的に見られるし、とことんまで落ち込まない余裕にもなっています。そのことが、いろんなことで悩んでいる学童期の子どもたちと接する上で、とても役に立っていると思えるのです。どもる私が教員として、ちゃんと生きている、そのことだけでも吃音に悩んだことも意味があったと思えます。

  自分が成長できる場所
                     森川聡美(会社員)
 大阪吃音教室に来て良かったことは、友だちができたことです。高校生の時参加した、吃音親子サマーキャンプで友だちとしゃべることの楽しさを知りました。それまでは友だちもいなくて、しゃべることも少なかったのですが、しゃべる楽しさを覚えてからは、学校等で積極的に話の輪に入っていくようになりました。また、吃音教室にはいろいろな人が参加しており、その人たちに支えられながら、私は人間的にも成長できる場であると思っています。私は精神的に幼いのですが、“幼い私のままではいやだ!もっともっと精神的に成長したい!”と思うことができます。
 ここでは、“あなたはあなたのままでいい”が根底にあり、それを肌で感じ取ることができます。まだまだ努力することはたくさんありますが、大阪吃音教室でいろんな人と話をしたり、一緒に考えたりすることが、私にとってとても良い刺激になります。

    仲間がいる
                        岡崎良太(会社員)
◇仲間がいる
 同じように吃音に悩んだ仲間がいる。職場だけでは出会えなかった若い人と交流できる。いろんな職業や立場の人と出会うことができる。基本的に吃音という共通のものがあるので、より深く仲間としての意識が高まり、無防備でいられる、安心、安全な基地となった。
 最近、長年勤めていた会社を退職し、独立して一人で仕事をするようになった。これまでいた仲間がいなくなった私にとって、いろんな意味で仲間が常にいるということはとてもありがたい。
◇吃音に対する考え方が変わった
 吃音を憎んで生きてきたが、吃音を全く憎まなくなった。吃音に限らず、いろんな物事に対して、柔軟な考えができるようになった。
◇話し方が変わった
 私は仕事で人前で話をする機会が多く、また、初めて出会う人との会議があり、常に自己紹介をしなければならない。そのとき、どう自分を紹介するか、会議の時の発言をどうまとめるかに苦労してきた。それが、大阪吃音教室では、一分間スピーチなどの講座があり、どのように話をまとめるかを常に練習することができた。また、吃音川柳の時間では、ユーモアのセンスを磨くことができた。(2006年4月 つづく)
                        
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/8/22