仲間はいっぱいいる。人は信じることができる。

 中身の濃い話し合いの時間が終わりに近づき、最後にひとりひとり感想を話しました。僕も、感想の中で話していますが、中学生、高校生の時代に、このような仲間と、このような話し合いの時間が持てること、そして、そこに吃音に悩んできた成人のメンター(良き先輩 )がいることは、うらやましいことでした。きっと、この場にいた人たちは、将来、何らかの問題にぶつかった時も、ひとりで抱え込まず、誰か信頼できる人にHELPを出すことができるでしょう。何より、周りの人を信じることの大切さを実感してくれたことでしょう。この世の中、捨てたもんじゃありません。
 今日は、最後のひとりひとりの感想を紹介します。話し合いの報告は、これで終わりですが、明日は、参加者のひとりが書いてくれた感想と、その保護者と担任の先生から見た彼の変化をまとめていただいたものを紹介します。

吃音親子サマースクール

まとめの感想
但馬(言語聴覚士): 初めて参加しました。言語訓練士になるために、専門の養成所へ行き、吃音に関して特に吃音症状について多少勉強しました。でも実際、今、みなさんの話を聞いて、吃音の症状がどうなのかということよりも、やっぱり吃音を持ったひとりひとりの考え方なり、思い、悩みをきちんと受けとめていくことが大切なんだと思いました。
和田(中学3): みんなだいたい同じような考え方やなと思って、なんていうか、仲間はいっぱいいるなという感じがしました。
井上(高校2): 俺も昔っからどもりで、悩みまくって、もうなんで俺だけがどもるのかとどうしようもなかったけど、今日来てみて、どもりでもみんな堂々としゃべってるし、やっぱり、どもりなんかで悩まずに、もっと大事なものがあるんじゃないかと思った。
藤(高校1): ここへ来て、どもりについて知りたかったことは、今日、全部わかったので、来てよかった。
脇田(高校3): 私は小学校のときは、スラスラしゃべれないことが、ずっと頭の中にあって、そのことにとらわれていて、ほとんど何も考えていなかった。最近はちょっとマシになったので、自分の周りを見れるようになった。そしたら、人もいっぱい悩みを持っていて、自分だけじゃなかった。すごい勘違いをしていたなとつくづく思いました。
徳田(成人): 僕が中学、高校時代にこういう話し合いに参加していたら、考え方はガラッと変わっていたと思います。今日参加された方は非常にいいチャンスを手にされたと思う。とてもうらやましいです。
東野(成人): 僕も徳田さんが言われたような思いを感じました。みんなが、よくしゃべってくれたこともうれしかった。それと僕の中学生、高校生の時代と比べて、みんな、しっかりと自分のことを見っめてるし、吃音のことも考えようとしてるし、大したもんやなあと思いました。
岡田(学生): 私も将来、言語療法士になりたいと思っていて、こういうことばの問題で悩んでいる人の気持ちを本当に聞きたいと思っていました。自分のことばの問題を、自分自身でどう受けとめるのかということが、とても大事なんだなと思いました。
宮坂(高校1): 悩みがどもりであれ、何であれ、話題に出ていたように、深刻に悩むんじゃなくて、真剣にもっと考えていかないといけないと思いました。
金光(大学1): 僕の高校時代は、相談する人もいなかったし、ずっと、吃音の症状ばっかりにとらわれてた。大体、吃音の症状を気にしないっていう考え方さえも、自分にはよくわからなかった。高校のときから、こういう話を聞けるというのは、非常にラッキーだと思うし、今からそういうしっかりした考え方を身につけていたら、これから環境が変わっていって困難な場面に直面しても、落ち込み度が少ないかなっていう気もします。
伊藤: 僕たちの中学校、高校時代は、本でも必ず「どもりは治る」というふうだったし、新聞の記事といえば、「こういうふうにどもりを治した」というようなことしか情報としてなかった。だから僕たちはいつも、「どもりを治したい」というあこがれを、持っていた。どもりながら生きている僕は仮の人生を生きている。どもりが治ってからの人生が本当の人生だというふうに思い込んで生きてきた。そのために、どもりを隠したり、逃げたりしてきた。
 僕たちが活動を始めるまでは「どもっているこれが僕の姿だと思える、また思いましょうよ」という考え方が、全然なかった。そういう意味では、今日そういう考え方をお互いに話し合えたことを大変うれしく、よかったなと思います。
 世の中には嫌な人もいれば、いい人もいる。からかったり、足を引っ張ったりする人もいる。だけど、いっぱい、いい人もいるんだということを忘れないでほしい。人を信じるということだね。そしてまた、困ったことがあったりしたら、いつでも僕たちに声をかけてほしい。その都度、何か話し合いができると思う。僕が一番つらかったのは、悩みを誰かに聞いてもらいたいと思いながら、いつも聞いてもらえなかったということだ。少なくともみんなはそうじゃない。仲間がいるんだということを常に忘れないでほしい。日本にいっぱい仲間がいるし、そして世界にもいっぱい仲間がいる。(つづく)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/7/31